第402号:期末試験答案とエントリーシートの共通点-5

早くも春学期末になり、期末試験の季節が近づいてきて、学生からは「どんな試験ですか?」との質問も出てきます。学生から「選択式ですか?穴埋め式ですか?」と二択で聞かれた時は「大学では論述式しかありえない!」と答えました。しかし、物心ついた頃には既にスマホもマークシート式も当たり前になった若者には、こちらが非常識に見えるのかもしれません。そうした学生達が、論述式の本番試験であるエントリーシートに苦労するのも当然です。

私の受け持つ春学期の3年生以上対象のキャリア教育では、レポートの書き方アカデミックライティング)も重点的に行っています。最近はこの時期にインターシップの選考ためのエントリーシートも求められますので、そうした題材を使って、レポートや期末試験の答案の書き方を教えると、学生の目の色が変わって勉強します。

私の授業で学生に求めているレポートの書き方は以下です。レポートや論文のお作法は、学問によって異なりますが、これは1000字以下の短めのレポートの場合で、企業の採用選考でも役立ちます。

 ▼レポート評価の鉄則ポイント

1.締切厳守  ⇒提出日時(あえて提出時間を設定しない)
⇒相手の勤務時間(一般常識)を考えているかを見ています。

2.構造厳守  ⇒序論・本論・結論、PREP(結論・理由・事例・結論)
⇒何も考えずにSNSのように時系列で垂れ流すとアウトです。

3.文体厳守  ⇒書き言葉(話し言葉NG)
⇒学生が最も苦手とすることでしょう。口語体で無駄ばかりです。

4.客観厳守  ⇒事実中心、自己体験のみはNG
⇒作文・感想文とレポート・論文の違いをわかっているかです。

5.引用厳守  ⇒参考文献、データ
⇒これがなければレポートではなく、個人の思い込みです。

6.形式厳守  ⇒氏名、連絡先、ファイル名等
⇒レポート本文以外の必須事項で、これも一般常識です。

7.結論厳守  ⇒短文(1000字以内)では冒頭に
⇒学生は結論を最後に持ってきがちです。

そして、最後に学生に伝えているのは「自分のレポートをクラス全員に自信をもって見せられますか?」です。恥ずかしいとか躊躇するなら、何かが欠けているはずです。

こうしてみると、企業のエントリーシートは大学授業で教えているアカデミックスキルレポートライティング)の実践版ともいえ、アウトプット重視のキャリア教育をやってくれている、と考えることもできます。大学入試も採用選考も外部委託になるご時世ですから、期末試験はやめて、一部上場企業のインターンシップ選考に通過したら単位を認めるというのもアリかもしれませんね(いや、冗談です、ありえません)。

 

第401号:内定辞退劇場の季節

第1志望群」の企業に内々定を貰って誓約書を求められたのですが、まだ就活を続けたくて・・・、どうすれば良いですか?」もう20年以上受け続けている超定番の相談ですが、今年も増えてくる季節になりました。法的・道義的な解説はひとしきりしますが、状況も考え方も人それぞれで、正解などありません。最後は「自分が一番、納得できる対応(選択)をしなさい。」ということになります。

学生本人によって、業界・企業・採用担当者によって、意見は異なりますし、本人の事情を詳細に聴いてベストと思われる対応を考えてあげても、実際はその通りに学生は動かず、採用担当者とのやりとりの流れで良くも悪くも思わぬ結果になったりします。本人のために必死に考えた私の努力は何だったんだ?と思わされますが、まあCAの避難訓練みたいなもので緊急対策は使わないにこしたことはありません。(笑)

私の経験では、学生が思っている以上に採用担当者は理解してくれて、一定期間の猶予をくれるところが多いです。学生の話し方や選考結果内容でも相当に状況は左右されているのでしょう。正直、採用担当者として相談にのってあげたい学生と、厳格に対処したい学生が居るのは事実です。内定者のレベルも絶対採りたい学生と、まあまあの学生も居りますし。

先日会った、大手メーカーの採用担当者も「私も学生の頃に同じ体験をしたので、正直に話してくれたら相談に乗ります。」とおっしゃっていましたが、私も同様でした。勤務していた企業はBtoB系企業なので、そもそも第1希望で応募してくれる学生は半分位で、内定を出しても受諾を躊躇する学生が多かったのです。

私は元々、営業だったこともあり、そこからが勝負だと考え、第1志望になるようにいろいろ説明していました。但、無理な説得はしていません。好きではありませんでしたし、人の人生を左右する責任も重く感じていました。ある意味、プロ失格ですね。以前、『勉強をする(成績の良い)学生は「第1志望」に受かる可能性が高い』という論文を読んだことがありますが、学生の「第1志望」なんてちょっとしたことで変わります。広い世界を知ったらますます、「第1志望」なんてわからなくなるでしょう。これは志望大学も恋愛も同じですよね(笑)。

結局、採用担当者としても自分が納得できる対応をしたかったんだな、と思います。全力を尽くして説明したら、どんな結果であれ納得できますから。実際、正面から向き合えば、ホンネで話してくれる学生の方が多かったです。辞退理由を聴いて「ああ、それはこちらとしては残念だけど、君には良かったね。」と言ったこともあります。良い応募者を仕事仲間にできなかったのは本当に残念でしたが。

しかし、ずっと第1志望と言っていたのに、突然裏切られるのは傷つきます。そのうち鈍感になって女性不信になりました。その点、理系男子は正直な子が多くて救われました。繰り返しますが、あくまで私の個人的な経験です(笑)。

さて、明日はどんな交渉・かけひきが繰り広げられるのでしょうか。週明けはどんな相談が来るんでしょう。本当に人生はドラマです。

第400号:コンピテンシー面接(自己分析)の弊害-2

採用選考活動が解禁となって2週間が過ぎました。企業の内々定出しも進み、結果の有無で就活学生の顔色が日々、違ってきています。その差の原因は多様ですが、採用担当者として思い当たるのは、コンピテンシー面接の弊害で自己分析のミスマッチが発生しているのでは、ということです。

学生はコンピテンシー面接という言葉は知らなくても、企業からのエントリーシートや面接の質問で、「学生時代に力を入れたこと」(ガクチカ)とその経験から得た能力・資質(自己PR)をまとめる自己分析は死ぬほどさせられています。しかし、その自己分析のやり方に、結果を手にする学生とそうでない学生の差があるように見えます。それは分析の視点が内面か外面か、ということです。

の自己分析とは精神面についてのことで、外面のそれは行動面についてのことです。例えば、企業採用担当者が求める資質に「素直」というものがあります。これはわかりやすい言葉であるが故に、意味の差(学生と採用担当者の認知差)があることにお互いが気付きにくいのです。学生は「性格」のことだと思いがちですが、採用担当者は「行動」と捉えています。

つまり、採用担当者が「素直」と言った場合は、言われたことをすぐに実行する行動力のことを指しますが、それを理解している学生は少なく、逆に「何故それをやるのですか?」指示の意味を問う学生の方が多いです。言われたままに「考えずに動く」のは良くないこと、と思っているのでしょう。それは間違っていませんが、企業で仕事をする場合、現場の上司は必ずしも説明が上手くなかったり、一度やらせてみてあえて失敗させてから)教えてみたりします。なので、そうした社会人からは「素直でない」と誤解されてしまったります。

他にも「自分らしさ」という場合、社会人から見たそれは性格ではなく行動面のことであると同時に、他者との比較の中において現れる「その人の行動特性」です。内面の視点で見る学生は、それを「自分のありたいままにいる自分」と捉えがちで、しかもそれは他者比較すると意外とありふれたものであることに気づけていません(むしろ、内々定を取れない学生は他者比較を毛嫌いします)。

有望群の採用選考が一巡すると、企業も学生もリターンマッチが始まります。採用担当者は辞退された学生の追加募集を行いますので、これからまた一山登らなければなりません。リターンマッチする学生には再挑戦のチャンスですが、そんな学生達へ、内面から外面、精神面から行動面に気付いて貰うために、こんな言葉を伝えると良いのではないでしょうか。東日本大震災の後に、ACジャパンの意見広告で採用された以下のフレーズです。

こころ」はだれにも見えないけれど「こころづかい」は見える

思い」は見えないけれど「思いやり」はだれにでも見える

詩人・宮澤章二の『行為の意味―青春前期のきみたちに』から引用された言葉ですが、最初のハードルで躓いた学生には、きっと考えるヒントになると思います。

第399号:採用ルール廃止で苦労する者は?

採用活動解禁日までカウントダウンですが、就職相談の状況を見ていると既に多くの学生が内定を得ているので、昭和時代のように解禁日に一気に学生が動く風物詩は見られなくなってくると思われます。

いつも季節ネタとして解禁日を報道しているTV局にとっては見栄えのする映像が少なくなり、取材に苦労するかもしれません。その代わりTV局は就活・採用活動ネタを番組にするようになりました。採用担当者も宣伝になるので喜んで出演しますから、「捨てる神あれば拾う神あり」ですね。就活番組も、季節ネタから通年ネタになっていくのかもしれません。TVでの企業採用CMも増えていますしね(昔はコストが高くて手が出なかった)。

さて採用ルール新卒一括採用)が廃止になって通年型採用になると苦労する人は誰でしょう?それは学生だけではなく、採用担当者と大手就職情報企業、そして大学キャリアセンターです。

一定の時期にまとめてセミナーを行う仕事が、一時期に集まらないということは非常に効率がわるいことになります。学生の動きが五月雨式になるので一気に1回で済ませることはできなくなり、小規模にして同じ内容のイベントの回数を増やすということになるからです(もしくは諦める)。企業の採用広報セミナー、大手就職情報企業の合同企業説明イベント、キャリアセンターの就職セミナー等々、既にどのイベントも以前より学生が集まらなくなっていますね。逆に小規模な新興新卒採用支援会社が伸びています。

別の視点で見ると、新卒一括採用は、採用担当者が初心者でも仕事ができる優れた方式なのです。企業の就職セミナーに参加した学生の感想で多いのは「採用という人事の重要な現場に若い担当者が出てきて、この会社は権限委譲が進んでいると思った」というものですが、人事部全体で見れば新卒採用活動というのは新人でもやりやすい仕事です。対象が学生で近い世代ですし、就職情報会社(代理店)が相当な部分まで業務をカバーしてくれますから、極論すれば、予算さえあれば新入社員一人でも可能です。

新卒一括採用方式が通年型採用に変わってくると、採用担当者には以下のような中途採用の技量が求められてきます。私はこの事例を説明する時、新卒一括採用は「釣り堀」で通年型採用は「野釣り」と例えています。経験上、新卒採用学生相手)はできても、中途採用社会人相手)のできない採用担当者は多いです。(学生向けに話せても、社会人向けに話せない大学教員も似たようなもの?笑)

何時(When)⇒季節はなく、欠員や現場求人が出てから動く

何処(Where)⇒新卒の様な「母集団」が無いのでどうするか

誰を(Who)⇒採用スペック( 現場の要求業務と基準)の把握

いくらで(How much)⇒応募者の賃金額の設定と交渉

採用担当者の業務がこのように変わってくると新入社員には荷が重くなり、逆に集中的な繁忙期がなくなるので業務量は減ってきます。その結果、これから人材サービス業に委託する企業が増えてくると思われます。バブル崩壊時の様に、大手企業の採用担当者はこれから人材紹介業に転職するようになるかもしれません。

翻って、大学内での就職指導はどう変化するでしょう?新卒一括採用がなくなると、各大学のキャリアセンターの仕事も同様になると想像されます。外部委託を強化しますか?それとも転職しますか? え?心配しなくても、定期人事異動で何処かに動かされる?笑

第398号:5月病から自己成長シンドロームへ

10連休が丸ごとあった大学は少ないと思いますが、これだけ長期の休みがあると、学生も教員も4月から持ち上げてきた授業のペースがリセットされてしまいますね。かつての5月病になってしまいそうです。さて就活で必死の学生のエントリーシートの採点や模擬面接をしていると「自己成長シンドローム」という症状が大流行しているようです。

学生の志望動機を聴いていると「御社であれば、自分を成長させることができると感じたからです!」というものが多くありませんか?

勿論、成長意欲をもつことは良いですが、基本的能力として、自分の話す内容が相手にどう伝わるかを意識していない応募者は子供っぽくて(私の場合は)採用できません。学生も単純に待遇や環境を求めているのではなく、向上心をアピールしているのでしょう。しかし、社会はインプットではなくアウトプットで評価される世界です。こうした人は入社して現実に直面すると、すぐ折れるタイプになりそうです。もっとも、他に良い能力があれば拾います。心構え等は就職してから育まれるものも多いので。

視点を大学教育に変えると、大学では教えたことを社会で活かして成果を出すことの評価はできませんから、学生はアウトプット相手ファースト)が大事と気付かず、自分ファーストになるのかもしれません。「向学心」があることは学生の基本中の基本ですしね。なので、大学教育をフィードバック重視のアウトカム評価に変えれば改善されると思いますが、それは非常に面倒で手間暇もかかることです。教員もそれがわかっているので、そもそも論(社会は大学を分かっていない)と宣います。

それで、いつも志望動機を突っ込んで「就活は初めての自分個人で行うビジネス(交渉)で、自分の思いだけでは通用しないよ。」と諭します。学生によって、ハッと気付いたり泣きそうになったりしますが、夢や想いや笑顔(どれも今の学生が大好きな言葉です)を理想から現実にしていくのが働くということですので、こんなことで挫折するくらいなら最初から無理です。採用担当者の社会的役割には、社会の壁というものがあると思います。その能力がないうちは、外に出すわけにいきません。

翻ってみると、学生の受講している業者の就活セミナーは、こうした現実に向き合わせることを先送りにしているようです。学生の背景にあるのは、相変わらずの「まずは自己分析」型指導のキャリアセンター主催の就活コンサルの存在です。日常生活でも最近の素人集団歌唱隊のような「自分らしさ」「素人っぽさ」をウリにした流行の影響もあるのでは、と思います。しかし、学生は「自分らしさ」を主張したがるのに、独りで主張することはやりたがりません。個性を重視して欲しいと言いながら、みんなが一緒に活動する新卒一括採用に無思考に流されている楽さを享受しています。

早く「自己成長シンドローム」から抜け出して「我が社に入って何をやりたいの?それは何故我が社でやりたいの?」この採用担当者が最も知りたい質問に答えて欲しいものです。

第397号:採用と大学教育の未来に関する産学協議会の提言

この22日に経団連の「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」から「中間とりまとめと共同提言」が発表され、昨年の会長による採用ルール見直しの全貌と言いますか、いよいよ本体が姿を現わしてきました。

経営学を学んだ方には釈迦に説法ですが、新卒採用という方式は経営学者アベグレンが発見した「終身雇用」「年功序列」という雇用慣行から生まれたものです。つまり、経団連会長の昨年からの発言の真意は、これまでの採用ルールのみの見直しとは次元が異なり、戦後続いてきた日本の人事制度を見直す改革の鏑矢だったわけです。これは人事部に焦点を合わせると、人事部の解体ともいえます。日本の企業に多く見られる人事部中心採用から、欧米型の部門別(職種別)採用への以降です。

詳しくは、末文に揚げた経団連発表直後にコメントされた八代尚広昭和大学教授のコラムでご理解戴けます。八代尚広教授が最初に書かれた人事関係の著書は「人事部はもういらない」(1998)という刺激的なものでしたが、今回の経団連発表もこの路線に沿っている気が致します。

ちなみに、私はこの著作が出版された直後、八代教授にお話を伺ったところ、この本のタイトルは出版社が命名したもので、八代教授の本意ではなかったそうです。もっとも、当時人事部だった私がこの著作を読んだとき、人事部は不要ではなく、もっとガンバレ!と言われているように感じました。

この人事部の解体ということは、具体的に以下のような現象です。

・新卒採用から中途(通年)採用への移行

・自社新入社員研修から外部研修業者への移行

・採用権限の人事部から各部門(職種)への移行

実はこの現象を、私は過去に何度が見ています。ひとつはバブル崩壊時の1990年頃で、多くの企業が採用を控えたため、採用担当者が異動もしくは退職しました。もうひとつは、日本で長年事業をしてきた某外資系大企業が人事部を改革した時です。この企業は当初中途採用中心でしたが、業容が拡大するに従い、日本に工場を作り、日本型雇用に移行して新卒採用を始めました。しかし、トップが変わり業績改善のために人事部員を入れ替え、抜本的に人事制度と採用活動を見直しました。

こうした現象が日本企業の何処まで広がるかはわかりませんが、経団連が舵を切ったことで今後は様々な影響が出てくるでしょう。各企業採用担当者にとっては自分のキャリアに関わりますので、この提言の最終発表と社会の受け止め方には注視せざるを得なくなります。

▼参考URL:
「新卒一括採用の見直しだけでは年功序列の日本型雇用が変わらない理由」2019/4/23 (八代尚広氏:ダイヤモンドオンライン)
https://diamond.jp/articles/-/200661

「採用と大学教育の未来に関する産学協議会 中間とりまとめと共同提言」2019/4/22 (経団連)
https://www.keidanren.or.jp/policy/2019/037.html

第396号:リクルーターハラスメントと会いに行けるアイドル

新年度に入り、大学が一気に活気に溢れてきたのと同様に、企業の採用活動も本格的になってきました。経団連採用ルールが存在していても(存在しているから?)、企業が学生と直接にコンタクトする「ダイレクト・リクルーティング」はますます進んでいます。その代表的な手法がリクルーターの活用ですが、そうした情勢の中で残念な「就活セクハラ」が発生し、日本を代表する企業から逮捕者が出てしまいました。

正直、このようなテーマを書くのは気が重いのですが、ことの重大性と現在の社会環境を考えると触れておかなければならないと思います。というのは、今回の大手ゼネコンの事件では(報道で見る限り)企業側には責任は無く、暴走した社員個人の責任ですが、上記のような学生の就活状況ではいつまた起きても不思議ではありませんし、こうした状況下では企業採用担当者の社会的責任を考えざるを得ないからです。

リクルーターを使う企業であれば、学生とコンタクトする際のルールを決めて厳守させることは当然ですし、更に学生に対しても自社のリクルーターの運用について自社の採用サイトで公開すべきです。リクルーターを使わない企業であってもその旨を明示して、仮に暴走社員が不適切なリクルーター活動をした場合は個人責任であることを明確にしておくべきでしょう。しかしながら、こうした企業の動きが少ないのは、そもそもリクルーターというのは公開メディアを使わない「選択的秘匿性の採用手法」という宿命があるからで、暴走社員にとっては最高の武器になりえます。

そのため当面の方策としては、大学での就職ガイダンスの中で学生に注意喚起することしかないでしょう。私も女子大学でキャリアドバイザーを行っておりますが、見知らぬリクルーターや、最近増えている新卒人材紹介企業からのアプローチには注意するように伝えています。

そもそも採用活動というものは学生と密室で個別にコンタクトする機会が多く、セクハラが起きやすい業務です。政治家ではありませんが、日頃まともな社員がつい調子に乗って不適切な言動をおこしがちです。それは、平成に入って生まれた「会いに行けるアイドル」のビジネスモデルとも似ています。偶像で手の届かない存在であったアイドルを、会える話せる握手ができるようにして大量生産したことは、巨大なビジネスになりましたが、一方で不祥事を発生させています。しかも今回の様にいつも曖昧に処理されています。

それは主催者の意図するところではない、「会いに行けるアイドル」には恋人禁止等のルールがある、と言い訳しても、起こるべくして起きた事件に未成年を扱う大人が無責任とはいえないでしょう。法律上の「未必の故意」とまでは言えないにしても社会的責任と見識が問われるべきだと思います。

企業のリーダーたる経団連はすぐに対処を考えるべきだと思います。採用解禁日などよりこちらの方が緊急の課題ではないでしょうか。先日、野党から提出された「セクハラ防止法案」に、この就活セクハラについても盛り込まれるとのニュースが入ってきましたので注視しておきたいと思います。

第395号:増えてきた短時間「動画選考」

早いもので3月も終盤となりました。学校では卒業シーズン、企業では組織変更シーズンと、別れと出会いが錯綜する時期ですね。私事ながら、私も新しい大学でキャリア教育教員と、キャリアセンター就職相談員のパラレルキャリアをはじめることとなりました。これまでも教え子達には面接相談等を行ってきましたが、正規の業務として日常的に行うのは久しぶりです。改めて学生と企業の就職・採用活動の多様化を肌で感じています。

その中でも最近、気になってきたのは「動画選考」です。数年前に登場して総合商社のインターンシップ選考で用いられ、今シーズンは接客系の業務を行う業界等でも増えてきました。先日も就職相談の学生から「先生、私の自己PRを録画してコメント下さい!」という依頼がありました。

私は以前から学生との模擬面接では録画してフィードバックする手法を用いていたのでこうした対応には慣れていますが、動画そのものを提出するとなると、相談手法や体制を整えなければならないかもしれません。既に市中では「自己PR動画対策講」というサービスも登場しており、今後、導入企業がますます増えそうです。

企業が「動画選考」を行うメリットは、主に以下の3つでしょう。

1.ESではわからないリアルなコミュニケーション力がわかる

2.ESより採用選考効率が良い(選考時間が短くて楽)

3.遠隔地や海外からでも(疑似)面接選考ができる

ES(エントリーシート)が登場して約20年が過ぎましたが、導入の最大の理由はネット応募が可能になり、母集団が飛躍的に増加したので面接の足切りが必要になったからです。しかしESの評価は非常な労力を伴います。真面目な企業採用担当者はESの選考のためにビジネスホテルに缶詰になっていましたが、この状況は大学入試改革で論文を取り入れることと同じでしょう。

そこで短時間の「動画選考」であれば、30秒~1分でも楽に判断ができます。ESだと採用担当者数人で同時に1つのESの採点を行うのは困難ですが、「動画選考」なら実際の面接のように数名で同時に判定できます。ESを読んでからの判定会議では、これだけの短時間では無理です。勿論、文章による論理構成力等、短時間の動画では判断できない能力もありますが、初期選考と割り切って判断すればリアルな対人スキルが見える「動画選考」のメリットの方が大きいです。

こうした短時間「動画選考」で思い出すのは、TV局の採用選考で行われた「1分間面接」です。例え1分でも書面より面接の方が得られる情報量が多く、かつ対人スキルを重視する企業では有用でしたが、1分間の面接で多数の学生を連続的に集めて選考するのは相当な労力がかかりました。

高速インターネットの普及、スマホアプリの登場等、これまで高コストで実現できなかった手法が現実的になってきたわけです。既にスカイプによる遠隔地との面接も可能になってきていますし、今後こうした「Anytime Anywhere Recruiting」がどんどん普及し、最終面接まで一度も会わない採用選考も行われてくるかもしれませんね。

第394号:自己PRメディアの使い分け

就職活動解禁日となり、学生が慌ただしく企業説明会に動き始めましたが、キャリアセンターには相談が急増ですね。私もお手伝いで学生の面談をしますが、採用担当者目線で見ていると、疑問に感じることが多いです。特に、履歴書エントリーシート面接の3つの自己表現の使い分けが出来ていないと感じます。改めてこれらの使い分けについてお伝えしたいと思います。

選考基準や手法は企業によって、また採用担当者によっても多様ですから、ここでお伝えすることはあくまでも私の知見からくるものです。しかし、こうした基本的な指針をもつことで、学生の悩みや迷いも相当に減るのではないかと思います。まずは3つの自己表現のメディア特性を考えた上で使い分けることです。具体的に整理すると以下の通りです。

履歴書 ⇒少量 ⇒紙   ⇒見せる  ⇒体言止め      ⇒事実

ES  ⇒中量 ⇒ネット ⇒読ませる ⇒である調       ⇒詳細

面接  ⇒多量 ⇒言葉  ⇒聴かせる ⇒ですます調     ⇒描写

まず履歴書は、読ませるものではなく見せるもの、採用担当者側から言えば、履歴書にはどんなことをしてきたか(いわゆるガクチカ)をできるだけ多様に書いて欲しいと思います。採用担当者は応募者の様々な能力を知りたいと思いますので、勉強についてはゼミや卒論は当然として、専門科目以外での好きな科目を書いて貰えれば幅広い採用担当者にアピールできます。しかし、多くの学生はゼミや卒論のテーマを書いて、その後に詳細の説明を書くので(これもひとつの書き方ですが)、採用担当者が質問するポイントが減ります。

ES(エントリーシート)は、履歴書の内容を詳細に説明するもので字数も増えますから、具体的な説明をするものです。ただ、最近の大学指定の履歴書は以前のものと違って、勉学、ガクチカ、自己PR、志望動機が項目として用意されているものが増えてきました。文字数で言うと200~300字なので、ESよりは少なめです。なので、ここで学生が履歴書とESの書き分けに悩むようになってきました。そこで私が勧めているのは、履歴書は箇条書きにすることです。大学キャリアセンターは履歴書を箇条書きにしてはいけない、と指導するところが多いように感じますが、私は反対です。極端に言えば、履歴書は採用担当者が質問する項目の羅列にして、ESで詳細を説明するという使い分けです。

最後に面接は、ESで書くと文字が溢れてしまう「具体的な事実・体験の描写」について言葉で話します。テーマは同じでも、言葉ではより臨場感があるように語れます。ESでは「学生時代には」「多様な世代に」と書いたなら、面接では「大学2年のことですが」「若者から年配までの様々な方に」と活きた言葉で描写することです。

ここでご紹介したメディアの使い分け手法は、採用担当者側にとっても応募者を理解する上で非常に助かりますし、応募者の表現能力のアピールにもなります。大学生であれば、こうした文体の使い分けで教養を示して欲しいと思います。

第393号:学生のコミュニケーション力のタイプと採点基準

私立大学入試が終盤に向かう裏で、期末試験の採点も終わりつつあります。まさに採点中の答案の最後に「半年間、お世話になりました!」というお礼のコメントを発見して、ほっこりしながら採点しています。授業では殆ど質問も発言もしない学生が、こうしたことを書いてくることがあり、人のコミュニケーション力のタイプの違いに気付かせられます。

採点しながら改めて気付かされましたが、同じ大学でも最近はこうしたコメントが減ってきました。最近の学生は設問だけにすごく真面目に回答してくるのです。私の授業の進め方は変わりませんので、変わってきたのは学生の方なのでしょう。バイトに就活に勉強に多忙で、余裕が少なくなってきたのかもしれません。

面白いもので、大学間で比べると高偏差値の大学ほどこうしたコメントは少なくなります。無駄なことはしない真面目な学生が多いのでしょう。私もお礼を書かれたからと言って甘く見ることはありませんが、こうしたことを書いてくる学生は答案もできていることが多いです。注意したいのは、そうした学生は心の中では情熱があり、ただ表現する経験が少ない、コミュニケーションのスタイルが違うという点です。だから理性的で無関心な学生に見えてしまうのです。就活で誤解されやすいタイプです。

さて、最近の私の関心事は大学成績の採点基準を如何に企業の採用選考基準に近づけるかです。最近は、このコミュニケーションのスタイルの違いを以下の項目に分類して成績評価の幅を広げています。

1.リアルタイム・コミュニケーション力(会話&文書別)

  採点方法⇒授業中の発言とリアクションペーパー

2.オフタイム・コミュニケーション力

  採点方法⇒レポート

3.リアル&オフタイム・チームコミュニケーション力

  採点方法⇒PBL型授業での発揮度

4.リアルタイム応用力

  採点方法⇒期末筆記試験

なので、期末試験を欠席した学生が、よく「救済措置でレポートを・・・」と言いますがが、この視点ではレポートで同じ能力を代替してみることはできず、再試験を行うことになります。

 こうして評価した4項目別の成績を今学期の学生にフィードバックしてみたところ、各項目のトップの者が違うので、学生もコミュニケーション力のスタイルの違いに気付きました。授業での発言回数が多いだけがコミュニケーション力の発揮ではないことを知って喜んだのは、内気だけれど文章力のある学生です。

これまでのように「優・良・可・不可」の成績では何がどう評価されたか学生にはわかりませんし、企業も参考にしづらいですが、このように分類した成績で企業にフィードバックすることにより、大学成績が企業にも再評価されればと良いと思います。

Just another Recruiting way