第72号:キャリアセンターと採用担当者のプロ

去る7月25日にダイヤモンド・ビッグ&リード社主催の就職指導支援セミナーで講演の機会を戴き、「大学就職課からキャリアセンターの機能変化」ということをテーマにお話し致しました。私は以前から大学就職課職員と企業採用担当者の仕事環境と課題の共通点が気になっておりました。長らく安定的な雇用慣行の中で行われてきたこの2つの仕事は新たな職業として再生・見直されてきて欲しいという想いです。

点のサポートから線のサポートへ。これが就職課とキャリアセンターの基本的な違いではないかと思います。就職支援という一時期一課題の相談から、キャリア支援という通年多様の課題の相談が求められてきてキャリアセンターと名称変更をした大学職員の方々は十分なリソースを得られないままに走り出すことを求められていることでしょうか。これは企業採用担当者もまったく同様です。これまで新卒採用を中心に人材調達をしてきたのが、突然に中途採用から契約社員・派遣社員、業務委託(アウトソーシング)という多様な雇用戦略の企画立案・実行を求められ、はてはM&A(企業合併等)による人事政策(会社単位の採用活動ですね)まで求められてきています。

また、就職課(キャリアセンター)職員と採用担当者のもう一つの共通点は定期人事異動です。外資系企業では職種別採用なのでふつう定期人事異動はありませんが、旧来型の日本企業では3年位で定期人事異動のシーズンがやってきて、それまでとはまったく異なる業務に就くことも珍しくありません。これは大学内も全く同じことでしょう。一つの組織(大学・企業)で短期定期的に人事異動があるという仕事環境では、長期的な戦略の立案が難しいのは当然で、前任者がやってきたことに沿って任期を勤め上げるというスタイルになりがちです。必然、特定分野での専門化を育成しにくく、逆に汎用的なマネジメントのできる人材が好まれます。こういった人材育成戦略は高度成長期に日本的経営として広く高く世界から評価されたものでした。

ところが、経済環境が成熟・低迷する現在は、同じ目標を多くの組織(大学・企業)が目指すことはすぐにマーケットが飽和してシェアの奪い取り合戦になり、勝者は一部に限られ二極化になります。こんな時代には自大学・自社に最適かつ個性的で他からすぐに真似のされない戦略を企画立案・実行する能力が求められてきますが、それは自大学・自社にある情報・ノウハウだけではとても対応しきれないでしょう。

かくして、今の就職課(キャリアセンター)職員と採用担当者は外部市場でも通用するようなプロフェッショナリズムが求められてきました。大変な時代ではありますが、まさにこの二つの職業にはピンチとチャンスが一緒に訪れたと思うのです。さて、それぞれのゴールは何処に?

 

第71号:個人情報保護法でOB訪問が難しく

この4月に施行された個人情報保護法ですが、だんだんと一般の認識も高まってきました。大学就職課の職員と企業採用担当者にとっては、一番大きな影響を受けるのは企業に就職したOBと現役学生との紹介方法でしょう。双方にとって難題を抱えながら方策を考えなければなりません。

殆どの大学就職課には開架式で企業別の資料が整備されておりますね。情報の豊富な有名大学では他大学の学生も忍び込んで閲覧していることも珍しいことではないでしょう。その企業別ファイルに常備されていたOBリストが姿を消しました。重要なOBの就職体験談についても個人が特定できる部分についてはそのままで公開は難しくなり、大学職員の方々も今春、相当に作業時間をとられていたのではないでしょうか。

一方、これまで大学からの要望に応じて従業員の部署や連絡先を提出していた採用担当者は情報の提供ができなくなりました。正直なところ、採用担当者は作業が一つ減って少々楽になりました。各大学別に送られてくるOBリストのフォーマットは、大学別求人フォーマットと同様、採用担当者にとって作業負担の大きなものでしたから。(今は企業のコンピュータから人事情報の必要な部分を検索してプリントアウトして送付するだけで、大学フォーマットに記入を避けている企業が多いでしょう。)

しかし、企業のOBリストを出せないということは、学生が企業に触れる接点を失うわけですから安穏とはしていられません。特にここ数年、採用担当者は「今の学生はITの情報だけで就職活動をしている気になっていていけません。もっと自分の目と手と足を使って企業研究すべきだ。OB訪問は不可欠です。」と大学内の就職ガイダンスで言い続けてきたのですが、学生がOB訪問をするための最大の情報ルートが無くなったというのは大変なことです。たまに企業採用担当者に電話をかけてきてOB紹介を依頼する学生には、「大学就職課にOBリストを出しておりますので、そちらをご覧下さい。」という黄金の言い訳もできなくなりました。

さて、こうなってくると双方にとっての頼みの綱は、やはり学内・社内のOBを如何に活用するかでしょう。大学OB会では既に現役学生の就職支援に手を付け始めたところもありますが、就職課やキャリアセンターと連携しているところはまだまだ少ないようです。その運営についてはいろいろノウハウが必要になります。企業側は、これまで以上にOBリクルーターを活用することになるでしょう。リクルーターには個人除法保護の知識をしっかり伝えて対応して貰わなければなりませんし、社内でOB対談会を設定することも必要でしょう(特定大学だけに行うのは好ましくない面もあるのですけどね)。

いずれにしても、学生が積極的にOB訪問をするのに大変苦労する環境になってきました。企業も大学でのOB講演にはもっと本気で社員を出さないといけませんね。

 

第70号:インターンシップ募集花盛り

各大学の就職課を回っていると、紫陽花の花に負けずにあちこちの業者、団体からインターンシップの告知ポスターが出ています。インターンシップの情報提供は完全に商用サービスになってきたようですね。インターンシップが普及することは社会と学生が近づくことで望ましいことではありますが、手間のかかるところはなかなか担当者泣かせです。

今週販売の週刊誌でも夏のインターンシップ特集がとりあげられており、内定にどう結びつくかがまとめられています。インターンシップを採用活動に直結させるべきかどうかという議論はよくなされておりますが、企業側ではやはり採用活動の一環と捉えている方が多数でしょう。なんといっても成果主義のご時世ですからそれだけの予算を出せるのは採用関係費(採用広告費)しかありません。上記の雑誌のコメントでも、インターンシップを経験した学生はその企業に志望する確率が高くなる、と書かれています。同時に、早期に学生を確保したいというのが企業の本音でもあるとのこと。中には年間1000人近い学生を受け入れている企業もあり、こんな規模になると社会貢献活動ですね。

大勢の学生を受け入れる企業にはいくつかのパターンがあります。まずは企業規模が大きく、学生の受け入れ許容部署が多いところです。電機系製造業に多いパターンですが、これは各部署でインターンシップの内容が異なるので、現場の方々との受け入れ調整が非常に苦労して、学生とのマッチングも気を遣います。次に、同じカリキュラムを大勢の学生がこなしていくパターンです。比較的IT系の企業に多く、ITスキルやコンサルティング・スキルをトレーニングしながら学んでいきます。人事の研修グループなどが主体なることが多いですが、新人研修のようにこの期間は研修準備と評価で徹夜になることも。最後に注意したいのは、労働集約的な作業をさせる企業です。インターンシップ等の名称で様々な業務をさせるのですが、実態は企業の労働力にされていることがあります。それはそれで社会勉強でしょうが、ちゃんとアルバイトという名称にして給与を払って欲しいものですね。

大学内でも夏のインターンシップの参加ガイダンスが盛況ですが、これはまさに採用活動キックオフが10月からまた3ヶ月前倒しなったということですね。めでたく採用担当者はシーズン・オフが無くなりました。こうなってしまったのは、企業採用担当者の自業自得なのか、大学就職課の老婆心なのか、採用情報業者の戦略なのか、さっぱりわからなくなってきました。明らかに言えるのは、情報産業の一分野として就職ビジネス規模が拡大しているということですね。まあ三者ともこれで給料を貰っているので文句も言えませんが。(仕事ほど給料は増えませんけどね・・・。)

 

第69号:転職を考える新入社員

今春、就職した新入社員達も研修が終わり現場に配属されはじめました。どの新入社員も就職活動で考えていたイメージと現場とのギャップを感じながら頑張っていることでしょう。最近では5月病という言い方も古くなったかもしれませんが、企業の現場に出た新入社員から早くも転職の相談がありました。人も羨むような人気企業に入ったのですが、人の悩みはそれぞれですね。

新入社員の入社後の心理変化は経営学の研究テーマですが、神戸大学MBAの鈴木竜太助教授が興味深い事例研究をされておられます。先生の研究によると、新入社員の組織に対する愛着心・執着心(組織コミットメントといいます)は「J字型カーブ」を描くといわれています。意気揚々と入社した新入社員は、現場のとのギャップ(リアリティ・ショック)を感じ、「こんなはずじゃなかったのに・・・」と落ち込むことが多いのですが、時間の経過と共にだんだんと気を取り直し、「就職活動で描いていたのは夢だったんだ。」と現状を受け入れ始めて気持ちを向上させていく。その気持ちの変化がJ字型のカーブを描いていることが観察されたのです。落ち込み方の程度や期間は個人差がありますが、最近ではすぐに転職する新人も増え、落ち込んでいる期間がだんだんと短くなってきているようです。(もっとも転職後にまたJ字型カーブにはまって再度落ち込んでいるかもしれませんが・・・。)

このJ字型カーブについては、無駄だから無くした方が良いという意見と、これがあるからこそ若者に忍耐力が付くという意見とがあります。どちらにも一理があるのですが、雇用の流動化を短気に成果を求められるこのご時世では、前者の方が有力になってきているようです。リアリティ・ショックを消し去るために、インターンシップ等を導入して現場を早く理解させる方策が有名なRJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)ですね。

さて採用担当者にとっては、新入社員が転職を考えるというのは他人事ではないのですが、意外とまだ大きな問題として業界ネタにはなっていないようです。それは中規模以上の企業では採用担当者と人事労務担当者が別になっているためで、つまり採用する部署と退職希望者対処をする部署が別々になっていることが多いからだと思われます。退職相談は極秘裏に行われるものですしね。本当に採用活動の評価をするならば、単年度で何人採れたという評価ではなく、採用した社員が3年後位にどんな成果を上げているかで評価されるべきなのですが、そこまでしっかりフォローしているところはまだ少数でしょう。(就職課の評価も、就職率ではなく卒業後の満足率なんかで測る考えが必要かもしれませんね。)

たまに採用担当者の耳には、新入社員からの「話が違うよ!」という声や、現場の社員から「何でこんな奴を採ったんだ!」という声が聞こえてきたりすることもあります。まだまだお付き合いははじまったばかりですから、お互い長い目で見ましょう。3年3割といいますが、石の上にも3年ともいうではないですか。

参考文献:「組織と個人 ~キャリアの発達と組織コミットメントの変化」鈴木竜太著(白桃書房)

第68号:内定する学生のあたりまえの共通点

首都圏、大手企業の内定出しも一段落してきました。これから追加募集と一般職の募集が本格的になりますね。年初から多くの学生さんからの相談に乗ったり模擬面接を行ったりしてきましたが、ここにきて内定している学生さんの共通点が見えてきます。相談の後に結果連絡があるかないか、OB訪問をした先輩にお礼の連絡をしたかしないか、です。

これは単純そうなことですが、毎年の経験値としてかなり結果相関があります。これはテクニックとかではなく、やはり日頃の人とのコミュニケーションにどれだけ配慮しているかなのでしょう。就職後、仕事を頼んだ時にちゃんと結果報告に来るかどうか、自分だけで自己完結していないか(他人の評価を受けているか)、ということにもつながってくるのかもしれません。

「情けは人のためならず」ということわざは、以前、かなり話題になりましたので本来の意味を取り違えている方は少ないと思いますが、社会に出ると良い人脈の重要性をしみじみ感じます。そして、それを伸ばすのは、やはり日頃の他者との関係をどれだけ大事にしているかでしょう。キャリアの正体は「専門性と人的ネットワークの組み合わせ」と言います。どんなに素晴らしい才能や知識を持っていても、それを活かす場所をもっていなければ活躍できません。就職というのは、自分の専門性を活かす人的ネットワークの獲得活動ともいえるでしょう。

私は学生時代、運動部でした。ご経験のある方はおわかりだと思いますが、どこの運動部でも試合や練習が終わったあとに、後輩は必ず先輩上級生のところに走って行き、「お願いします!」とアドバイスを求める習慣があります。上級生は必ず何か有効なアドバイスをしなければなりません。お互いの切磋琢磨ですね。そんな中から自然に報告という習慣が産まれ、礼儀も感じるのだと思います。

さて、これからの就職活動で、どれだけの学生が報告に来てくれるか楽しみにしています。あたりまえのことを、あたりまえにすることが特別なこと(少数派)になっていないように、期待したいと思います。

皆様のところへも学生からの笑顔の就職結果報告が届きますように。

 

 

第67号:電車事故を機会に考える

尼崎の電車事故については学生の方の被害者も多く、ご関係者の方々には深くお悼み申し上げます。既に多くの報道がなされているとおり、この事故からは当該企業のモラルや組織文化だけではなく、日本社会の問題も浮き彫りにされておりますが、少し考えてみたいと思います。

・組織独特の文化:

どこの企業も事業内容や属する業界や取引先の影響を受けております。ベンチャー企業においては公共性の高い事業よりも遙かに個人の意見や意志決定を求められますが、後者においては独自性よりも組織の目的(ここでは公共の目的を達成するための組織目的であり、営利目的のことではありません)が優先され、規則正しく行動することが求められます。前者も後者もどちらが良いというものではありません。ただ、今回の当該企業では民営化になって従前の組織文化からの切り替えの際、守るべきことと、変えるべきことを忘れたのだと思います。特に大企業ほど組織における行動パターンや従業員の意識は簡単に変わるものではありません。

当該企業の社長の嘆きの声は現場に届いているのでしょうか?同様に、学校長や総理大臣の声が、職員や学生や国民にちゃんと届いているのでしょうか?

・知らない間に鈍感になる現代:

「みなさん、中におられる人はみんな一生懸命やっておられたよ。その人たちを責めたってしゃぁないわけでしょ。みんな、あなた方含めて日本の社会のゆるみがこういう事を起こしているんですよ。私もそうかもしれんけど。誰かを責めて、責めて済む話じゃない。何もかもがゆるみきった社会がこの犠牲者ですよ。」

ご遺族の方の重い言葉です。とかく他人に無関心になって自己中心的になりがちだったり、とかく自分で判断しないで誰かに意志決定をして貰ったりしがちな現代社会の危険がここにあります。

学生は自分の意志決定を無意識に誰かのせいにしていないでしょうか?キャリアコンサルタントは知らないうちに自分の考えを学生に布教していませんでしょうか?

・情報の発信責任:

今回の事件ではマスコミ(記者)の報道姿勢も問題視されました。マスコミに就職した途端、その人の個人の意見があたかも公共の代表になってしまう危険性を、どれだけの関係者が意識されているのでしょうか?少し前の放送局とIT企業の闘争では、メディア軽視のようなマスコミ報道もされていましたが、公共性・中立性を訴えるマスコミが(特に当該企業は鮮明に)ほぼ一色な報道をしていたことに気づいていたのでしょうか?

企業セミナーで、社員は自社のアピールを致しますが、私たちはどれだけ他社や他業界のことを知って自社の優位性を説明できているのでしょうか?(企業セミナーは営利目的なのでマスコミと報道とは同一には語れませんが、学生に与えるインパクトは大きいです。)今回の事故当該企業に限らず、社外のことを知らないで自社のことを語ることは恐ろしいことです。

今回の事故をもとに我が身を振り返ってみることが、犠牲者の方々への大事な供養だと考えました。改めてお悔やみ申し上げます。

 

第66号:企業の学生呼び出しパターン

早いもので4月も中盤を過ぎ、大手企業の採用選考もドンドン進んでいます。まだ今年の戦線の傾向を判断する時期ではありませんが、企業が学生を呼び出すタイミングを見ていると、業界毎の特色が表れていてなかなか面白いものがあります。

・金融系(特に銀行)・・・4月に始まり一気に呼び出し。有望な学生は3日間連続で呼び出して短期決戦内定出しをすることも。(お上が絶対型呼び出し

・製造業・・・倫理憲章をしっかり守り4月1日に始まるが、真面目に集団毎に管理して1週間おきに選考呼び出し。なので、全部終わるのに3週間位かかることも。(生産管理型呼び出し

・総合商社・・・4月に入ったら自信満々マイペースで呼び出し。4月後半頃に余裕をもって内定出しをして、学生のもっている他社の内定を辞退させる。(殿様商売型呼び出し

・ベンチャー系・・・2~3月から早期決戦で出会った学生はすぐに面接に呼び出して結果を出す。内定辞退されてもへこたれずに説得、またはすっぱり諦めて次の応募者を呼び出す。(ホリエモン型呼び出し

こうしてみると、それぞれの業界文化というか企業のカラーというか、上司からの呼び出され方や、仕事の進め方もこんな感じかもしれません。知らないうちに企業の仕事スタイルが採用スタイルにも現れているのでしょうね。

ところで、選考に合格した応募学生に企業が結果を伝えて次の選考に呼び出す手段は今でも電話が中心です。電話は一度のコンタクトで結果通知と次の面接の出席確認がとれるのでもっとも効率が良いのです。最近はインターネットでのメールで連絡をする企業も増えてきましたが、結果通知メールを発信しても学生からの返事がないと面接スケジュールが確定できないので、却って非効率になる場合があります。(最近は面接日時をいくつかの候補の中から選べるシステムもありますが。)

最終面接で役員や人事部長等のオエライ様の面接スロット(面接に呼び出す時間割)に穴を空けてしまって時間を無駄にするのは恐ろしい事態なので、採用担当者は必死に面接スロットを埋める努力をしているのです。

携帯電話の無い時代の電話連絡では、学生の不在時には家族への伝言、一人暮らしの学生へは留守番電話にメッセージを残していました。ご家族の方が出られたときは、そのご家庭の様子が垣間見えてホノボノしたものです(親御さんから「どうぞ娘を宜しくお願いします!」と頼まれたりして・・・)。

いまは携帯電話への連絡が中心になりました。企業からの電話は通常、発番号非通知で連絡しますので、この時期は非通知の着信記録に「どこの企業からだろう?」と学生は疑心暗鬼になっておりますね。無機質な世の中になってしまったものです。

 

第65号:採用選考の「合格」と「内定」

4月の1週間が過ぎました。今年の桜は遅咲きですが、企業の内定出しも同様でチラホラ開花の便りを聞くようになりました。花の命は短いですが、就職内定桜の花見時期は一斉に満開ではなく、ちょっと長目ですね。桜の開花予想や桜前線の情報は天気予報で聞けるのですが、就職内定の動向のリアルタイム情報があれば採用担当者も是非聞きたいものです。自社の桜がいつ満開になるかとても気になるものですからね。最近は、開花できずに終わることもありますし。

少し早く咲いた桜、いやもとい、いくつかの内定を戴いた学生の話を伺っていて「第一希望」と言わないといけないか?という相談がやや増えてきてきます。昔から多い相談なのですが、最近はこれに対してのアドバイスも難しくなってきました。

多くの企業は、以前ほど学生の志望度合いを気にしなくなってきて、本人の実力が理解できて将来性高しと判断すれば、内々定を出すようになってきましたが、一度、内々定を出したら、いきなり企業と学生の立場は180度逆転し、学生がアドバンテージをとってしまいます。そのため企業も内定の出し方にいろいろ策を講じます。

もっとも多いのは、採用選考の考合格」と「内定(内々定)」を区別するやり方です。最終選考が終了した時点で、選考合格の結果を伝え、そこで改めて入社の意志を確かめます。そこで「お世話になります。」という言質が取れたら内定を伝えますが、もしそこで「まだ迷っています。」という発言が出たら、「内定保留」ということを伝えます。

本気でその学生を採用したいと思う企業は、学生が回答を保留する原因を丁寧に聞き、それに対しての相談にのったり、企業の理解不足であれば社員との面談を設定してくれたりします。大量に学生を採用する企業や人気企業では、日限を切って回答を求めたり、逆に放っておかれたりしますので、こんなところからもその企業のカラーがわかります。

一方で注意したいのは、上記と似たような対応でありながら、選考合格の結果を伝えずに学生の選考保留を長期に渡って引き延ばす企業です。選考途中で第一希望でないとわかると「企業理解が足りないね。社員との面談を設定しましょう。」ということで、数回に渡って面談を続ける企業があります。企業はその間、もっと有望な候補者が居ないかを探しています。

志望動機の書き方から面接テクニック、そして内定を貰うまで、学生の相談もますます高度で複雑になってきましたが、企業採用担当者も大学就職課職員もよりますます頑張らなければなりませんね。これからの1ヶ月は山場ですが、皆様のご健闘をお祈り致します。

第64号:採用担当者が描く応募者のキャリア・プラン

ようやく春らしい季節となってきましたが、花粉症に悩まされている方はご愁傷様です。この時期になると学生もだんだと面接にも慣れてきて、ぎこちない志望動機や自己PRもスムーズな「会話」になってきます。ウォーミングアップも済んで、いよいよ就職戦線キック・オフですね。既に結果の出ている企業もありますが、内定した学生のことを振り返ってみると、自分のキャリア・プランをしっかりもっている方が多いです。しかし、それは採用担当者の考えるキャリア・プランとは必ずしも一致しているとは限りません。

学生との模擬面接や個人面談(キャリアカウンセリング)を繰り返していると、有望な学生ほど就職活動で社会を知り始めて、目がキラキラしてきます。同時に「これまで自分の大学生活は何だったんだ?」「もっと早くこんなことを知っていたら学生生活も変わっていたのに。」と自分の無知に気づいてきます。そんな学生は志望動機や自己PRもどんどん良くなり、「この会社にはどういえば受かるか?」ではなく、「自分はこの会社にはこう主張していこう。」と主張の軸が定まってきます。そうなってくると迷いや悩みが減って自信が出てくるので、結果的に面接でも良い結果がついてくるようになります。迷いながらも、自分はこんな風に生きていこうという信念(キャリア・プラン)が生まれてくるのですね。

さて、採用担当者はそんな学生が主張するキャリア・プランをそのままに受け止めるかどうかはまた別の問題です。メディアでは「自分のキャリア・プランをしっかりもっている学生が求められている」、というように書かれていることもありますが、正確に言うと「採用担当者が応募者のもっているキャリア・プランを聞いて、その応募者のキャリア・プランをイメージできたら内定を出す」ということではないかと思います。つまりポイントは、学生がしっかりとしたキャリア・プランをもっているかどうかではなく、採用担当者が応募者のキャリア・プランを描けたかどうか、ということです。

上述の通り、学生の描くキャリア・プランは限られた経験や耳学問によるもので必ずしも現実的ではなかったりしますし、採用担当者が企業の内部からの視点でその学生をみた時に、異なるキャリア・プランを描くことも多いです。学生のプランを軽視しているということではなく、「そんなキャリア・プランを志望するならこんなキャリアも歩んでくれるだろうな。」という想像を働かせているということですね。企業内部には、とても学生に説明しきれない仕事情報(キャリア・プラン)があるのです。

最近、大手電機メーカーの中途採用で細かい職種別募集は止めて大まかなくくりで募集し、やってきた中途応募者と採用担当者がキャリアカウンセリング風に話し合いながら具体的志望職を決めていくという方法をとるケースが出てきました。新卒採用の場合、採用担当者が描いたキャリア・プランを選考中の段階で学生自身にフィード・バックすることはあまりありませんが、お互いがそんなプランを描けたら採用担当者は安心して内定を出すことができますね。

第63号:「三方良し」の志望動機

近江商人の古くからの商売の理念に「三方良し」というものがあります。商売は、売り手と買い手という当事者に都合がいいというものだけでなく、その取引が世間にとっても好都合(有意義)でなければならないというもので、「売り手よし、買い手よし、世間よし」それを「三方良し」と言います。採用面接で伺う志望動機もそんな考え方を持って貰えると良いのですが、最近はなかなか商売ッ気のある学生さんは少ないようです。

就職活動は、言うまでもなく自分自身を企業に売り込むための営業活動です。採用担当者が内定を出すということは、企業が「君の将来を買った!」と判断したわけですね。ところが、最近の採用面接ではどうもその点がうまく売り込めていない学生が多いようです。(相手の買いたい)自分のセールスポイントをまとめるのが自己分析の主な作業であり、それを整理したセールス・トークが志望動機ということなのですが、それが「三方良し」ではなく、「一方良し」になっていることが多いです。

「三方良し」の理念に沿った志望動機とは、下記のような内容がしっかりまとまっていることです。

・売り手よし・・・自分のやりたいことができる、やりがいがある

・買い手よし・・・企業がその学生を採用して業績が伸びる、採用担当者が評価される

・世間よし・・・その学生を採用した企業が(その学生の業績によって)社会からも評価される

「三方良し」の志望動機を話せる学生は、人生に対する視野の大きさや、仕事や社会における自分の位置づけも感じさせてくれます。これが「一方良し」になってしまっているということは、自分の利益・メリットだけを述べている、自分の熱い気持ちだけを述べている、ということです。

先日とある面接の場で、最近増えている大学院生の就職面接に立ち会いました。その方は自分が学部生に比べどれだけ勉強しているかを一生懸命に述べておりました。専門的な勉強に力を入れていた分、却って熱が入ってしまったのかもしれませんが、それを聞いている私がどれだけそれを評価しているか、という視点には欠けていたようです。こちらから「では何処でも貴方の希望する部署に就かせてあげますので、そこで何がしたいか、何ができるかを述べて下さい。」と質問したところ、具体的な話が殆ど出てきませんでした。つまり、「買い手よし」の視点が無いのです。

採用担当者はキャリアカウンセラーでも人生相談役でもありません。面接は営業活動であるという原点にかえって、「よし、君を買った!」と言わせるような志望動機や自己PRを聞かせてほしいものです。

 

 

Just another Recruiting way