第82号:採用活動に関する大学との共同研究

人事労務を研究している都心の大学のゼミ学生と企業の採用活動に関する共同研究を行いました。3年ほど前にも一度行ったことがあるのですが、学生の作成した質問票(アンケート)にProfessional Recruiters Clubのメンバーが回答し、学生がそれを分析して報告・提言を行うものです。今回のテーマは「新卒早期離職者」に関するテーマですが、調査して見えたいくつかの傾向をお伝え致します。

このアンケートの回答数は30社と小規模でありますし、Professional Recruiters Clubという特殊(?)な集団でありますから、これをもって一般化することはできませんが、マスコミで言われていることとはちょっと違う面が見えております。ちなみに、Professional Recruiters Clubの特殊なところというと、手前味噌になりますが、人材採用に熱心で人材を消耗品とは考えていない“良い”企業です。グループで10万人を越える企業もあれば、全体で500人前後の小企業もあります。

学生が今回の「新卒早期離職者」というテーマを選んだ理由ですが、就職活動で先輩訪問をしたときに、すぐに辞めてしまったり、新人研修でひどい扱いをされたことを聞き、企業は採用活動と能力開発活動をもっと力を入れるべきだという問題意識からだそうです。(ちょっと耳が痛いです。)実際、今回の調査結果でも新卒早期離職者はやや増加との傾向が見られました。

さて、今回のアンケートから見られた傾向を3点ばかり紹介しましょう。

1.3年以内に退職している新卒社員は10%前後である。

⇒一般に言われている“3年3割”は全く当てはまりません。1年以内に退職する率となると、5%以下でした。マスの統計になると離職者の多い企業との総合計になりますので数字のインパク トが大きくなるのですね。

2.採用関係費用はバブル期並みかそれ以上になっているが、採用担当者数は削減されたままで人員増にはなっていない。

⇒今年の企業の採用意欲は旺盛ですが、採用担当者の予算(カネ)は増えたものの、人員(ヒト)は削減されたままで、IT化、アウトソーシング化、等によって対応されております。採用担当者の負担増が浮かび上がってきます。企業のセミナーを正社員が行わないというのもうなずけます。

3.新卒早期離職者はやや増加傾向にあるが、対策はまだなされていない。

⇒離職者数の数値がまだ低くて対応されていないのか、採用担当者の業務外と考えられているのか

は不明ですが、新規離職者への対応(リテンション対策と言います)今後の課題と思われます。

今回の研究ではアンケート調査だけではなく実際に企業を訪問してインタビュー調査も行いました。学生達にとっても机の上の学問が活きた学問に変わった良い経験であり、我々採用担当者にとっても刺激になりました。アンケートには他にもいろいろな発見があるのですが、今後もこういった調査を続け、機会があれば大学就職課にも公式にご報告できたらと思います。

 

第81号:新年は配属案の作成から

新年も始まり採用担当者もいよいよ慌ただしくなってきました。1月後半からは多くの大学が期末試験に入りますので、この機会を狙って内定者の配属案をつくりますが、これがなかなか大変な作業なのです。内定者を呼び出して配属面談を行い最終的な本人の希望調査を行ったり、一方では社内の現場の人員要求がどうなっているか再調査したりします。配属決定を入社後に行う大企業ほど、このマッチング作業に苦悩し忙殺されています。

最近は職種別採用が増えてきて、外資系企業のように新入社員の配属案が入社前から決まっている企業も増えてきましたが、全般的にみると入社後に配属を決定する企業がまだ多いです。特に今は超早期化の就職(採用)活動の時期なので、内定を出している時期にはとても配属案を固めることはできません。職種別採用で配属を特定できるのは、法務・経理等の大学の専攻を重視する分野に限られていることが殆どでしょう。つい先日、Professional Recruiters Clubの企業30社ほどで統計調査を行ってみたのですが、配属案の決定時期は以下のとおりでした。

・入社前             ⇒32%(21%の会社は職種別採用を導入)

・入社1ヶ月未満     ⇒25%

・入社3ヶ月まで     ⇒36%

・それ以降           ⇒ 7%

企業によって配属案の作成プロセスは異なりますが、採用選考プロセスでの情報を重視して決定している企業は入社前から入社1ヶ月までの57%(32+25)で、入社後に新人研修等を行い、その内容を重視して配属案を決定しているが43%(36+7)と見ることができるでしょう。

私自身も行っておりましたが、新入社員の配属案を作成するには後者の社内での研修や(仮配属での)仕事の様子をみて決める方が適性・能力を確かに把握できます。やはり採用選考という特殊で限られた時間内での情報ではなかなか本人の特性をつかむことは難しいのです。しかし採用の現場をみると、内定者にとって自分の配属部署は最大の関心事であり、そこがわからないので内定を辞退するという学生も居ります。職種別採用が導入された背景には内定辞退の防止があります。

採用担当者としてはできるだけ内定者の意思を重視してあげたいのですが、ベスト・マッチの配属案を作るのは至難の技です。最近の内定者は内定してから企業研究を詳しく行うので、内定決定時の希望と配属面談の希望とが大きく変化していることもあります。配属要求を多く出していた部署が突然に事業中断で人員要求がゼロになることもあります。「この内定者をどーするんだ!」と叫びたくなり、自分自身の配属異動(敵前逃亡)を考えたりします。

こんな時、ワールドカップのレギュラーを選びポジションを決めるジーコ監督の苦悩が身に染みてわかります。負けずに頑張らなくてはと思う新年なのです。

 

第80号:クリスマス商戦と就職商戦

今年も最後の配信となりました。街を歩けばクリスマスの飾り付けが綺麗です。景気が上向いてきたせいか、この年末はクリスマス商戦も盛り上がっているようです。先日、都心のターミナル駅のある繁華街に買い物に行ったのですが、ふと気づくと大勢のリクルート・スーツの学生たちが。どうやら近くのホールで企業の合同就職説明会があったようです。どうもクリスマスは就職商戦の時期にもなってきたようです。

大きな交差点で信号が青になった途端、クリスマスの華やかな色彩の中に何やら無彩色のリクルート・スーツの大集団が渡ってきます。手に肩にしているのは某有名企業の広告が入った紙袋。一見して就職説明会の帰りとわかります。それもかなり大規模なものだったようで、リクルート・スーツの人並みは途切れることなく延々と続いています。ふと気づいたのは、その学生達に向かって走り寄る同じリクルート・スーツの数人の学生たち。気になって観察していると、何やらアンケートらしきものをとって、それから何かを宣伝しています。まるで怪しいキャッチ・セールスのようです。

何だかクリスマス気分が滅入ってきたのですが、気を取り直してお目当てのデパートに入りました。そこですぐに目に入ってしまったのはリクルート・スーツのセールです。勿論、スーツだけではなく、靴、カバン等の就活7つ道具までしっかり揃っています。化粧品売り場では就職面接向けのメーキャップ指導。驚いたことに、最近は男性向けもあるんですねえ。とある大学で面接官を印象づけるメーキャップという男子学生向けのイベントを発見した時もたまげましたが、今の就職活動は本当にお金がかかりそうです。

企業の採用戦略は、ふつう商用(一般広報)から採用(求人広報)に向かうものでした。まずは企業の認知度を高めて企業のファンを増やし、そこから求人集団を形成するという流れです。どうもそれが最近は逆になっている企業もあるようです。採用広報で大集団を形成した後、その集団に自社製品を買って貰うという流れです。そもそも採用広報で形成する集団の大多数は選抜されてご縁がなくなるわけですが、それでは勿体ないとの企業の商魂が動いているようです。つまり、採用から商用へという逆流がおきているようですね。

企業にとっては自社のものを買って貰わなくても良いんです。今回の繁華街での就職イベントのとおり、自社の広告の入った紙袋を大勢の学生が持って歩いてくれたら十分な(一般)広報になりますからね。学生はいつの間にか歩く広告塔にされているわけですが、これは新聞などよりはるかに安価な広告活動です。

どうやら今の日本には巨大な就職産業という業界が形成されたようです。就職シーズンの長期化がそれを急成長させているようですね。せめてクリスマスには学生も大学も採用担当者も休息しましょう。戦争だってクリスマス休戦があるじゃあないですか。

来年も皆様のご活躍をお祈りしております。良い年をお迎え下さい。

 

第79号:コミュニケーションの達人生協の白石さん

あっと言う間に「時の人」になったのが生協の白石さんですね。(大学職員でご存じない方は居られないでしょう。ついにアマゾンで書籍販売No.1になってしまいました。)少し前にTVで報道されてから一気にブレイクしたようです。白石さんの著書は顧客対応の模範ですが、コミュニケーションの達人です。面接でもまれにこんなウィットに富んだ学生さんとお会いすることがありますが、見習って欲しいところが多々あります。

東京農工大学の生協職員として顧客である学生さんのコメント・カードの内容がインターネットかされてついに今月出版されました。この本が売れた理由はいくつかあると思いますが、まさに時代が求めているアナログ感覚というか、暖かい人間的コミュニケーションですね。思いつくところでヒット要因をあげてみると以下の点でしょうか。

1.顧客に対して真面目に向き合う

⇒どんな難題、いやがらせ、クレームについても真剣に非常識なほど真面目に対応する。

2.組織の視点ではなく個人の視点で向き合う

⇒所属する組織から最低限求められている対応の上に個人のできうるサービスを載せている。

3.サラリーマン(社会人)としての悲哀も伝える

⇒どんなに個人で対応したくてもできないところはできないと(優しく)伝える。

4.ユーモアを忘れない

⇒コメントには必ず嫌味にならないユーモアを載せて余裕のある回答をする。

5.どんな質問にも対応するプロ意識

⇒決められた時間内に全ての回答を必ず行う。

*と、書いてきてみると、コラムを書いている私も見習わなければなりません。

白石さんの魅力は数々ありますが、昔はこんな対応をしてくれる大人は多かったです。子供の頃、小中学校での先生でも人気になるのは厳しさと同時に優しさも与えてくれた先生だったと思います。今は学校の先生も余裕がなくなってきているのでしょうね。

こんなコミュニケーションが話題になるほど、今の時代は乾いてデジタルになってきているのだと思いますが、採用選考面接でもふとこんなユーモアのある回答をしたくなりました。きっと白石さんは就職課職員に採用されてもカリスマ的な相談役になりますね。社会の現実と楽しさをうまく教えてくれるのはないかと思います。あまり知名度が上がることは望まれないかもしれませんが、そこがまた好感をよんでしまいそうです。

 

第78号:採用トレンドはダイレクト・リクルーティング

大学祭の時期ですが、既に3年生向けの企業のセミナーやエントリーシートによる書類選考が始まっております。昨年からドンドン進んでいるのが、企業が直接学生とコンタクトするダイレクト・リクルーティングの手法です。古くはリクルーター制度ですが、今年はついに企業連携の合同企画が始まってきました。

少し前に大手企業17社が合同で企業セミナーを開催する報道が流れました。内容は仕事理解のための社員との対談が中心で、合同社会人訪問という方が正しいでしょうか。いろいろな業界の企業が集まることによって、それぞれの業界・企業に関心のある学生母集団をシェアしようという狙いです。その背景には以下のようなことがあげられるでしょう。

1.早期の学生情報の入手

⇒個人情報保護法の関係でダイレクトにコンタクトする必要がある。

2.メガ就職情報サイトとの使い分け

⇒数千社登録されている集合サイトでは、如何に有名企業でも埋もれてしまう。

3.学生への直接認知度の向上

⇒Web登録数よりも直接コンタクト数の向上を重視する。

4.コストダウン

⇒採用シーズンの長期化により低コストの企画の回数を増やす必要がある。

5.異分野の優秀な学生とのコンタクト

⇒異業界の企業が集まることによってタイプの異なる学生集団をシェアできる。

こういった合同セミナーはこれまで就職情報企業が企画・主催していたものですが、企業の方で会場やエントリー用ホームページを用意して行うことは殆どありませんでした。それぞれの企業が形成する母集団をシェアするのは学生の奪い合いになるからです。ところが少子化の傾向もあり、これまでのように自社と馴染みのある大学・学部の母集団形成だけではなかなか良い学生と出会えるチャンスが少なくなってきました。

それに学生の大学での指向(志望業界・企業)というのは、それほど具体的なものではなく、入社してから変わることが多いものです。かつては業界毎のカラーというのは明確でしたが、今はサービス産業化(ホワイトカラー化)の傾向が高く、建設業でもメーカーでも商社でも仕事内容が似てきています。直接に社員と対話することによって志望が変わるのはよくあることです。

米国ではダイレクト・リクルーティングは主流で、そのためリクルーターという職種が確立しています。ダイレクト・リクルーティング手法はいろいろな形態がありますが、これから日本企業もいろいろなノウハウを持ってくるでしょう。日本の採用担当者もようやくプロ化の傾向がでてきたということかもしれませんね。

 

 

第77号:社員紹介採用と入試広報活動

企業の採用方法にはいろいろな手法があります。外資系企業においてはポピュラーで、最近は日本企業でもたまに見かけるのが「社員紹介採用」です。縁故採用の一種ですが採用部署が公募するので従業員は誰でも利用できます。これは社員のクチコミを採用広報に利用するものですが、大学の入試広報でも応用できるかもしれません。

日本企業の縁故採用というと、紹介してくるのはお偉いさんが多いので、採用選考の現場にあれやこれやと口を出すことが多いのですが、外資系企業では縁故紹介という習慣がないので、採用担当者は精神衛生上、とても楽です。そもそも外資系では現場のマネージャーが採用権限を持っていることが多く、彼ら自身が人事部長のようなものですから、人事部に紹介するというのは入社手続き作業にすぎません。

この「社員紹介採用」は、中途採用で一般に用いられており、公募に知人を紹介して、その人物が採用選考をパスして入社したら一定額の報奨金が出るのがふつうです。報奨金は紹介したポジションによって異なることが多いのですが、トップレベルの経営コンサル業界では100万円を超えるようなこともあります。こういった報奨金が出ることもあって、紹介者は採用選考に口を挟むことはできず、また仮に不採用だった場合もクレームをつけてくることはまずありません(この点、外資系は本当に楽です)。

ただし社員紹介採用は、やり方によっては日本の職業安定法に抵触することがあるので(人材紹介は国の許可が必要)、報奨金の支払い方法等については気を遣います。一般社員を即席ヘッドハンターにするようなものですからね。それでも人材紹介業を使うより、はるかに安価で良い応募者が集まることが多いのです。

さて、大学入試広報担当の方と話をしたときに、大学広報では在学生のクチコミによる受験生への紹介が一番効果があると聞いたことがあります。クチコミによる広報はバイラル・マーケティングと呼ばれますが、ネット上での個人間のネットワークでも応用されています。バイラル(viral)というのは「ウイルスによって起こる」という意味で、伝染病のように伝播する効果を表します。少子化のこれから、どこかのカード会社ではありませんが、紹介した新入生が入学したら、紹介してくれた学生に報償金(奨学金適用等)を払うというのは効果があるかもしれませんね。

社員紹介採用が成功するキーは、社員が自分が属する会社を他人に紹介したくなるような状態であること。つまり社員がその会社を好きであるということです。同様に、在学生が自分の大学を好きであることがクチコミ広報が成功するキーとなるでしょう。学生への報奨金は非現実の域としても、企業も

大学もまずは社員・学生に対する精神的報酬を用意することが第一歩ですね。

第76号:脳の運動不足にならぬよう

第76号:脳の運動不足にならぬよう

3連休の体育の日にショッキングなTVニュース画像を見ました。子供の体力低下が止まらずに、ジャンプがちゃんと出来なくなっているシーンです。報道によると、9歳の男子の体力は20年前の女子の体力と同等だとか。運動不足が原因なのは明らかですが、ふと思い出したのは大学で行う就職ガイダンスでのシーンです。講演最後にお決まりの問いかけの「何か質問はありますか?」。何処の大学に行っても無反応なのをみると、大学生の運動不足も相当に深刻なようです。

企業採用担当者やキャリアカウンセラーが大学で懸命に講演をし終えたとき、もっとも期待と不安をもってむかえる時間は最後の質疑応答です。今日の話はどんな風に聞いてくれたんだろう?自分の話はわかりにくくなかっただろうか?講演者にとっての評価ともいえる緊張の一瞬です。

しかし、今ではすっかりこの緊張感も薄くなり、講演者から積極的に働きかけない限りまず質問が出ることはありません。気を遣ってくれる大学職員の方が、「うちの学生は大人しくて真面目なので質問はできないと思います。」と講演の最初から伝えて戴くことも多いです。「いえ、どこの大学も同じですよ・・。」とお答えするのは私だけではないでしょうね。

私は学生時代に運動部だったのですが、入部して来た新人の動きを見ていると、同じ未経験者であっても、運動に慣れている新人はすぐにわかります。特別に才能のある者を除いて、小さい頃から体をどれだけ動かしていたかの差によるものでしょう。

しかし、冒頭で申し上げた運動不足とは、勿論、手を挙げる筋肉が衰えているということではありません(もしかするとそれもあるかもしれません。)彼らが運動不足に陥っているのは、脳の使い方です。養老先生ではありませんが、人間の思考や発想も神経回路の使い方による個性で決まります。それまで一度もやっていない運動ができないのと同じで、使った経験の少ない脳の使い方はできないのでしょう。つまり、質問が出てこないというのは、授業や講演を聞いてもそれに疑問を持ちながら聞いた経験が少ないのでしょう。

今の時代、子供にはあまりに全てが用意され過ぎて回り道や失敗をする機会が少なくなっています。大人の方でもしっかり用意しておくので、失敗したくてもなかなか失敗できないんですね。その結果、体験してから考えるという非効率な生き方はやりにくくなり、失敗してはいけない、失敗は無駄である、という思考がかなり強くなっているようです。私は最近の講演では「生きるってことは実験と冒険」「失敗から学べ」ということを繰り返し話すようにしているのですが、この話を聞いた学生は口を揃えて「不安だった就職活動の気が楽になった。」と言います。この反応もどこの大学でも共通の講演後の感想です。

私の運動部の先輩はこの夏、高校1年生の息子さんと二人で東京から仙台まで自転車で帰省したそうです。息子さんはきっと型破りな体力と脳力をもった若者になるでしょう。私も体力に衰えを感じる年齢になってきたのですが、今の学生のためにもうちょっとむち打って頑張ろうと思います。負けてはいられません!

 

第75号:学生時代に一番、力を入れたこと

この夏休みに関西の大学数校の学生サークルを対象に、ビジネスプラン・コンテストを開催しました。以前から就職活動のためだけのプレゼンテーションやネゴシエーションの指導ではちょっと物足りないと思っていたので、実践的なビジネストレーニングをやってみたかったのです。最近は学生起業ブームなのでこの種のイベントは盛んですが、就職面接ではなかなか見られない生の学生の姿を知ることができました。

このようなビジネスプラン・コンテストは企業の広報手段として使われることが多いのですが、その多くはプランだけに終わってしまうことが多いので、実際のビジネスの流れ(実務)を知ることはできないことが多いです。大企業の経営企画とかマーケティングとかの部署だけでビジネスの全てを知った気になるのは危険なことです。実際、今回参加した9チームで入賞できたのは、商品企画だけではなく、その開発行程、販売ルートまで机上調査だけではなく実際に検証してきた2チームだけでした。ビジネスの実現性の有無が勝負を分かれ目になったわけですが、そこが、経営コンサルタントか実業家かの分かれ目でもあります。なお今回のコンテストでは入賞者は提案したプランを1年間、実際に行います。事業が成功したら、そのまま起業してしまう学生が出るかもしれません。

今回のコンテストでは企業経営者に加えて、Professional Recruiters Clubの採用担当者にも審査員をお願い致しました。面接やインターンシップでは見られない生の学生の姿に感心しており、「我々は採用選考で何を見ていたんだろう?」とつぶやいておりました。「これが学生本来の姿なのか、それとも我々がこのような学生と出会えていなかったのだろうか?」とても考えさせられたようです。

(例えが失礼ですが)動物園の動物のように檻の中では動物の本来の姿は見られないのでしょう。採用担当者は学生の本来の姿や、個人の能力をもっともっと知る努力をしなければなりません。企業の営利活動というコストの限界はありますが、例えばこういったビジネスプラン・コンテストの開催費用など、就職情報業者の広報費用に比べたら微々たるものです。大学においても経営学部や商学部なら、こんな企画を企業スポンサーで開催すれば、立派なキャリア教育になるでしょう。

新学期が始まり、これから3年生、修士1年生の就職活動が本格化してきますが、今シーズンは企業のオンキャンパス・セミナーが相当に流行りそうです。過熱気味の就職行事を考えながら、今回の審査員の彼とこんな話をしながら帰路につきました。

「学生が一番、元気で能力を発揮しているところを見て採用したいね。」

「『学生時代に一番、力を入れたことはなんですか?』という質問に、『就職活動です。』なんて答えさせることになっちゃいけないね。」

 

第74号:指定校制度と学校名不問

少し前の新聞で某有名企業の相談役の就職体験談の記事を見つけました。

「当時の大手企業の新卒採用には指定校応募と縁故応募の二つの枠があった。指定校といっても単に受験資格を得られるだけで、しかも大学から指定校としての推薦状を貰えるのは30人まで。縁故枠も含めて合否は筆記と面接で判定されるので、今振り返っても公正だったと思う。」

*抜粋編集しています。

これは昭和30年前半の就職事情で、当時の大学進学率は15%以下でいわゆるエリートの時代です。少し前の日本にもこんな時代があったのだなあ、と採用担当者としては羨ましくなります。というのは採用担当者の現在の最大の悩みは採用活動にかかるコストアップだからです。コストには広告宣伝にかかる費用の他に、採用担当者が費やす時間コストもありますが、指定校制度というのは募集費用と選抜費用が大学で一部肩代わりしてくれていたのですね。学生の「資質・能力」と「入社意思」を大学が保証してくれていたわけです。現存する理工系学生の推薦制度はその伝統を残しているものですが、さすがにほころびが目立ってきています。

外資系企業の日本法人で採用責任者を担当していたとき、「今の日本では学校名不問というのを標榜する企業が出てきているんだよ。」と米国本社の採用担当者に話したら、「Unbelievable!なんで日本はそんなコストのかかることをするんだ!?大学との関係を軽視しているのか?」と言われ、説明に苦慮しました。はたして指定校制度と学校名不問は、どちらが学校・学生を尊重しているのでしょう?

大学進学率が50%を越えエリートからユニバーサルの時代(全入時代)に入ったいま、採用担当者が企業経営の視点で求められているのは、「資質・能力」と「入社意思」の明らかな応募者といかに効率よくコンタクトするかです。大学と連携の指定校制度と自社独自の学校名不問採用、はたまた社員の個人的ルートのリクルーター制度と、どれを選ぶかは企業の資産と価値観で判断されますが、採用担当者は今の季節、心底、悩みながら来期の戦略をたてています。

第73号:人生は実験と冒険

夏休みを迎えた大学からは学生の姿が消えましたが、最近は多くのオープンキャンパスを開催する大学が増え、高校生や親御さんの姿をみかけます。大学全入時代もすぐ目の前になり、無理をしなければ必ず大学に入れるようになりました。人間は失敗と挫折を繰り返しながらタフに成長していくものですが、大学全入時代では残念ながらその成長の機会が一つ無くなってしまうようです。

「最近の応募者はみんな綺麗な履歴書だねえ。」これはとある製造業で理工系学生の採用面接を担当している技術部長がつぶやいた言葉です。この企業は急成長したベンチャー企業ですが、かつては人材育成の余裕がなく即戦力の中途採用が中心でした。非常に苦労しながらも大きく成長し、今では新卒定期採用ができるよになりました。常に人材難に悩むベンチャー企業としては有り難いことなのですが、この技術部長の嘆きともとれるつぶやきの真意は、人生の挫折を経験したタフな学生が少なくなったということです。企業の知名度が上がり、今までは振り向いてくれなかった大学からも(履歴上・成績上)は優秀な学生がやってくるようになりましたが、浪人や留年を経験した学生の応募が減り、ストレートに大学卒業年次まで達している学生が増えてきています。この技術部長の嘆きは贅沢なことなのかもしれませんが、最近、仕事で壁にぶつかってなかなか挫折から立ち直れない新入社員が増えてきていることを危惧しているのです。

社会に出てぶつかる仕事の壁は、学生時代との問題とは違ってたった一つの正解が存在するものではありません。正解は無数にありますし、その点数も100点満点ではなく、150点ということもあれば、マイナス200点ということさえありえます。そんなときには自分でもがいて悩みぬいて行動したり、時には恥を忍んで他人に頭を下げて相談したりして何とか乗り越えていかねばなりません。そんな挫折経験から若者は自分の無力さを理解したり、コミュニケーション力を身に付けたりするのですね。

「もうちょっと回り道をしたり、挫折をしている面白い若者を集めなさいよ。会社に入ってから挫折にぶつかって立ち直らせるのは大変だし、最近は挫折から自分で這い上がれる新人が減って面倒だよ。」続けて語る技術部長の言葉は、来る大学全入時代においてますます難題になるかもしれません。願わくは、キャンパス外で飛び回る夏休み中の若者達が多くのことにチャレンジして挫折にぶつかりますように・・・・。人生は実験と冒険の連続ですから。

 

Just another Recruiting way