第132号:エントリーシート締め切り前夜

4月からの採用選考開始のために、エントリーシート(ES)の締切日を3月中旬に設定している企業が多く、学生の方も必死に仕上げにかかっておりますね。この時期になると、いきなりメールでESの添削を依頼してくる学生さんが居りますが、私はESのメールでの添削は原則として行わないようにしています。いや、メールで添削を行うのは不可能だと思います。

メールでESを送ってくる学生さんは、藁にもすがる思いなのでしょう。面識の殆ど無い私に「是非、添削をお願い致します!」と書かれてきます。しかしながら、一度も面談やカウンセリングを行ったことの無い方では、書かれてきたESの語彙や論理のチェック等の「評価・訂正」はできますが、その内容までは改訂(添削)することはできません。学生さんが自己PRするテーマにアルバイトの経験を取り上げていたとして、そのテーマがその学生さんを最も良く表現しているかどうかはわかりませんし、もしかすると、サークル活動の方が良かったり学業の方が良かったりする場合も多いですから。つまりESの添削は、その学生さんとある程度の期間、面談を繰り返した後に初めて出来るものだということです。

就職課の皆さんも日々、同様の経験をされていることと思います。全く初めて相談に来た学生に「どう書けばよいのですか?」「何を書けばよいのですか?」と聞かれても、「それは自分で考えることです。」といった回答しかできないでしょう。逆に言うと、面談を3回か5回位繰り返せば、かなり学生の持ち味を引き出して、それなりに良い添削ができるようになりますが、そこまで根性のある学生さんも職員の方もなかなか居られません。(勿論、手取り足取りではなく学生自身にPRポイントを考えさせるのも就職課職員の大事な役割ですね。)

ES締め切り前夜に駆け込んでくる学生が居たら、なんとかしてあげたいと思うのも人情なのですが、こればかりは如何ともし難いです。ESの原稿を、400字から200字にして削減(添削の「」)してあげられても、200字を400字に創作(添削の「」)することはできませんからね。

そういう点では採用担当者も同じです。如何に採用担当者といえども「評価」はできても「添削」はできません。(その代わりに面接でESでは見えていない部分を聞き出していくのです。)

この世にESが登場して10年近くなりましたが、ESに追われる学生・大学職員・採用担当者を見ていると、果たしてこれで良いのだろうか?と思うこの頃です。採用担当者も罪なモノをつくってしまったものですね。

 

第131号:正体不明の「KY系学生」

採用選考が本格的に始まり、駅で見かける学生の表情も真剣度が上がってきました。面接を体験した学生も出てきていますが、まだまだ緊張感の方が先立ち、まとまった話の出来る学生は少数のようです。

面接慣れの問題かもしれませんが、採用担当者が困るのは、ここ数年、正体をつかむのに手間のかかる学生が増えてきたことです。採用担当者から言わせると、「KY系学生」です。

 

流行語にもなってしまった「KY」というのは、もう説明するまでもなく「空気が読めない」という意味です。言葉にしないと理解ができない若者が増えつつある今、こういった言葉を使っているのを見ると、まだ日本人の心は失われていないのかなとも嬉しくなりますが。

しかし、採用担当者の感じる「KY」とは「空気が読めない」ではなく、「気持ちが読めない」です。「KY系学生」は、面接を行っていて時間がかかります。具体的な会話例をご紹介しましょう。

 

採用担当者「あなたが大学生活で最も力を入れたことはなんですか?」

KY系学生「いろいろやってきましたが、アルバイトです。」

採用担当者「どんなアルバイトですか?」

KY系学生「接客業です。居酒屋のチェーン店ですが店長を任されていました。」

採用担当者「そこではどんな体験をしましたか?」

KY系学生「多くの社会人の方々に触れることによってコミュニケーション力を身につけました。」

 

今の面接では非常に多いパターンですが、上記の会話から採用担当者が得られる応募者の個人情報は殆どありません。この程度の情報ならば履歴書に1行記載してあれば十分ですから、ここまでの採用担当者の3つの質問は無駄になっています。こういった会話をする学生が「KY系学生」、つまり『採用担当者の気持ちが読めない応募者』です。面接は世間話の場ではありません。採用担当者は非常に限られた時間の中で応募者一人一人を知ろうとしていますので、その採用担当者の気持ちが読めているならば、最初の質問から「居酒屋のアルバイトを通じて社会人の方とのコミュニケーション力を身につけたことです。」と答えて戴ければ非常に助かりますし、応募者の評価も上がります。

 

学生は無意識に自分自身の存在を「××系」「××的」という表現を使い、曖昧で没個性にしていることが多いです。それは心理学的に自分の居場所を確認すると同時に埋没させる効果があるそうで、危険に溢れた現代社会において目立つことを避けようとする若者の意識の表れらしいです。しかし、採用面接でこれをやられては困ります。面接の場では採用担当者を信頼して早く素顔を見せて欲しいものです。マニュアル本に個人情報は小出しにした方が良いと書かれているものもあるそうですが、それは採用担当者には、「無駄に時間を使う人(MH)」「手間のかかる人(TH)」という印象になるでしょう。

 

売り手市場になってしまった今では難しいお願いかもしれませんが、採用担当者の気持ちを読んだ面接をして戴けたら助かります。お互いのために・・・。

 

第130号:模擬面接における自分軸と社会軸

最近は、大学入試と就職活動(採用選考)の開始が同時期になりました。大学内は受験生で溢れ、大学外は就活生で溢れています。受験大国日本の盛りですね。今年は例年以上に企業の選考開始の足並みにバラツキが出ているようで、それに合わせられたかのように学生の面接準備にもバラツキが激しくなってきたようです。

 

先日大学での模擬面接を行ったところ、なかなか話ができない学生にひとつの傾向がありました。自己分析を行っているのに、説得力のある志望動機を話せない学生です。その学生の話をよく聴いていると、体験談の整理や強みはまとまっているのに、それを志望する企業で、または社会でどのように活かしていくかを関連付けられていないのです。学生が最近よく使う就職流行語に、「自分軸」というものがありますが、それが世の中でどう発揮するかという「社会軸」を持っていないのです。

 

「自分軸」と「社会軸」について整理すると下記の通りです。

▼自分軸(垂直軸・時間軸)

過去の自分(体験談)⇒勉強、サークル、アルバイト、ボランティア、趣味

現在の自分(自己PR)⇒長所・短所、性格、能力、指向性、行動特性、専門分野

未来の自分(志望動機)⇒その企業で行いたい短期・長期の夢、希望、人生

 

最近は体験談を聞くコンピテンシー面接が大流行しているせいか、最後の志望動機について語るところまで思いつかない学生が増えてきました。これは、社会を表面的なところでしか知らないので想像がつかないのか、多忙な時間の中で自分を囲んでいる社会について見渡す余裕が無くなってきているのかもしれません。それが、下記の社会軸の視点の欠如です。

 

▼社会軸(水平軸・空間軸)

社会意識(一般常識)⇒時事問題、関心のある出来事、社会人意識

就活状況(企業研究)⇒他社の志望状況、企業(業界・職種)選択の基準

 

企業が社会軸を質問するのは、一般常識(知識)を見るだけではなく、その応募者の性格や本気度、意思決定基準がわかるからです。実際、自分軸(体験談等)を聴かなくても、その学生の人物の大きさは、時事問題の視野の広さや理解度、捉え方などによっても判断できます。自己中心がドンドン進む中で、むしろこれからはこちらを重視した面接が必要かもしれません。

 

売り手市場になると学生はどうしても「自分軸」を中心に考えがちですが、「一つのことに集中して回りが見えなくなる」のはドラマの主人公に任せておいて、広い視野から自分の軸を見直して欲しいものですね。

 

第129号:採用活動に関する大学との共同研究-3

昨年末にこちらでご紹介した、商学部のゼミ学生と企業の採用活動に関する共同研究(大学生の内々定辞退)の報告会が行われましたので、その調査内容を少々お伝えしたいと思います。この報告会は大学に企業採用担当者(約10社)を招き、学生のプレゼンテーションに対して質疑応答を行うという形式で行われました。今回で4回目になります。

 

1.採用予定人数を確保する為に採用基準を緩和することはありますか?(回答数48社、以下同じ)

・よくある           ⇒ 2.1%

・時々ある           ⇒31.3%

・あまりない         ⇒39.6%

・全くない           ⇒27.1%

⇒これはインタビュー調査でも明らかになったことですが、景気が良くなっても採用基準を緩めることは殆どないということです。どんなに厳しくても最低限の基準は守りたいということでしょう。

 

2.他社が採用予定人数を確保するために採用基準を緩和していると感じますか?

・そう思う           ⇒33.3%

・まあそう思う              ⇒47.9%

・あまりそう思わない ⇒18.8%

・全くそう思わない      ⇒ 0.0%

⇒ところが、これを他社の状況として聴いてみると意外にも、他社は緩和しているという感想の企業が殆どです。詳細にインタビュー調査してみると、これは大量採用を始めた特定の業界・企業の影響が大きいことが明らかになってきました。

 

3.学生は内々定辞退をする際に企業を充分に理解した上で辞退していると感じますか?

・そう思う           ⇒ 2.1%

・まあそう思う              ⇒22.9%

・あまりそう思わない ⇒72.9%

・全くそう思わない   ⇒ 2.1%

⇒さて、研究の本題である内々定辞退の理由ですが、採用担当者は内々定者に充分に企業を理解して貰ったとは感じていません。これは単なる「滑り止め」にされたということと、充分に自社のことを伝えきれなかったという採用担当者の辛い想いが現れています。インタビュー調査でも、充分に理解して貰った上で辞退されるなら仕方ない、というコメントが多く伺えました。

 

売り手市場になったため学生には洪水のように情報が流れておりますが、こういった環境では自分のペースで1社1社をしっかり考えることは困難になってきました。そのため、「取りあえず」就職活動で「取りあえず」内定取得となることも仕方ないことでしょう。知名度の低い中小企業の採用担当者にとっては悩ましい時代が当分、続きそうです。

 

第128号:大統領選挙と採用活動

1月になり、大学は期末試験やレポートの準備に追われる学生で活気に溢れています。通常、この時期の採用担当者は嵐の前の静けさというか砂漠のオアシスというか、エアーポケットのような時期なのです。しかし今シーズンは学生の都合に一切関係なく採用活動を継続する企業も出てきているので、秋からそのまま息つく間もなく走り続けている学生さんも目にするようになりました。取り乱している学生を見ていて、ふと、盛ん報じられている米国大統領選挙のことが思い浮かびました。

 

米国大統領選挙は11月の本選挙が本番です。例年であれば候補者選び(党員集会)の開始は春以降ですが、今年は既に口火を切りました。これから全米各州を回る壮大な選挙活動が始まります。各州の党員集会の最初は例年通りアイオワ州が最初でした。私はてっきりアルファベット順に行われるものだと思っておりましたが、これは各州から開催日が出されて早い順に決定されるのだそうですね。アイオワ州はトウモロコシ畑しか無い地味な州なので(と、言ったら怒られますが)、毎年大統領選の時だけは脚光を浴びるようです。大学対抗の駅伝大会などで、最初のスタート・ダッシュで飛び出してTVカメラに大学名を映させるという戦略と同じですね。採用活動でも就職シーズンの最初の方が目立ちますし、学生も集まるので企業が先を競って大学訪問を始めるのと同じことかもしれません。

 

米国をドライブしていると、候補者の名前の看板を市中の住宅街アチコチで目にします。(日本の選挙ポスターと違って候補者の顔写真がありませんので、初めて見た時は何かのフェスティバルかスーパーマーケットの広告だと思ってしまいました。)これも駅伝大会に例えるなら、ランナーが走る沿道で大学や企業名の旗を振って応援することでしょうか。採用活動なら、各種メディアに採用広告をだすことでしょう。(原稿作成って、結構、大変なのです。)

 

ところが、先日みた米国内のニュースでは、既に国民は大統領選挙の過熱ぶりにウンザリしてきたと報じられていました。運動資金の調達とそれを使った広告活動の膨張により、既に「選挙疲れ」をしているとのこと。有権者の70%が選挙の短縮化を望んでいるという調査結果もあるそうです。

 

大統領選挙や採用活動が無駄とは言いませんが、今のメディア過剰・情報過剰の時代では、誰もが気づかぬうちに混乱・混沌の渦に巻き込まれます。21世紀が環境の時代で、日本の節約文化が発揮されることは間違いないと思いますが、エネルギーや物質の節約だけではなく、人間の心や精神活動も節約して、本当に大切なことに使うことを忘れないようにしたいものですね。企業も大学も。

 

 

第127号:企業の採用本気度、学生の志望本気度

今年の採用戦線の過熱ぶりは本当に凄いですね。いよいよTVにまで新卒採用のCMが登場してきました。人材紹介業者のCMが初めてTVに流れた時にも驚きましたが、今の採用戦略は資金力(広告宣伝費)が成功を左右しそうです。そうなると、ますます苦しいのが中小企業です。今年は大手企業が相当の予算と人員(採用担当者以外のリクルーター)を導入してきているので、手詰まり感があります。そのため、今季は例年より多くの中小企業が大学就職課・キャリアセンターの皆さんのところへ訪問されているのではないでしょうか?

 

就職ガイダンスで地方の大学にお伺いするとき、いつも拝見しているのは就職課に掲示されている求人票です。どんな企業がその大学に求人に来ているのかは興味深いです。その多くは地場産業のものですが、遠く都心から地方の大学にまで求人を出されていることも珍しくありません。特に最近は、中小企業の採用担当者の多くが首都圏での厳しい競争を避けて地方に活路を見出そうとしているのでしょう。(しかし、最近はそちらにも大手企業から求人が送られていて苦戦しています。)

 

大学の求人掲示をよく見ていると、『来訪企業』等のシールや印が押されているものがあります。求人票を送るだけではなく、採用担当者がその大学を訪問されたことを示しているのですね。学生に対してどれだけのアピール効果があるのかはわかりませんが、少なくとも機械的に求人票を送っている企業とは区別されるでしょう。そうやって企業の採用本気度を支援してくれる大学は有り難いことです。

 

企業側でも、学生の志望本気度は知りたいところです。今は売り手市場になったのでやや陰を潜めた感じがありますが、何人のOB/OG訪問をしたか、何回ホームページを訪問して記事を読んだか、で学生の熱意を測ろうとする企業もあります。実際、面接していて、「御社が第一希望です!」と言われるよりは、「御社の社員、10人に会いました。」という学生さんの方が信じられますしね。営業活動と同じですが、一番わかりやすい熱意の表し方はやはり行動実績なのでしょう。

 

今年も押し詰まって参りました。多くの大学が冬期休暇に入られると思いますが、来年の皆様のご活躍とご健勝をお祈り致します。どうぞ良いお年をお迎え下さいませ。

 

 

第126号:採用活動に関する大学との共同研究-2

昨年もお伝えしましたが、今年も企業の人事労務管理を研究している大学のゼミ学生と採用活動に関する共同研究を行っております。そのシーズンに顕著に見られる傾向を課題として選び出しているのですが、今年は「内定辞退者の増加の原因」というテーマです。企業採用担当者側だけではなく、大学職員側にも悩ましい問題ですね。

 

このテーマを選んだのは、買い手市場から売り手市場への変化により求職者(学生)が有利になり、多くの内定を獲得するだろう、そしてそれだけ内定辞退数も増えるのではないか、という仮説からです。大手就職情報企業による企業のアンケート調査でも内定辞退数がここ数年で増加しているとの回答結果が出ています。

しかしながら、すべての学生が就職活動を楽観視しているかというと、そうではありません。内定を数多く獲得出来る学生と出来ない学生、いわゆる学生の質の二極化があります。今回の研究では、内定辞退の増加という現象が、どのような学生のどのような考えや行動から引き起こされるのかを明らかにすることが狙いです。そして、特に内定辞退が多いだろうと予想される中堅企業の採用戦略に対する提言を考え出すのが目的です。

 

ところが、先日とある訪問先から厳しい言葉を戴きました。

「この研究では中堅企業を対象にしているとのことですが、そうは言っても研究をしている学生さんもやっぱり大企業に入るんですよね?」

確かにそのとおりで、返す言葉がありませんでした。

 

これは日本の大学生の特長と言えるかもしれませんが、大学で学んだことを直接活かす企業や分野に就職する方が少ないでしょう。人事を研究している学生が人事を必ずしも希望しませんし、ベンチャー企業を研究している学生は殆どベンチャー企業には入社しません。多くの学生がいわゆる就社に近い感覚で就職を決めていることでしょう。また企業側も、大学生の勉強を選考基準で最重要と考えているわけではありません。全く米国とは正反対のことです。

 

ともあれ、内定辞退という学生・企業そして大学の3者に大きな負担となるこの現象を明らかにして、少しでも社会に役立つような知見を提供できれば幸いです。(研究成果については、また後日こちらでご報告したいと思います。)

 

▼アンケートのお願い:

この研究ではフィールドワーク(企業を訪問しての取材調査)による定性調査と、Webアンケートによる定量調査を行っておりますが、今年は学生側の意識変化も重要なので学生および大学就職課(キャリアセンター)への取材調査も行っております。お手数ですが、このメールマガジンをご覧になっている大学職員の方にも下記アンケートにご協力戴ければ幸いです。(5分で終わります。)

ご回答戴きました方には、集計結果報告をお送り致します。

http://www.recruiter.jp/enqout02/modules/bmsurvey/survey.php?name=2007questionnaire02

 

第125号:リアルな出会いに苦労する採用担当者

この時期は大学での就職セミナーに伺うことが多いですが、キャンパスを歩いていて昨年との明らかな違うを感じることは、リクルート・スーツの学生を良く見かけることです。昨年であれば冬休みに入る頃が多かったのですが、今年は11月に入ってから急に増えてきたようです。

 

おそらくその背景にあるのは、企業主催のセミナーが本格的に始まってきたことでしょう。特にこの時期の企業の動きで目立つのは、1~4日間程度の短期インターンシップです。昨年までは大学授業期間中である11月にはあまり見られませんでした。前回、「場つなぎに苦労する採用担当者」と書きましたが、それがこのような形で現れているのですね。

 

10月に就職Webサイトがオープンして企業の応募者受付が始まると、かなりの母集団(初期応募者群)が形成できて順調な滑り出しだ、と喜ぶ採用担当者がここ数年は多かったのですが、その後の実際の採用選考に関わるセミナー(1月以降)になると応募者がやってこない、と顔色を変える方が増えてきています。そのため、”繋ぎ止めるためのセミナー”を開催しているわけですね。ネットでの出会いを、早くリアルなフェイス・トゥ・フェイスの出会いにして少しでも応募意欲を高めたいということでしょう。

 

更に現在、実施されている短期インターンシップを見ていると、比較的小規模でセミナーの目的が特定の分野や特定の学部・専攻に向けて特化しているものが増えています。この時期、あまり大規模なセミナーを開催しても大学の授業で参加できない学生が多いのと、やはりフェイス・トゥ・フェイスの出会いを濃くするためには小規模な方が望ましいからでしょう。そして、その小集団も特定の目的を持たせた方が、企業も学生も無駄がありません。

 

ただ、こういった状況となると、やはり大学の授業への影響が気になります。前回、こういったセミナーが社会人教育とかキャリア教育になりうると、半分冗談・半分本気で書きましたが、そのためには授業期間中に開催する企業セミナー類も何らかのガイドラインまたは規制が求められてきそうです。

学生が教室から消えるのが、春先だけでなく秋にまで及ぶとは何とも悩ましい課題です。

 

第124号:場つなぎに苦労する採用担当者

スタートダッシュで始まった今シーズンも学生達の動きをを見ていると、やや落ち着きをみせてきた感じが致します。なんと行ってもまだまだ先は長いですからね。しかし、企業側にはこれまでに無い変わった苦労が生まれているようです。夏のインターンシップや早期の企業セミナーでコンタクトした学生達をいかに繋ぎ止めるかということです。

 

この夏に開催されていた企業のインターンシップやセミナーを見ていて一つの傾向があるのは、自己分析・自己啓発系のセミナーや、ビジネスマナーやコミュニケーション・スキル、更にはビジネスのイロハのトレーニングが多くなっていることです。学生の感想を聴いてみると、「とても社会勉強になったし就職活動の参考になったけれど、肝心の企業のことはあまりわかりませんでした。」という声が意外と多いようです。学生にとっては不満ではないですが、ちょっと肩すかしを食らった印象ですね。

 

これには企業側の理由があります。昨年の苦労から早期に学生にコンタクトしたのは良いものの、さてそこで通常の詳細な企業セミナーを行ったら、次に行うのは採用選考しかありません。しかしながら、この時期に面接を行っても、さすがに1年半も先の内定を出せる企業はまずありません。それを出せるのはアナウンサーや外資系コンサルタントのようなごく小規模の特定職種採用だけでしょう。そのため本番の企業セミナーに入る前に、ウォーミング・アップのイベントやセミナーを行い、とりあえず企業名だけは認知して貰おうという作戦です。

 

しかし、相当な大企業でもない限り、そういったプログラムのバリエーションは多くありませんからネタに困って、私のような外部講師や研修会社にキャリアアップやコミュニケーション・スキルのセミナーの依頼が来たりします。最近は就職に関係の無い芸能人を呼んだりした講演会まで見かけます。かつて早期の企業セミナーをあえて「業界セミナー」と呼んでいた頃を思い出しますが、今は本当に業界・社会セミナーになっているわけですね。

 

よく考えると、これは企業負担でキャリア教育(社会人教育)を行っているわけです。企業にとっては負担増ですが、それは早期に学生に火を付けた自業自得ということでしょう。こういった傾向がいつまで続くのかは分かりませんが、学生も賢くそのような機会を活用して社会の見聞を広げてしまえば良いと思います。企業にとっては、せっかく投資した(囲い込んだ)学生は逃がしたくないと思うでしょうが、仮にご縁が無かったとしても、いま流行のCSR活動と思って頂ければと思います。

(いやはや、採用担当者の心労はいつまでたっても耐えません。)

 

第123号:裁判員制度の判決と採用担当者の評価

今、大きな注目を集めている日本の法制度の大改革である「裁判員制度」があります。これまでは職業裁判官のみの判断で判決・量刑が決まっていたわけですが、今後は一般市民が裁判員として判決を下すようになります。つい先月、全国でその模擬裁判が実施されたところ、同じケースであるにも関わらず、一般市民の判断には大きなバラツキが出てしまいました。実は、この状況は企業人事部の内部事情ととてもよく似ているのです。

 

今回の模擬面接は、架空の殺人事件をケースにして全国35カ所で実施されましたが、一般市民の判断は、無期懲役から懲役16年まで約7つに分かれてしまいました(最も多かった判決は懲役20年)。その判決が分かれた理由はいろいろあるようですが、最も大きなものは裁判員の量刑に対する「相場観」だそうです。プロである職業裁判官の場合は、ある事件のケースにおいて、「この事件ならこの位の量刑だろう・・・。」と他の判例を考慮しながら懲役を決めるのです。ところが、一般市民の場合は、その相場観が殆ど無いためにこのようなバラツキがでたようです。(ちなみに、模擬裁判の被告人の演技はあまり影響が無かったとのこと。)

 

さて、この状況と企業の採用面接が似ているのは、人事部の面接者は職業裁判官と同じく”プロ”であり、現場の社員が面接に加わる場合、これが一般の裁判員に当たることです。人事部の面接者は数多くの応募者に触れて、合格・不合格の結果まで見ており、ベテランになると応募者とちょっと話しただけで、すぐにその応募者が、内定・ボーダーライン・不合格のどの辺かと直感が働きます。つまり面接者としての「相場観」を持っているのです。

ところが、人事部から依頼されて面接に加わった経験の少ない一般社員にはこの相場観が無いので、やってきた応募者についての判断にバラツキが出がちです。その結果、現場面接者は不合格の判断をなかなか下せず、内定またはボーダーラインにすることが多くなります。(ここが人間の心理で、面接で不合格を出すというのは相当なプレッシャーなのです。)

 

そこを補強するのがプロである人事部の面接者なのです。一般社員の意見を聴きながら意見交換し、今の応募者が自社にとって希有な存在なのか、平均的な存在なのかという「相場観」を伝えながら最終的な判断を下します。しかしながら、人事部の面接者でも自分の知識や経験値の弱い分野、例えば文系人事部員が理系応募者を面接するような場合は、逆に人事面接者は一般社員の判断に引っ張られがちです。

 

採用選考では現場の求める人材を的確に判断することが大事なので、業界や企業の方針によって異なりますが、こういった人事部と現場社員の交流による採用判断は今後ますます増えてくると思われます。しかし、裁判員制度同様、人事部から面接を依頼された一般社員は相当なプレシャーでしょうね。たまに応募者より緊張している面接者が居たりします。こちらも模擬面接をやらないといけませんね・・・。

 

Just another Recruiting way