第152号:消費者教育と労働者教育

自由民主党が小中学生向けに「消費者教育推進法案(仮称)」を議員立法で制定する準備を進めているとのことです。マルチ商法対策やクーリングオフ制度等を教えるそうです。なかなか良いことではないかと思いますが、ついでに高校生向けには「労働者教育」も始めて欲しいものです。

 

日本でも第三次産業が産業規模でトップになり、サービス業の発展は著しいですが、詐欺まがいの強引な商法もますます増えてきているようです。振り込め詐欺の国内被害総額(2006年)が250億円にも上るのは驚きました。そんなご時世ですので子供達にも早いうちに経済感覚を身に付けさせるのは大事なことでしょう。もっとも、金融教育と称せられるような資産運用などは必要なく、自分の資力以上の消費はしないこと、騙されないようにすることをシンプルに教えることで十分です。海の向こうの先進国で金融破綻になっているのも根本はこれが原因でしょうから。

 

さて、金融問題から発生したもう一つの大問題が雇用問題です。「派遣切り」「内定切り」という言葉がすっかり一般的になってしまいましたが、こういった事態にならないためにも若者への「労働者教育」が今こそ必要でしょう。かつてのように正社員が労働者の中心で企業の長期安定雇用が当然だった時代では、それは企業の人事部や労働組合が代わって考えてくれており、一般社員は仕事に身も心も捧げて集中できました。

しかしながら、今回の派遣切り問題で明らかになったとおり、派遣社員は「社員」という名はついておりますが、雇用関係ではなく企業側の都合で合法的に中止にされてしまう身分です。はたして若い派遣労働者の方々のうち、どの位の方がこういった事実をちゃんと知っていたのでしょう。バブル崩壊後、企業側の方は「個人の自立」「企業と個人の新しい関係」というスローガンで雇用ポートフォリオ型経営(非正規社員の導入)を導入し、人件費の変動費化を進めてきたことを。

 

勿論、派遣労働制度全部が悪いわけではありません。エンジニアのように非常に高い専門性を持ってこのような働き方をするならば、「ライフスタイル重視」「組織に縛られない働き方」という労働形態を謳歌することもできるでしょう。しかしながら、自分の専門性や職業経験が未熟なうちはリスクの高い働き方です。日本企業の大きなメリットである「新人研修」が受けられません。こういったことを、社会に出る前にしっかりと学校で教える必要があるでしょう。それが若者の自立にもつながると思います。

 

ところで、大変な経済環境で世間は騒然としておりますが、高校時代の恩師からの年賀状にこんな一言がありました。

「平成20年は激動の年でしたが、空襲に逃げ惑い、飢餓に苦しんだ昭和20年に比べれば何程のこともないと思います。」

私の地元の江東区は東京大空襲で一夜にして10万人が亡くなった下町です。そんな時代に比べたら、まだまだ我々は元気に生きていけると思います。 新年、頑張って行きましょう!

 

第151号:『チェンジ(変)』はチャンス

次期米国大統領も日本人が選んだ今年の漢字も、今年の締めくくりは『チェンジ(変)』ですね。採用担当者は変化対応に慣れているとはいえ、流石に100年に一度とか言われる大きなものだと不安になることも多いです。しかし、必ず対応策はあるはずですし、特に今の時代の変化(特の現在の経済システム)は人間の心理が大きく影響しているので、一番の対策は楽観的な意志をもつことだと思います。

 

米国の金融破綻と見ていて日本人に不思議に思えるのは、どうして政治家も官僚も経済学者もあんなに楽観的なんだろう?ということです。桁外れの損失を前にしても『これはこうなるから大丈夫だ!」と熱弁をふるいます。「全世界に一言、謝れよ!」と言いたいところですが、翻って我が国は世界でもましな方なのに、政治家もニュースキャスターも悲観論のオンパレードです。唯一、楽観的な首相が頼もしく見えたりします。

 

さて、こういった経済不況となると企業の経費削減圧力は激しく、いわゆる3K=広告費、交際費、交通費、が大幅に見直されます。採用担当者のもつ予算(採用関係費用)は、まさにこれが中心ですから、採用予定人員も採用予算も失い商売あがったりになってしまいます。(バブル崩壊時にはついでに採用担当者も削減されました。)

 

しかし、ここでその『変』に対応していくのも採用担当者の重要な課題です。採用活動の方針を変えて費用がかからない方法に切り替えていきます。例えば『広告メディア』から『人メディア』への切り替え等を考えます。マスメディアの広告宣伝には莫大な費用がかかりますが、人間関係を通じた広報活動には費用よりも信頼関係が重要で、費用ではなく手間暇をかければ方法はいろいろあります。あまり遠くへの出張はできませんが、不況期でも足繁く大学訪問したり電話やITで関係維持を行う企業は頼もしいし、信頼できる会社が多いです。「金の切れ目が縁の切れ目」になってしまっては、採用担当者の能力も問われます。

 

やはり『チェンジ(変)』はチャンスですから、こんな時にこそこれまでできなかった冒険もできます。思い切って採用選考活動を遅らせてみるとか、採用選考もエントリーシートやWebテストは止めて全員面接にするとか、清水の舞台から飛び降りる覚悟があれば、何でもできるでしょう。

 

同様に、大学就職課の皆さんに求められるものも大きく変わってくることでしょう。経済環境変化対応に加えて、ゆとり世代学生の就職支援もこれまでと同じでは難しくなってくるように思われます。

 

サブプライム・ローンのように、今の採用活動・就職活動における『変』も複雑に絡んで大きくなっておりますから、1企業や1校だけでの対応では解決できません。少しは米国の楽観主義を見習いつつ、

是非、企業も大学も一丸となってこの苦境を乗り越えていきましょう。

どうぞ良い年をお迎え下さい。

 

第150号:内定取り消し報道の影響

少し前に内定取り消しについて触れましたが、一般的にも報道されるようになって新聞紙上を賑わしております。現時点で厚生労働省が把握している件数は約300件で、珍しく迅速に国の雇用政策として取り上げられていますが、状況を冷静に見ることが必要だと思います。一見、社会への影響は大きいようですが、今回のケースをよく見てみると、特定の産業の特定の企業による事件で、殆どの真面目な企業には縁のないことです。ですから、以前も書いたとおり、あまり慌てることはないと思います。

 

いま大きく報道されている不動産会社は、内定取り消しに対して100万円の「迷惑料」を支払うことを発表しております。他に外資系金融機関も数百万の迷惑料を支払ったとの怪しい噂がネット上で飛び交っておりますが、実態は定かではありません。私はこれらの事件の全貌がわからない限り、その是非を論じることにはあまり意味はないだろうと思いますが、前者のような事例は今後の企業の採用活動に影響を与えると思います。

実際にやったことはないけれど、『内定取り消しを行ったら、どうなるかな・・・?』と考えたことのある企業は多いと思います。そういった経営者や採用担当者にとっては、今回のケースはとても参考になると思いますし、そういった意味では、厚生労働省が悪質な当該企業の実名を公表する規定を設けようというのは大きな抑止効果あると思います。また今後、採用担当者は「選考合格」「内々定」「内定」という企業毎に異なる曖昧な意味を慎重に運用するようになるのではないでしょうか。密かに内々定取り消しや内定取り消しの実行まで考えていた企業も、今回の件で改めて気を引き締めることでしょう。

内定取り消しについての法的意義については、就職課の皆さんもご存知かと思いますが、実際の判例は意外と少なく、しかもかなり以前(有名な最高裁判例は昭和54年)のものです。今回の事件が裁判にはなるかは定かではありませんが、企業の実名と「迷惑料」金額が明らかにされたというのは、判例と似たような効果があると思われます。

 

ということで、現時点で考えると内定取り消しの現実的な影響はあまり出てこないと思います。皆様、就職課への相談は増加しておりますか?私の知る限り、内々定というグレーゾーンでの取り消しはたまに聴くことがありますが、10月以降の書面での回答後に内定を取り消したケースは殆ど無く、それも冒頭に述べた特定の産業の特定の企業に限られるのではないかと思います。

 

メディアが騒いでいるのはこの事件の希少性(ニュース性)のためであり、国が迅速に動いたのも件数が少なく予算(税金)の投入も少ない割にはアピール度が高いからでしょう。そういった意味では「ネットカフェ難民」の時と似ています。

 

当事者の方々には大変なことですが、状況を冷静に見て慌てずに見据えること。やはりそれが大切だと思います。

 

 

第149号:大学祭で知った学生の資質

今年も残り一ヶ月となりました。先日の3連休で大学祭のシーズンも終了しましたね。これで3年生も心置きなく就職活動に入れることでしょう。さて、今年は私が非常勤講師でお世話になっている大学で学生と一緒に大学祭に参加する機会がありました。日頃、授業で良く知っている学生達と一緒にとあるイベントを企画実行したのですが、この経験から全く見たことのない学生の性格や資質が見えてきました。それは教師としては嬉しいことでもあるのですが、採用担当者としてみると、改めて採用選考の難しさを感じてしまったのです。

 

今回、私が関わった大学祭のイベントはクラシックを中心としたコンサートの開催です。大教室を予約して外部から音楽家を招いてチケットを販売するという大学でよく見かける企画です。10名ほどの学生が主体となって運営したのですが、その殆どは私の授業(キャリア論)の履修者でした。授業ではレポートや質疑応答をはじめ、グループ・ディスカッション等でも良く知っているはずでしたが、こういったイベントを通じて深く触れ合ったのは初めてのことです。

 

まず驚かされたのが「自主性」「行動力」の発揮です。メンバーに分担を決めて仕事を進めていったのですが、どうしても想定外の仕事が発生してきます。その際に「あ、それ私がやります。」「チケットは私が食堂で売ってきます。」という言葉とともに引き受けた学生は、授業の中では控えめな学生でした。

 

「指導力」を発揮した上級生も居りました。日頃は一歩下がっていて何もしないでいるように見えたのが、下級生が経験不足で壁にぶつかっているのを見るや、的確なアドバイスをして対処の知恵を授けていました。なかなか動けない下級生に対して大胆な「決断力」を発揮しています。後で聞いたところによると、後輩のために最初はあえて黙っていたとか。私はこの学生の模擬面接も行ったことがあるのですが、そんな指導力には気づきませんでした。

 

反面、日頃から「責任感」が強くてしっかりしているように見えた学生は、依頼されたことを自分中心に考えてしまって最終的に目標が達成できないことがありました。その成果はともかく、心配になったのはこの学生は自分の仕事には満足していて、「(自分のできることは)しっかりやった。」と思い込んでいるところです。いわゆる「自分に正直な等身大の学生」なんですね。会社で一緒に仕事をすると一番、困る部下のパターンです。

 

こういった学生の資質は、大人数の授業では把握することはできません。当然ながら、どんなに工夫しても面接という手法で見分けるのも困難でしょう。ゼミ活動や(正当な)インターンシップなどの一定期間一緒に過ごして、かつ仕事と同様にストレス下の状態で観察して初めてわかることです。

そういう点では、改めて採用選考の難しさを感じると同時に、学生自身も自分の資質に気づいていないのではないか、と深く考えさせられた大学祭でした。お互い、もっと良いマッチングの方法はないものでしょうかね。

 

第148号:農耕型採用・狩猟型採用・養殖型採用

経済環境が大きく変わるときには企業の採用活動も変わります。私は1990年のバブル期前までの採用活動を「農耕型採用」、バブル期後を「狩猟型採用」と区分してきましたが、日本のITバブル崩壊の2002年以降を「養殖型採用」と名付けています。この造語は、このメルマガでは2年前に初めて使いましたが、大手企業を中心にだんだんと増えてきたようです。その動きはこれからのキャリア教育や就職セミナーは勿論、大学のアイデンティティにも影響を及ぼしてくるのではないかと思っています。

それぞれを簡単に説明すると以下の通りです。

農耕型採用」・・・大学の勉強にはあまり期待せず、白紙から企業が新入社員を教育する。経済環境が良くて企業に人材育成の余裕があり、大学進学率がそれほど高くなかった売り手市場の時代の形態。

狩猟型採用」・・・経済環境が厳しくなる一方で大学進学率が向上し、買い手市場の採用活動で企業が少数厳選採用を行う形態。新入社員の早期自立を求めて「即戦力を求める」という文言が流行る。

養殖型採用」・・・経済環境が復調したものの大学の大衆化はますます進み、入社前から企業が大学生の能力開発に着手し始める。寄付講座、長期インターンシップ等が代表的事例。

つまり「養殖型採用」とは産学連携の人材育成のことですが、採用活動に直結しているわけではありません。間接的な特定企業と特定大学の関係強化です。つい先週もソニーと慶応大学による技術者育成の共同プロジェクトが報道されましたが、こういったケースはこれからますます増えてくると思われますが、以下のような問題も出てきます。

・大企業が有利になる。・・・寄付講座には相当な企業の資金負担や余力が必要です。

・大学のアイデンティティが変わる。・・・アカデミズム(学術中心)からプラクティカル・スキル(実用中心)へ。

結果的に、大学が「職業予備校」に向かう可能性が高くなります。(私は、それはそれで一つの選択肢だと思っています。大学も大学生も増えすぎてしまった現在、全ての大学が同じアイデンティティでは存在価値が無くなるでしょう。)それが良いことかという議論はさておき、経済環境が厳しくなるこれからは、企業が大学に求めるものはプラクティカル・スキルに向かわざるをえませんし、その期待に応えることによって大学もまた社会と連携した人材育成ができるようになるのではないかと思います。

とても難しい問題ではありますが、大学祭のようなお祭り騒ぎや受験テクニックのような就職活動はそろそろ止めて、今回の経済危機が企業と大学の良い関係作りのキッカケになればと期待しています。

それが企業の採用活動と、学生の就職活動を是正するものであれば尚、幸いです。

プラクティカル・スキルは、アリストテレスの「実践知」の意。

第147号:社会人キャリア力育成検定のシンポジウム

去る10月17日に日本インターンシップ推進協会(JIPC)主催の「キャリア教育とインターンシップ」というシンポジウムにパネラーとして参加してきました。これは同推進協会が12月に実施する「社会人キャリア力育成検定」の実施に先立つ企画です。当日の聴講者は大学関係の方が中心で、残念ながら企業採用担当者の方は少なかったようです。

 

「人間力」「就職基礎力」「学士力」等々、こういった社会に通用する共通な能力を明らかにしようという取り組みは盛んですが、肝心の企業があまり乗り気でない理由は単純です。採用選考における金銭面と時間面のコストダウンに効果があるか不明だからでしょう。民間企業が開発した適性検査(筆記試験)が普及しているのも、過去のデータの蓄積と能力試験で応募学生のレベルが統一基準で評価できるからです。つまり、採用面接の時間コストを金銭コストで替えているわけですね。

 

今回の「社会人キャリア力育成検定」は、ご存知の方もおられるかと思いますが、経済産業省が推進する「社会人基礎力」に「社会常識力(日本語力、社会マナー、時事問題、計算力)」を加えたもので、時事問題や計算力等の客観基準による評価が加わっています。前者の「社会人基礎力」は筆記試験ではなかなか測定が難しいと思いますが、後者の「社会常識力」は採用選考基準に準用できるかもしれません。シンポジウムでも会場からのご意見では、キャリア教育の前にまずは基礎学力を重視すべきだ、というご指摘がありましたが、まさにその通りだと思います。これは大学全入時代になったからこそ、重要になってきた新たな課題です。

 

経済状況が混沌してきたいま、企業の採用活動もまた大きな変化の時期になりました。企業の採用担当者の現場まで具体的な方針が落ちてくるのは、年明けではないかと思います。米国のクリスマス商戦の影響と国内の年末の消費動向によって、多くの企業の3月決算の見通しが出てきます。その結果来期の予算が決まり、企業の人員計画(新卒採用数)が決まります。今週の日経新聞にも出ましたが、現時点では多くの企業が採用数削減・少数精鋭採用に動きだすことでしょう。

 

さて、こういった状況で強いのはやはり基礎的な能力をしっかり持っている学生です。どんなに不況であっても、社会人たる基礎知識やマナー、大学生としての基礎学力や行動力をもった学生は就職に強いですね。しかし、これらは一朝一夕に身につくものではありません。世の中に溢れてくる不安なニュースなどに惑わされずに、こんな時こそ晴耕雨読。企業も大学も学生も本当に社会で役立つ実力とは何かを深く考えて、質の高い就職・採用活動を行う時期でしょう。不況の時こそ底力が必要だ、そう思わされたシンポジウムでした。

 

第146号:金融破綻について思う

米国の金融破綻による経済混乱が収まりません。リーマン・ショックは単なる予兆で実態が明らかになるのはまだこれからです。私はよく大企業リストラを豪華客船の遭難に例えますが、もっとも心配なのは乗員のパニックです。必要以上に慌てふためくと思わぬ二次災害を引き起こします。こんな時は慌てずに落ち着いて対処することが、被害を最小限に食い止めることになります。

 

つい先日、外資系金融企業から内定取り消しをされた学生からの相談を受けました。企業の言い分では「内定」は約束していないということでしたが、これは採用担当者が狡猾なのか無知なのでしょう。他にも「内定取り消しにはなっていませんが、このままで大丈夫でしょうか?」という相談も数件ありました。有名大学を出て外資系金融を目指す位なんだから、自分のキャリアのリスク・ヘッジや覚悟はしておいた方が良さそうなものですが、そこは就業経験の無い日本の新卒大学生ですから致し方ありません。頭は強くても心はそれほど強くないのでしょう。実際、今回の金融破綻は戦後最大の危機といいますから、私だって不安です。

 

しかしながら、日本の状況をよく見てみると、欧米とは異なって幸か不幸かバブル崩壊から立ち直ってきたところでしたから、米国のサブプライム・ローン等の影響は少なく金融も実体経済も(元気とまでは言えませんが)そう痛んではいません。つまり、日本は世界でも安定している方です。しかも、不況の時には現金を持っているのが一番安心なのと同じで、日本は世界に冠たる大貯蓄国です。

 

それに金融破綻がこの時期に起きたのは就職内定者にとっては幸いです。この10月1日は、相も変わらず内定式に繰り出す4年生が大勢、ターミナル駅を占領し、企業では書面での内定通知と引き替えに誓約書の提出という儀式が終わり、労働者の地位は一段と高くなりましたから。これがもし春先に起きていたら、内定そのものを得られなかったかもしれません。

 

正直なところ、この状況では日本にどのような影響があるかはまだわかりません。就職課の皆さんのところにも欧米の銀行に押しかける預金者のように、不安を抱えた学生がやってくるかもしれませんが、こんな時こそ、落ち着かせてあげて下さい。おそらく先日の企業の内定式でも、しっかりした企業の採用担当者は「心配ありません。」と内定者を安心させていることでしょう。

今の若者は、生まれたときから好景気というものを見たことがありませんが、今の世の中が相当に豊かなことも、本当に苦しい社会もまた知りません。経済がこけても人類の歴史が終わるわけではありませんし、人類は過去何度もそれを乗り越えてきました。

 

最後に、就職セミナーやキャリアの講義でも良く引用される言葉をご紹介したいと思います。

 

「悲観は気分、楽観は意志」 アラン『幸福論』

 

就職活動ではまさにこれが求められると思います。勿論、企業の採用活動も。

第145号:必要悪の採用活動

大学の新学期も始まり、就職課の方々も3年生向けの就職ガイダンス等で気を引き締める時期ですね。企業採用担当者の方も本来なら腕まくりをするところなのですが、どうも今期は怪しい雰囲気です。景気が下降局面に向かっているところに、突然の米国リーマン・ブラザーズの経営破綻です。日本へのインパクトはまだ大きくないようですが、これから少なからず影響が出てくるのではないと思います。

 

経営破綻やリストラは米国では珍しいことではありませんが、今回のリーマン・ショックはその規模が桁外れです。しかもまだその全容がわかりません。米国政府の不良資産買い取りの対応は非常に速いとはいえ、金融機関は各業界に深く絡んでおりますので影響の実態が現れてくるのにはもう少し時間がかかることでしょう。

 

こういった先が不透明な状況で採用担当者はとても辛い心境で過ごしています。採用予定数や採用予算が大きく変化することが予想されながらも採用活動を休止するわけにもいきませんから。採用担当者は心の中で「大丈夫かな・・・」という気持ちを抱えながらも、それを隠してこれからの就職セミナーでは精一杯の笑顔で対応します。

 

私も長年、採用予算を預かっておりましたが、採用数が少ないならば、できるだけ無駄な経費をかけずにいたいものです。採用活動予算の多くは広告宣伝費用なのですが、もし採用予定数がいきなり削減されるとそれまでの仕込みが水泡に帰します。それがわかっていながらも、やらなければならないのがこの仕事の辛いところです。経営の視点からみたら必要悪ですね。

 

この点、外資系企業の判断は非常に速いです。日本のような超長期の採用活動(就職活動)はありませんから、仕込み期間(広告宣伝・募集期間)も短期です。景気が良くないと見るや、すぐに予算の削減や場合によってはいきなり採用活動の凍結になったりします。実際、現時点でもいくつかの外資系企業には既に予算縮小の指事が本国から来ています。

逆に日本法人の外資系の採用担当者は、いきなりまた採用しろとトップダウンの指事が来ないか冷や冷やしています。今期も5月になってから新卒採用しろと言われて頭を抱えている採用担当者がおりました。

 

採用担当者はこれから市況がもっと厳しくなるのか、それとも復活するのか、リーマン・ショックのインパクトを見極めているところです。いっそのこと倫理憲章遵守を御旗の印に採用活動を遅らせてしまおうか・・・と考えながら。

 

第144号:リーダーの能力・資質

採用担当者が求める学生の能力・資質では、コミュニケーション力が圧倒的に多いですがリーダーシップもその一つでしょう。どちらも組織活動の一員としては不可欠なものであり、どちらも生まれながら兼ね備えているものではなく、後天的に開発されるものと考えるのが人事部の見方です。

 

採用面接で自己PRを求めたときにもリーダーシップをあげる学生は多いです。しかし、そのスタイルや体験談を聞いてみると、次の例のようにワンパターン化しているような気がします。

「私は引っ張っていくタイプではありませんが、メンバーの意見をよく聞いてまとめていくタイプです。」

まるで今の総理大臣のようなタイプですね。リーダーのスタイルは、その人の個性と属する組織によって異なるので優劣で語れるものではありませんが、仕事をするうえでリーダーの一番大きな役割は「調整」だけではなく「目標設定」や「意志決定」だと思います。それは最終的には自分で判断して自分で責任をとることです。

ですから、上述のような自己PRをする学生を面接したとき、はたしてこの人は会社組織の中でやっていけるだろうか?と心配になることがあります。そのため、面接では更に続けてこう質問します。

「メンバーの意見が統一できなかったとき、リーダーとしてどうしていましたか?」

(あまり大きな意志決定をしない組織では参考になりませんが。)

 

つまりリーダーの資質を質問するということは、その学生がどんな組織体験をしてきたのか、ということを聞いていることに他なりません。ゼミでもサークル活動でもアルバイトでも場面は何処でも良いのですが、誰かに言われたままに行動するのではなく自分で意志決定して実行してきたかがポイントです。更にその力はその組織のリーダー(先輩)や文化の影響がとても大きいです。

 

さて少々脱線しますが、リーダーの中のリーダーであるはずの「総理」と「理事長」が手本を見せられないと、我が国の将来が心配になってきます。総理と理事長も「日本の顔」で国民の手本であるべきだと思いますが、辞めではいけない時に辞める、辞めるべき時に辞めない、どっちもフツーの国民目線では理解不能です。それぞれに事情はあったとしても、それが子供や若者のリーダー像に与える影響は計り知れません。

 

若者が尊敬して真似したくなるリーダーが居て、そんなリーダーを目指す若者に次代を引っ張って欲しいものですね。リーダーは良い社会で育つものだと思いますから上も下も頑張らないと。

 

第143号:オリンピック選手から学ぶこと

北京オリンピックもいよいよこの週末で閉会ですが、今年も数多くのドラマを見ることができました。大きな重圧に耐えて期待通りの結果を出せた日本選手の輝きは、多くの人々に勇気を与えてくれますね。その選手のコメントにはこれから就職活動に向かう学生にも学んで欲しいことがあります。

 

今季のオリンピックだけではなく、また日本選手だけではないのかもしれませんが、水泳の北島選手をはじめメダリストのインタビューで多く聞かれるコメントは、自分一人ではなく大勢の人に支えられて出せた結果だということです。

これはまさに就職活動で内定を取れた時と同じでしょう。内定を多くとる学生にはいろいろなタイプがありますが、わりと共通して言えるのは豊かな人的ネットワークを持っていることです。大学の友人や先輩、就職課の皆さん、就職活動中に出会う企業の採用担当者や他大学の同志、そして家族まで。身の回りに居る人達から叱咤激励されて成長した末に、内定という結果が出るのでしょう。

その反対に、周りの人的ネットワークを使わずに自分一人で頑張り過ぎたり意固地になってしまうと、どうしても結果はでてきません。そういう方を採用担当者が面接で見ると、深刻なのはわかりますが、孤独な悲壮感が漂っているように感じます。

 

ところで、これはここ数年で感じることですが就職相談を行って後、その結果をご連絡戴けない学生が急増しています。ほんの4~5年前まではキャリアカウンセリングや大学での就職相談を行えば、その結果をメールや葉書で教えてくれるのが普通でした。こちらは特にご連絡を求めているわけではありませんし、教えて下さいと伝えているわけでもありません。しかも上記のように良い結果が出た学生からも音沙汰が無くなりました。偶然に大学で出会うと、「先生、内定決まりました!」と笑顔で話してくれるところを見ると、これは礼儀を忘れているということではないのでしょうし、周りへの感謝を忘れているということではないのでしょう。

 

しかし、オリンピックで選手のこのような発言を聞いたとき、「ああ、あの人にお世話になったから残暑見舞いでも出しておこう。」という気持ちをちょっとでも思い出して欲しいと思います。(最近はメール文化のせいか、暑中見舞いの葉書は減ってきましたね。)

 

良い結果が出せたとき、奢らずに周りへの感謝を思い出す、それが日本人の美徳だと思いますから。

そして、きっとそれは社会人になってからも成功する秘訣でしょう。

 

残り少ないオリンピックですが、日本人選手の堂々たる戦いぶりを期待しながら応援したいと思います。

 

▼北島康介選手の公式ブログ(8月14日のコメントが良いですね。就活学生に見せたいです。)

http://www.frogtown.jp/kosuke_mail/

 

Just another Recruiting way