第162号:貴方を採用する理由が欲しい

今シーズンは応募者増加に反して採用数激減という買い手市場になったため、採用担当者側も選考合格を出すにはかなり迷います。例年に比べて、最終面接で不合格になる応募者が増加しているようですが、これはそれだけ人事部が迷っているということでしょう。採用選考の裏側からこの辺の事情を考えてみます。

 

多くの企業では採用面接が終わったその日のうちにミーティングを行い、各面接者が選考した学生の評価を話し合い、次の選考に呼び出す学生を絞り込む作業を行います。面接の印象というのは意外と早く忘れてしまうもので、当日のうちに確認しておかなければなりませんし、有望な学生は早く選考を進めたいという気持ちもあります。このミーティングでは、面接者は自分が選考進めたい(合格を出したい)学生の何処が良いのかを他の採用担当者に説明しなければなりません。その説明はまちまちですが、何故、その応募者が有望なのかしっかりした理由が無ければ、採用面接者としての資質を問われてしまいます。

こうして二次面接に呼び出す学生のリストができあがり、上位の選考者が面接を行いますが、その結果は下位の採用担当者にフィードバックされ、自分の選考基準を見直したり、上位選考者と意見交換をしたりします。こうしたプロセスを経て、採用担当者は徐々に自分の選考基準を身に付けていくのですが、上位の考課者に合わせていくか、それとも自分の選考基準を貫いていくかは、企業のカラーや採用担当者の性格にも左右されます。

 

いずれにしても面接を担当した採用担当者にとっては、その学生を何故採用するのか、という理由が明らかな応募者は助かります。ですので、実際に「当社が貴方を採用するメリットは何ですか?」とストレートに質問してくる面接者も居ります。

(逆に「不合格の理由が明らかな学生の面接の方が楽で助かる。」とひそかに考えている採用担当者も居ります。)

 

ですから、学生の方に知っておいて欲しいのは、目の前の採用担当者が求めているのは、他の採用担当者を説得するのに有望な理由だということです。それを簡潔に伝えて欲しいと思います。

視点を変えれば、如何に目の前の採用担当者を自分の味方にするかを考えて欲しいということですね。面白いもので、採用担当者は自分が合格を出した応募者についてはつい心情が入り、味方になることが多いものです。というのは、自分が合格を出したということは、自分の判断基準を上位考課者に仰ぐということですから、その応募者は採用担当者の分身のようなものです。

 

というわけで、今シーズン、最終面接でかなり不合格になるということは、その前の人事部の選考で合格判定が多く出ているということです。人事部でも絞りきれず、おそらく紙一重の最終判断が出ているのだと思います。

 

第161号:「覚悟」を求める採用担当者

企業の採用活動は時代や景気の変化に敏感に影響されます。特に今年のような売り手市場から買い手市場への急速な転換が起きると選考ハードルが上がり、面接の方法・形式・質問内容が変わってきたようです。その傾向をいくつか見てみましょう。

 

まずは採用選考(面接)の形式です。今シーズンの大きな特長は、グループ面接(複数の学生と複数の面接者)の増加です。これまでグループ面接というと、一般事務職の一次選考で使われることが多く、総合職については1対1の個別面接の方が多数を占めていました。ところが今シーズンは、総合職でも最初からグループ面接を行い、中には最終面接までグループ面接を行う企業まで出てきました。

その背景には、以下のような理由があげられます。

・採用数が減少し応募者増加したので、選考の効率をあげるため

・KY学生を見抜く(回りのペースを見ながら話のできる学生を求める)

・学生が自然に自分の選考結果を感じ取れる(不合格の場合に納得できる)

 

次に質問内容ですが、前回も触れた通り、ここ数年で自己PR(大学時代に頑張ったこと)を行動実績とともに聴くいわゆる「コンピテンシー面接」が主流になりましたが、今年はこれに加えて改めて志望動機を深く聴く企業が増加してきました。それが人事部長面接・最終選考において不合格になる学生が急増している理由です。最終選考で採用決定権を持った役職者が最も聴くのは志望動機と入社後の夢(キャリアプラン)で、それが自社の方向性と合っているか、本気度・覚悟を感じられるかです。その質問の仕方も、かつては「当社は第一希望ですか?」という単純な質問から、「貴方の企業選択基準をお話し下さい。」と第一希望の根拠まで深く聴くようになってきました。

これまで面接を企業広報の有力メディアとして活用してきた企業も、覚悟をもって方針変更を行っているようです。

 

こうした採用担当者側の急変化に対して、学生側の対応は十分ではありませんでした。志望動機が弱い学生の主な原因は、企業取材を自分で行っていないからだと思われます。自己PRは自分の材料を自分のペースで書けるのに対し、志望動機はまずその企業の材料(データ)を仕入れる必要があり、手間暇がかかります。そのため、学生はインターネットやセミナーのような手っ取り早く情報を得られるものから志望動機を考えがちですので、結果的に志望動機が似てきてしまいます。企業がOB訪問を勧めるのは、自社をよく理解して説得力のある志望動機で熱意を示して欲しいという気持ちの現れでしょう。(実際、そういった行動的な学生は内定獲得率が高いです。)

 

採用担当者の面接の傾向の変化は、テクニック本にもよく現れています。今、店頭に並んでいる多くの書籍は売り手市場の頃に書かれた(学生への丁寧な対応を勧める)ものなので、厳選採用に対するものはまだ殆どありません。少し前は「採用氷河期」という本が販売になったばかりですから、今回の変化が如何に速かったかを物語っており、著者(出版社)も泣いていることでしょう。バブル崩壊後に書かれた本がまた売れるかもしれませんね。

 

第160号:就職活動リターンマッチ

メディア各社から就職内定状況の速報が出始め、今シーズンの厳しい実態が明らかになってきました。4月末でのダイヤモンド・ビッグ&リード社の調べでは、内定獲得者は32.4%であり、昨年同時期が45.5%だったのに比べると約2/3という落ち込み方です。例年であれば、「まだまだ先は長いですから心配ありません。多くの企業が募集活動を行っています。」と言いながら学生のお尻を叩くところですが、相当に気を引き締めて行う必要がありそうです。

 

今シーズンの異変を示すもう一つの数値は、セミナー(企業説明会)や筆記試験への参加率と通過率です。同じくダイヤモンド・ビッグ&リード社の調べによると、セミナー参加から一次選考まで進めた応募者の状況は下記の通りです。

◆現在の就活進行状況は?  ( )は09卒調査

セミナー・説明会参加まで・・・ 76.6% (45.7%)

筆記・適性テストまで  ・・・ 74.2% (47.8%)

一次面接まで      ・・・ 74.7% (59.2%)

このように、学生は昨年よりも相当に活発に動いているにもかかわらず、結果は非常に厳しいです。もう少し詳細のデータ分析をしてみないと確かなことは申し上げられませんが、私が就職相談や模擬面接で感じているのは、学生の思考(指向)がかなり単純化・画一化していることです。国際経済の低迷により、内需関連(インフラ系・食品系 etc.)を志望する学生が急増し、その志望動機も「環境」「規模」「安定性」等、酷似しており、個性が見えません。例えば太陽電池という国家プロジェクトとしても脚光を浴びる企業を例にすると、その企業が太陽電池を扱う企業の事業規模(人員数)を詳しく調べると、とても多くの新卒採用はあり得ないのに殆どの学生が志望し、また太陽電池にかかわる企業は中小多くあるのを知らず、大手2~3社に学生の志望が偏っているように感じます。

 

その結果、採用担当者の意見を聞いても今年の面接不合格の理由は「志望動機が甘い」というものが増えてきました。昨年までは、形ばかりで聴いていた「志望動機を重視」してきたということは、これまで代表的な質問だった「学生時代にもっとも頑張ったこと」だけでは合格ラインに達しなくなってきたということです。更に、それが当社にどのように活かせるのか、どこまで本気なのか?という「覚悟」まで求めるようになってきたということでしょう。

 

こういった状況になると、学生の就職指導のポイントも、面接テクニックだけでは片付かなくなってきました。今月は、久しぶりの企画ですが神戸大学で就職リターンマッチを行います。ここ数年、必要なかった企画なのですが、ここにきて面接に通らない学生が急増したために、継続採用活動をしている企業の採用担当者を招き、リアルな模擬面接をしながら志望動機を厳しく指導するというスパルタ式です。同時に、もし良い学生が居たら企業の方にそのまま連れて行って戴いたり、逆に学生から積極的に自分を売り込んで貰ったりする企画です。このような企業開拓まで含めた就職支援をしていかないと、2010年卒業の学生のキャリアが危ぶまれます。公的機関のハローワークと同様、待っていて企業が求人を送ってくれる時代ではなくなってきたのですから、リターンマッチはすぐに始めるべきだと思います。

 

第159号:過去最長の就職活動?

大手企業からの内定が出始めて、長かった就職活動にやっとピリオドをうてる学生が出たかと思えば、ESの選考と同様に、まったく結果の出ない学生もおります。これまで言われてきたとおり、今シーズンは本当に厳しい状況ですが、例年なら内定の取れる中堅層の学生が苦戦しているのは大変なことです。今シーズンの学生は、過去最長の就職活動になるかもしれません。

 

世界の経済助教がまだまだ不透明なため、企業の採用活動はどうしても慎重にならざるをえず、採用担当者にとってはなんとも力が入りません。いつもならせっせと面接を行っては、ライバル企業に逃げられないように内定者の入社意志を確認しつつ、「採用予定数まであと何人・・・」と神経をすり減らして皮算用を行っているはずなのですが、今年は経営者から「無理をするな」と言われるような状態です。内定をとった学生の就職活動体験談を聞いていても、採用担当者から「しばらく待ちますので、じっくり考えて入社意志をお伝え下さい。」というコメントを貰ったなどと、内定者を絶対囲い込もうという温度が低いようです。

 

欧米経済の先行きが見えない以上、これから企業の採用活動もしばらく停滞するでしょう。4月になって新しい期に入りましたが、上期(4~9月)の採用予算は既に相当削られていますから。実際、電車の吊り広告の求人情報も激減してきましたし、大学に掲示される合同説明会の参加企業の顔ぶれも元気が無い感じです。

この状況が改善されるタイミングがあるとすれば、下期(10月以降)ではないかと思います。仮に経済が好転しても、採用活動を再開させるには予算を確保したうえで集団形成等の準備が必要になりますので。

(これだけ採用数が絞られていますので、私見ですが、秋以降になって人員計画が見えてきたところで、追加採用に動く企業が意外と出てくる気がしています。以前にも書いたとおり、現在の求人予定数は現実の人員計画を織り込んで決められたものではなく、絞るだけ絞り込んだ数ですから。)

 

ということで、この春に内定を得られない学生にとっては、夏休みをはさんで秋まで就職活動が続くことになりそうです。今シーズンも当初は超早期化でスタートしましたから、3年の6月頃からインターンシップ向けのエントリーシートや面接を行ってきた学生にとっては、実に1年半も就職活動をすることになります。学生にとっては、マラソンの終盤になっていきなりゴールが逃げてしまった状態で、精神的に相当きびしいでしょう。就職指導をするときには、「諦めずに頑張れ!」というべきか、「思い切って休め!」というべきか迷うところですね。

 

 

 

第158号:「新卒自宅待機」について

3月末に突然、内定取り消しや自宅待機(自宅研修)を企業側から伝えられて当惑している新入社員(まだ内定者?)が増えています。内定取り消しの不安を越えてようやく新社会人としての入社時期となったのに、今シーズンは本当に予期せぬ出来事が多いです。採用担当者にとっても慣れないことですが、この「自宅待機」というのがこんな形で使われたのはあまり記憶にありません。

 

これまでも大学卒業時期と入社時期がずれているというケースはいくつかあります。キャビンアテンダントのように採用募集時期にその内容を公示しているところもあれば、外資系企業のように、採用選考の過程において「いつ頃入社希望ですか?」と確認することもあります。(外資系企業の場合はそもそも卒業後に就職活動を始めることが多い。)なので、これらは厳密には自宅待機とは言いません。

 

「自宅待機」とは不況等によって正社員に仕事が無く、経営者から休業を命じられたことを言い、その場合には最低、賃金の6割が支給されます(労基法26条)。今回の新卒入社については、このケースを準用したものでしょう。自宅待機中に6~8割の賃金を支払うとしているところが多いです。

しかしここで注意しておきたいのは、その「自宅待機」が正社員として採用したうえで(社員としての身分を認めたうえで)支払っているかどうかです。入社時期の延期なのか、入社してからの「自宅待機」のどちらか?ということです。報道された事例を見ていると、入社時期を半年遅らせるだけではなく、半年後の入社も確約されずに曖昧な表現をしている企業があります。自宅待機になっていても、その賃金から社会保険がちゃんと支払われているかも確認すべきでしょう。

 

さて、こういった「新卒自宅待機」が起きた企業側の事情はどんなものでしょうか?

不況で当初の事業計画が変わり新卒の配属先が無くなってしまった場合、まずは4月に正社員として受け入れて、「現場実習」と称して工場の生産現場や販売現場に送り込んで一時期的に仕事をして貰うことが多いです。その期間中に景気の改善を期待して徐々に配属先を決めていくのです。ところが、今回の不況は派遣・請負社員を停止して正社員にその仕事を回しており、新卒に回せる仕事が無いという状態です。それに新卒社員の場合はすぐに仕事ができるわけではなく最低限の研修も必要ですので、言葉は悪いですが、必死に働く正社員の「足手まとい」になり生産効率を下げることになりかねません。正社員でさえ慣れない仕事に異動されて精一杯の状況なのですから。

 

余裕のある企業では、新人を現場から隔離して研修所にまとめてじっくり研修することもできますが、その場合は100%の賃金と追加の研修費用が発生します。そのため、採用担当者も断腸の思いで「自宅待機」を言い渡しているのでしょう。

 

内定取り消しのことでも同様ですが、こういった時世になると改めて新卒学生にも最低限の法律知識を教える必要があると思います。自由と自己責任の時代の労働者とはそういうことであり、それに合わせた就職支援が必要になると思います。大学を卒業されて一安心と思ったら、「自宅待機」について相談し来る学生がいたら、卒業生はサポート外と考えずに暖かくご支援下さい。

 

第157号:前例が役立たない今シーズン

東京でも桜が開花し、いよいよ大手企業の採用選考が本格的に始まります。現時点での学生の就職活動を見ると、昨年より学生は早く動き出しているものの、選考合格の進捗や内定獲得のスピードは逆に遅くなっております(ダイヤモンド・ビッグ&リード社の学生モニター調査から)。これは明らかに企業の内定出しが慎重かつ厳しくなってきているということでしょう。

 

今年ほど採用担当者にとって先の見通しが立たないままに採用活動を行うシーズンもないでしょうが、大手企業の動きが見えてくると、それに合わせて中堅企業の動向も決まり、全体の動向が明らかになってくるでしょう。しかし推測できるのは、大手企業の採用予定数も軒並み大幅減少しておりますので、今年は4月のスタート後、早期に決着がついてくるだろうということです。というのは、採用数が減るということは採用選考期間も短くなるということだからです。特に今年は採用コストの面からも、エントリーシートや筆記試験等での初期選考でも絞り込みが厳しくなり、面接でも「迷ったら落とす」という厳選採用になってきております。

 

実際、私がエントリーシートの添削や模擬面接を行っていても、昨年なら選考パスした水準の学生が今年はなかなか通りません。OB/OGの就職体験談もあまり参考になりませんし、今シーズンは改めて気を引き締めて取り組んで欲しいものです。具体的には、志望動機をしっかり考えてきてハッキリ述べて欲しいと思います。

しかしながら、模擬面接を行っていると、自己PRはそれなりにまとまっていても、それが志望動機につながっていない学生が非常に多いです。大学で力を入れたことを企業でどんな風に活かしていきたいのか?その企業のどんな部署でどんな仕事をしたいのか?をしっかり説明できていません。

 

これは、もしかするとここ数年主流になってきているコンピテンシー面接の影響かもしれません。この面接手法では「行動実績」を中心に聞かれ、企業によっては「志望動機」を問わないところがあります。(実際、最近のエントリーシートからは「志望動機」という言葉が減っています。)そのため、学生はアルバイトやサークル活動のことを一所懸命に自己PRにまとめてきますが、それがどんな仕事に就きたいから書いたのかを考えていないことがあります。採用担当者には、そういった学生の自己PRは「この学生は何のためにこの話をしているんだろう?」と思わされます。

 

また最近の学生の志望動機は、企業セミナーで採用担当者が話したことをそのまま繰り返していることがあります。「御社は業界シェアも高く、財務的にもしっかりしており、教育制度も充実しています。」そして続けて「セミナーで御社の社員に実際に触れてみて、暖かい人柄や社風の良さを確信しました。」と語る学生が非常に多いです。これでは全くその応募者の良さが判断できません。

 

この春はかなり厳しそうですが、企業は採用数をかなり絞り込んでいるだけに、もしかすると夏以降でまた新たな動きが出てくるかもしれません。今シーズンは学生や就職課の方々にとって長い戦いになりそうですが、ご健闘をお祈りいたします。

 

第156号:最低限の採用活動

3月決算が近付き、いよいよ経営者も来期の人員計画を出さなければならない時期となり、人事の現場にも採用予定数という具体的な数字が落ちてきました。先週あたりから大手企業の採用予定数が新聞記事に発表されてきておりますが、実際はこういった数字は本当の採用予定数ではありません。採用担当者はそれを知りながらも覚悟を決めて採用活動に取り組んでいるのです。

 

新聞発表の採用予定数が本当の数字でないという意味は、企業がいい加減な数字を新聞社に出しているわけではなく(そんな企業もたまにありますが)、本当に必要な人員数を計算して積み上げた「実数」ではなく、経営トップの判断でこの位の人数を採用したいという「意志」だということです。これは経営計画の売り上げ目標も同じで、1年先の売り上げ目標はかなり計算して算出しておりますが、3~5年先(昔、中長期計画が流行っていた時期は10年先まで発表している企業もありました)の数字は、「この位は売りたい!」という意志というか目標であるのと同じです。しかも今は超早期化した採用活動であることと、まれに見る経済の激変期なので、3ヶ月先だって予測は困難です。

 

しかし、それでも採用担当者はこれまでのしがらみから採用活動を始めなければなりません。既に広告もセミナーも行ってしまい、学生に選考案内やDMまで流しておりますし、もし万が一景気が急速に好転した場合は採用数が不足することになりますから。そんな想いを抱えながら、企業セミナーでは不安な顔をせずに笑顔でプレゼンテーションをするのはなかなか辛いものがあります。

 

こういった状況では当然ながら企業の採用選考ハードルは上がります。採用数を必要最低限に絞った場合、以下の5つ方法をとるのが普通です。

1.縁故だけ・・・どんな企業にも多少のルートはありますし、縁故者にも優秀な人はいます。

2.理系だけ・・・メーカーの場合ですが大学の勉強が重視されない文系は不況期に絞られます。

3.推薦だけ・・・「理系だけ」に含まれますが、理工系大学教授とのパイプを死守します。

4.都心だけ・・・不況では出張費用が真っ先に削減されますので近郊大学だけ訪問します。

5.有名校だけ・・・大学偏差値は不況期にこそものを言います。

 

これらの採用手法はコストがあまりかかりませんし、小規模な採用ならこれだけで十分な場合もあります。不況期になると縁故紹介も増えてきますが、断る理由も「不況なので」「人員整理中なので」と楽になりますし、縁故応募者のレベルも上がります。逆に、縁故応募者も1社では不安なようで、縁故で数社に応募する場合さえあります。かつて内定を出したら「御社は(縁故応募の)第3希望なので、ちょっと待って下さい。」と言われたことがあります。

 

さて、こんな不景気だからこそ大企業に入りたいという応募者の気持ちはわかりますが、今年は採用数が少なくなった上に応募者数は例年より2~3割の増加傾向なので、大手企業志望だけは非常に危険です。先日、経済産業省が新人の採用と教育に熱心な企業という報告書を出しました。不況期にはこういったところも是非、根気よく回ってみて欲しいものです。

▼雇用創出企業1400社(経済産業省)

http://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/sokeizai/kigyogaiyosyu.html

第155号:就職課職員の専門教育

春休みに入り、大学入試もいよいよ大詰めですね。皆さんの大学では順調に応募者が集まっているでしょうか?この不景気で、学生の大学出願数も絞り気味だとか、地方の学生が都心に出てこなくなったとか聞きますが、こういった不景気の時にはジタバタしないで勉学に励むのが一番です。晴耕雨読というやつですね。実は、私も昨年の春に社会人大学院院に入学し、この1年間は勉学に励んできました。就職課の皆さんの中にも大学院で学んでいる方が居られるかと思いますが、就職課(キャリアセンター)も本当に専門性が求められる時代になったと思います。

 

私が入学したのは法政大学大学院の政策創造研究科というコースで、雇用プログラムというのを専攻しています。指導教官は、「社会人基礎力」や「キャリア権」の研究で有名な諏訪康雄教授ですが、なかなかご指導が厳しく日々しごかれております。私は4年制コースという社会人向けの長期履修コースで、2年分の単位を4年間でゆっくり取れば良い社会人向けのコースです。

 

大学職員の方が学ぶ大学院としては、桜美林大学の大学アドミニストレータ専攻を良く伺います。こういったプロの大学職員を養成するコースは日本では少ないようですが、それは大学の人事制度が、日本企業と同様に、定期的ローテーションによるジェネラリスト育成だからなのでしょう。特定の部門のプロ(スペシャリスト)を養成するという発想が弱いのでしょうね。実際、私も数多くの大学就職課にお伺い致しますが、2~3年で新しい方に変わることが多いです。

 

しかし、大学就職課(キャリアセンター)の仕事は、近年、ますます広範囲かつ高度になってきていると思います。就職指導期間も10年前とは比べものにならないほど長期間です。しかも、最近は卒業後の相談まで行うところもあり、ますます就職課職員の仕事は難しくなり、高い専門性が求められてきていることでしょう。ところが、大学職員の勉強会は数多く開催されておりますが、なかなか体系だった専門教育を受けられるところは少ないようです。大学生に良い就職誌支援を行うためには、まず良い職員を育成する教育機関が増えて欲しいものですが。

 

また、大学院で得るものは「専門性」の他に、情報交換できる「人的ネットワーク」があります。これは企業人事担当者でも同じなのですが、日々の仕事における外部の相談相手が居るというのは心強いものです。これがあれば、自分の実力の何倍もの仕事ができることもありますし、苦労話を分かち合える「同期」を得られるのは素晴らしい仕事の楽しみにもなりますね。どうぞ皆様も機会があれば、学びの場と仲間をお求め下さい。

*参考URL:

▼桜美林大学大学院国大学研究科 大学アドミニストレータ専攻

http://www.obirin.ac.jp/graduateschool/300/312.html

▼法政大学大学院政策創造研究科

http://chiikizukuri.gr.jp/main2.html

▼上智大学コミュニティ・カレッジ「大学教育とキャリア支援~FD・SDのための基礎知識~」

http://www.sophia.ac.jp/J/ext.nsf/Content/kyoujitsu0125

⇒この講座では私も一コマ講演致します。新職員の方には良い講座です。

第154号:採用活動に関する大学との共同研究-4

恒例の企業の人事労務管理を研究している大学のゼミ学生と採用活動に関する共同研究を行いました。今年は「リクルーター制度の役割」というテーマです。リクルーターの位置づけや活用方法は企業毎に異なり、またこの制度そのものの実態が見えないので調査には苦労しました。企業の声で面白かったのは、リクルーター制度の運営に重要なのは「社内の協力体制」だということです。ということは、リクルーター制度を導入している企業は、良い社内コミュニケーションを行っている企業かもしれません。

*ここで言うリクルーターとは、人事部以外で採用活動を行う一般社員のことです。

 

リクルーター制度を研究するのに際し苦労したことは、リクルーター活動を行っている企業で調査に応じてくれるところが少ない点です。学生200人を対象に行ったアンケートでは、最もリクルーターの接触が多かったのは金融業界でしたが、訪問調査は殆ど断られてしまいました。そもそも秘匿性の高い採用手法なので、自社のノウハウや訪問先大学を知られたくないという心理があるのでしょうか。

逆に訪問調査やWebアンケートにも快く応じてくれたのは製造業です。こちらは理系採用が中心となりますが、足繁く大学に通うリクルーターの実態がよくわかりました。

 

回答数は少ない(23社)ですが、企業がリクルーター制度の運営で重要だと思っていることは、以下の通りです。(複数回答中、上位回答のみ)

 

1.社内の協力体制   ⇒60%

2.採用担当者の熱意 ⇒47%

3.熱心なOB社員   ⇒39%

4.人事部の統率力   ⇒26%

5.リクルーターの研修      ⇒21%

 

質問の回答選択肢には、リクルーターへの報酬や評価、経営トップの理解等もあったのですが、意外にもこれらはあまり重視されておらず、冒頭に述べた通り、リクルーター制度は人事部と一般社員のボランティア的な活動だということです。「人事部に協力してやろう」「仲間を集めなきゃね」そういった社員が居ないとリクルーター制度は上手く運営できません。

対照的に、今回調査研究に応じて戴けなかった企業はノルマとしてリクルーター制度を運営し、学生何人と会うことを義務づけていることが多いようです。(学生側のアンケート回答から)

 

社員の自発的な行動から、人事部の指令から、どちらもリクルーター制度を動かすエネルギーですが、できれば前者を「正統派リクルーター制度」と呼びたいものです。というのは、そういった採用活動は社員の愛社精神の醸成や社員教育という意味もあり、日本企業の特異とする長期的信頼関係の構築そのものですし、そういった企業で若者が育って欲しいと思うからです。

 

第153号:「便乗」内定取り消しにご注意を

メディア報道は一段落してきた気配ですが、その後の大学生の内定取り消し数は文部科学省によると732人(264校)になったそうです(1月24日現在)。昨年(302人)との比較では倍増とのことですが、経済状況の違いも比較しないと、どちらが深刻かは言い難いと思います。それよりも気をつけたいと感じるのは、どさくさに紛れて出てくる「便乗」内定取り消しです。

 

「赤信号みんなで渡れば恐くない」ではありませんが、日本人の行動特性に「バスに乗り遅れるな」があります。内定取り消し騒ぎが大きくなると、これに感化されて以下の3者の悪意に基づいた「便乗」型の内定取り消し騒動が現れる可能性があります。

 

1.企業の悪意によるもの

企業が第三者を使って内定者に内定取り消しの連絡をするケースです。直接内定者本人に電話があり、内定企業の社名を名乗り、一方的に内定取り消しを行うケースです。内定者が説明を求めても「理由を説明する必要は無い。」と早々に電話を切られます。法律知識に乏しく泣き寝入りをする精神的に弱い内定者を狙います。内定者が当該企業に改めて電話をしてみると、知らないふりをして「そんな事実は知りません。」と何も無かったようにしらばくれます。

 

2.内定者の友人の悪意によるもの

内定者本人になりすまし、内定企業に電話をかけて辞退を申し出るケースです。昨年あたりからチラホラ現れてきました。しっかりした企業であれば本人確認や内定辞退の理由まで求めますが、今年のように経済状況が急転して内定者数が過剰になってしまうと、企業も詳細を聞かずに喜んで受け入れてしまう場合があります。内定者本人は自分が内定辞退扱いになったことに気づかないでいることもあり、非常に危険な状態におかれます。ちなみに私が在籍していた企業では、内定辞退の連絡があった場合は、その場で受け付けずに必ず面接を担当した採用担当者に電話を代わり本人確認をしていました。相当大規模な企業でない限り、採用担当者は自分が内定を出した応募者はハッキリ覚えているものです。

 

3.内定者本人の悪意によるもの

まれなケースですが、内定者自身が「企業に内定を取り消された」と就職課等に訴えるケースで、内定者の狂言によるものです。何らかの理由で内定者が内定取り消しの身分を得たい場合です。精神的に問題があって(ノイローゼ)発作的に行動する、留年が決まって卒業ができなくなったとき等です。今年のように内定取り消し者向けに大学が授業料減免等の救済措置を行うようになった場合、後先考えずに飛びつく学生が現れる可能性があります。

 

いずれにしても犯罪になる可能性があり、関連3者(企業・大学・内定者)が冷静かつ早急に状況を確認して対応すれば、これらの悪意から逃れることはできるでしょう。振り込め詐欺のような悪質な犯罪が信じられないほど頻発する時代ですので、こういった可能性を考えた対応策を用意しておく必要がありそうです。いやはや寒い世の中になったものです。

 

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