第182号:ベストセラー回答の犯人は誰だ!

企業の採用選考が始まり、早くも内々定を得た学生が現れました。今年の桜と同じで、なかなか咲かないと思いきや、チラホラと見え始めたら一気に満開になるのでしょう。その一方で、全く花開く気配を感じさせない応募者もおります。そうした学生の理由はいろいろありますが、面接をしていて感じるのは「ベストセラーの回答」をする学生です。

 

「ベストセラーの回答」とは、採用選考において毎年大流行する回答です。過去いろいろなものが登場しては消えていきましたが、例えば以下のようなものです。

質問:あなたの短所は?

回答:「1つのことに集中すると回りが見えなくなることです。」

⇒往年の超ヒット作ですが、多くの仕事がランダムに入ってくる企業では最も嫌われるタイプです。

 

質問:大学で最も苦労したことは?

回答:「サークル活動で新人勧誘に苦労したことです。」

⇒数年前から増えてきました。

 

質問:あなたが頑張って成果を出したことは?

回答:「チェーンストアの接客アルバイトでランキングを○○店中×位に上げたことです。」

⇒意外とこの経験を持っている人は多いです。努力の成果を出せと言われるのを意識したのでしょう。

 

質問:何故、この業界(金融・サービス業)を志望するのですか?

回答:「商品(モノ)を売るのは誰でも同じですが、形のないサービスは販売するのは自分が評価されるのでやり甲斐があります。」

⇒昨年辺りから出てきた今シーズンのベストセラーです。メーカーの人間が聞いたら怒り心頭です。

 

面接をしていてあまりに同じ回答が多いので統計をとってみたら、80%の学生が同じ回答をしたことがあり驚きました。こうなると怒りより不思議になって興味が湧いてきます。以前は、就活ハウツー本のせいだろう!いや、ネットが普及したからだろう!と議論しておりましたが、最近、また新しい犯人を見つけました。それはなんと採用担当者だったようです。

実は、上述のサービス業での志望動機は、某有名企業の企業セミナーで採用担当者がこの業界のやり甲斐を説明していた文言だったのです。その採用担当者の言葉をそのまま繰り返しているのですね。これは非常に危ないことです。どんなに良い志望動機でも、全ての応募者が話したら平凡なものになります。いや、むしろ、「またこれか。」とマイナスにすらなりかねません。ちょっとだけ言葉を換えれば印象も変わるのですが、今の学生にはそうしたボキャブラリーや知恵が欠如しているのでしょう。

私は就職指導の際に過去何度も言っていることですが、企業セミナーの話をそのまま志望動機にするのは危険です。キッカケにするのは結構ですが、他者と同じこと(それもその企業セミナーで話されたこと)だけを言っていたら、則アウトです。ついでに、これも志望動機のベストセラー回答ですが、「企業セミナーで話した社員の印象が良かったから。」も止めた方が良いです。今年の採用選考はそんなに甘くはありません。

第181号:表と裏の採用活動

いよいよ採用選考の開戦前夜です。多くの学生はエントリーシートの提出が完了して面接の呼び出しを待っているところでしょう。しかし今シーズンの特長として、そうした表面上の動きの中で、倫理憲章を尊重と言いつつ秘かに選考が始めている企業が増加しているようです。なかなか悩ましい情況ですが、就職活動(採用活動)が集中化している以上、避けられないことなのかもしれません。

 

2年前の採用広報活動で流行ったものに、「選考をともなわないセミナー」というものがありました。これは今でも続けている企業は多いですが、情況が変わった今季は知名度が低くて学生集客に苦労している企業だけに戻ったようです。有名企業が「学校名不問」で誰でも自由に企業セミナーを受けられるというのは公平なやり方ですが、その後の採用選考のプロセスをしっかり考えていないと現実的ではありません。どこの企業も面接者の数が限られていますので、採用選考のキャパシティには上限があります。何らかの形で受験者数をコントロールしなければなりません。

面接者を何人手配するかという採用担当者の仕事はなかなか大変です。面接者を何人用意できるから事前選考(書類審査・エントリーシート選考・グループワーク等)で何人まで絞り込もう、と考える企業もあれば、これだけの学生が集まったからこれだけの面接者を用意しよう、と考える企業もあります。面接者の数ではなく、採用選考会場のキャパシティ(面接ブースの数)が左右する時もあります。面接者が居て応募者も居るのに面接する場所がなくて近くの喫茶店で行ったという事態もありました。

 

いずれの方法をとるにしても、4月の面接集中化の現象には対応することは大変困難で、フライングの「青田買い」を秘かに進めることによって少しでも集中化の不可を避けようとするのですね。優秀な学生を先に抑えておきたいという方が本音でしょうが、こうした採用選考工数の問題も背景にあります。

 

その結果、「選考をともなわないセミナー」に代わって急増しているのは、「プレミアム・セミナー」ですね。特定の大学に絞って、企業主催のキャンパス内で行われるものもありましたが、最近は大学がそれを規制するようになってきましたので、学生サークルを通じて行ったり、大学近くの会場に場所を移したりして行われています。学生の呼び込みが目立たぬように、リクルーターが直接電話で呼び出す等の手間暇をかけていますが、OBに会えると喜んで参加した学生がいきなり面接もどきの質問をされて、実は「選考をともなった不意打ちのプレミアム・セミナー」だったりします。

 

こうした企業の動きを見ていると、4月から一気に始まる採用選考はダミーで、裏で動いている「見えない採用活動」が本気のように見えてきます。20年以上前で就職協定があった時代にもこうした現象はありました。いわゆる「解禁日」の企業説明会に学生がやってきた時点で、既に裏で採用活動は終了しており、形だけのセミナーを開催している企業群ですね。それに参加した学生に感想からは、「淡々と企業説明をするだけで、採用担当者にやる気を感じなかった。」とよく聴きました。そりゃそうです。採用活動が終わっているんですものね。採用担当者もどちらが表か裏かわからなくなっているのかもしれません。さて、採用数がまだまだ少ない今季の開戦前夜、果たしてどんな状況になるのでしょうか?

第180号:模擬面接からみる学生の面接力レベル

中小企業の採用選考面接が増えてきたせいか、模擬面接の依頼が増えてきました。就職課のご依頼で行うものと、私の授業の受講者向けに行うものとがありますが、来訪する学生の模擬面接を見ていると面接力には何段階かのレベルがあります。大きく3段階に分けてみてみましょう。

 

1.未体験レベル

「とりあえず」模擬面接を体験してみたいという学生です。入室から面接まで一連の流れを知りたい、面接者がどんな質問をするのか知りたいというレベルです。面接における基本的な知識や体験をしたいという学生ですが、まだ模擬面接が可能な段階ではありません。

2.一方的発表(プレゼンテーション)レベル

体験談や自己PRを整理してある程度の発表ができるようになった学生です。面接者から投げられる質問を予め想定しておき、用意してきた話題を話せるようになってきます。しかし、面接者の質問に合わせて柔軟に対応できる段階ではないので、全ての質問に回答を用意しておこうとします。「(面接では)どう言えばよいですか?」と『正解』を求める傾向にありますが、やっと模擬面接を始められるレベルです。

3.双方向会話・質疑応答レベル

志望分野が絞られてきて志望動機が深まり、面接者の質問に対して自分の回答を柔軟に対応させて『会話』ができる学生です。自己PRにも個性が出てきて、本番と同じ模擬面接で評価が可能なレベルです。

 

実際の面接ではさすがにレベル1の学生はあまり見かけませんが、レベル2の学生はかなり多いです。この段階の学生には少し突っ込んでみたり、角度を変えた質問をしたりするとすぐに戸惑ってしまうので、採用担当者としての判定は楽です。

こうした学生の面接力レベルは基本的な対人スキルの発達段階と同じですから、大学でのゼミやサークル活動、アルバイトでも習得することは可能です。問題はレベル3までに至るには相当の時間がかかるということで、勿論、個人差はありますが、私がこれまで模擬面接で見てきた経験では、特別な指導をしない限り、レベル1の学生がレベル3まで至るには数ヶ月かかります。

 

模擬面接を企画される就職課の皆様にお伝えしたいことは、こうした学生の対人スキルの発達段階を見極めた上で設定された方が良いということです。私は採用担当者の経験のあるキャリアカウンセラー仲間とチームを組んで大学へ模擬面接にお伺いすることがありますが、数年前と比べてやはり学生の対人スキルが低下していると感じます。以前なら少なくともレベル2の学生が中心で、なんとか模擬面接が成立したのですが、最近ではレベル1の学生が増えてプロの採用担当者を模擬面接に駆り出してお伺いしても本番レベルの面接に至らないことが増えました。レベル1とレベル2(の初期段階)学生に対しては、個別の模擬面接ではなくセミナー形式の公開模擬面接やワークショップで基礎知識の習得をいくつか踏ませた方が効果的だと思います。

 

ちなみに、エントリーシートと同じで、採用担当者は模擬面接で学生の『評価』はできますが、『指導』までできるとは限りません。誰でも料理の判定はできますが、作り方まで指導するのは別問題ですからね。

第179号:4年生の自主留年&再就職活動

この時期に内定辞退された採用担当者から怒りのクレームの電話を戴いた皆様はおられませんか?3年生の就職活動が本格的になってきましたが、卒業間近になった4年生が内定を辞退して自主的に留年するケースが見受けられます。

 

締め切り間際にいきなり大転換の意思決定をする最近の若者特有の行動パターンかもしれませんが、ようやく送り出せると思った学生をまた面倒をみるというのは就職課の方々には頭の痛いことでしょう。内定を取れなかった学生がこうした動きをみせて、公務員試験を目指したり、1学年下の学生と一緒に再度就職活動を始めたりすることは珍しいことではありません。しかし採用担当者の視点で見ると、今シーズンの「自主留年&再就職活動」はかなり厳しい選択になりそうな気がします。

 

というのは、現時点での企業の採用予定数は昨春同様の低水準にあり、採用担当者の最大の悩みは急増する応募者の効率良い選考だからです。まっさらの3年生と、再就職活動の4年生を比較してみたときに、多くの企業では前者を選択するでしょう。勿論、エントリーは同様に扱われますが、昨年内定が取れなかった学生は面接で必ず留年の理由を聞かれます。そこに採用担当者を納得させられる理由があれば良いのですが、それが無ければ結果は明らかです。

 

この状況はかつての受験戦争時代を思い出させます。今は昔話となりましたが、当時は現役生と浪人生の競争がありました。一般的には経験を積んだ浪人生の合格率の方が高かったものですが、現在の就職活動ではそれが逆転して現役生の方が有利です。また受験浪人の場合は、高い目標にチャレンジして学力向上を目指したわけですが、就職活動では人気企業ばかり目指した結果、内定が取れなかったと判断されがちです。

 

悩ましい理由がもう一つあります。それは採用時期の早期化です。この時期に就職留年という意思決定をした4年生は、いますぐエントリーして企業の選考に向かわざるをえません。そして、採用担当者から「何故、留年したのですか?」「留年を決めてどんな成長をしましたか?」と問われます。さてそこで、どれだけ成長したかを語れるでしょう?

もし早めに留年を決めていて、昨春と比べてTOEICが300点アップしたとか、中国語をビジネスレベルで使えるようになったとか、3年生と比較して相当に高い成長度を見せられなかったら、採用担当者は同レベルの3年生を選ぶことでしょう。

 

今の時代、私は実を言うとキャンパスライフを充実させるための計画的留年は積極的に勧めたいと思っています。今の学生は無駄や回り道が出来ずに没個性化していると感じていますので。しかし、この時期の切羽詰まっての自主留年は相当の覚悟をもって行うべきでしょう。思い切って腹をくくり、これからの半年間は死にものぐるいで採用担当者に評価される経験を積んで夏採用にかけるとか、留学に出て海外の留学生就職フォーラムからエントリーするとか、どうせやるならば、採用担当者の留年偏見を吹き飛ばすようなチャレンジを見せて欲しいと思います。

 

第178号:自己・中心のエントリーシート

大学の期末試験が終わり、ぼちぼち企業の採用活動が始まってきました。この不況のせいなのか例年よりも少々ゆっくりしている気配です。エントリーシート(ES)の受付も始まり、学生は山ほどプレエントリーした企業に向けて必死にESを書き始めていますが、最近のESの傾向として感じられるのは、その内容が自己中心的なところです。

具体的には以下のような点です。

1.消費者・顧客目線になってはいるが、販売者・企業目線になっていない。

⇒今の学生のプレエントリー数は増加していますが、志望企業群は身の回りの耐久消費財を扱う企業が中心で、自分の気に入った商品の良さを他の人にも勧めたいという気持ちを志望動機にしている学生が本当に多いです。確かにお客様の気持ちは大事ですが、企業が採用したいのはそれを販売・企画する側の人間です。こうした学生は、「その商品を販売する企画を1つあげてみて下さい。」という質問に、誰でも思いつくような一般的な回答しかできません。逆にインターンシップの経験があって、企業側の舞台裏を知っている学生などは具体的な提案が出てきます。

2.自己PR体験談志望動機とが結びついていない。

⇒「学生時代に頑張ったことを具体的に説明する」という定番の課題について語られている内容が、志望動機とつながっていない学生が多いです。一所懸命なことは伝わってくるのですが、「それは何のために書いているの?」「そのPRはうちの会社でどんな仕事をしたくて書いているの?」と問いたくなります。非常に多いアルバイトの話で、非正規社員としての笑顔の仕事ぶりをアピールされてもこのご時世では正社員採用には結びつきません。

何故、こうしたESが増えてきたかとあえて採用担当者の視点で想像してみると、コンピテンシー面接の流行によって志望動機を聞かない企業が増えてきたからかもしれません。バブルの頃の面接では頑張ったことよりも志望動機の方が重視されていました。それほど実現性が無かったとしても、将来への夢や世界への野望などを問われれば、多少根拠の無い自信でもそれなりに風呂敷を広げることができましたし、それをキッカケに社会で活躍する自分を考え始めたものです。

ところがこの10年間に企業が精鋭採用にシフトして、学生の将来性(志望動機)を見るのではなく学生の過去の実績(体験談)を求め続けた結果、どうも今の学生を身の回りしか見えない小粒な人間にしてしまったような気がします。(コンピテンシー面接は過去の実績をみて将来の可能性を類推するものなのでちゃんと将来性を考えているのですが、ESの設問がそうした期待よりも根拠ばかり求めている印象を学生に与えてしまったのではないかという危惧です。)独創的で個性的な人物を求む、と言いながら、選考手法はあまりにも没個性なことに採用担当者も気づくべき時なのかもしれません。

就職活動は自分中心の世界から社会中心の世界に入っていくことです。その当事者である学生と採用担当者がお互いの夢と期待を大いに語るべき場であって欲しいものです。

第177号:戻した採用担当者

昨年末に「戻」の漢字ネタでのコラムをお送りしましたが、本当に採用時期を「戻した」企業が出てきましたね。周知のキヤノンマーケティングジャパン(CMJ)社の「訳あって、今年の採用活動に出遅れます。」宣言です。やってくれたな、というのが率直の感想です。さて、世間はこの一石をどのように受け止めるのでしょうか。

 

このニュースは就職業界関係者にとっては大きな出来事なのですが、世間の反応はそれほど大きくないようです。採用担当者の受け止め方もまちまちで心穏やかではありません。

 

「キヤノングループほどの企業もたいへんなのか。」

「企業業績悪化を美化した上手な広告だ。」

「うちもやりたかったなあ。」

「10月に同社から採用案内のDMが届いてたぞ。」

(*注:この宣言はそのDM発送後に決定されたようです)

 

しかし、根本的なことが忘れられています。

 

日本はグローバル化が遅れている、ガラパゴス化しているとの批判は盛んですが、今の就職・採用活動が恐るべきローカル・スタンダードの横並びの惰性でやっていることを。

大学生活の重要な新学期、それも入社の1年前に大騒ぎの就職イベントをやっている国家が世界にありますか?

 

理由は何でも良いのです。今の異常に早期化・長期化した採用・就職活動が是正されるなら。

大学キャンパスにもう少し平穏を取り戻して欲しいと思います。

 

冷静に見れば、この宣言文は極めて普通の経営感覚で書かれています。先の見えない経済の中で超長期の先行投資が危険なことを平明に伝えています。問題なのは、こうした当たり前の文章が稀少情報でニュースになってしまう日本の世の中の方ですね。

 

1000歩譲って春に採用活動を始めることは良いとしても、ならば夏に就職活動をする学生を無理に拘束するような真似はやめて欲しいと思います。社会も企業も大学も、これを機会に正気に戻ることが大切だと思います。

 

大学教職員の皆さん、一緒にCMJ活動(ちょっと、待て、人事採用!)してみませんか?

 

▼参考URL:

「訳あって、今年の採用活動に出遅れます。」(キヤノンマーケティングジャパン社サイト)

http://teiki.saiyo.jp/canon-mj2011/contents/dm_2/index.html

 

第176号:採用担当者は社会の壁

この不況の中で採用担当者の仕事を見ていると、採用担当者はその企業の門番であると同時に「社会の壁」だと感じることがあります。社会に出るにはまだ早い若者をせき止めている役割ですが、それはただ冷たく突き放すのではなく、若者に機会と試練を与える「大人の壁」だと思います。

多くの学生がこれまで社会の壁としてぶつかって乗り越えてきたのは小中高大の学校受験ですが、その壁が少子化の影響でドンドン低くなり、それほど苦労しなくても大学まで来られるようになりました。しかし、最後の壁である就職だけは、逆にいきなり高くなってしまい学生が戸惑っています。この壁には高いものも低いものもあるのですが、何故か高いところばかり選んでぶつかっては玉砕している学生も居ます。

壁にぶつかった若者は、その悔しさや失敗を振り返って学習し、更に何度もチャレンジすることによって成長します。この失敗から学んで成長するという社会学習が身につかず、諦めきれずに同じ失敗を繰り返している、失敗しないように大人が手取り足取り手助けするようになってしまっているのが今の時代の困ったところではないでしょうか。

今こそ学生は若者らしく『失敗から学べ』と言いたいです。「どうすれば良いんですか?」と質問する学生ではなく「これではどうですか?」とぶつけてくる学生になって欲しいです。こうした意見や手段を自分で考えられるようになれば、多くの採用担当者は壁を開いてくれると思いますし、それこそ企業が求める人材像の一つでしょう。定番になったコンピテンシー面接の視点も、積極的に行動し、成功は繰り返す、失敗は繰り返さないという学習手法をもっているかどうかなのですから。

就職課の皆さんも、常に目の前の学生に試練を与えるか支援を与えるかで悩んでいますね。採用担当者は立場上、機会を提供するだけで個別支援まではできませんが、就職課の方にはそれができます。その際に大人として大事なのは、やはり自分自身が元気な大人であることではないかと思います。私も就職相談員として学生に相対する際は「元気な壁」であることを心がけています。試練を与える大人の責任として、若者が安心して胸を借りられる壁でなければならないと思います。豊かな環境に慣れてきた学生にはすぐに試練に立ち向かうことは難しいですが、それをやらせるべきなのが大人の大事な役割だと思います。

さて昨年の最初の原稿の末文に、私の高校の恩師の言葉を紹介いたしましたが、長引きそうな不況にあたり、今一度ここでお伝えしたいと思います。

「平成20年は激動の年でしたが、空襲に逃げ惑い、飢餓に苦しんだ昭和20年に比べれば何程のこともないと思います。」

私事ながら、昨年30年ぶりの同窓会でこの恩師と再会できました。足腰は弱っておられましたが、高校の時に下さった説教で100人以上集まった50歳近くの若者たちに渇を入れてくれました。不惑の時代を越えてなお厳しい環境に向かう我々には大きな励みとなりました。

派遣村などの規模が昨年より大きくなったり、未だ卒業後の行き先が決まらない若者が居たり大変ですが、昭和20年と比べたら何でもありません。元気は誰からか貰うものではなく、自ら「出す」ものです。まだまだ我々は元気に生きていけると思います。 新年、頑張って行きましょう!

 

第175号:「変」から「新」になったのか?

今年の漢字は「新」になりました。確かに政権や国家元首が「変」を経て「新」になりましたが、採用担当者の動向を見ていると「新」というよりは「戻」という気がします。数年前のITバブル後の不況時と同じかそれ以上の厳選採用・コストダウン採用になってきています。

 

今春の採用活動はかつてない厳しさでしたが、昨年の今頃はまだ採用担当者に予算が残っていたので採用広報活動(母集団形成活動)は比較的積極的に行われておりました。しかし、今年は当初から予算が無いことと、絞ったとはいえ今春のも無理して採用したせいか、採用担当者の意欲があまり感じられません。私も今春がドン底で、来春は多少回復するのではないかと見ていたのですが、どうも思った以上に経済状況の回復は遅くなりそうです。経済でも二番底があるかないか危ぶまれていますが、採用市場もそんな気配です。

そんな厳しい環境の中で採用担当者の動きは変わり、大学セミナーを中心にコストのかからない広報活動を展開するようになってきています。私がお手伝いしている大学内セミナー(大学内企業合同説明会)もかなり早く定員が一杯になり、追加の参加依頼をお断りしているような状況です。逆に、外部での企業合同説明会は参加企業が減少して規模が縮小しています。企業が大学に戻ってきたのですね。

 

しかしながら、大学回帰の中での企業の新しい動きは「厳選採用」の方針のため、全ての大学に回らずターゲットとする大学のみを訪問することです。採用担当者としてはあまり明確にしたくない話題なのですが、明らかにこの動きは存在します。今春の採用でも、エントリーシートやセミナーの受付において「女子大学」「一般教養系」の学生にはDMが届かないということもありました。

この動きはけしからんと思われるかもしれませんが、もう少し時代を遡って思い出してみると、25年ほど前には「指定校制度」というものが堂々と存在していました。私自身も経験があるのですが、有名企業の説明会に(有名大学しか告知が来ないのでそれを探って)直接訪問しても、「貴方の大学は指定校ではないので受付できません。」と言われてスゴスゴ戻ったこともありました。(当時は、「そこを何とか入れて貰えませんが?」と粘ると入れてくれる企業も結構ありました。人間味がありましたね。)この不況が続くと、もしかするとそこまで採用担当者も戻るかもしれません。今期の採用担当者の最大の課題は、急増した応募者に如何に低コストで対応するか、なのですから。

 

失われた良さを取り戻すのは良いことだと思います。日本社会は全体にメタボ状態だと思いますので、今の不況もその点ではダイエット中という試練なのかもしれません。しかし、単純に昔に戻るだけでは進歩がありません。ついでに若者のハングリー精神や自立意識も戻って欲しいものです。いつの時代も若者は社会問題に対して無責任に一石を投じる権利があると思いますし、そうした中から新しい社会が形成されると信じたいものです。(最近の学生さんは反骨精神より厭世観の方が強そうで心配です。)

 

そうそう、私が知る限りの採用担当者全員が口を揃えて言っています。「採用活動開始時期を元に戻したい。」と。これは大学就職課の皆さんも同じでしょうね。誰もが戻したいと思っているのにどうにもならないのが今の大問題なのでしょう。来年こそはこの大問題に新たな動きが見られることを祈っております。どうぞ良い年をお迎え下さい。

第174号:未内定4年生の「自己都合的な諦め」

3年生の就職活動にエンジンがかかってきたなかで、4年生の未内定者の課題は悩ましいですね。私も非常勤講師を行っている学生の個別相談にのっておりますが、何人かの学生と話していて気づいた共通点がありました。とても「自己都合的な諦め」が多いのです。この点はこれから就職活動を始める3年生にも見られると思いますので、お伝えしておきたいと思います。

 

相談をしていて意外と多かったその「自己都合的な諦め」とは、企業の採用選考中で結果が出る前に自分から選考辞退をしてしまう学生です。しかもこうした学生の殆どが、全く選考を通らないレベルではなく、応募先さえ間違わなければ内定の取れそうな方々です。不思議に思って理由を尋ねてみると、以下のような答えが買ってきます。

「面接で採用担当者の方の反応(採用意欲)が感じられなかった。」

「一緒に受験した学生からその企業の良くない評判を聞いた。」

「一緒にグループ面接をした学生が有名校ばかりで自分は受からないと思った。」

 

情報に敏感になる学生の気持ちもわかりますがあまりに主観的な判断で、その情報をちゃんと判断する知識や技術が無いのだなと感じます。上記の例でも、採用担当者にはいろいろな人が居りますし、普段は元気な人でも1日30人も面接をした最後のコマでは流石に疲れも出るでしょう。(しかも1日中、似た話を聴かされているのです。)学生のクチコミ情報も良い評判より悪い評判の方がすぐに広まりますし、そもそも学生が何処まで正しく情報を理解しているのかというのもあります。同じグループの学生が有名校ばかりなら、逆に自分に自信を持っても良いはずです。(学校名で落としているなら最初からエントリーシートで不合格になっていることでしょう。)

 

こうした行動の理由を学生に一つ一つ確認しながら面談していると、その行動の下にある心理が見えてきます。その大きなものは、面倒な可能性の低いことは早めに避けたい、この先の選考で不合格の結果を貰うのが嫌、などなのでしょう。採用選考は決して人格評価ではありませんが、他者との比較評価に慣れていないオンリーワン世代の若者にとって「不合格」とは人格否定と同じに感じられるのかもしれません。しかもこの傾向は、そこそこ能力があるけれどプライドも高い学生に見られますから。

 

こうした理由からか、せっかく可能性のあるカードを自分から捨ててしまっている学生が多いように感じます。現在の経済環境の厳しさを考えたら、人気企業ランキング上位の企業ばかり応募するのも言語道断ですが、可能性のありそうな企業なら選考途中で辞退せず結果が出るまで頑張って欲しいと思います。諦めるのは結果出てからで良いのですから。

 

第173号:「就活」という言葉が嫌いな採用担当者

採用担当者にはいろいろなタイプが居られます。若くて明るいハキハキ営業型、落ち着いてスマートな兄貴型、エレガントで頼れる姉御型、重厚でいかつい説教型等々・・・。しかしあえて共通点を探してみると、やはり根が「真面目」であると感じます。それは人事部という社員の人生に直接に関与する部署であるからなのかもしれません。そのせいなのか、採用担当者は「就活」という言葉をあまり使わないような気がします。

 

先日、ある若い採用担当者の方と気楽に食事をしていたとき、「学生さんは良く言いますが、『就活』って言葉はあまり好きではないんですよね。」とポロッと語られました。この言葉が記憶に残ったのは、実は前にも別の採用担当者の方から伺ったことがあるからです。今と違って売り手市場の景気の良い時のことですが、「就活って、何だか茶化している感じがしないか?俺は絶対、使わないよ。」その方は中年だったので、やはり年配になると堅いな、という程度にしか感じなかったのですが、こうしてみるとそれは採用担当者の本音なのかもしれません。

 

その理由は、上述の通り人事部は基本的に堅い部署であること、会社説明会のプレゼンテーションや面接で正しい言葉遣いを意識していること、そしてやはり人の人生を左右する仕事をしているという責任感からなのでしょう。たまに若手の採用担当者がノリノリの会社説明会で「就活」「就活」と連発しているのを見かけますが、そうした方が採用面接に勢いで出てくることは少ないです。相当血気盛んな企業でない限り、ノリで社員を採用するわけにはいきませんからね。

ですから、応募学生として気をつけたいのは、そうした勢いに一緒に乗ってしまって、面接でもそのような態度や言葉が出てしまうことです。日頃の態度や言葉遣いはすぐに変えられるものではありませんし、採用担当者は敬語の誤用には寛大ですが、学生言葉には敏感ですからね。

 

ところが、最近の若者は照れ屋のせいか「真面目」になることが苦手なようです。大学の授業で学生に触れていると、「真面目」を「マジ」と呼んで真面目でないふりをしているようにも見えます。真面目に取り組んで失敗したときが怖いので、最初からおどけているのかもしれません。勿論、四六時中、真面目でいるのも疲れますから、必要な時だけ切り替えられれば良いのです。この切り替える習慣を早く身に付けて欲しいと思います。それは就職してからも必要な社会人のスキルでもありますから。

 

今シーズンは昨年来の厳しい状況です。学生の方には初めての就職活動なので気づかないと思いますが、こうして環境が逆転したときには気分を切り替えて当たらなければなりません。今は略語全盛のスピード社会で、「就活」「婚活」と慌ただしいですが、しっかり気分を切り替えて採用担当者に向き合って欲しいと思います。相手は、採用活動を「採活」などとは決して略さない真面目な人物が多いようですからね。

 

 

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