第192号:卒業3年後まで新卒扱いだって!?

先日の新聞で「大卒後3年は新卒扱いを」という提言を日本学術会議がまとめたという記事を見て、学術会議とあろうものが、そのような単純不毛な提言をするとは・・・と唖然と致しました。念のため、原典に当たってみたところ、確かに最終的な提案にはそのような内容は書かれておりますが、全体(かなりのボリュームです)を見てみると、今回の回答書はなかなか良く書かれたものだとわかりました。マスコミの単純な言説に惑わされてはいけませんね。(原典にあたるというのは大学で学んだ社会で通用する実力です。)

 

「大卒後3年は新卒扱いを」という記事は、今回の回答書がまとまる前(3月)にも報告書案として報道されておりましたが、多くの採用担当者からは「またまた自己改革を棚に上げた学者さんの企業への要求か」と思われたのではないかと思います。しかしながら、今回の回答書では大学・企業・学生の課題をかなり客観的かつ現実的にまとめていると思います。「戦後の経済社会の構造的な変化からその将来展望を踏まえて、なおかつ現在の就職活動と採用活動の実態まで含めて論じた例は、学術会議においてはもちろんのこと、他の団体を見渡しても今回が初めて試みではないかと思われる。」と自負しているのも間違いないでしょう。そもそも、この回答書のタイトルが「大学教育の分野別保証の在り方について」という自己批判的なものなのですから、報道の中心が「大卒後3年は新卒扱いを」と書く方が理解不足です。この回答書の中では、そうした企業への要求や規制は現実的でないことも、大卒後3年位は大学側の就職支援が必要であるということもちゃんと書かれています。

 

しかし、百歩譲って採用担当者が「大卒後3年は新卒扱いを」という提言を受け入れるためには、かつての受験戦争時代の浪人生のように、若者は時間が経てば何らかの形で成長・学習するという前提が必要です。企業は基本的に営利団体なのですから福祉や社会貢献のために雇用を行うことは、よほど余裕のある時代にしかありえません。政治家も「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と訴えますが、雇用政策が経済を盛り上げることはまずありえません。事業見通しが未定のままに、まず人材(それも即戦力にならない新卒)を雇用してから考えるという経営者が居たら、採用担当者は不況でも仕事があって嬉しい(怖い)です。話は逆で、景気の良い企業はいつも人手不足で雇用は自然に生まれています。

 

せっかく力の入った回答書がまとまったのですから、マスコミの企業批判や政治の道具にして欲しくはないものです。この回答書がどのような形で政策になってくるのか、注意深くみていきたいと思います。採用担当者だって、大卒後3年間成長し続ける人材なら大歓迎ですからね。

 

*参考URL

▼大学教育の分野別質保証の在り方検討委員会:

http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/daigaku/

▼報告「大学教育の分野別質保証の在り方について」:

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-k100-1.pdf

 

第191号:初年次教育雑感

今週のビジネス雑誌(週刊エコノミスト)に大学の教育力についての特集がありました。定期的に扱われる話題ですが、「就職に強い大学」というキャッチコピーを見ると、採用担当者としては我々の実感と合っているか気になってチェックしたくなります。今の大学は学生の意識も学力も多様化しているので、こうした全大学を対象にしたアンケートは総花的になりがちですが、大学の新しい教育手法や取り組みには注意していて、思わず「よし!今度、就職課を訪ねてみるか!」と食指を動かされることもあります。しかし正直なところ、年々、その取り組みが低次元になっていると感じます。

 

今回の特集では、大学の「教育力格差」が広がっているとの視点から、「初年次教育」の重要性を指摘されています。これは妥当なことだと思うのですが、問題はその内容です。この特集で、初年次教育の目的は以下の9点が挙げられています。

1.学生生活や学習習慣などの自己管理

2.高校までの不足分の補習

3.自大学の理解

4.人として守るべき規範の理解

5.リポートの書き方や文献検索法などのスタディスキル(学習技術)

6.クリティカルシンキング(論理的に考えること)など大学で学ぶ思考方法の獲得

7.大学の中での居場所や友人の獲得

8.高校までの受動的な学習から能動的で自律的な学習態度への転換

9.専門への導入

*週刊エコノミスト8月31日号「娘、息子を通わせたい大学」から引用

 

このうち、1~4と7の項目を見て、これは本当に大学が教えるべきことなのか?と感じます。これらはどう考えても大学入学前の教育課題ですし、親の躾の問題であり、大学が背負うのは非常な負荷です。(しかも、浮き世離れしているオエライ最高学府の先生にこれらを教えられますか?)初年次教育とかリメディアル教育と称して、それをストレートに社会や親に言えない世の中は変だと思います。

と書きつつ、現実的に今の大学にはこうした教育が必要な学生が居ることは、私自身も身に染みてわかっています。授業では幼児化した大学生を相手に日々悪戦苦闘しています。まさに親の躾代行です。

 

閑話休題、採用担当者の視点では、こうした項目を重視した初年時教育の充実をアピールされても、やや冷めた目で「ああ、この大学はターゲットから外しておこう」と思うことがあります。というのは、こうした初年次教育の効果がわかりませんし、逆に確実にわかるのはこうした初年次教育が必要な学生が居る大学なんだな、ということです。(親向けには良い広報なのですがね・・・。)

 

かつての会津大学や慶應SFCが登場したときのような、遠方でも「ちょっと訪問してみよう!」と採用担当者が思わされるような大学教育の登場を期待したいと思います。日本の雇用が日本の大学を諦めて海外移転する前に。

 

第190号:就活に苦労する子をもつ親世代

ようやく夏休み入り、蝉の声が静かな校舎に染み入る季節、と言いたいところですが、この時期はオープンキャンパス等でご多忙にされている職員の方々も多いことでしょう。キャンパスを歩いていると、高校生のお子さんを同伴の親子連れをよく見かけます。親が子供と一緒に将来を考えるというのは素晴らしいシーンですが、どうも我々、教職委員、そして採用担当者にとっても、親世代は鬼門となりつつあるようです。

つい昨日、私の携帯電話が鳴りました。私が就職支援を行っている地方大学の職員の方から急ぎの相談で、「いま、学生と保護者の方が一緒に就職相談にみえているのですが、どこかの企業採用担当者で、これから面接を行ってくれる方は居りませんか?」という切迫した状態です。数年前であれば、「それはお困りですね、では早速問い合わせてみましょう!」と、学生の要望を伺って採用担当者仲間に打診したものです。しかし、今は違います。皆様も同じ状況だと思いますが、こうしたケースはもう珍しいものでなくなってしまいました。

しかも、状況はますます深刻になってきたようで、こうしたケースで必死になっているのは親御さんの方で、当の学生さんは、ずっと黙って座っているような状態です。学生本人に「どんな企業や仕事が希望なんですか?」「何が原因で就職活動がうまくいかないのですか?」と尋ねてみると、横から親御さんは、「それはですね・・・」と解説する始末。口には出せませんが、(ああ、この家族もこの親御さんが原因なんだ・・・)と思います。

この根の深い問題は、とてもこの短いコラムで語れるようなものではありませんが、私が改めて身近に感じさせられたのは、先日、高校の同窓会で旧友たちと久しぶりの再会を果たした時です。多くの同窓生達が、ちょうど大学生の子供をもつ世代になってきていたのですね。近況報告で、私が企業採用担当者のコンサルティングや、大学でキャリア教育や就職支援をしているキャリアカウンセラーだと話した途端、何人かの友人達が「実は、うちの子が・・・」と相談にやってきました。その後、メールや電話でも「うちの子に会ってくれないか?」との連絡もありました。

ここで改めて感じたのは、この問題で本当に悩んでいる人も、我々、親世代なんだな、ということです。親はこの問題の原因であり、被害者でもあるのですね。しかも悩ましいことに、その親自身がこのことに無自覚なことが多いです。高校の友人には、その点を率直に言ってあげられるので良いのですが、これが大学の保護者だと気を遣います。

我々の世代は、我々の親世代と違って、大学卒業者が多数派になりはじめ、新卒で就職活動もそれなりに経験しています。だからこそ、一言をもつ人が多く、それが今の時代とズレているのを認めたがりません。(このズレに気づいている親は話が早いのですが、年はとりたくないものです。)

ともあれ、この難題に向かう第一歩は、筆舌し難い状況の家族も居りますが、その親御さんの苦悩を理解して、味方になってあげることなのでしょうね。対応を間違って、モンスターペアレント化でもされたら、それこそ夏の夜の怪談より恐ろしいことになりますから。

(追伸:多少、涼しくなりましたでしょうか?暑中お見舞い申し上げます。)

第189号:採用担当者と学生の認識のズレ

この時期は、企業の採用担当者が来季(2012年卒)向けの採用戦略を煮詰めているところですが、大学職員の皆さんも今春の学生の就職支援活動のレビューを行い、今後の対策や方針を考える時期なのでしょう。先日、大学職業指導研究会に招かれ、パネルディスカッションにて採用担当者としての意見を述べて参りました。第三分科会という女子大学生の支援についてのグループで、サブタイトルに「結果につなげる学生支援のあり方」と付けられていることからも、今春の就職状況の厳しさが察せられました。

私の他に大学職員、公的職業支援の方が登壇されましたが、パネルディスカッションに先立ち、3つの異なるセクターからそれぞれ短い講演を行いました。私は採用担当者の視点から、面接の場面で感じる「採用担当者と学生の認識のズレ」について、以下のような点をいくつか指摘して参りました。

・自己PRと志望動機のズレ

多くの学生はサークルやバイトの体験談から自己PRをまとめますが、それが志望動機をつながっていないことが非常に多いです。以前も指摘したとおり、今はコンピテンシー面接が主流で志望動機よりも行動事実を中心に聴かれる影響かもしれません。しかし自己PRを聴いていて(特に女子学生では)、「それは何のために話しているのか?」「自分の就きたい仕事についてどう活かせると考えているのか?」と思わされることが多いです。どんなに力を入れたアルバイト経験でも、それが非正規社員の視点から出ていなければ、採用するわけにはいきません。

私は、こうした認識のズレの原因は、企業や仕事の認識不足だと思っています。もっと言うと、業界・企業研究をろくにやらずに、つまり目標を定めることなく自己PRを考えているところです。皆さんの大学での就職ガイダンスでも、最初の回に「まずは自己分析から始めましょう!」と指導されておりませんか?それはもしかすると非常に危険なことかもしれません。

これからの3年生向けの就職ガイダンスで、改めて伝えて戴きたいと思うのは、「自分という商品」の販売方法をしっかり考える視点、ビジネス・センスです。採用面接は、応募者の相談にのるキャリア・カウンセリングではありません。自分という商品は、その企業にとってどれだけ魅力があり、投資価値があるかを売り込む場です。それは、他者と比べてどれだけ競争力があるのか、何処にもっていけば売れる可能性が高くなるのか、どうPRすれば良さが分かって貰えるのか、そうした基本的な知識を最初にしっかり身に付けて欲しいと思います。結果のでない多くの女子学生を見ていると、こうした点が憧れやイメージで始まっており、本番の面接にぶつかってから戸惑っている方が殆どです。

就職活動は、若者にとって、アルバイトではない本当に「最初の仕事」の第一歩なのです。仕事は大学を卒業して就職してから始まると思っていては、この厳しい時代を乗り越えては行けません。(逆に、こうしたことを踏まえて活動している学生はちゃんと内定を得ています。)

もっとも、女子学生の場合、こうしたことをアタマでわかっていても、行動に出ない学生が非常に多く、それは認識のズレの次の課題です。私も授業に就職指導に日々、苦労しており、そうした学生の認識を変え、更に如何に動かすかに悪戦苦闘している毎日です。

第188号:学生に求められるリーダーシップとチームワーク

企業の求める人材像が明確ではない、企業は採用選考基準を明らかにすべきだ、ということは各方面からよく言われることです。企業が無数にあることや、同じ企業であっても時期や経営状況や採用担当者によって選考基準が変動することなどがその原因でしょうが、最近の企業の採用選考手法を良く見てみると、おおまかな企業の求める人材像というのは浮かび上がってきます。

 

例えば、ここ数年の採用選考手法でもっとも顕著な傾向はグループ・ワークの導入でしょう。これは数年前から流行になってきましたが、リーマンショックを境に企業の位置づけが変わってきています。景気の良かった以前は、業界・企業理解を進めるためのシミュレーション・ゲーム的なものが多く、学生の就職活動支援や広報活動的なものが主流でした。しかしその後は、大きく変わり、評価・選考的な色合いがドンドン濃くなってきました。

特に不況による応募者の急増により、グループ・ディスカッションも、以前は6人の1グループにつき選考者が2名で時間も50分間程度で行ったのに対し、最近では5グループ(30人)を2名の選考者で30分間で行うという例も出てきています。これは明らかに採用効率の向上を狙ったものですね。

こうしたグループ・ワークになってくると選考もラフにならざるをえませんが、グループ・ワークでの選考基準である、リーダーシップ(自主性)とチームワーク(組織内行動特性)は比較的判断しやすいです。面接と違って、応募者を相対的に評価できますし、選考者は観察に集中できます。グループ・ワークで最初に不合格にするのは、頓珍漢な発言をする学生よりも、無反応・受け身の応募者です。

 

このリーダーシップとチームワークですが、今の学生のコミュニケーション力を見ていると、ますます低下しているように感じます。この二つの資質は、授業においてもハッキリ見られるもので、誰でも経験すれば確実に向上するものですが、逆に未経験の学生が就職ガイダンス等の解説だけで上達するようなものではありません。授業、ゼミ活動、サークル活動、アルバイト等、リーダーシップとチームワークを体験できる場ならば何処でも良いのですが、実体験が必須です。しかしながら、今の学生はそうした体験機会が減少し、「緩い絆」の小規模な交友関係が増えている様です。果たして、そうしたものを評価してくれる企業はあるでしょうか?

つまり、いまの採用選考手法でシビアに求められてきたのは、自己分析などの就職活動の成果ではなく、大学生としての充実したキャンパスライフを過ごしたかどうかです。これはコンピテンシー面接で行動事実(成果)が問われるのも同じです。採用選考は改めて学生の本質を問うようになってきたのですね。

 

さて、私の属する法政大学大学院で、こうした企業や社会の変化の中で、どんなリーダーシップやチームワークが求められるのか、人事部はどう支援するべきなのか、どんな学生生活が評価されるのかを考えるシンポジウムを開催致します。ご関心の有る方はどうぞお運び下さい。意見交換いたしましょう!

 

▼参考URL:7月17日(土)法政大学大学院 政策創造研究科 無料シンポジウム

『変革の時代におけるリーダーシップとキャリア開発

~社会人・企業人事部・大学生の課題と挑戦~』

http://chiikizukuri.gr.jp/blog/2010/07/post-43.html

 

第187号:放送大学の講義にて

先日(6月19/20日)初めて放送大学の講義を行いました。「大学教育と学生支援」という科目で、3名の教育社会学の権威の先生方とのオムニバス講座です。受講生の中には大学教職員の方も居られましたが、この講義を行ってみて改めて今の大学の課題を実感することができました。

 

ご存知の通り、放送大学はTV・ラジオによる一方向の遠隔授業ですが、私が今回担当した科目は面接授業という通常の大学と同じ対面型(スクーリング形式)のものです。その場に学生が居て講話の反応が見えないというのはなかなかやりにくいものですが、何とか私の担当である学生のキャリア支援の講義を終えてきました。

 

今回の放送大学の講義で最も苦労したことは、なんといっても受講生が多様で、講義の焦点が絞れない点です。若い方からご年配の方まで世代の幅は勿論、仕事に役立てたいという方、子供が大学生だからと言う方、一般教養として興味がある方等々、関心の幅は一般の大学とは比較にならない広さです。

冒頭に述べた通り、中には大学教職員の方も若干居られたのですが、そちらの方々のレベルに合わせて話をすると一般の方々はついてこられなくなってしまいます。(本当はそうした方に向けて専門的な話や討論をすることが望ましいのですが、その代わりに講義後に個別の質疑応答を行いました。)

 

この経験から私が感じたのは、これこそが本当に「大学全入時代」になった時の大学だということです。ここでいう大学全入とは、学力試験無しに誰でも入学して講義が受けられるという意味ですが、そのため学習目標レベルの設定が難しくなります。(もっとも、これは大学教員歴が短い私の力量の問題もあります。)そして、もし放送大学に就職課があったならその職員の苦労は想像を絶しますね。

 

この2年間の経済不況による大学生の就職難を見ていると、同じ大学内でも学生個人の内定状況にはかなり個人差が出てきているようです。そして、その原因は学生の多様化、もっとはっきり言えば、大学数急増と寛大な入試による大学全入時代の到来が原因だと思います。そうした学生を、卒業までに教育して如何に変容させるのかが大きな課題なのですが、何処の大学もまだ明確な答えは見つかっていないと思います。

 

ところで、放送大学の講義で逆にとても新鮮な出来事もありました。それは学生の皆さんが教室の前方から座っていて教師と学生の間に空間が無いことです。いまや何処の大学でも当たり前になった「馬蹄形着席スタイル(教師の前がガラ空きで教室後方と左右に学生が着席する)」ではありません。勿論、居眠りする学生もおりません。さすがは自らの意志と学費で学びに来ている社会人で、こうした向学心の高さは感動ものでした。これがあれば学力試験など無くても卒業までには十分な知識と学力がつけられると教師にもやる気を起こさせてくれます。今の大学生に欠けているもの、それも実感させられた放送大学の講義でした。

 

▼参考URL:放送大学 面接授業「大学教育と学生支援」

https://www.campus.ouj.ac.jp/ouj/modules/visit_tiny8/content/221n13B-dt.html#2276445

第186号:内々定者フォローの多様化

企業の採用選考活動も粛々と進んで参りましたが、春の採用を徐々に収束する企業が出てきています。採用担当者も気持ちを切り替えて2012年の夏のインターンシップに向けた準備に入りたいところですが、内々定者の意思確認という大事な仕事が残っています。ここで辞退されたらこれまでの努力が水の泡になりますので、採用担当者も気を引き締めてあたるところですが、今シーズンはここにも変化が出てきています。

 

これまで企業の内々定者のフォローというと、懇親会を開催して内々定者同志の顔合わせを行い、同期意識を醸成させていくというのが普通でした。ところが、採用関係費用の予算削減の影響はここまで及んでおり、今年は懇親会もホテルの会場を使う豪華なものは控えめにして、企業内の会議室や研修センターを使って簡単なグループワークを行ったり、社員との親睦会を開いたりと、至ってシンプルになりました。私の仕事仲間には、企業から依頼を受けて内々定者にビジネスマナーやプレゼンテーションの研修を行っている人も居るのですが、今年はパッタリ依頼が減って困ったとのこと。

 

そもそも採用担当者の多くは内定者フォローには余り積極的ではない方が多いように感じます。そうした業務が面倒だからとか予算が必要だからとかではなく、やはり学生には入社するまでは学生生活を伸び伸び過ごして欲しい、という声は昔と変わらずに耳にします。内々定者のフォローの第一の目的は、辞退防止なのですから、こうした不況では辞退者も少なくなり、仮に辞退されても穴埋めの候補者を探すのはそう難しいことではありませんから。

 

一方で金融機関等の営業等、入社してから外務員資格試験を取得しなければならない企業の採用担当者は「内定者教育」に熱心です。この資格は、以前は入社してから勉強を始め、1年目の10月までに取得すれば良かったのですが、それが5月になり、今では入社前の内定期間中に取得するように求める企業が増えてきています。説明上は内々定者全員に強制されるものではないのですが、それを取得した人としない人では、入社しての配属時期・場所が大きく変わってくるので、内々定者としては勉強せざるをえないでしょう。

 

そんな中で、面白い内々定者フォローを行っている企業がありました。内々定者に毎月、奨学金を支給しているのです。金額は月に数万円程度で返却不要で、内定辞退をしたら返却することになっています。採用担当者の方にその意図を尋ねてみたら、「アルバイトを止めてちゃんと勉強をして欲しいからです。留年でもされたら、こちらが大変ですからね。」とのこと。これを始めたところ、思わぬ効果もあったとか。「秘かに辞退を考えている人は、この奨学金を受け取らないんですよ。意図したわけではないのですが、入社意思の格好の踏み絵になっています。笑」なるほどですね。

 

かくの如く、内々定者フォローも、経済環境によって業界によって多様になっておりますが、大学教員の端くれとしてというか、かつて学生だった者としては、学生生活の最後の1年は伸び伸び過ごさせてあげたいものです。それでなくても学生は就職活動の相当の時間と労力と金銭を取られているのですからね。

 

第185号:就活保険と時期のミスマッチ

いま、都心の電車で目立つのはリクルート・スーツの女子学生です。ああ、一般職の採用活動がヤマ場なんだな、と感じます。今シーズンの傾向でかなり鮮明に見えた気がするのは、学生の内定時期に明らかな差が出ていることです。端的に言えば、有名上位校・総合職(4月内定者)、中堅校・一般職(5月内定者⇒現在進行中)、ということで、これは時期によって企業の採用意識がかなり明確になってきたということだと思います。

 

こうした傾向がハッキリとしてきた主な理由は、企業の採用予定数が減少してきているからでしょう。超長期化する学生の就職活動に反して、4月以降の企業の採用選考期間は短期化しています。採用数が少ないのですから、当然です。企業は短期決戦で片付けて、時期がきたらあっさり引き上げて無理な採用をしていません。

それは中堅企業の採用活動を見ていても感じます。これまで中堅企業の採用活動は大手が一段落するGW明けからがヤマ場でした。内定辞退者もわかったし、さあ大手の最終選考で不合格になった学生の「落ち穂拾い」を始めるか、と腕まくりをしたものです。ところが不況と言われすぎているせいか、最近は中堅企業も内定辞退者が少なくなってきて、GW明けの追加採用枠があまりありません。採用担当者に状況を尋ねてみると「今年は5月末までに決着をつけます。」という声を良く伺います。

 

そのせいか、学生を見ていると、4月に大手ばかりを回りすぎて全滅したので、5月以降は中堅企業を回り直そう、という学生はなかなか結果が出ずに焦っています。その主な理由は、以下でしょう。

1.有名上位校の学生に中堅校の学生のポジションを取られている

2.いきなり方向転換をしているので、志望動機(業界研究)が浅い

3.内定を1つも持っていない

 

1と2の理由については説明するまでもありませんが、3についてはオヤ?と思われたでしょう。ここでいう内定とは、「第一志望ではなかった企業の内定」です。つまり、この時期に中堅企業に採用されやすいのは4月以前にも中堅企業をある程度、回っていた学生です。本命の有名企業を狙いながら、ちゃんと保険をかけているのですね。笑い話のようですが、4月に生保・損保業界の大手企業ばかり狙っていて結果が出なかった学生は、自分の就職活動に保険をかけるのを忘れているのです。

 

採用担当者もそこを良く見ています。ですから、この時期の採用面接では必ず学生の就職活動状況を質問して内定の有無、もしくは最終選考までいったかを確認します。採用担当者にとって、他企業の内定を持っている学生は安心ですから。まだ自分の選考眼に自信の無い採用担当初心者には、そこを最重視している方もいます。(逆に景気の良いときは、大手の採用選考基準も緩みますので、失敗することもあります。)

 

ということで、学生に注意して欲しいと思うのは、自分の採用活動のポートフォリオ(リスク分散)をしっかり考えることと、資質・志望のミスマッチだけではなく、状況が変わった今は「時期のミスマッチ」も忘れないことですね。4月以前は大挙してやってきた航空・金融志望者等が、この時期に焦って一気に方向転換しているのは、見るに忍びありません。

第184号:文科省の就業力育成支援事業

GW明けで就職指導もますますご多忙な時期かと思いますが、官公庁の公募シーズンでもありますね。大学によって体制はそれぞれですが、今回の文科省の公募のように「就業力育成支援事業」となると、就職課やキャリアセンターの職員の皆さんにいきなり仕事がふられることがあるのではないでしょうか。この季節は私の方にもこうした相談を戴くことがありますが、今回の案件はなかなかハードルが高いと感じます。

 

まず「就業力」というものがよくわかりません。英語のエンプロイアビリティ(Employability)の訳から来たものかもしれませんが、これは一般に「企業に雇用されうる力」と解釈されるので「就職力」でも構わないでしょう。ところが、今回の「就業力」というのは、どうも企業に就職する(雇用される)能力だけではなく、もう一回り大きな概念で、(企業への就職も含めた)自分で生計を立てていく力という感じです。選定の要件に資格ではない「実学的専門教育」が必須になっておりますから、私のように何らかの専門性をもった個人事業主(フリーランサー)もイメージされているのかもしれません。(新卒学生にはあまりオススメしませんが。)

もっと官僚らしく「税金を納められる力」と言ってくれた方がわかりやすいかもしれませんね。これは冗談ではなく、納税できない(しない)国民が増えるということは国家の一大事ですから。「税金を払う能力(経済力・自立力)と意思(責任感・愛国心)のある新社会人の育成」と言ってくれたら凄くわかりやすくありませんか?

更に悩ましいのは「社会的・職業的自立に向けた指導等(キャリアガイダンス)」が大学組織間の有機的な連携で行える体制を求めていること、極めつけはこれらの就業力育成情報の積極的公表を行うということです。ここまで来ると、一流の経営コンサルタントでさえ唸ってしまいそうです。

 

さて、頭を抱えてばかりはいられませんので知恵を巡らせると、やはり今後のこうしたキャリア教育分野については企業(またはNPO等)と連携するのが一番なのかと思います。これは企業側にもメリットはありますから。数年前から私が主張しているのは、採用担当者は「不採用活動担当者」になってはいけないということです。多くの企業が莫大な予算をかけて行っている広報活動は、知名度向上等には意義があっても、膨大な応募者、それも画一的な思考の学生を大量に産み出しているように見えます。前回のコラムの通り、学生を画一化している犯人は採用担当者なのかもしれません。その結果、ひたすら面接を繰り返しているのは自業自得といえます。

そうした画一的な採用活動ではなく、いくつかの大学としっかり連携を組んで、短時間のセミナーではなく、ちゃんと社会・企業・仕事を教育し、その結果として良い人材を評価・確保できるような本当の「育成・採用活動(私はこれを養殖型採用と呼んでいます。詳細は下記サイトをご覧下さい。)」を行うべきではないでしょうか。これを「青田買い」と言う人もおりますが、とんでもない。青田は放っておいても稲は実りません。手間暇・愛情(教育)をかけて初めて実りますし、若者には稲と違って足があるので気に入らないと逃げちゃいますからね。今回の公募案件を契機に、大学と企業が改めて正しい(理想的な)連携を考えるキッカケになって欲しいと思います。

▼参考URL:成功する採用「狩猟型より農耕型」(日経ビジネスオンライン)

http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20100408/213911/

第183号:内々定者向け圧迫面接

採用選考面接にはいろいろな手法や形態がありますが、これは本当に意図的に行われているのかな?と思わされるのは「圧迫面接」です。ネット上に展開される匿名就職情報サイトでは、「××企業で圧迫面接をされた!」という書き込みを見かけますが、その多くは学生側の被害妄想のように思えます。最近の学生はかつてほどストレスに強くないことが原因だと推測されますが、何分、密室で展開される採用選考面接の性格上、その実態を把握することはできません。しかし、これは明らかに「圧迫面接」だな、と感じさせられるシーンがあります。それは、採用選考で合格判定が出て、内々定を出した学生に対するものです。

 

ちょうどこの原稿を書いている時に、とある有名企業の最終選考を終えて内々定の結果を戴いた学生から、就職活動の進捗報告がありました。

採用担当者「内々定、おめでとう。来春、当社に入社してくれるね?」

内々定学生「はい、お世話になります。」

採用担当者「では、今後、君が一番、やっちゃ行けないことがあるけど、何だかわかるかな?」

内々定学生「えーと、わかりません。何でしょう?」

採用担当者「それはね、内々定辞退だよ。それは人として最低の行為だからね。」

内々定学生「はい、御社は第一希望ですから大丈夫です!」

 

と、就職課の皆様もこうしたエピソードは度々、耳にされていることでしょう。このシーンは、一見和やかに見えますが、採用担当者に良識(というより法的知識)があるならば、これは明らかなコンプライアンス(遵法精神)違反の圧迫面接ですね。実を言うと、この学生は別に本命の企業があり、そちらに合格したらこの企業はサッサと辞退するつもりでいます。本人の言う「第一希望」とは「(結果の出ている企業の中での)第一希望」という意味ですから。(さて、この後、どうなることやら・・・。)

 

別の学生のケースで、この続きを聞きました。めでたく(?)本当の第一希望に内々定し、第一希望から第二希望になった企業に辞退の意思を電話で伝えたところ、案の定、呼び出されて本格的な圧迫面接が行われました。会議室で3人の社会人に3方を囲まれて、

右の社会人「こっち向いて、謝れよ!」

辞退学生 「申し訳ありません。」

左の社会人「なんで、俺に背を向けてるんだよ!」

というような調子で、延々と1時間、しぼられたそうです。これが本当の圧迫面接ですね。

 

私も採用担当者でしたから、学生から裏切られる気持ちの辛さはわかります。しかし、こうした態度を取る企業は許せません。実名を明かしたい気分です。1年先で入社直前の辞退ならまだしも、超早期化の採用活動を行っておいて、こうした圧迫面接を行うのは人として最低の行為だと思います。

これは誰でも知っている超有名大企業でのケースですが、こうした企業がセミナーでアピールするCSR重視の経営とは何なのでしょう?超早期化の採用活動に対して有効な是正策がない現在、少なくとも内々定者の基本的人権(職業選択の自由)を侵す圧迫面接は禁止する、という行政指導くらいあっても良いのではないでしょうか。まあ、狐と狸の化かし合いと言えば、それまでなのですが。

Just another Recruiting way