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第370号:大学と企業のリテンション活動

大学入試もほぼ終了し、変わって採用活動が始まりましたね。私の方にも既に教え子から「内々定を貰いました!」「就活終わりました!」という吉報が届いています。大学入試であれ、企業採用選考であれ、少子化の現代は合格を出せば終了ではなく、ちゃんと入社・入学して貰うためのリテンション合格辞退防止策)が重要です。

先日、大学構内で見知らぬ親子連れと雑談になりました。不安げに大学を見回りながら歩いていたのでお声がけしたのですが、いくつかの大学受験に合格し、何処に入学するか迷い、改めて各大学の入試広報部署を訪ねて相談に回っていたそうです。

ところが、何処の大学も職員が上手く説明できないし、知りたいデータもなく、途方に暮れていたそうです。大学はもっとリテンションに力を入れないといけませんね。合格した学生に、ちゃんと他大学(少なくともライバル校)との違いを把握して説明したいものです。旧来のローテーション人事を続けている大学ではそうした専門性を高めるのは難しいのでしょうけど。

私はいつもオープンキャンパスで保護者や高校生に、大学とは何か、学部の違い、校風・創立の歴史の違いについて話しているので、この親子の不安点に回答していたら、次から次へと質問が出てきて、結局、授業1回分の時間が過ぎました。(これは高校で行うべきキャリア教育かもしれませんね。)

結論は自分で出すものですが、不安そうだった高校生から笑顔が出てきました。意思決定のヒントを得たようで「先生の授業で再会できたら嬉しいです。」と言ってくれ、「他大学に行っても、どうぞ我が校に遊びに来て下さい。」と伝えて見送りました。これは教員としての言葉でもあり、大学OBとしての言葉でもあります。

さて、世間では就活シーズンが活発になってきました。企業でも、自社のことをちゃんと説明できる採用担当者はどれだけいるのでしょう?学生相手に話すには、自社の歴史・理念・現経営者の方針等、幅広い知識わかりやすい説明力が必要です。更に自社だけではなく、他社との比較の上で独自性・優位性をのべなければいけません。しかし、人事しか経験のない人は現場をあまり知りませんし、転職経験がない人は自社の強み弱みを意外と知らないことが多いです。

仕事柄、企業の採用説明を数多く聴いていますが、世間知らずの学生相手に「知ったかぶり」採用担当者が多いと感じることもあります。学生に志望動機を求める時は、「何故我が社だ?」と死ぬほど問うのに、自分が問われたら応えられるのでしょうか?

大学職員も企業採用担当者も勉強し続けなければいけませんね。自大学・自社のことを知るのはとても楽しいものですし、自分の大学・会社・町・国・世界を知れば自慢もできます。愛校・愛社精神を最初から持っている人など殆どいません。しかも、人は「知らない」と「向かない」を混同しがちです。

知識があれば感性が変わり行動が変わり、人生が変わります。そうした「縁つなぎ」は大学入試広報・企業採用担当者の大事な役割だと思います。

第369号:オリンピック選手から学ぶこと

冬季オリンピックも終盤ですね。純粋に頑張る選手達からは数多くのドラマと感動が伝わってきます。私の教え子にも日本・世界レベルのトップアスリートがおりますが、彼・彼女らの思考・行動パターンは、就活をする学生にも参考になると思います。

私自身も大学時代に運動部のはしくれでしたが、結果を出す強い選手の共通点は、以下の3つです。

1.迷っている時間が短く、行動している時間が長い。

2.自分より強い相手に、負けを恐れず挑戦する。

3.環境を言い訳にせず、対策を考える。

なんといってもトップアスリートが凄いと思わされるのは、意思決定が抜群に早いことです。何かの問題や課題があった時に、すぐに判断して行動を始めます。どんなに厳しい練習だとしても迷わず始めるので、練習時間が長くとれるのです。早く始めれば早く終わるだけでなく、仮に失敗しても修正する時間があります。
就職活動も試行錯誤の連続です。未知の世界を相手に不完全の中で意思決定をしなければなりませんので当然のことですが、失敗を恐れて判断を先送りにする就活生が多いようです。応募書類の提出でも、締め切り日から逆算して書き始めて迷い、中途半端で提出する学生はいませんか?

これは私の知人で日本のトップ経営コンサルタントにも共通しています(ちなみに、この方も学生時代にバドミントンで日本代表になったことがあります)。この方が講演でおっしゃっていました。「どんな人でも持っている時間は同じなので、迷っても良いけれどできるだけ早く決め行動する時間の方を長くするべきです。」言われてみれば当たり前のことなのですが、なかなか難しいことですね。

次に、どんな厳しい試合であっても、勝つことを第一に考える点です。どんなスポーツでも「ここまで頑張ればいいや」とか「あの選手には勝てないな」とは考えません。仮に考えたとしても絶対に口外はしません。以前、ヒットしたTVCMで「自分より強いヤツを倒せ。」というフレーズがありました。
就活生に全部高望みをしろと言う気はありませんが、社会に出ようとする若者には「等身大」などという言葉は使わず、自分の限界まで背伸びして欲しいと思います。自分より強い相手と闘うために勝つ努力をすることが、結果的に自分の力を伸ばすのですから。

最後に、どんな厳しい環境でも、その中でできる最善策を考えることです(今回の冬季オリンピックでは選手生命に関わる問題のある無理な競技運営もありましたが)。不安定な自然を相手にするスポーツ選手と、未知の社会を相手にする就活生は状況が似ています。環境は自分で左右することはできませんが、トップアスリートが負けた時に言い訳にする人は少ないと思います。うまくいかないことがあっても、言い訳をする時間があれば、敗因を考えて次に向けてチャレンジしていますね。

この冬季オリンピックではついに過去最高のメダル獲得数になりました。結果の出なかった種目もありましたが、トップアスリートの最後の頑張りを見て、就活生も不安に負けずに動き出して欲しいものですね。

第368号:入試改革、教育改革から成績評価改革へ

私大の入試が始まり、大学近辺には緊張感が漂う季節となりました。私は兼任講師(非常勤講師)なので入試業務には関わりませんが、入試採点同様、在学生の期末試験採点のヤマ場で緊張感をもって取り組んでいます。採点をしながら思うのは、成績評価はA、B、C、D評価でシンプルだけれど、これで良いのだろうかという点です。特に私のように、企業採用担当者出身でキャリア教育を担当している教員なら、もっと別の評価基準を加えたくなると思います。

2020年度からのセンター試験の改革は紆余曲折しながら進み、それに合わせて授業改革も段々と進められています。キーワードになっている、アクティブラーニング、ナンバリング、キャリア教育等々もシラバス制作等にだいぶリクエストされるようになってきました。そして、最後の卒業認定・学位授与の出口も「厳格化」という方向で進んでいます。文科省の学校教育法施行規則の改正における3つの方針が着実に推し進められているわけですね。

この方針については是非もありませんし、採用担当者としては学校成績の「厳格化」は歓迎ですが、それがA~DのGPAだけではとても満足できません。伝統的な講義型授業の理解達成度ならこれでも十分、参考になりますが、そこで得た深く広い知識や分析力・考察力がどの程度「応用・発揮」できるのかが不明だからです。研究者になるための大学内部評価ならそれでも大学内で仕事のできる人材にはなるでしょう。しかし社会で生き抜くためには(採用担当者の参考になるためには)、そうした知見を実践させる「演習」が必要であり、そこで達成された能力の成績指標が求められます。

演習」については、キャリア教育やインターンシップ(当然、1day等のセミナー系は含みません)やPBLで、これも入試改革同様に紆余曲折しながらもだいぶ研究も実践も進んできました。しかし、これだけ教育に力が入っていながら、最後の成績指標がGPA評価では勿体ないと思います。例えば、社会人基礎力のような3つの指標「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」別に段階評価する等の工夫が欲しいです。これが、冒頭で述べた私が感じている疑問です。

企業の採用選考でも総合評価の採点は、A~D等のランク別になっていますが、その構成要素には、行動力・思考能力・対人能力等の下位指標があります。これらは職種別に異なり、同じAランクでも構成要素が異なることは当然です。営業職と開発職では求められる資質が異なるのですから。

実は私の成績評価も、こうした下位指標を設定してその総合評価としてA~Dランクにしています。しかし、こうした成績記号だけを貰っても学生が自分の能力を理解して改善・強化は困難です。自分の長所と課題が具体的にはわかりませんから。今年度は試しにこれらの指標を学生に個別フィードバックしてみて反応を聴いてみようと思っています。

全ての科目をそこまでフィードバックするのは大学として大変かもしれませんが、少なくともキャリア教育等、演習型の教育ではこうした評価に変わって欲しいと思います。「講義型授業成績」と「演習型授業成績」の二本立てならでも、採用担当者の見る大学の成績評価も大きく変わることでしょう。それとも、これらも英語の入試改革と同様に、外部機関の評価に委ねられることになるのでしょうか。

第367号:放送大学から学ぶ新卒一括採用改革の可能性

入試の季節が近づいてきました。いよいよ2018年問題が数字として現れてくるのでしょう。この問題は18歳人口が限られているので、年々厳しい結果が出てくることは間違いありません。企業側には採用活動の未達という現実への対処が求められるので、新卒一括採用の本格的な見直しになるでしょう。そんな背景の中で、放送大学の運営は参考になるかと思われます。

新卒一括採用の効用については賛否両論ありますが、18歳人口の減少で若者労働力が供給面から破綻してくることは確実なので、将来性が低いことには是非もありません。日本の労働力問題と同じで、女性・高齢者・外国人に期待するように、大学は共学化、社会人入学、留学生募集等、対策を講じてきましたが、この中では社会人入学(リカレント教育)がまだ手薄のように思います。

それを私が肌身で感じたのは、放送大学でのキャリア教育の授業からです。私は7年前から放送大学の非常勤講師として面接授業を担当してきました。内容は教育社会学やキャリア教育に関するものが中心ですが、私のクラスを受講する社会人大学生のレベルが年々、向上しているのです。大衆化の進む一般の大学では、逆に年々学力の低下を感じています。

例えば私の担当科目の「キャリアデザインの基礎知識」では、当初はフリーターの社会人学生、就労経験がない若者、現役をリタイアして趣味で学ぶ高齢者が多く、カルチャースクールのような雰囲気でした。ところが最近は、大学や公的機関の就労支援者、企業の人事採用担当者等の現場で実践しているミドルクラスの方々が増えてきました。今年度は約40名の受講生のうち、キャリアコンサルタントの有資格者が10名以上おり驚きました。

私のシラバスで想定していた初学者の内容を越える具体的で実戦的な質問が飛び交い、キャリアコンサルタントやキャリア教育担当者の養成講座のようになってきました。これはこれで有意義な授業になっているのですが、こうなるとカリキュラムも基礎編・応用編・実践編等に構成しなおさなければ多様なニーズに十分にこたえられません。ちなみに放送大学ではキャリア科目が少なく、私の講義は抽選になっていると最近、知りました。

こうしたハイレベルの社会人学生の学習動機は、現状の仕事を向上させるため「越境学習」に来ている方が多かったので、転職や就職を考えているわけではありません(放送大学にはキャリアセンター等の機能もありません)。しかし、これだけ有能な社会人学生が増えてきたのなら、しかも在学生にキャリア系実践家が居るのなら、就職相談員は内部調達でピアサポートも可能でしょう。社会人の学び直し(リカレント教育)が単なるカルチャースクールではなく、真の社会人キャリア教育の基盤になれば、放送大学は質も量も一般大学を凌駕する大学になるかもしれません。

放送大学は元々、反転授業対応(通信教育)で、アクティブラーニングにも対応(面接授業)しており、かつ一般の大学にない敷居の低さで9万人の学生(学部+修士)を集めています。入試改革、授業改革、就労支援等、2018年問題の対策に、多くのヒントになるのではないでしょうか。

 

第366号:採用担当者の働き方改革

新年おめでとうございます。企業人事、大学教職員にとって「問題」となる2018年が始まりました。人口減少は、受け入れ難いことですが動かしがたい事実ですね。政府が「一億総活躍社会」を掲げて「働き方改革」を推し進めようとするわけです。今年はこの影響が日本社会の至る所で現れてくるのを目の当たりにすることでしょう。そして、それは労働集約的業務に従事する採用担当者も同じです。

私が思い出すのは、前職で人事部に異動になり、初めて採用活動部署に出社した日(1995年4月)のことです。当時の人事部は20人弱の部員がおりましたが、早朝からオフィスの電話が鳴りまくっており、部員総掛かりで電話応対しています。営業部から異動し来た私が、顧客に何かのトラブルが発生したのかと驚いて立ち尽くしていると、若い採用担当者が「鈴木さん、かかってきた電話を受け付けてこのリストに学生の名前と大学名と電話番号を記入して!」と早口で伝えてきました。IT全盛の今では見られなくなった光景ですが、企業説明会の電話受付だったのです。郵送で送ったDMを人事部で受け付けていたのですね。この騒動は業務時間中の朝から晩まで2~3日間続きました。

90年代後半から企業の採用広報はWebサイトによる告知やセミナー受付に移行して就職ナビサイトも増え、このような仕事はなくなりましたが当時は立派な正社員の仕事として存在していたのは今でも信じられません。そして、いまこれと同じような仕事の変化が起きようとしています。

実際に採用担当者自身が自分の働き方に疑問を持ち、新しい働き方(起業パラレルキャリア)に向かう動きが増えてきています。また、既に報道加熱とも言えるAIの衝撃もあります。こちらは採用担当者の環境を変えて仕事そのものを消滅させてゆくでしょう。

こうした働き改革のもっとも困難なことは、これまでの延長線上の経験で対応できるものではないことです。起業にしてもAI対応にしても、人事関係の知見(ちなみに採用活動しか経験のない採用担当者は意外と人事労務の仕事を知りません)だけでは無理で、経営学や統計学の知識、また実践知がないと実現できません。「改革」というものは、過去にない非線形の変化・変身をすることですから。

こうした経験をしてきた私見では、正直、一般企業の採用担当者がどの程度対応可能なのだろうと思います。政府が進める「働き改革」が困難な理由と同じです。しかし、このような挑戦をしていかなければ、2018年問題の津波にのみ込まれることになるでしょう。それは大学関係も同じです。

大変な時代の幕開けではありますが、ピンチはチャンスです。今の仕事が無くなる反対に、必ず新しい仕事も生まれてきます。そうした挑戦の年になれば良いと思います。

▼参考URL:

・株式会社HARES コラム「採用担当者にこそ、働き方改革を」2017/06/22

http://hares.jp/2017/06/22/parallel-preneur-ishikura/

・株式会社ディー・サイン 2017/7/25(DE-SIGN INC.)

https://www.workstyle-box.com/single-post/2017/07/25/AIによる新卒採用~働き方改革に向けて活用~

第365号:大学生のパラレルキャリア

早いもので、今年も1週間余りとなりました。師走で教員が多忙なのは当然として、前回のコラムの通り、学生も企業のインターンシップに呼ばれて走り回っています。お陰で大学内での業界セミナーに学生が集まらないという声をあちこちで聞くようになりました。体が二つ欲しくなる季節ですが、最近、「ラレルキャリア」が話題になっています。よく見てみると、大学生も結構、パラレルキャリアをやっているようですね。

パラレルキャリアはドラッカーの紹介によりますが、法政大学同僚の石山恒貴教授が同名の著書を出され、国の「働き方改革」の勢いもあって社会的認知は上がっているようです。一般に、副業・兼業と同じに見なされていますが、定義はさておき、本来の仕事は異なる場所でも活躍することと考えれば、大学生の授業と部活やアルバイトは立派なパラレルキャリアと言えるでしょう。

しかし、パラレルキャリアで難しいのはやはり本業との両立で、本来の意義では複数の活躍場所をもつことで相乗効果を生むことを言いますが、結局、どちらかに軸足を置くことを考えないと悩ましいです。高度成長期の大学生が言い出した「大学は勉強だけの場所ではない」という言葉は、その難しさを表しています。正副業が逆転して、プロスポーツ選手やミュージシャンになるために大学に来る若者はそうした環境を活用していました。

さて、面接の場でも学生からパラレルキャリアに似た以下のセリフを良く聞きます。

「大学の授業がつまらないので、これではいけないと思い、専門学校で資格取得を目指しました。」

というものです。学生はパラレルキャリアというより「ダブルスクール」と言いますね。

(採用担当者として二点突っ込みたくなるのは、両方とも十分にできなければ「ダブル」(副業・兼業)ではない、「目指す」だけなら誰にでもできる、という点です。笑)

上記の通り、パラレルキャリアは正副の意識はどちらでも良いですが、「両立」や「相乗効果」がなければ意味がないと思います。

学生のサークル活動を見ていると、近年は「兼サー(兼業サークル)」が当たり前になりました。昭和の時代に運動部で過ごした私には信じられないことですが、社会の変化もあって、現代の学生の方がパラレルキャリアを上手に使うかもしれませんね。

実は私も20年前からパラレルキャリア(兼業)を続けています。このメールマガジンのコラム連載もその一つで、気がつくと今年で15年にもなりました。これまでバックナンバーは放っておいたのですが、たまにお問い合わせを戴くこともありましたので、初回(2002年6月)からのコラムを私のブログとして下記にアップ致しました。目次もなく振り返ると恥ずかしいものもありますが、ご関心のある方にご笑覧戴ければ幸いです。では、どうぞ良い年をお迎え下さいませ。

▼大学様向け就職支援ソリューション(ダイヤモンドヒューマンリソース社)

http://www.diamondhr.co.jp/university/university.html

▼コラム(The 採用最前線!)バックナンバー

http://www.recruiter.jp/wp/

第364号:1年生のオープンゼミ(ゼミ見学)欠席

最近、授業を休む1年生が目立ちます。オープンゼミ(低学年向けゼミ体験参加)が授業時間内に行われるからです。これまでゼミは高学年が近づいてきてから考えるものという認識でしたが、今の1年生は意識高い系と言いますか、不安症候群といいますか、年々、早く動くようになってきました。企業と同じで、大学教員も早期に良い学生を囲い込みたいのでしょう。こうした動きを見ていると、背景にあるのはゼミ所属の高学年生の熱心な勧誘活動です。彼らは自分達が体験した企業の採用活動をそのまま後輩達に仕掛けているようですね。

いま、ゼミの勧誘・選考の主体になっている3~4年生の多くは、企業の短期インターンシップ(本来のインターンシップではない青田買い型)を体験した就職活動をしています。セミナーに始まり、エントリーシート(筆記試験)⇒グループ・ディスカッション、面接という選考の「三つの神器」を経て内定を勝ち取っており、その手法をゼミの後輩採用に活用しているわけです。

このように、ある特定の組織やコミュニティにおける知見や行動様式を、外部の人間がやってきて体験しながら学ぶことを経営学では「越境学習」と呼び、それを自分の所属する元の組織に伝搬する人のことを「ナレッジブローカー(knowledge broker:知識の仲介者)と呼びます。大学における留学と同じですね。この視点では、留学生は単に自分の学習のためだけに海外へ行くのではなく、現地で得た知見を自分の大学に還元することも期待されています。留学生選考面接でも、こうした視点を持った学生は好まれるのではないでしょうか。

また、学生がゼミの採用選考に関わるのはわるいことではありません。米国MBAでは、応募条件に複数の卒業生(OB/OG)から推薦書を貰うことを当たり前に求めます。卒業生は、大学から依頼されて応募者にインタビュー(面接選考)を行い、その心象を報告(推薦)書にまとめます。卒業生が第一関門なのです。

閑話休題、履修している学生をオープンゼミで奪われる教員、特に私のようにグループワークを行う授業では、欠席した本人だけの問題ではなくグループ全体にとって大変な迷惑です。1回位ならなんとか許せても、就活と同じで1年生は複数のオープンゼミを受けたり、これも企業の採用活動と同じで一度参加したオープンゼミで上級生から有望だと思われると、通常のゼミにも継続して参加を勧誘されたり、いわゆる「囲い込み」にあいます。

以前は、1年生からゼミに関心をもつとは偉いなと感心していましたが、これがどんどん増えてきて、経済学でいう「合成の誤謬」(一つの組織では有効でも皆が行うようになると破綻する現象)になってきました。就活のインターンシップと同じで、倍率の高い人気ゼミに入りたい1年生にとっては、つい履修授業を欠席してゼミに参加してしまうのでしょう。

いやはや、企業インターンシップで欠席する3年生だけではなく、学内から1年生まで奪われるとは。企業の採用活動の変化が、大学教育にこんな形で影響を及ぼしてくるとは思いもよりませんでした。

第363号:院落ち就活学生のその後

9月末にご紹介した大学院入試を不合格になり、まったく白紙の状態から就職活動を始めた学生から内定を手にしたという連絡がありました。一肌脱いで支援した甲斐があったというものです。こうした学生達を見ていると、内定を採れる学生と取れない学生の人物像や行動パターンが読めてきます。

以下は内定を戴いた学生からのお礼メールです。個人情報を伏せてそのまま転記します。

「以前、就職セミナーで大変お世話になりました××です。

ご相談した●●社に、無事に内定をもらうことができました。

これもセミナーの後に、長い時間履歴書や面接の対策を手伝ってくださった鈴木先生のご助力のおかげだと思っています。数時間ではありましたが、私の就活の中で非常に大きな指針になりました。

本当にありがとうございました。
これからは立派な社会人になれるように精進したいと思います。連絡先の確認に手間取ってしまい内定のご報告が遅れてしまって本当に申し訳ありません。

またタイミングがあえば直接お礼を言いに行きたいと思っています。」

仕事柄、無数の就職相談にのりますが、その後にこうした報告を貰うのは一握りの時代になりました。私の力というより、こうした配慮ができる人だから通ったのでしょう。実際、指導にそれほど手間がかかったとは思いませんでした。採用内定を取れる学生には以下のような共通点があると思います。

・レスポンスが早い   ⇒意思決定の速さ、行動から学ぶ

・優先順位をつけられる      ⇒論理的思考能力、理性で判断する

・苦しくても明るい   ⇒自己効力感が高い、楽観力がある

総じて、不完全な情報や環境の中で意思決定ができ、自分が判断できないものはすぐに他者に相談して対処策を考える力のある人です。これは何処の企業の採用担当者も求める資質です。

また冷静に見ると、就活を始めて1ヶ月強で有名企業に決まったので、メチャクチャ効率が良いですね。本人からしてみれば、崖っぷちで必死に活動したのでしょうし、もっと時間があれば良かったのにとも思っていたでしょう。しかし結婚相手選びと同じで、お見合い相手が多ければ良いとか恋愛期間が長いから上手くいくというものでもありません。

一方で、まったく内定の取れない学生も居るのですが、そうした学生の特長は、なかなか意思決定が出来ない、行動しない点です。

そして、こうした就職活動の成否は内定を採れる学生と取れない学生の差は、やはり子供の頃からの趣味や遊びや家庭環境に依存しているのではないかと思わされます。企業人事や教職員のできることは本当に限られたことなのかもしれませんね。

第362号:大学教員の就職シーズン

秋学期も中盤となり、大学教員の公募・就職シーズンもたけなわです。私事ながら、今年度で法政大学のプロジェクトが終わり、私も就職活動をしてみようかと大学の求人公募を物色してみました。大学生の就職活動とは違う風景が見えて面白いですが、懐かしくも不可思議に感じることも多いです。

周知の通り、来年度(4月)の教員公募は夏頃からボチボチ始まり、秋学期になると非常勤講師の募集も一気に増えてきます。これは私の大学時代と同じタイミングで、当時の就職活動は4年の10月が公募解禁日でした。有名企業のビルをリクルートスーツ姿の学生が行列をなして履歴書を届けるのが風物詩でしたね。いま思えば、そこから卒業までの半年で、今とは進学率も大学生数も異なるので比較は出来ませんが、よくぞ大半の大学生が進路を決めたものです。経済学的にみると、恐ろしく効率の良い市場マッチングでした。

そんな中でも今と同じくフライングする企業があり、10月から企業説明会のはずが裏側では内々定式を行っていたりしました。金融機関などでは顕著で、支店長推薦等で既に殆どの内定枠は埋まっているのに、解禁日にやらせの採用活動をやっていて、現場の担当者もやる気がなかったが謎でした。

同様に、大学の求人情報を採用担当者の視線で見ていると、これは「出来レース」だなと感じさせるものがあります。公募期間が異様に短い(20日間位)、募集用件がピンポイントでハードルが狭い等が特徴的ですが、この辺の大人の事情は皆さんの方がご存知でしょう。

これは企業でもあることで、実際は早期採用や縁故採用で過半数が既に内定済みなのに、協定や倫理憲章遵守のアリバイ作りで求人広告を出したりセミナーを行ったりしていました。大学も企業も無駄と知りつつお上の方針に従っているわけです。勿論、採用広報手法としてハードルをあげるのは当然のことです。大学大衆化時代になり、やたらに応募者を集めるより、ターゲットを絞ったダイレクトリクルーティングへ移行していますね。しかし、一番気の毒なのは何も知らない応募者です。

というわけで、これから私も初心の学生気分(?)に戻って就職活動をしてみようと思います。これも周知の通り、2018年問題を前にして、大学は厳しい経営状況に直面しています。企業での非正規社員の処遇問題と同様、非常勤講師・特任教員の扱い方の問題がありますが、まあ宝くじも買わないと当たりません。就活にとって大事なのは、いつも学生に言っていますが「犬も歩けば棒に当たる」歩かずに待っている犬にはチャンスは来ないということです。「捨てる神あれば拾う神あり」ですし、こうした楽観性と達観力がないと就職活動は本当に辛いものになりますね。

最後に一つ問題提起しておきます。それは大学研究者に教育者の面接(評価)は可能なのかという点です。研究業績はともかく、長年の経験から教育スキルとして疑問に思う方々と出会ってきました。特にキャリア教育の領域では、何故この人が採用されたのか不思議でした。その謎も、自分の就活で解けたら嬉しいと思います。

▼参考URL:年収300万円「非常勤講師」が苦しむ常勤の壁2017/10/25 (東洋経済オンライン)

http://toyokeizai.net/articles/-/193885?page=2

▼参考URL:ポスドク問題の次は「特任教員問題」が発生か2017/6/25 (JBpress)

http://news.livedoor.com/article/detail/13140930/

第361号:大学教育と就職指導をつなぐキャリア教育

「この秋は大学の就職セミナーに学生の集まりが今ひとつです。」と、先日、大学就職課職員の方から伺いました。昨年までは100人規模で集まった人気講座に数名の申込しかない日があるとか。この大学だけの現象なのかは定かではありませんが、一葉落ちて天下の秋を知るように、2018年問題を控えて就職指導のあり方もそろそろ見直されるべき時期なのかもしれません。

最近の学生を見ているとだいぶ忙しそうです。大学祭のシーズンのせいかと思いきや、主力の3年生は就活で忙しかったり、文科省ご指導の学業重視政策で大学祭そのものが縮小になったりしているところもあるそうです。確かに、例年ではこの時期にあまり見られなかった平日インターンシップが増え、学内では入ゼミ生募集を兼ねたオープンゼミで授業を欠席する学生も目立ってきました。

こうした中で学生の就職指導を進めるには、大学教育との融合を本気で図るべき時期になってきたのかもしれません。10年ほど前から登場・発展してきた多種多様なキャリア教育は、本来の大学教育と就職指導をつなぐ役割を果たしてきたと思います。それらは「社会人基礎力」を代表にするように、当初は大学外部からの要請が強かったせいか、本来の大学教育に「ネジ止め」されてきましたが、これからは「融合」することによって就職指導の効率化が図れるのではないでしょうか。その視点から、私はキャリア教育について以下の三つの定義をもっています。

1.生徒から学生へ導くもの

正解のある問題を効率的に解く力を求められた高校の学習方法から、正解のない問題に取り組む意思、自ら問いを設定して解き明かす力を身につける大学の学び方の違いを指導・演習すること。

2.大学の学びを社会に向けて応用する

研究活動の成果を社会に展開する応用力と発信力を身につけ、大学低学年次に身につけた資質を更に伸ばす。PBL(Project Based Learning)を用いた産学連携型授業で社会の評価を受けながら実践する。

3.学問を統合して理解するもの

大学教育には高学年になり専門科目が中心になるに従い、幅広い視野を忘れがちな構造的宿命がある。その学際領域の学びを育むために各学部の知見を得た高学年次に学部横断の公開授業を行う。この学習からいずれの学問にも共通の「アカデミックスキル」を気付かせ、大学の学びの汎用性を認識させる。

上述の三つの定義を総じて「キャリア教育とは大学と社会をつなぐもの」といえましょう。バレエに例えれば、本来の大学教育はクラシックバレエ的で、世俗の事象や経験をメタ認知化(言語化・理論化・法則化)して天上をめざす伝統的学問でしたが、その後にモダンバレエ的な地に足を着けたフィールドワークが登場してきました。前者は理想を求め続ける故に天から降りられず、後者は多様で実践的なので地上から離れられません。この天に上がった概念を地上に戻す(有効活用・応用する)のが、現代の実践知型キャリア教育(PBL・インターンシップ等)ではないかと思います。そんな形で発展すれば、就職指導の形もこれから新たな形態に変わっていくのではないでしょうか。

▼参考URL:学園祭 縮小傾向…「就活熱」「学業重視」 2017/10/27 (毎日新聞)

https://mainichi.jp/articles/20171022/k00/00m/040/110000c