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第380号:レポート・期末試験の「20代のキャリアプラン」

春学期の期末試験も終わりお盆休みを前に、教員は採点の追い込みとなり、職員の皆様はオープンキャンパス等でご多忙なことでしょう。私も先日、授業のレポート・筆記試験の採点を終えましたが、たまに課題にする「20代のキャリアプラン」を見ていると、最近は一定のパターンが見えてきました。これは企業採用担当者も今後、意識していかなければならないことだと思います。

近年、学生のキャリアプランで増加中なのは以下のパターンです。

・大企業に入社して3年間は頑張る。

・その後、外資系に転職して専門性を磨く。

・その後、留学or進学して社会活動(or結婚&出産)もする。

これらは、就活面接でよく問われる「10年後の貴方」という質問とほぼ同じです。流石に学生も採用選考の場では「転職」を「社内異動」と言い換える大人の対応をしています。

キャリア形成を企業に依存せず自分で作るのは欧米型の特長ですが、日本の学生の意識もメンバーシップ型からジョブ型に徐々に移行してきたのか、またはキャリア教育の成果かもしれません。

もっとも、学生の意識は実際の知見(実践体験)に基づかない耳学問が多いですから、そのまま良しとするのも問題です。マスコミがもてはやすスーパースターもレアケースが多いです。

さて、伝統型日本企業が考えなければならないのは、こうした若者を如何に活かして能力を発揮させ、利益に貢献し始めた頃に初期投資回収の視点になるのではなく、再投資でより大きな利益を相互がえられるような人事制度、リテンション施策でしょう。流行の表現をすればメンバーシップ型雇用2.0ですね。

このようなキャリアが認められてくると、大学新卒3年以内退職言説は、立派なキャリアプランとして評価が変わるかもしれません。過去の視点だけで現在の現象を見ているといずれ時代に遅れになるのは、昨今の官僚やスポーツ関係の不祥事を見ていても同じです。

ちなみに、この課題での私の主な評価ポイントは以下です。企業の採用選考基準にも似たようなものでしょう。内容の評価よりも、授業の基本や論理性が指導通りにできているかが重要です。即戦力は求めていませんが、大学での基本(即戦力性・汎用性)を求めています。

・授業での知見を発揮しているか?

・構造的に論じているか?

・具体的か?(夢ではなく目標にしているか?)

・明日から実行できるか?

同様な質問で「この夏休みの貴方のキャリアプラン」を課することもあります。プランは実行できなければ青い鳥と同じですが、まずは青い鳥でも描いてみると、自分自身の良い点や未熟さに気づけて、長い夏休みを少しは有意義に過ごせるのではないかと思います

第379号:大学の裏口入学と企業の縁故採用

大学業界の末席で仕事をしていて慣れてしまったせいか、文科省官僚不祥事には驚かなくなってしまいましたが、東京医科大学の裏口入学には怒りを禁じ得ません。通常の事件と違って受益者が身銭を切るのではなく、税金(補助金指定の権限)を財源にして個人の利益の忖度を求めているところが悪質極まりありません。昨年の「文科省天下りあっせん問題」を思い出させます。

さて、裏口入学と似て非なるものに企業の縁故採用があります。これは違法行為ではありませんが、現代の新卒一括採用に慣れた採用担当者の多くはあまり好みません。採用選考手法を必死に考え、様々な手段で応募者の能力を公平に評価しようとしておりますし、選考過程では不採用通知を出す方が圧倒的に多いので、シード権をもった応募者には不公平感を感じますから。

東京医科大学では優先度順の裏口入学リストを作成していたそうですが、企業の縁故採用でも紹介者の重要度別にランキングを決めてリストで管理をするのが普通です。このリストの存在は厳重管理されるので現場の若い採用担当者は知らないでしょうし、まして内容を見ることもできないでしょう。採用選考も管理者の特別ルートで行われるので、現場が知るのは内定式等で出席者のリストを見た時です。

通常、縁故紹介者には、企業の営利活動に関わる以下の方面が多いです。

金融機関(取引先銀行、大株主の保険会社等)

ビジネス顧客(企業機密に関わることもあるので慎重に対応)

大学関係(産学連携の担当教授、役員と同窓の教員等)

政治関係(支店や工場がある地域が地盤の国会議員等)

社員関係(役員の子息、個人的関係等)

翻ってみると、企業の社会活動は多方面に渡っており、縁故採用を求められるとは、自社の規模が大きくなって社会的にも認められた存在になったということで、有り難いこととも思えます。悩ましいのは、通常の採用選考プロセスを通っていないので、縁故紹介者能力のバラツキが多く、配属に苦労することです。現場には配属する新人が縁故採用だとは伝えませんので、今回の事件のような合格点水増し採用の場合は、できるだけ楽な仕事、外部との接点が少ない部署にします。

興味深かったのは、某有名企業のトップが全く関係のない別企業に縁故紹介の新卒で入社して30歳頃まで勤務していたことです。その方を受け入れた企業経営者から「彼の親父さんとは経営者として親交があり、『うちの息子を鍛えて欲しい』と言われてお預かりした。」と伺いました。丁稚奉公のようなものですね。こうした良い縁故紹介採用なら歓迎ですが、果たして今回の事件はどうなることでしょう。これを機会に、東京マラソンのチャリティ枠(10万円)のような、裏口入学の正規ルート化でも作られますかねえ。

▼参考URL:
「ブランド力落とした」2人起訴の東京医科大(毎日新聞 2018.7.24)https://mainichi.jp/articles/20180725/k00/00m/040/113000c

第378号:学生が感じるキャリア教育の課題

本年度から新たに上智大学でキャリア科目の授業を担当することになりました。私が大学キャリア教育に深く関心を持つようになったのは10年前に同大学で教育社会学に触れたことでしたから、恩返しのような気分で上智大学らしいキャリア教育の開発に取り組んでいます。

新任の大学では学生との距離感に戸惑いますが、まずは「自校のキャリア教育の課題」というレポートを学生に課して問題意識を探ってみました。このレポート求めると、多くの大学で共通に見られる課題と、その大学固有の課題が見えてきます。

共通に見られる課題としては、キャリア科目の存在を知らないという(広報課題)、科目数・定員が少なくて履修できない(機会課題)、低学年から受けたいという(時期課題)等の科目設定に関するものと、講義型が多くて受け身になる、公開講座なのに他学部の学生と交流できない、既存科目との関係がわからない等の授業内容に関するものがあり、量的課題質的課題に分類できます。

今回、良く書かれていたレポートに「授業時間やコマ数の改革ではなく授業内容を改善して欲しい」という上述の量的・質的課題の関係を指摘したものがありました。具体的な改善案としては「もっとアウトプット重視の授業にして欲しい、グループワークをやりたい」等ですが、それでは、とレポートを増やすと学生の顔色が変わります。

学生の言うアウトプットを、単純なおしゃべりのグループディスカッションにしてはいけません。論理的に考え、文書・言語で発信できるスキルを意識して授業を設計すべきです。それは就活だけではなく、就職後にも役立つロジカルシンキングの基本ですから。

私のレポート課題では、自己都合の要望や単純な若者の主張はNG、読み手を意識した提案にする、事実(データ)を元に意見を展開する、等々の基本中の基本を指導して求めています。これらは就職して報告書や提案書を書く時にも求められる能力ですし、就活のエントリーシートでも同様です。結果、殆どの学生が基本をクリアして今学期末の履修OKを出せそうです。

こうした授業を進めていくと、最初は拙くても3~4回繰り返すと、真面目に取り組んだ学生のレポートは必ず良くなります。そして変わった「顔色」が良い「顔つき」に変わってくるのです。教育とサービスは違います。学生の要望をそのまま聞いて提供するのは教育ではなくサービスで、人材企業にお任せすれば良いでしょう。大学教員は、学生が(最初は)嫌がっても本当に大事なことは信念を持って強制すべきです。未知の経験をさせて自信をもたせることです。それが教育だと思います。

さて、まもなく学期末ですが、私の授業の最終日には企業採用担当者を招いて学生にレポートをベースにしたプレゼンテーションをさせています。今学期の学生との授業で考えてきたキャリア科目の課題を企業の方々とも討議して、冒頭に述べた上智らしいキャリア教育を形にしていきたいと思います。

第377号:エントリーシートと大学受験テクニック

私事ながら、法政大学の非常勤講師の仕事が大学の組織変更により昨年度で終了しました(有り体に言えば「雇い止め」です)。これまで通常教員の2~3倍の授業をしてきたので、サバティカルに入った気分で余暇を楽しんでいたところ、有り難いことに仕事でご縁のあった大学からスポットの就職相談員のご依頼を戴き、お引き受けしました。

久しぶりにキャリアセンターで学生と向き合ってキャリアカウンセラー(私はGCDF)として個別相談をしていたのですが、エントリーシートES)の相談を受けていると、最近の学生の文章力は落ちているなあ、と痛切に感じます。大学受験のテクニックで学ばなかったのでしょうか。

お誘い戴いたのは都内の私立大学で、学生相談が増加する4~6月の短期間業務です。私は元採用担当者でしたので、相談内容は基本的なセミナーや相談後のES指導模擬面接が主でした。大学毎にレベル感は違いますが、基本的なスキルは同じです。相談を始めてみると、ESの書き方について基本ができていない(というより知らない)学生が多いです。私の授業では「ESは大学のレポートの書き方を応用すべし」と伝えてきましたが、それ以前の大学受験テクニックもES対処法には役立つと思います。例えば以下の3点です。

・「全体像」を理解すること

すぐに最初の質問に回答するのではなく、全質問を見てから回答する。質問の体系を理解して、漏れなくダブりなく回答すること。それは記憶することから理解することに変えることでもあり、以後の面接にも役立ちます。

・質問を良く読み「題意」を外さないこと

「具体的な経験を述べよ」では、事実を中心に書き、自己PRを書きすぎない。
「欠点は何か?」では、冷静に自分の課題を書き、改善策は述べすぎない。
意外とこの事例は多く、相手が聞きたいことより自分が伝えたいことを書きすぎて、題意とズレがあります。また、大学での期末試験で有用な「こじつけ」は、あまり通用しません。

・「会話調口語体)」で書かないこと

「最もチカラを入れたことは?」という設問に「私が最も力を入れたことは~」で書き始める等。
気持ちはわかりますが、話し言葉と書き言葉の違いがわかっていません。会話調では字数が増えますが、相手に伝わる情報量は意外と少ないです。この違いに気づけないと、ESの志望動機と面接での志望動機が完璧に同じになります。

ということで、ESで大学受験でのテクニックを使っていないのは、もしかするとAO入試等の影響があるかもしれません。また受験小論文では高校の先生が相当に指導するらしいので、自分で考えるチカラが養われていないのかもしれません。

私のように大学受験地獄経験世代は、受験を通じて語彙が増えたりしたものですが、大学全入時代で変わってきたのでしょう。大学入試改革で論述試験が始まることで、文章力が向上すれば良いですね。

 

第376号:日大アメフト事件を面接で問われたら

6月に入り、選考解禁日が過ぎて1週間ほど経ちましたが、私の教え子からも内々定の報告が入り始めました。中でも一番早く報告とお礼に来たのは運動部の学生でした。前回触れた日大アメフト部の事件の影響で、運動部や日大に対する採用担当者の印象悪化を報じるメディアもありますが、多くの採用担当者はあまり意に介していないと思います。仮に問われてもピンチはチャンスにできます。

私の授業の成績評価は厳しいですが、運動部の活動にはできるだけ配慮して試合等で欠席する場合には課題を出す等の対応をしています。そのため、文武両道の学生が受講しています。この報告に来た運動部学生は一部リーグの強豪チームを率いていますが、私が授業を終えて教室で後片付けをしているところに飛び込んできて、某人気企業に決まったことを伝えてくれました。報告後の雑談の中で、今回の事件について面接で何か問われたかと尋ねましたが、どちらの企業でも話題になったことはなかったそうです。

このように良識ある採用担当者は、この時期にこうしたテーマを扱うことには慎重でしょうが、スポットで面接を依頼された人事部以外の一般社員が面接官になった場合は、デリカシーなく好奇心で尋ねることもあると思います。学生は圧迫質問と感じるかもしれませんが、その場合は超然と対応するのが一番で、焦ったり、むきに持論を熱く展開したりするのは禁物です。

これは面接やプレゼンテーションにおいて難しい質問をされた場合の対応と同じで、感情ではなく論理で回答するロジカルシンキングの発揮チャンスです。私は授業や就職セミナーで、米国著名人の以下の名言を引用しながらこうした質問への対応方法を教えています。

Great minds discuss ideas;  ⇒思想を問う(社会・文化背景)

Average minds discuss events;      ⇒事件を問う(出来事の原因)

Small minds discuss people. ⇒人間を問う(当事者の責任)

この格言はマクロとミクロの視点を提供していますが、客観的に俯瞰して持論(仮説)を展開していけば、採用担当者の評価も上がると思います。また、ここから更に進めるならば、自ら学んでいる学部の知見と組み合わせればオリジナリティ(個性)も評価されることでしょう。例えば、経営学部なら組織論やブランディング論に引き付けられますし、文学部ならコミュニケーション論にもっていけるでしょうし、法学部なら第三者評価について論じられます。

今回の事件は、運動部の中でもトップレベルの超上位校の出来事で、運動部の中でもほんの一握りの世界の話しです。ですが、こうした危機を新たな学びの機会にしたり、より高次な視点で見るチカラの発揮の場にすることは大学運動部員全員に教えたいことですね。そういう運動部員なら、どんな企業でも喜んで迎えてくれることでしょう。

第375号:アメフト問題会見を採用担当者視点で見る

この度のアメフト反則問題は、大学関係者のみならず社会全般に驚愕の出来事として受け止められつつあります。真相究明は今後の次第を見守るとして、このコラムでは今週行われた日本大学の当事者(学生と職員)の会見と採用担当者の目線で考えてみたいと思います。

企業の採用選考面接の評価ポイントは、プレゼンテーションの以下の3要素と同じです。

1.発表内容 ⇒論理的(事実+意見)な構成、結論優先の話し順等

2.発表技術 ⇒アイコンタクト、声量、リアクション、質疑対応力等

3.人間性  ⇒上記(発表内容+技術)から形成される心象

3番目の「人間性」は、1・2番目の発表内容+技術の会話から形成されるもので、採用選考の評価そのものともいえますが、この心象は採用選考の開始(会場への入室時点)と同時に形成されはじめ、採用担当者の質問に対してすぐに影響を与えます。つまり、採用選考の前半と後半では条件が異なるのです。前半ではニュートラルな状態で質問をする採用担当者も、その心象が良いものであれば、後半の質問が好意的なもの(合格理由を探す)になりますが、心象が良くないと厳しい質問(不合格理由を探す)になってきます。

そして一次面接の通過後は、その心象(評価結果)が二次面接の採用担当者に伝達されるので、人間性は最初から存在することになります。これは先入観となって採用担当者の評価結果に影響を与えるので、二次面接者の中にはあえて一次選考の結果を見ないという方もいます。応募者の大学名を見ないで面接するのと同じ心理ですね。

さて、こうした視点から今回の当時者の会見を見てみると、両者(学生&職員)とも説明内容は一貫しているようですが、学生の回答が事実を淡々と述べて自分の評価については無意識(捨て身で結果を意識していない)のに対し、職員側の方は自分たちの知っている事実をそのまま伝えるのではなく、回答内容が自分達の評価に影響を与えることを意識しながら話しています。

そうした発表内容の捉え方の差が、発表技術(話し方)に影響を及ぼします。学生が記者全員それぞれの方向に体を向けて正対してリアクションを自然に行っているのに対し、職員達は評価結果を考えながら話している(思い出した内容をそのまま話さず、そこから話す内容を選んでいる)ので目線が泳いだり、回答に詰まったりしています。

こうした違いは両者の人間性の評価の違いとなり、会見視聴者の心象に伝わっていることでしょう。それがどのようなものになるのか、採用担当者はどちらを採用したくなるのか、一緒に働きたくなるのはどちらか?それは今後の世論として現れてくると思います。

▼参考URL:

「日大アメフト部問題 選手の会見」(YouTube 2018.5.22)

https://www.youtube.com/watch?v=DZqW9wtjS30&feature=youtu.be

「日大アメフト部問題 日大前監督とコーチの会見」(YouTube 2018.5.23)

https://www.youtube.com/watch?v=ZZxxyfz_AAc

第374号:自分らしさは無理に考える必要は無い

先日、都内大学のご依頼で「就職活動リターンマッチ」というセミナーを行いました。春先から動いてきたにも拘わらず、結果が出ていない学生を対象としたもので、内定を取れる学生と取れない学生の違いや、採用担当者の目線をお話ししました。企業も学生も好みは様々ですが、共通に求められるもの、共通に嫌われるものはあります。学生と話していて気になったのは「自分らしさ」に拘りすぎるところです。そんなに無理に考える必要はないと思うのですが。

ESや面接の就職相談で「自分らしさ」を上手く表現できないという学生は多いです。キャリアカウンセラーや就職課職員も、よく「自分らしさが出ていない」と学生にアドバイスすることがあります。しかし、採用担当者目線では無理に出さなくても良いと思います。というか、リーダーシップ(リーダーの心構えではなく自主性という意味です)と同様で、本人は気付かなくても「その人らしさ」は自然に現れてしまっているものですから。

最近学生が良く質問する「社風」も似たようなものです。長年続けてきたその業界・企業・社員の行動パターンが社風となって形成されてくるものであり、当の社員は意外と気付いていないものです。なので、転職してきた社員なら感じられますが、その企業だけで生きてきた社員には当たり前のことなので気付きにくいです。

今の社会は情報やサービスが洪水化して、自分で創意工夫しなくても楽に生きられるようになりました。高度情報化社会ならぬ高度シェアリング化社会です。全てが用意されていますから、気をつけないと皆似てきます。そんな時代、社会の中で学生が「自分らしさ」に拘るのは大切なことかもしれませんが、皆が同じ環境・体験で暮らしている中で「自分らしさ」を出すのは至難の業です。文科省が必死に旗振りをしている「トビタテ!留学JAPAN」にでも参加して、普通の日本人学生とは違う経験をしてきたならば自然に他者と異なる「自分らしさ」が出てくるでしょう。

ということで、「自分らしさ」を出すために最も必要なのは表現力ではなく、体験を積むことです。そして採用担当者が知りたいのもそうした「具体的な経験」です。確かに人を採用するには最終的にはその人ならではの理由があります。しかし、それは仕事をする上での「能力」「資質」を発揮する過程での「個性」であり、「自分らしさ」を最初に求めているものではないでしょう。

私は就職相談でも来訪者の学生生活を聞き出して、本人が感じる・アピールしたい「自分らしさ」ではなく、採用担当者として魅力的に感じるその人らしさを見つけて伝えるようにしています。このように「自分的自分らしさ(自分軸)」ではなく、「社会的自分らしさ(他人軸)」をフィードバックする、教えることもキャリア教育でもあると思うのです。社会人がよく口にする「一緒に働きたくなる人」という曖昧な言葉の正体も、こうしたことがわかれば見えてくると思います。

最後にもう一つ。自分らしさを出したいなら基本を踏まえた上での自分らしさにして欲しいものです。周りを見ずに自分らしさに没頭したら、自分が如何に個性のない体験と話し方をしているかにも気付けません。基本の上にある個性こそ採用担当者も知りたいです。これは専門家とヲタクの違いと同じで、基本のない自己流は自分ヲタクにすぎませんから。

第373号:採用したいと思わせる学生の行動

先日、大手企業の役員で、今まさに新卒採用の最終選考を担当している方の話しを伺う機会がありました。なかなか採用基準が厳しい方で、人材紹介業、人事部泣かせの役員ですが「この前、是非採用したい学生が居たよ。」とおっしゃっていました。

この方は役員になる前は営業現場のエースとして活躍し、顧客の絶大な信頼を得ておりましたが、人事・経理等の管理部門系の役員は経験しておられません。しかし、人を見る目や人材育成の力は抜群で、多くの顧客・社員から慕われております。役員になってからは、管理系の業務も責任範囲になり、数年前から採用選考も担当するようになりました。

この方が社内の会議に向かう際に、たまたま荷物で両手が塞がった状態になり、無理な体勢で会議室のドアを空けようと四苦八苦していたら、会議室の中に居た若者が気付いて駆け寄り、ドアを空けて荷物を引き受けてくれたそうです。「早く気付きませんでどうもスイマセンでした。」と一声かけながら。

実はこの若者はこの企業の採用選考(一次面接)のために来訪し、控え室になっていた会議室で待機していたのでした。この役員の方は会議室を間違って入室しようとしており、お礼を言いながら会話をしてみて応募者の大学生だと気付いたのでした。そしてこの学生が、この役員の方が採用したいと感じた学生だったのです。

この役員の方の直感ですが、何も指示されなくてもこうした状況ですぐにアクションを起こせる人物は有望だそうです。この大手企業の営業部門には中途採用の社員が中心の部署があり、外資系から転職してきた人材が多いそうですが、この部署のメンバーを見ていると、体に不自由がある人が作業に苦労していても誰も助けにこないとのこと。一方で、生え抜きの中小企業担当部門のメンバーは、誰でもすぐに手伝いに来てくれるそうです。そして、高い業績を出しているのは後者の部門でした。

こうした思いやりや配慮があると同時に、誰に言われなくても自ら動く人物は、それまで所属してきた企業や組織の文化や社風、また接してきた人物の指導や家庭環境等が影響しているのでしょう。業務内容が明確に区分されている外資系では、同僚の仕事を手伝うことは却ってその人の業務を邪魔することになる、仕事を奪うことになると考える人もいますから。

さて、この話しには後日談があります。この役員の方はこの応募してきた学生が最終面接にやってくるのを楽しみにしていたのですが、残念ながら現時点ではまだお目にかかれていないそうです。「うちの人事部員は、ちゃんと人を見る目をもっているのかな?」と心配そうにつぶやいておりました。

最近は一部の企業でAIが採用選考にも利用されるようになってきていますが、こうした資質を計ることはできるのでしょうか?筆記試験では判断できても、行動パターンを評価するのはなかなか難しいのではと思います。だからこそ、採用担当者は肩書きではなく、人物を見る目を養い、良い選考手法を考えなければなりません。

第372号:新入社員研修での上手な社員の教え方

新年度が始まり、益々ご多忙な日々をお過ごしのことと思います。企業も同様で、新入社員の受け入れ(研修)と早期化した採用面接がぶつかり、4月は人事部も労働力不足でてんてこ舞いです。採用活動の成功には、入社後にしっかり定着(リテンション)させることが重要で、そのため新人が最初に影響を受ける研修講師担当社員の選抜には気を遣います。

私も研修担当者当時、自分自身で講師をしたり、社員を招聘して講師依頼をしたりしておりました。その中で、新入社員の心をうまく掴んで定着させてくれる社員講師が何名かおり、こんな風に話しておりました。

あるベテラン社員講師は開口一番、「社会人の国へようこそ!皆さんはこの会社に入って、これまでとは全く違う人間関係や環境変化に戸惑っていることでしょう。でも、それは外国に来たようなものです。皆さんが無理に変わる必要はありません、新しいライフスタイル、新しい場面での振る舞い方ができるようになれば良いのです。」

新入社員の中には「企業は研修で洗脳しようとする、自分は染められたくない。」と感じている人も居るので、解きほぐすための導入として上手な話し方です。若者に受け入れられる大人の社会人とはこんな人物です。「自分らしさ」重視の若者が増えた今だからこそ、有効な対応です。

この社員は海外取引先との仕事経験も豊富で、扱う商品は一匹狼で売れるものではなく、チームで販売するコンピュータ・システムでした。社内外・国内外の人とチームを作って仕事を進めてきたベテランで、年齢・性別・人種等に左右されないコミュニケーション力・チームビルディング力を発揮していました。

そのビジネスモデルは販売して終わりではなく、その後に顧客サポートや運用セミナーも開催しておりました。この方は教育のプロではありませでしたが、こうした仕事を通じて教育力や指導スタイルを身につけたのでしょう。顧客対応というのは、教育スキルと多分に重なるものがあります。

この社員の素晴らしい点は、どんな相手にもリスペクトを忘れないということです。若者(新入社員)を子供扱いせず、一人の大人としての人格を認めることです。同時に、しっかり責任を自覚させ、大人としての思考と行動を促している点です。

新人研修の仕事は大変ですが、こうした達人社員から学ぶことができるのはとても参考になり、今の私のキャリア教育にも活用しています。こうした人物が新入社員をしっかり定着させ、成長させてくれたら、採用担当者は安心して採用選考にのめり込むことができます。皆さんが送り出した卒業生も、今頃、魅力ある大人の社会人に出会えていると良いですね。

また、こうした組織内の定着プロセスは、大学の新入生対応やFD活動にも参考になります。初々しい1年生の期待を裏切らない授業をしていきたいものです。

 

第371号:静かに進む19卒の内定獲得

3月も後半になり、学内での企業説明会も一段落してきました。私のお付き合いのある大学では今期の説明会には学生の集まりが良くないと聞きます。就職情報産業主催の企業合同説明会でも学生の出足はいま一つだと聞きます。一方で、既に皆さんの手元には学生の内々定連絡も入っていることでしょう。昨年の秋から続いていたインターンシップ経由の内々定が着実に成果を出してきているようです。

前回のコラムでお伝えしたように、私の教え子や就職相談に来ていた学生からは、3月初旬から内々定の連絡が続々届いています。そうした子達はほぼ例外なく秋のインターンシップに通った企業からの結果連絡です。いわゆる勝ち組の学生達は確実に囲い込まれて結果を手にしているようです。そのため、メディアで報じられている「動かない学生」は、本当に何もしていなかい学生と、既に結果を得ているので無理に手を広げず余裕をもって動いている学生が混在しています。

というわけで、19卒の就職活動は目に見えないところで分散化しており、解禁日から一気に動くというパターンにはならなかったのでしょう。これまで製造業は経団連指針に沿って比較的真面目に動いていましたが、この春は経団連加盟の大手企業からも内々定を得る学生で出てきました。先日、経団連会長が採用ルールの見直しを示唆したのも、さもありなんです。

さて、こうした動きの背景で、私の授業を履修登録していた学生が残念な事態になりました。先日、卒業要件不足で留年が決まってしまったとのこと。本人から泣きの連絡がありましたが、どうしようもありません。この学生は、秋頃からインターンシップや就職活動に走り回り、授業に途中から出てこなくなり、出席日数不足・期末試験放棄になったのです。何度かイエローカードを出していたのですが、最後は音信不通になり、履修未達になりました。

また同様に、企業インターンシップに出席して出席日数が不足していた学生がおりました。この学生は私の警告に対してすぐに反応し、補習活動(追加レポートや補講受講等)によってなんとか単位は出せましたが、内容は私も本人も不本意なものになりました。ちゃんと授業に来ていれば良い成績を取れたはずが、残念です。なんでも、この学生はインターシップの成績が良かったので、社長のハワイの別荘に優秀学生と一緒に招待されてプレゼンテーションをしてきたそうです。まったくバブル期の囲い込みの再来ですね。

現状、採用ルールがなし崩しになってきたいま、企業側にも授業期間中のインターンシップで成績不振になった場合には、大学中退でも採用する、入社時期の延長(卒業単位が出るまでは期間契約社員で採用する)等の責任はとって貰いたいものです。必要なら教員から「インターンシップ参加による単位未履修証明書」を出しても良いです。いま留年が決まって泣いている学生も少なくないと思いますが、入社直前の内定取消で欠員が発生するのは採用担当者にとっても大問題なのですから。

▼参考URL:

・大学ジャーナル「2021年度入社の採用活動、経団連会長が見直しを示唆」2018/03/12

http://univ-journal.jp/19707/