時節柄、大学就職課や学生サークルから、エントリーシートの書き方の指導についてご依頼を多く戴くようになりました。エントリーシートの一番大きな役割は言うまでも無く、応募者を一定のレベルに保つための選抜機能です。学生の方々は多くのエントリーシートを前にして汗だくで書いておられると思いますが、それを受け取る採用担当者もネジリ鉢巻きで評価しています。今回はその舞台裏を少しご紹介しましょう。
エントリーシートの利用目的については、企業毎でかなり異なります。書類選考に使っていたり、単なる面接の補助資料であったり。選考方法についても、採用担当者が総出で全てに目を通している企業もあれば、外部の業者に評価をアウトソーシングしたりと千差万別です。書類選考を行う場合、大量のエントリーシートを高速に評価するためにはいくつかのコツがあります。(これはある企業の例です。)
1.見出しを見る。
2.数値(アラビア数字)を見る。
3.実例(固有名詞)を見る。
第一段階は、「読む」のではなく「見る」のです。見やすいエントリーシートは要点がまとまっていて内容も充実していることが多いので、ザッと見て見やすいエントリーシートをまずピックアップするのですが、その際にチェックするのが上記の3点です。「見出し」があるということは、結論が先にあるということです。「数値」(漢数字よりアラビア数字の方が見やすい)があるということは、説明内容に具体性があるということです。「実例」はアピール内容の具体性ですが、ここにキーワードになる固有名詞があるということは、説明内容が概念化(簡略化)されてわかりやすいということです。
こうして第一段階をクリアしたエントリーシートを、じっくり読み始めますが、ここではどちらかというと加点法より減点法が中心です。つまり、ユニークなことが書いてあるか、ということよりも書くべきコトがちゃんと書いてあるか、を読みます。あまりに的はずれなことを書いていたり、かなり特殊な言葉や奇怪な表現があったりすれば敬遠します。たまにエントリーシートの設問にも風変わりなものを見かけることがありますが、それは応募者が極端に多い一部の業界で、逆に一般的な回答よりもユニークな回答を求めているのでしょう。
最近、ちょっと気になるのが小学生の作文のような書き方です。自己分析で過去の自分を振り返るのは良いのですが、その実例に小学校や中学校の時の原体験を書き、「本当の自分」を語ろうとしているものがあるのですが、やや幼児性を感じてしまいます。
ここでご紹介したのは、ある企業の方法のひとつに過ぎませんが、実際、エントリーシートだけで応募者を評価するのは困難です。先日、発表になった経済同友会の「企業の採用と教育に関するアンケート調査」でも、企業が最も重視する採用選考方法・基準は、「面接結果」になっておりました。まずは採用担当者が不合格判定を出せないエントリーシートを書くのが一番ではないでしょうか。
2月に入りいよいよ採用担当者が腕まくりする時期ですが、今年は就職倫理規定遵守で4月以降にスケジュールを仕切り直しする企業も出てきています。それで時間に余裕ができたからというわけではないでしょうが、新卒採用の方法に新しい考え方や方法を導入しようとする企業がチラホラ出てきました。これらは採用方法の工夫だけではなく、採用後の人事システムに踏み込んだ雇用プロセスの変更という考え方です。
応募者の意欲を高めるために、採用担当者はいろいろな工夫を行います。仕事理解を進めるために企業セミナーにより具体的なケース・スタディを入れたり、インターンシップを導入したり。中には企業説明の前に「働くことは何か?」というキャリアデザインのような職業教育を行うセミナーまで登場してきています。こういった採用プロセスの工夫は学生から見ると面白く、個人重視で扱ってくれる優しい企業と映り、応募意欲の向上に確かに繋がっていきます。そういった派手な動きの中で、地味ながら今後の採用市場に大きな意義をもつと思われる改革が出てきました。三洋電機の新卒採用対象者の拡大策です。
既にご存知かと思いますが、三洋電機では来年より大卒後3年以内の社会人をこれまでの卒業見込みの学生と同じく「ポテンシャル採用」として同様に扱うそうです。この方式は日本の大手製造業で初めての試みで、日本の雇用慣行にとって画期的なことではないかと思います。現在、殆どの企業の新卒採用対象は「卒業見込み」とされており、社会人経験の浅い「既卒」の若者を除外しておりますので、一度、入社した企業が肌に合わないとわかっても簡単に転職することはできません。しかしこの方式の会社があれば学生にとっては不要な就職浪人を避けることができたり、入職時におけるミスマッチを早期にやり直すことができたりします。
この方式は、結果として3年以内の退職者を益々増やすことになるかもしれませんが、学生が企業を知るにはどんなに懸命に企業研究をしたとしても(採用担当者が採用プロセスを工夫したとしても)、実際に働くことに勝るものはなく、より良い就職活動につながってくると言えるでしょう。反面、ひとつの企業で頑張る意識を衰えさせる懸念もありますが、企業が従業員の自立という言葉を使い始めた以上、仕方のないことです。また、最近は新卒採用数が景気動向で大きく左右され、就職のしやすい年、そうでない年の差が大きくなり、学生の資質よりも卒業年による運不運が就職に大きく影響してきていますが、この方式ならリターンマッチが可能です。
これからは新卒採用と中途採用の垣根無くなるという大きな流れがあり、こういった雇用プロセスの改革をする企業は徐々に増えてくると思われますが、それこそが企業と個人の関係を考える人事の大事な仕事です。お祭り騒ぎのような採用プロセスの工夫ではなく、地に足の着いた雇用プロセスを改善して優秀な人材を惹きつけるのがこれからの採用担当者の仕事になるでしょう。折角、採用した人材を三洋電機に取られないように頑張らないといけません。
先日の厚生労働省の発表では、今春の大学卒業者の内定率が73.5%となり現在の計算方式になってから(平成8年から)過去最低になったということでした。就職指導をされる方には厳しい数字ですが、別の面からの数値を比較してみると、あながち悪いとも言いきれないと思います。統計数値は貴重な情報ですが、他の関連指標との比較や環境の変化、統計期間の設定等に気を付けて判断したいものです。
内定率の低下の背景にはいろいろな事情があるかと思いますが、この数値の見方が難しいことは皆様の方がよくご存知だと思います。いわゆる「母集団の設定」で内定率は左右されますし、経済不況と学生の意識の多様化によって就職指導も過去とは比較にならないほど難しくなってきています。それにもっと大きな数値の変化は、大学生の全体数の増加です。1992年の4年制大学卒業者数は44万人であったのにたいして、2002年にはこれが55万人と、なんと11万人も増加しています。サービス産業の台頭が高等専門教育を受けた学生を求めているとはいえ、これだけ大学生が増えれば進路が多様化するのも当然なことであり、卒業=就職という公式が変わってくるのも当然でしょう。
またよくいわれる「7・5・3の法則」も怪しいものがあるかと思います。「新卒大学生は就職して3年以内に3割が辞める時代です。」と、多くの就職評論家がこの数値を取り上げており、第二新卒が急増しているかのように訴えておりますが、15年前の1988年でも29.4%の新入社員が入社3年以内に退職しています(旧労働省資料)。(この数値を使う方が15年前の数値を知らないことは多いです。)今まで知らなかった数値が出てくると急増しているように感じてしまいますが、問題は環境と質の変化の方ですね。
15年前というとちょうど私も社会人4年目頃で、まだまだ転職者は少ない終身雇用全盛の時代です。志をもって新たな分野に挑戦すべく転職・退職した者を、企業や社会はどちらかといえば裏切り者とか落伍者というようなイメージで見ていました。キャリア自立を従業員に求める今とは雲泥の違いです。
というわけで、この大学生が急増して卒業後の進路が多様化している時代に、内定率が下がるのは当然のことでしょう。勿論、ここで何の目的もなくフリーターになってしまう学生を肯定するつもりは全くありません。そもそもフリーターは、「なる」ものでも「目指す」ものでもなく、無職の「状態」を指すものです。何かの志をもって励んでいる若者を、フリーターという統計に入れてしまうことも問題だと思います。
学生の生き方が多様化していく時代、内定率=就職率だけではなく、内定率=意識自立率(目的発見率)としてこちらは100%を目指したいものですね。数値を楽観的にみようというわけではありませんが、自信をもって職業指導をしようではありませんか。
新年、明けましておめでとうございます。就職支援活動もこれからますますお忙しくなるかと思いますが、皆様のご活躍とご健勝をお祈り致します。さて、今年はいよいよ国立大学の独立行政法人化が始まり、ロースクールや専門職大学院の開学等、大学の構造改革の元年というような気がします。そこで今回は少し夢物語のようなことを自由に書いてみたいと思います。新年に免じてどうぞご容赦下さい。
常日頃から感じていることですが、教育産業はこれからますます有望で重要な業界になると思うのです。世間では「少子化で大学はこれから大変だ。」と言う方も居りますが、それは視点が一方向しか向いていない発言でしょう。最大の産業となった第三次産業(サービス産業)の到来で、現代は知恵で勝負する時代になったわけであり、高等教育がますます重要になり、これからの大学は超有望な業界です。既に多くに大学が動き出しているように、これからの大学は一度、卒業したら終わりではなく、社会で働いてから必要に応じてまた学びに戻る社会人大学生が増えてくる、いわゆるリカレント教育が一般的になってくると思われるからです。カルチャー・スクールではない本格的な生涯学習の時代の到来になるわけですが、そのためには大学での講義も社会人のニーズに耐えられる高度なものになっていかなければなりません。
また、こういったリカレント教育には、もう一つ大きな効果があります。社会人大学生がキャンパスに増えて新卒学生とコミュニケーションが生まれてくれば、自然と新卒学生も敬語を覚えるでしょうし、就職活動に必要な企業の現場の話もリアルに聞くことができるでしょう。そういった社会人大学生を同級生にもつ新卒学生にとっては下手なインターンシップや企業セミナーよりも有意義な社会教育・職業教育になります。つまり社会人大学生を受け入れるということは、キャリアカウンセラーを雇うようなものですね。業界セミナーを生徒に依頼することもできるわけです。このコミュニケーションを活性化させることによって、日本社会で消え去りそうなタテのコミュニケーションも復活するのではないかと思われます。もしかするとこの生徒間コミュニケーションの活性化は、就職課の新しい有望な仕事になるかもしれません。
こうしてみると、これまでのように新卒入学者だけを対象に見ていた前向きな経営から、卒業生をリピーターとして再び惹きつける後ろ向きの経営を取り入れることが今の大学の最重要課題であり、社会のニーズも高いことではないかと思います。大学というのは本当に、これからの社会に無くてはならない国民のキャリア・センターとしての機能を担うことが期待され、素晴らしい職場になるわけですね。停滞する日本の復活のキーもここにあるのではないかと思われます。道路公団の年末の顛末をみていると、国の構造改革もだんだん雲行きが怪しくなってきましたが、そんなものはもう放っておいて、大学の構造改革の方がドンドン追い抜いていってしまいましょう。
初夢に見るほど、大学という素晴らしい職場と組織の活性化を祈っております。どうぞ本年も宜しくお願い致します。
今年も残りわずかとなって参りました。キャンパスにはクリスマス・ツリーも飾られ、気のせいか学生もいろいろなイベントに慌ただしくしているように見えます。大学を回っていると、今は本当に就職セミナーが真っ盛りですね。大学の就職課のスケジュールを拝見していると、就職情報企業も顔負けの業界・企業説明会の充実度に驚いてしまいます。しかし、改めてここで就職協定というものも考えさせられました。
現在、私はインターンシップを支援する学生サークルに対して、企業訪問時に必要なビジネス・マナーや渉外力のトレーニングを行っております。そのサークルの上級生の悩みに、メンバーが3年になると就職活動のために引退してしまう、というのがあります。これを聞いた時、就職活動の早期化が学生のキャンパス・ライフにそこまでの悪影響を及ぼしているのかと、学生のキャリア開発に関わる者として非常に遺憾に思いました。早期化の影響により4年生の新学期にキャンパスが閑散となってしまう現象が大問題になっておりますが、事態に改善の兆しは見られないようです。
周知のとおり、去る10月21日に日本経済団体連合会及び大学等関係団体就職問題協議会が倫理憲章(採用選考活動は卒業年次(4月以降)に実施すること)が採択され、特に今年は主要企業にも念書を取りつけており、遵守する企業が多いようで効果が期待されますが、逆に選考時期が集中してしまう懸念があります。
実際、Professional Recruiters Clubのメンバーには誰一人として就職時期の早期化を望む者は無く、逆に、「1年遅らせて4年生の夏から始めたいくらいだ。」「情けないが就職協定を復活した方が良い。」「人員計画も定まらないうちに始める採用活動は、この変化の激しい経営環境下で非常に不安だ。」「とはいうものの、煽られると動かざるをえない」という声が多く、結果として新卒採用を最小限に手控えて中途採用に移行する企業を徐々に増やしています。
就職活動の早期化は、この分野に関わる全ての関係者が深く事態を受け止める必要があると思います。他社との横並び採用方法、就職情報企業のWeb登録開始時期、大学内での業界・企業セミナーの内容と開始時期、等々見直すべき点は多いです。もっとも難しいことは、学生の職業教育を行い就業意識を早期に高めさせることと、この就職活動早期化問題に同時に対応しなければならない点です。
私は本来、就職協定には反対なのですが、この事態を収集するための短期的な対症療法としては必要になってきたと感じます。選考開始時期も4月からではなく8月以降が良いでしょう。そしてもっと重要な原因療法は、大学授業の中にキャリア教育を組み込んでいくこと、大学での勉強やサークル活動が如何に個人のキャリア形成に貢献していくかを問い直し、学生個々人を支援していくことではないかと思います。僭越な私見ながら、しっかり勉強し、しっかりサークル活動を行い、人間的に成長した若者が自然と良い就職ができるような時を待ち望んでおります。
来春の国立大学の行政法人化が目前となり、大学の機構改革もいよいよ本格的になってきたようです。その中でも目を引いたのは、先日の愛媛大学の就職課の設立と課長の一般公募のニュースですね。国立大学の事務系管理職の公募は非常に珍しいことですが、こういった産学の人材交流はどんどん増えて欲しいと思います。このニュースが流れた時、Professional Recruiters Clubのメンバーで応募してみたいと思ったのは一人や二人ではないでしょう。企業の採用担当者の中には将来のキャリアとして、大学就職部で働きたいと考えている方も多いのです。
さて、もし私が大学の採用担当者で、企業採用担当の応募者の面接をする場合、どんなキャリアを重視するかな、と考えてみました。できる採用担当者の選考基準ですね。まず、次の6つの就労経験が欲しいと思います。それは新卒採用と中途採用の業務経験、日本企業と外資系企業での就労経験、大企業とベンチャー企業(中小企業)での就労経験です。6つと言っても転職を5回しているというわけではありません。日本の大企業、外資のベンチャー企業で、新卒・中途採用の業務を経験していれば、転職は1回で良いわけです。この6つの経験で実績を持っている採用担当者は、ほぼどこの企業に行っても通用する人材です。
次に、採用業務以外キャリアとして、能力開発の経験もしくはキャリアカウンセリングの勉強をしていることが望ましいと思います。何故ならば、採用担当の経験だけでは応募者側の気持ちを理解するのが難しいからです。採用担当者は応募者を企業組織の価値基準で評価することには慣れておりますが、応募者個人がどんな気持ちでやってきているかを思いやることはなかなかできません。企業の採用担当者の専門性と大学就職課の似て非なる点です。視点を180度変えて、応募者(就職希望者)の気持ちになって一緒に本人のキャリアを考えてあげるには、研修等の能力開発の業務や社員の個別相談(キャリアカウンセリング)の経験が欲しいと思います。
最後に、学生に対する「愛」と「敬」の心を持っている方が必須だと思います。「愛」は学生一人一人の存在や生き方を全面的に支援してあげること、つまりキャリアカウンセリングの基本的なスタイルですね。自分の価値基準はひとまず横に置いておいて、学生個人の生き方を尊重してあげることです。そして「敬」は向上心をもっているということです。敬語は自分よりも上の存在を認めた時に産まれる言葉です。愛情は動物も持っていますが、常に現状に疑問を持ち少しでも上を目指そうという向上心は人間だけのものでしょう。それを持った人材が、学生に対して時には社会の現実を伝えて厳しい指導をすることができるのではないでしょうか。キャリアカウンセリングが治療的なカウンセリングと異なる点も、ここにあるのではないかと思っています。
今回、大学就職課の現場もあまり知らずに理想的なことを書いてしまいましたが、就職担当者、採用担当者、能力開発担当者、若者の入職という一連の重要な仕事において、それぞれの人的交流が進み、お互いを高め合うような専門性を確立していければ素晴らしいと思います。
先日、ある学生コミュニティの依頼により国立大学の理工系学生向けに「産学連携で変わる就職活動」というテーマでパネルディスカッションの司会を行いました。この企画はOB会の協力を得て実行されたものですが、大学で学んだことを如何に社会で活かすかということを学生に伝えるものです。それは大学での研究と企業での応用の差異を教えることで、いわば産学連携の“ひとづくり”です。
理工系学生の多くは自分の専門である研究内容を活かした仕事をしたいと思っておりますが、その研究テーマが社会のどこでどのように活きているか、使われているか、ということを知らないことが多いものです。採用面接では必ず「あなたの研究を当社でどのように活かしていきたいですか?」という質問を致しますが、即答できる学生は少ないです。どちらかというと、大学の勉強は社会で役に立たないと考えている学生が多いような気がしますし、企業の採用担当者も即戦力を求めていると言いながら、大学の勉強を重視していないと公言する方もおります。
いま産学連携の試みは、日本のいたるところで始まっています。その背景には、厳しい経済環境があり、製造業の多くはものづくりを全て自社で行うことは諦めて、研究を大学に依頼してそこから産まれたシーズを商品化しようとしています。大学内部でも知的財産を権利化していこうという動きが盛んであり、大学周辺には大学で産まれた技術を民間企業に移転する組織(TLO)が積極的に活動を始めてきました。産学連携が進行すると、研究者の職場は企業だけではなく大学内に留まることであったり、大学発のベンチャー企業であったりするでしょう。これまでの民間企業への就職以外の選択肢が増えてくるわけです。
しかし、人材育成の面での産学連携はあまり進んでいないと感じます。企業は人材育成機能を削減して即戦力の人材を求め、その基準に合わない学生は厳しく選考を行うようになりました。その結果、日本の社会から新社会人を育成する機能が大きく緊縮しているのではないかと危惧しております。
できることならば、今回のような企画を単なる就職ガイダンスとしてではなく、大学で学ぶ専門性の社会的意義を知る産学連携の教育活動として位置づけて継続して頂けたらと思います。そうすることによって学生にとっても大学での勉強がより面白くなり、自分のキャリアも自然と見えてくる。就職活動に対する特別な対策を行うのではなく、大学の講義の中にキャリアの開発プログラムが織り込まれている。そんな産学連携の“ひとづくり”が実現することを期待しています。
毎年秋には米国で日本人留学生を対象とした大きなキャリアフェア(合同企業説明会)があり、視察して参りました。同時多発テロ事件依頼、企業の採用担当者は海外へのアプローチを控えてきましたが、徐々に復活してきており、Professional Recruiters Clubのメンバーも数社参加しています。なかなか日本国内では得難い、バイタリティのあるユニークな発想を持った学生に出会うのが楽しみなのですが、どうもここ数年、そういった若者が影を潜めてきたようです。
キャリアフェアの会場に入ってすぐに目に飛び込んできたのは、単一色のカラーです。みなさん、見事にリクルート・スーツ着用なのですが、ほぼ全員、紺系のカラーなのです。かつてはグレーやベージュの方も散在し、女性の中には超一流ブランドの赤いスーツの方や私服の方も居りました。フェアの主催者から服装の推薦(強制ではない)があるにせよ、殆どの方がそういった細かいこと(実際、採用担当者は非常識な服装で無い限りあまり気にしません)を守っているというのはこの10年前から留学生を見てきた立場としては衝撃的です。留学生もマニュアル通りに無難な選択をする学生が増えてしまったのでしょうか。
学生の動向や参加企業のご感想を伺うと、個性的だった留学生がだんだんと均質化し、日本で就職活動をしている新卒学生と似てきていることを異口同音に話されます。あんまり会った学生を覚えていない、という採用担当者のご感想が印象的でした。企業が海外まで出張して留学生を採用する目的は、語学力は勿論、生意気とでも言えるような自己主張をする若者に出会うためでしょう。しかし、このままでは日本の新卒学生と変わらなくなってしまいそうです。
インターネットによる情報網は便利な反面、いわゆる経済学で言うところの「情報の非対称性」を失わせ、中の人間の均質化を促進します。特にデジタル情報で伝えられるのは言語化できる一部の情報に過ぎず、実物というアナログ情報が欠損します。大勢の人に同じ情報が行き渡るということは素晴らしいことですが、毎日多くの情報を受け取りすぎて、何の疑問もなく受け入れてしまう習慣ができてしまうのは怖いことです。留学生の場合、互いに離れた地域に住んでいることが多いので、日本の学生以上にその傾向があるのかもしれません。
日本でもOB訪問をした学生が、その情報をクチコミやネットで盛んに発信していますが、真偽を確かめずに信じ込み、伝言ゲームのように「高度情報化社会」が「高度受け売り化社会」になってしまっては困りますね。
しかし、よくよく考えてみると企業の採用方法も没個性化しているところが多いです。エントリーシートなどはまさに学生の規格化作業以外のなにものでも無く、学生の没個性化の原因は企業の採用方法にも原因があるのかもしれません。無意識に型にはめてしまっている企業、それを受け入れている学生、没個性化されたつまらない社会にならないように気を付けたいものです。
かつて10月1日は採用担当者にとって仕事の正否を問われる1日でした。内定式当日に、果たして本当に内定者はやってきてくれるのか?会場の受付で、一人、また一人とやってくる学生の出席をチェックするのは、総選挙を戦う党首のような心境です。まさに内定者に「踏み絵」を踏んで貰っているようなものですね。(一番、問題なのは踏み絵を踏みに来ない内定者なのですが・・・。)
最近はシーズンが早くなってしまったので、採用担当者の意識はもう3年生の対応に行ってしまっておりますが、10月の1週目は多くの採用担当者が内定者のフォローに追われておりました。内定通知を用意し、実効性のある研修を行ったり懇親会を行ったり、期待をこめて学生を迎えるスタイルは様々です。中にはTOIECを実施して、学生の気分を引き締めているところもあります。
気のせいか、最近は入社前に学生に課題を出す企業が増えているようです。やはり早期化ということが大きな理由なのかもしれません。なんといっても、4月に内定を得た学生にとっては10月1日は道半ばですから、「内定したなら、時間のある学生のうちに思いっきり遊んでおいて下さい。」というかつての人事の決まり文句も、下手をすると「4年生は1年間、丸ごと遊んでいて下さい。」ということになってしまいます。企業にとってもこの期間を少しでも即戦力に近づいて欲しいと思うのでしょう。大企業では論文を書かせ、流行のインターネットを活用したe-Learningを用意する企業も増えました。この経済環境では企業に頼っていられない、と熱心に受講する内定者も多いです。
内定式の意味合いは多様になってきておりますが、内定式で企業が学生に求めるもので一番大きなものは、やはり入社の意思を含めての社会人としてのコミットメント、大人の自覚ではないかと思います。内定通知書という社会人へのパスポートは、多くの学生にとって初めて自分の意思で手にする自己責任の契約書でしょう。多くの企業が内定通知書を渡し、法的に労働者としての立場を一歩向上させるわけですが、これを機会に社会人としての意識も一歩上げて欲しいと願います。
社会人に求められる、法律を遵守するという義務を理解するだけではなく、そういったルールが無いときこそ、自己判断・自己責任で行動できる“大人”になって欲しいと思います。ありきたりではありますが、デジタル全盛の現代こそ、ますますこういったアナログの感覚を身に付けて欲しいと思います。
採用選考基準において、どこの企業でもベスト3に入るのは「コミュニケーション能力」でしょう。学生の考えるコミュニケーション能力は、仲の良いメンバーを集めるコミュニティ形成的なものを指すことが多いようですが、企業の求めるそれは軋轢のある組織の中でタフにやっていけるコミュニケーション能力のこと、つまりやりにくい相手とでも私情は横に置き、仕事の(=大人の)つき合いができる能力のことや、相手の心情を察知・理解して対応できる能力のことを指します。ところが、日々の仕事ではこのコミュニケーション能力だけでは不足することもあり、それは新卒学生の就職活動にも通じるものがあるのです。
コミュニケーション能力はどんな仕事にも必須の能力ですが、それが最も活かされる仕事というと、やはり対人関係の多い営業の仕事でしょう。営業マンの専門性は?と問われたら、コミュニケーション能力と言っても過言ではありません。ところが、その営業マンに、コミュニケーション能力の研修を行った時に、効果の上がる場合と上がらない場合があります。理由はいくつかあるのですが、一番大きなものは担当しているお客様が固定している場合か、新規開拓が多いか、という点です。前者はいわゆるルート・セールスのことで、先輩営業マンからお客様を引き継いでいきますので、コミュニケーション能力を発揮して早く自分自身の信頼感を勝ち取ることが最も重要になります。一方、後者の営業はいわゆる飛び込みセールスが多く、初対面のお客様と早くコミュニケーションをとる必要があります。
どちらもコミュニケーション能力は必須なのですが、新規開拓型の場合はこれだけでは成績は上がりません。というのは、どんなにコミュニケーション能力があっても、飛び込むお客様が自分にとって良いお客様になる、自社の商品を買って貰える可能性が無ければ無駄な活動になってしまうからです。つまり新規開拓型の営業ではコミュニケーション能力に加えて、事前にお客様の目星をつけるマーケティング能力も求められるのです。
ここまで読まれれば、おわかりでしょう。就職活動をする新卒学生にとっては、新規開拓型の営業と同じく、コミュニケーション能力だけでは不足で事前に自分に合った企業を研究・探索することが必要です。企業セミナーの最初の段階では情報収集のために先入観無しに数多くの企業を回ることは良いことです。しかし、セミナーから選考に入る段階においては、このマーケティング能力を発揮して企業をある程度絞り込んで訪問して欲しいと思います。私たちが採用面接において学生と出会う時、その絞り込んだ理由はそのまま志望動機にもなり、つまりそこで応募者のマーケティング能力を垣間見ることもできるのです。
Just another Recruiting way