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第60号:企業も大学も採用が死活問題

新年になり大学も活気を取り戻してきているとことと思いますが、本年も宜しくお願い致します。

昨年も多くの大学にお伺い致しましたが、最近、目に付くのがオープンキャンパスの催しです。ボランティアとおぼしき学生が、年配の方々や高校生を引きつれてキャンパスを案内しているのを本当によく見かけるようになりました。大学も採用活動(新入生獲得)には本当に努力しているんだなとかんじさせられるシーンです。企業であれ大学であれ、どんな組織にも新しい血というのは不可欠なんですね。

海外の大学でのキャンパス・ツアーというのは殆どが観光客向けですが、今回、例にあげたのはその大学に子女を入学させようという親御さんたち、またはご本人たちです。自分の人生の一部を過ごす大切な学校を自分の目で見ることはとても大事なことだと思います。受験する上でも気持ちが乗ってくるものですね。多くの大学がこういったキャンパス・ツアー等の広報活動に力を入れてくることでしょう。

さて、採用活動は釣りのようなものです。漁場が豊かな時は簡単な仕掛けで誰でも釣れますが、魚が減ってきたら自ら魚を探しに行かなければなりません。その努力や技で釣果が決まるのですね。私たち採用担当者も良い学生を求めて遠く海外まで求めていくこともあります。この仕事の大変であると同時にやり甲斐のあるところでもあります。

ところが、最近は大学にもそんなプロの釣り師が現れてきているようですね。同志社大学が中国で入学試験を行ってより良い留学生の獲得に乗り出すそうですが、素晴らしい試みだと思います。国内に居て待つだけではなく積極的に海外に優秀な若者を求める姿は海外の大学のスタイルを思わせます。ご存知のとおり、アジアの諸国ではトップレベルの留学希望者は米国の大学を目指しますが、少しでも日本に目を向けさせて欲しいものです。

グローバル展開をしている企業は一足早く中国の留学生に目をつけております。既に日本の若者と中国の若者の質と人材コストの比較を行っており、どちらで採用した方がコスト・パフォーマンスが高いか検討しています。アジアの優秀な学生を獲得するのは、国家レベルの課題になってきていると思います。企業も大学も採用が死活問題になってきましたね。今年も視野を広く志を高く、頑張りましょう!

第59号:地上戦線盛んなり。

早いもので今年もカウント・ダウンの季節になりましたが、就職戦線の方は盛況のようです。戦線と言えばイラクですが、大規模戦争は収束したものの市街地を中心とした小規模なテロ活動は未だに続いており、出口の見えない混沌とした状況です。ベトナム戦争でも同じでしたが、大規模な戦いよりも小規模なゲリラ戦の方が大変なようですね。これは就職戦線でも同じなのかもしれません。

採用担当者の業界用語では、インターネット上での採用活動を「空中戦」、企業説明会等を開催して実際に学生とコンタクトする採用活動を「地上戦」と称します。採用戦線は秋の空中戦から始まり徐々に地上戦に主戦場を移していくのですが、今年は最初からかなり「地上戦」の方が盛んです。それというのも、最近は「空中戦」で囲い込んだ(ネット登録してくれた)学生が、なかなか現実の企業セミナーや採用選考に参加してくれないという悩みが採用担当者にあるからです。特に今春は就職協定による集中化現象があったことも大きな影響でした。大勢のエントリーに安心して蓋を開けたところ、出席率が50%以下だったということは珍しくありません。

そのためこの秋から多くの企業が大学に足を運び、直接に学生とコンタクトして印象を深めようとしているようです。まさに就職戦線も「地上戦」に主軸になったわけですね。最近は大学内でも学生の就職支援をする組織が増えてきました。就職課だけではなく、大学の学部毎のゼミ幹事会、OB会、学生サークル、内定者の4年生・・・それぞれの趣旨や目的、主義主張も様々ですが、これもイラクのように各派毎に信念を持って活動しているということでしょうか。

最近の「地上戦」でちょっと気になるのは「キャリア・セミナー」と言う名で開催されますが、内容は殆どこれまでと同じ「企業セミナー」であることです。(そもそも、企業セミナーも業界セミナーも境界は曖昧だと思うのですが・・・。)流石に秋から「企業セミナー」と名付けるわけにはいかないのでしょうが、「キャリア」と名付けるからには1企業知識や情報だけでなく、参加学生が職業教育として何らかの啓蒙を受けることが望ましいと思います。

空中戦、地上戦、協定に主義主張、そして溢れたモノと情報の戦後処理・・・、まさに就職活動は戦争ですね。戦う学生も採用担当者もタフに生き抜いていかなければなりませんね。

 

第58号:某野球選手の就職活動

プロ野球のリーグ統一問題が今年は大きな社会ニュースになっておりました。企業の採用担当者からみていても、「あれは経営者(オーナー)と労働組合(選手会)の問題だよね。」と外野から言いたい放題のヤジを飛ばしておりましたが、実際に裁判所の判断まで求められましたね。さて、リーグの統一問題は楽天の参入決定により一段落致しましたが、その楽天への就職が決まった某選手の最近の発言も採用担当者では話題になっております。

某選手についてはご説明するまでもなく、プロ球団からの金銭授受問題で話題になった有名大学のエースですが、いろいろあった末、無事(?)に新球団の楽天に就職が内定致しましたね。採用担当者で話題になっているのは、彼の発言内容の変化が一般の学生の就職活動での選考プロセスでの発言と全く同じだね、ということです。ちょっと彼の最近の発言を、採用担当者との会話風に書いてみましょう。

▼面接時:

採用担当者「まず志望動機をお話下さい。」

選手君「いろいろありまして野球をあきらめるつもりでしたが、新興企業である御社で活躍して恩返ししたいと思います。是非、貴社に入社(入団)したいです。」

▼内定者面談時:

採用担当者「君は5年後、10年後にどんなキャリアを描きたいの?」

選手君「小さいころから日本で活躍し、メジャーリーグに挑戦するというのが夢でした。貴社で結果を残してメジャーリーグに挑戦できたらいいと思っています。」

採用担当者「え?うちの会社で一生、頑張ってくれるんじゃないの?」

選手君「夢にウソつくわけにはいきません。」

同席の三木谷社長「男だったら世界を目指せ。オレたちはそれよりも魅力ある球団を作る。大リーグでそこそこやるより、このチームで歴史を作ろう!」

*この会話は、半フィクションです。 (^_^;

まあ、彼もフツーの大学生だったということでしょうね。内定を取ったら強いです。ただ、できれば早く大人になって、マナー(というかタテマエというか)も覚えて欲しいと思います。イチロー選手・松井選手ほどの人格者になれなくても、大リーグで活躍したいなら日本を代表する心構えで(今なら在籍大学を代表するような心構えで)礼儀とスマートさを身につけて欲しいものです。新庄選手も言いたいことを言いますが、ジョークとタイミングをよくわかっていると思います。

大リーグ志望というキャリアプランは素晴らしいことですが、彼の会話を聞いていると、「就職活動でよく見る『ホンネ信奉』の自分に忠実な学生のようだね。」と、採用担当者の飲み会で苦笑しておりました。

 

第57号:大学内セミナーでの個人情報の取り扱い

ピークを越えつつある学園祭とは反対に、キャンパスでは就職ガイダンスがますます盛んになって参りました。この時期は自己分析や業界説明等、企業の具体的な説明はまだなされませんが、採用担当者にとっては重要な知名度アップの機会です。私もたまに大学内での合同企業説明会のコーディネートを依頼されるのですが、最近は学生の個人情報の取り扱いに気をつかうようになりました。

採用担当者が大学での種々の就職ガイダンスに参加して、関心をもった学生から積極的にアプローチして戴くのはとても嬉しいことです。採用担当者の仕事のやり甲斐を感じる一時で、「お時間のある時に改めて訪ねてきて下さい。」と思わず名刺などを渡してしまいます。しかも、こういった縁で採用内定に結びつく件は、意外と多いのが実感です。(勿論、「これは!」と思った学生でないと名刺など渡しませんが。)

企業にとって早期に応募者の母集団形成をすることが重要なミッションになっている昨今、大学内セミナー等の機会で1人でも多くの学生の個人情報を集めたいというのは採用担当者の本音です。しかし、ここで改めて採用担当者に倫理が求められると思います。私も大学内で複数の企業のセミナーをコーディネートする際には、以下のような視点から参加企業に対して学生の個人情報の収集をご遠慮戴くようにお願いしております。

1.自身の個人情報の取り扱いになれていない学生の保護のため。

2.早期の就職ガイダンスは学生の職業理解が目的であり、企業理解ではない。

3.間接的に採用(就職)活動の早期化を煽ってしまうことを防ぐため。

4.学生が気軽に企業にコンタクトできるようにするため。

最近の多くの大学内セミナーでは、まだこの点が完全に管理されていないように思えます。アンケートと称して企業が学生の個人情報を集めることも珍しくないようですが、しかるべき時(まあ後期の試験が終わる頃でしょうか)が来るまで、そこは就職情報企業に任せてグッとこらえたいところです。

単一民族の日本ではプライバシーに対する問題意識がまだまだ低いようですが、個人情報の取り扱いがますます社会的にも大きな問題になってきております。社会の入り口である就職ガイダンスのところからお互い気をつけていきたいところです。学生にも自分の情報を自分で守る意識を持たせたいものですね。

 

第56号:奇跡の陰にある理工学技術(と就職面接)

中越地震での被災地にご関係の方々の心労、お察し致します。つい先日、長岡科学技術大学へ就職ガイダンスにお伺いしたところでしたので、ニュースで状況を見るたびに心が痛みます。今回、二つの「奇跡」がマスコミ報道されています。その中で理工系学生の就職面接を思い起こさせるシーンがありました。

ご存知のとおり、「奇跡」のひとつは上越新幹線での大きな怪我人が無かったこと、もうひとつは土砂崩れから救出された幼児の件です。新聞報道では、この二つは「奇跡」と言われておりますが、この奇跡の陰には理工学技術が大きく寄与していると思います。

とあるTVニュースでは、この新幹線事故を「安全神話の崩壊」という視点でキャスターがとりあげ、海外での新幹線ビジネスに影響が心配される、と声高に報道しておりました。しかし、そのインタビューを受けた新幹線の技術者がいろいろな具体的材料をあげながら、「私は技術者として今回の出来事が奇跡だったということは言えませんが、これまでの研究開発や技術の結果だと信じています。」と全く動じることなく発言されていました。奢った態度ではなく、事故を冷静にみている態度に、流石のキャスターもその後のトーンが変わりました。まさに理工系と文系の視点の違いを感じさせられたところです。

一方の土砂崩れの事故も、幼児の発見には最新のエレクトロニクス機器(人命探査装置、ファイバースコープ、音響探査機、夜間暗視装置等)が導入され、難しい分析を現場の技術者(レスキュー隊)が困難な条件の下で使いこなして生まれた奇跡だと思います。

自然の活動には人間はちっぽけな存在に過ぎませんし、今回は確かに幸運だった要素もあったことでしょう。しかし、人間の生活を守るために理工学の技術が発揮されたのは素晴らしいことだと思います。そういった普段の努力があって、初めて奇跡は起きるのだと思います。

さて上記の技術者の態度は、理工系学生が企業での就職面接で是非、見習って欲しい態度だと思います。採用担当者が圧迫面接(実際、マスコミで騒ぐほどのものなど無いと思いますが)などやってきても、自分の哲学を持っていれば恐れることはありません。そんな強い「哲学」をもったエンジニアの卵は是非、採用したいものですね。

 

 

第55号:夏秋採用の光と陰

今年の10月1日も例年通り、都心の電車はリクルート・スーツの若者集団で溢れていました。こぼれている笑顔を見ていると、すぐに内定式の帰りだとわかります。企業も学生も、ようやく今シーズンの採用・就職活動に一区切りというところですね。さて、そんな明るい光景の陰で、残念な話題もありました。企業による内定取消・学生の内定辞退のことです。

最近は採用シーズンの長期化で、内定を出してから入社するまで約1年間あります。これは変化の激しい今の経済環境の中では非常に大きな経営リスクだと以前にも述べました。今年の夏秋採用は、例年になく件数も多く、採用数も多い企業が目立ちました。春採用で十分に採れなかったのか、やっと人員計画が見えてきて採用数が増えたのか、事情はそれぞれでしょう。

そんな中で、とある有名企業から内定を取り消された学生が居りました。理由は、10月1日の内定式に参加して誓約書を提出したのに、他の企業にも誓約書を出していたから。要するに内定を複数貰っていて、まだ決めかねていた学生です。早くどちらかに決めなくてはと思いながらも、夏秋採用で内定連絡を貰ってすぐに内定式になり、迷った末に2社に誓約書を出してしまったのです。

この学生のとった行動は誉められたものではないでしょう。しかし、昨今の就職シーズンの早期化を見ていると、一概に責める気にもなれません。今の就職活動(特に夏秋採用は)は、事前に十分な企業研究ができないうちに選考に入り、内定してから企業研究をして意志決定をする、というのが普通になってきているのではないかと思います。10月1日に内定者を確定したい採用担当者の気持ちも分かりますが、そういった事情を配慮してあげるのもまた仕事ではないかと思います。このようなシーンを見る度に、日本の就職活動の不合理さを感じます。経団連の倫理憲章も、本来の目的は早期化防止ではなく、拘束の防止ではなかったかと思います。

採用担当者側に居る者としても、あまりに不合理な仲間の行動を見ると恥ずかしくなることがあります。内定辞退した学生の不満を、何の落ち度の無い大学就職部にクレームをつけにきたり、強引に呼び出して謝罪をさせたり。企業が自由応募で受け付けているならば、学生の不始末を大学に言うのはおかしな事だと思います。文句を言いたいなら、それは親にでも言うべきことではないでしょうか。

採用担当者として内定辞退を受けるのは辛いことですが、夏秋採用で良い学生を採るということは、何処かの企業の内定を辞退させている可能性が高いはずです。学生にも辛い判断を強いていることでしょう。しかし、そんな事情は業界トップ企業の採用担当者の方にはわからないことなのかもしれませんね。

第54号:夏の就職活動は元気が一番

今年の夏は過去最高の真夏日数を記録しており、就職活動を続ける学生さんには辛いシーズンでしたが、そろそろ夏採用の方も結果が出始めています。私もこの夏は数名の学生の就職活動を支援致しました。春のシーズンでは思わしい結果を得られなかったり、遅れて活動を始めたためであったり、学生の事情はいろいろです。夏の就職活動では元気が一番なのは誰しもよくわかっていることですが、肝心なのはその元気がどうすれば取り戻せるかです。

6月に神戸大学で「就職リターンマッチ」と称して行った企画に参加した学生さんからも、最近、大手企業から希望職種で内定を貰ったとの連絡を戴きました。本人の弁によると、「やはり面接には自信をもって臨むことで、リターンマッチ企画の頃は自信を無くしていたのですが、あれをキッカケにだんだんと自信を取り戻して面接でも緊張しなくなりました。」とのこと。やはりどんな試練があっても、へこたれずに頑張るとそれなりの成果は出るものですね。元気を出して前向きになれば、内定を取れる学生はもっと増えるだろうと思うのです。若者に元気が無いのが、今の就職率低迷の原因かもしれません。

さてその元気や自信はどこから生まれてくるか?それはスポーツに例えると分かりやすいのではないかと思います。スポーツの試合では気合いや精神論だけでは勝てません。地道な練習を積み重ねて初めて結果がついてくるものですね。レースや試合で最後に自分を支えてくれるのは、練習から身についた知識と技術です。それでもプレッシャーは感じますので面接でアガルことは避けられませんが、採用担当者は実力があって上がってしまう人と、そうでない人を見分ける目は持っています。

そんなことを考えながら、今回の学生さんの支援活動ではやや長い時間をかけて志望業界の知識や見方、社会人のキャリア形成についての会話を致しました。話す内容は就職課の方がされているものとそれほど変わらないと思いますが、“見知らぬ大人”と長時間の会話を行い、自分の考えを伝える機会は就職活動中の学生と雖も意外と少ないようです。結局、そこで身についたものは、採用担当者と同じ人種の“見知らぬ大人”と会話する知識と技術で、そこから自信が生まれてくるようでした。特別なプレゼンテーションスキルでもなく、ただ単に“見知らぬ大人”と会話する機会、それが今の若者に決定的に欠けているものではないかと改めて思わされました。もしかすると敬語の乱れもタテ社会の崩壊もここに原因があるのかもしれませんね。

第53号:「こじつけ」と「一夜漬け」

最近、多くの企業の採用選考に取り入れられている選考方式のひとつにグループ・ディスカッションがあります。あるテーマについて決められた時間で応募者が議論を行い、ひとつの結論を出すというのが一般的ですが、応募者の議論を聞いていると、本来大学生の特権(?)とも言える、「こじつけ」と「一夜漬け」のできない学生が増えているのではないかと感じてしまいます。

グループ・ディスカッションのテーマにはいろいろなものが設定されますが、参加者に不公平にならないようなテーマが選ばれていることが多いです。というのもグループ・ディスカッションで評価するものは知識の有無ではなく、コミュニケーション力、問題解決力等、個人の行動特性や知恵に関わる部分なのですから。ところが、グループ・ディスカッションのテーマを見て、自分の未経験の分野であった時、すぐに諦めてしまう学生がおります。例えば「大学生協の新たなサービスを学生の視点で提案してみて下さい。」というテーマが出た時、「私の大学には生協がありませんので、わかりません。」と言ったまま、議論に消極的になってしまうような学生のケースです。確かに大学生協の有る学生と比べたら、知識では不足しておりますが、それがそのまま提案できないことには繋がらないでしょう。

こんな時に学生の方に思い出して欲しいのは、大学の試験でヤマが外れた時のことです。そんな時にもすぐに諦めないで、何とか自分の勉強してきたことを総動員して題意に導くような「こじつけ」にチャレンジしてみて欲しいのです。「こじつける」ということは、Aという概念とBという概念の関係を何らかの形で理由づけるということです。それは自分の志望する会社と自分自身との関係を考えるというのと同じ作業であり、つまりそれは志望動機を考えるということに他なりません。

グループ・ディスカッションにおいても、このような姿勢でどんなテーマであってもチャレンジして欲しいと思います。特にグループ・ディスカッションは一人で行っているのではなく、何人かの仲間と知恵を共有しあって発想をより大きく広げるチャンスがあるはずです。

「こじつけ」も「一夜漬け」も準備不足からくるものなので、使わないにこしたことはありませんが、社会で仕事をして行くとき、完全に準備された環境で進められるということは、よほどルーチン化された単純作業です。多くの仕事は未知の部分を抱えながら進めていくものです。グループ・ディスカッションも同様に、まずはどんな時でもチャレンジする前向きな姿勢を見せて欲しいものですね。

 

第52号:工場実習とインターンシップ

この夏もいろいろな形式のインターンシップが各企業で実施されており、多くの学生が社会勉強をしていることと思います。インターンシップという言葉を聞くと、いつも思い出されるのは、理工系学生に伝統的にあった「工場実習」です。今では経験者も少なくなっているようですが、これはインターンシップという言葉が輸入される前からあった、日本の伝統的な学生の社会勉強でした。決して効率の良い社会勉強ではありませんでしたが、学ぶことは多かったと思います。

理工系学生の工場実習とは、所属する研究室の教授の指示によって特定の製造業の工場へ行き、見習い社員のように生産ラインでモノヅクリの現場を体験することです。期間は1ヶ月程度で、企業での待遇はアルバイトとされていることが多かったです。インターンシップと違って、特にカリキュラムが組まれて指導されるわけではありませんので、なんとなく単純作業のアルバイトで終わってしまったという学生も多かったですが、心ある先生は「何を学ぶかは自分で考えろ。」「何を学べるかは君の問題意識次第だ。」という言葉で送り出してくれました。

工場実習の経験者には、「そうは言われても単純作業で終わっちゃったよ。」「工場の人と仲良くなっただけだったなあ。」という感想も多いのですが、インターンシップでも工場実習でも、忘れてならないのはカリキュラムの充実度ではなく、参加する学生の学ぶ意欲ではないでしょうか。整備されすぎた環境の中では人間の創意工夫する力が衰えます。「必要は発明の母」という言葉通り、問題意識のあるところにアイデアが振ってきます。

しかし一方で、インターンシップという名称で学生をアルバイト要員として招集する困った企業もあります。過日のダイヤモンド・ビッグ&リード社のセミナーでも就職課の方から、そういった企業の対策はどうすべきか?というお問い合せも戴きました。インターンシップの定義を定めるというのは難しいことですが、そういった企業・業界は特定の分野に限られると思いますので、ブラック・リストを作って就職課ネットワークで共有すれば良いのではないでしょうか。学生向け個人商法では既に行われている対策だと思います。(最近は学生向けの就職情報サイトでもこういった情報が提供されています。)

また、ちょっと無情かもしれませんが、そういった失敗も社会勉強だ、致命的にならない程度の失敗は学生のうちにやっておいた方が良い、と指導する発想もありえます。無駄のないこと、完成されたもの、安全なもの、の中だけで学ぶことは社会勉強としては何か不足しているのではないかと感じるのです。夏休み、可愛い子には旅をさせたいものですね。

第51号:「就職課に対する採用担当者の声」

先日、ダイヤモンド・ビッグ&リード社主催の大学就職指導ご担当者向けのセミナーがあり、「大学就職部の役割を探る」というテーマで講演をさせて戴きました。事前にProfessional Recruiters Clubのメンバーに呼びかけ、大学就職課についてのアンケート調査を致しました。セミナーで一部を発表したのですが、講演後に詳細を知りたいというご感想を多く戴きましたので、ここでいくつかご紹介したいと思います。歯に衣着せぬ言葉もありますが、採用担当者の生の声ですので是非ご参考下さい。

  • 大学就職課についての満足・不満足について:

「一部の私立大学の就職課は主体的に外を見ようとし、採用担当者などの意見を真摯に聴き、そこからヒントを得て進取の取り組みをされています。一方では内にこもり、従来踏襲型で内外に対して主体的に動こうという姿勢が見られないところもあります。また、人事異動が極端に頻繁なところもあり、経験やノウハウの伝承が分断されてしまうのが、とても残念です。就職サポートに対する組織側の姿勢の希薄さを感じるとともに、これでは、学生に対しても、企業に対しても満足なサポートができないのもやむなしかなと思えるところもあります。」

「大学によって温度差がある。それは特定の大学様では学生の就職、並びに企業の採用ということに真剣に取り組んで頂き、それが画期的なセミナーなど行動となって表れている。その反面、学校の経営(自分の城)に目が行き過ぎ、学内の人事ローテーションが盛んになり、長期的な取り組みを出来るだけの人材並びに風土が確立されていないと感じる。」

「大学によって異なるが、窓口がオープンでない所がある。(窓口を特定の企業にしかオープンにせず、その他の企業に学内セミナー等の機会を提供してくれない。国公立に多い。)」

「就職課の影響が強すぎて、学生が自分で考えず、就職課のいいなり(就職課がこう言うからこれが正しい)になっている。概して就職課の態度が威圧的。カウンセリングというよりも「私は知っているが君たちは知らないだろう。だから聞いておかなければいけないんだ!」という押しつけ&不安感を持ちやすい。」

  • 大学就職課へ今後期待する役割、取り組んで欲しいテーマについて:

「学生への情報提供の場の形成を期待する。大学進学率が100%になろうとしている少子化の中にあって、今まで以上に大学をキャリアの通過点と捉える兆候がある。そこで、従来通りのアカデミックな学問を学ぶ場としての学校とは別に、より実社会を知りキャリアについて学べる場所の確立を期待している。そこには企業から何らかの協力を注ぎ、文系学生に対しても産学共同で日本の未来を担える人材形成の第一歩としたいと考える。」

「学生、採用担当者、その他関係者の声に真摯に耳を傾けること、そこで感じたことを実際に行動に移すことや学生に対するフィードバックやカウンセリング機能の強化。通常では、学生の関心が動かない良質の業界や企業の認知させるための活動。早期からのキャリアについての啓発機会の頻度向上。就職活動期以外で、企業の採用担当者を学生のモチベーションアップ(学生生活の糧となるべき啓発機会)に利用するなどの仕掛け。などを期待します。」

「学生が自分で考えて、自分で判断できるような就職活動の指導。就職課の押しつけや決めつけ、過保護的な指導は学生の考える力を損なう。」