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第70号:インターンシップ募集花盛り

各大学の就職課を回っていると、紫陽花の花に負けずにあちこちの業者、団体からインターンシップの告知ポスターが出ています。インターンシップの情報提供は完全に商用サービスになってきたようですね。インターンシップが普及することは社会と学生が近づくことで望ましいことではありますが、手間のかかるところはなかなか担当者泣かせです。

今週販売の週刊誌でも夏のインターンシップ特集がとりあげられており、内定にどう結びつくかがまとめられています。インターンシップを採用活動に直結させるべきかどうかという議論はよくなされておりますが、企業側ではやはり採用活動の一環と捉えている方が多数でしょう。なんといっても成果主義のご時世ですからそれだけの予算を出せるのは採用関係費(採用広告費)しかありません。上記の雑誌のコメントでも、インターンシップを経験した学生はその企業に志望する確率が高くなる、と書かれています。同時に、早期に学生を確保したいというのが企業の本音でもあるとのこと。中には年間1000人近い学生を受け入れている企業もあり、こんな規模になると社会貢献活動ですね。

大勢の学生を受け入れる企業にはいくつかのパターンがあります。まずは企業規模が大きく、学生の受け入れ許容部署が多いところです。電機系製造業に多いパターンですが、これは各部署でインターンシップの内容が異なるので、現場の方々との受け入れ調整が非常に苦労して、学生とのマッチングも気を遣います。次に、同じカリキュラムを大勢の学生がこなしていくパターンです。比較的IT系の企業に多く、ITスキルやコンサルティング・スキルをトレーニングしながら学んでいきます。人事の研修グループなどが主体なることが多いですが、新人研修のようにこの期間は研修準備と評価で徹夜になることも。最後に注意したいのは、労働集約的な作業をさせる企業です。インターンシップ等の名称で様々な業務をさせるのですが、実態は企業の労働力にされていることがあります。それはそれで社会勉強でしょうが、ちゃんとアルバイトという名称にして給与を払って欲しいものですね。

大学内でも夏のインターンシップの参加ガイダンスが盛況ですが、これはまさに採用活動キックオフが10月からまた3ヶ月前倒しなったということですね。めでたく採用担当者はシーズン・オフが無くなりました。こうなってしまったのは、企業採用担当者の自業自得なのか、大学就職課の老婆心なのか、採用情報業者の戦略なのか、さっぱりわからなくなってきました。明らかに言えるのは、情報産業の一分野として就職ビジネス規模が拡大しているということですね。まあ三者ともこれで給料を貰っているので文句も言えませんが。(仕事ほど給料は増えませんけどね・・・。)

 

第69号:転職を考える新入社員

今春、就職した新入社員達も研修が終わり現場に配属されはじめました。どの新入社員も就職活動で考えていたイメージと現場とのギャップを感じながら頑張っていることでしょう。最近では5月病という言い方も古くなったかもしれませんが、企業の現場に出た新入社員から早くも転職の相談がありました。人も羨むような人気企業に入ったのですが、人の悩みはそれぞれですね。

新入社員の入社後の心理変化は経営学の研究テーマですが、神戸大学MBAの鈴木竜太助教授が興味深い事例研究をされておられます。先生の研究によると、新入社員の組織に対する愛着心・執着心(組織コミットメントといいます)は「J字型カーブ」を描くといわれています。意気揚々と入社した新入社員は、現場のとのギャップ(リアリティ・ショック)を感じ、「こんなはずじゃなかったのに・・・」と落ち込むことが多いのですが、時間の経過と共にだんだんと気を取り直し、「就職活動で描いていたのは夢だったんだ。」と現状を受け入れ始めて気持ちを向上させていく。その気持ちの変化がJ字型のカーブを描いていることが観察されたのです。落ち込み方の程度や期間は個人差がありますが、最近ではすぐに転職する新人も増え、落ち込んでいる期間がだんだんと短くなってきているようです。(もっとも転職後にまたJ字型カーブにはまって再度落ち込んでいるかもしれませんが・・・。)

このJ字型カーブについては、無駄だから無くした方が良いという意見と、これがあるからこそ若者に忍耐力が付くという意見とがあります。どちらにも一理があるのですが、雇用の流動化を短気に成果を求められるこのご時世では、前者の方が有力になってきているようです。リアリティ・ショックを消し去るために、インターンシップ等を導入して現場を早く理解させる方策が有名なRJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)ですね。

さて採用担当者にとっては、新入社員が転職を考えるというのは他人事ではないのですが、意外とまだ大きな問題として業界ネタにはなっていないようです。それは中規模以上の企業では採用担当者と人事労務担当者が別になっているためで、つまり採用する部署と退職希望者対処をする部署が別々になっていることが多いからだと思われます。退職相談は極秘裏に行われるものですしね。本当に採用活動の評価をするならば、単年度で何人採れたという評価ではなく、採用した社員が3年後位にどんな成果を上げているかで評価されるべきなのですが、そこまでしっかりフォローしているところはまだ少数でしょう。(就職課の評価も、就職率ではなく卒業後の満足率なんかで測る考えが必要かもしれませんね。)

たまに採用担当者の耳には、新入社員からの「話が違うよ!」という声や、現場の社員から「何でこんな奴を採ったんだ!」という声が聞こえてきたりすることもあります。まだまだお付き合いははじまったばかりですから、お互い長い目で見ましょう。3年3割といいますが、石の上にも3年ともいうではないですか。

参考文献:「組織と個人 ~キャリアの発達と組織コミットメントの変化」鈴木竜太著(白桃書房)

第68号:内定する学生のあたりまえの共通点

首都圏、大手企業の内定出しも一段落してきました。これから追加募集と一般職の募集が本格的になりますね。年初から多くの学生さんからの相談に乗ったり模擬面接を行ったりしてきましたが、ここにきて内定している学生さんの共通点が見えてきます。相談の後に結果連絡があるかないか、OB訪問をした先輩にお礼の連絡をしたかしないか、です。

これは単純そうなことですが、毎年の経験値としてかなり結果相関があります。これはテクニックとかではなく、やはり日頃の人とのコミュニケーションにどれだけ配慮しているかなのでしょう。就職後、仕事を頼んだ時にちゃんと結果報告に来るかどうか、自分だけで自己完結していないか(他人の評価を受けているか)、ということにもつながってくるのかもしれません。

「情けは人のためならず」ということわざは、以前、かなり話題になりましたので本来の意味を取り違えている方は少ないと思いますが、社会に出ると良い人脈の重要性をしみじみ感じます。そして、それを伸ばすのは、やはり日頃の他者との関係をどれだけ大事にしているかでしょう。キャリアの正体は「専門性と人的ネットワークの組み合わせ」と言います。どんなに素晴らしい才能や知識を持っていても、それを活かす場所をもっていなければ活躍できません。就職というのは、自分の専門性を活かす人的ネットワークの獲得活動ともいえるでしょう。

私は学生時代、運動部でした。ご経験のある方はおわかりだと思いますが、どこの運動部でも試合や練習が終わったあとに、後輩は必ず先輩上級生のところに走って行き、「お願いします!」とアドバイスを求める習慣があります。上級生は必ず何か有効なアドバイスをしなければなりません。お互いの切磋琢磨ですね。そんな中から自然に報告という習慣が産まれ、礼儀も感じるのだと思います。

さて、これからの就職活動で、どれだけの学生が報告に来てくれるか楽しみにしています。あたりまえのことを、あたりまえにすることが特別なこと(少数派)になっていないように、期待したいと思います。

皆様のところへも学生からの笑顔の就職結果報告が届きますように。

 

 

第67号:電車事故を機会に考える

尼崎の電車事故については学生の方の被害者も多く、ご関係者の方々には深くお悼み申し上げます。既に多くの報道がなされているとおり、この事故からは当該企業のモラルや組織文化だけではなく、日本社会の問題も浮き彫りにされておりますが、少し考えてみたいと思います。

・組織独特の文化:

どこの企業も事業内容や属する業界や取引先の影響を受けております。ベンチャー企業においては公共性の高い事業よりも遙かに個人の意見や意志決定を求められますが、後者においては独自性よりも組織の目的(ここでは公共の目的を達成するための組織目的であり、営利目的のことではありません)が優先され、規則正しく行動することが求められます。前者も後者もどちらが良いというものではありません。ただ、今回の当該企業では民営化になって従前の組織文化からの切り替えの際、守るべきことと、変えるべきことを忘れたのだと思います。特に大企業ほど組織における行動パターンや従業員の意識は簡単に変わるものではありません。

当該企業の社長の嘆きの声は現場に届いているのでしょうか?同様に、学校長や総理大臣の声が、職員や学生や国民にちゃんと届いているのでしょうか?

・知らない間に鈍感になる現代:

「みなさん、中におられる人はみんな一生懸命やっておられたよ。その人たちを責めたってしゃぁないわけでしょ。みんな、あなた方含めて日本の社会のゆるみがこういう事を起こしているんですよ。私もそうかもしれんけど。誰かを責めて、責めて済む話じゃない。何もかもがゆるみきった社会がこの犠牲者ですよ。」

ご遺族の方の重い言葉です。とかく他人に無関心になって自己中心的になりがちだったり、とかく自分で判断しないで誰かに意志決定をして貰ったりしがちな現代社会の危険がここにあります。

学生は自分の意志決定を無意識に誰かのせいにしていないでしょうか?キャリアコンサルタントは知らないうちに自分の考えを学生に布教していませんでしょうか?

・情報の発信責任:

今回の事件ではマスコミ(記者)の報道姿勢も問題視されました。マスコミに就職した途端、その人の個人の意見があたかも公共の代表になってしまう危険性を、どれだけの関係者が意識されているのでしょうか?少し前の放送局とIT企業の闘争では、メディア軽視のようなマスコミ報道もされていましたが、公共性・中立性を訴えるマスコミが(特に当該企業は鮮明に)ほぼ一色な報道をしていたことに気づいていたのでしょうか?

企業セミナーで、社員は自社のアピールを致しますが、私たちはどれだけ他社や他業界のことを知って自社の優位性を説明できているのでしょうか?(企業セミナーは営利目的なのでマスコミと報道とは同一には語れませんが、学生に与えるインパクトは大きいです。)今回の事故当該企業に限らず、社外のことを知らないで自社のことを語ることは恐ろしいことです。

今回の事故をもとに我が身を振り返ってみることが、犠牲者の方々への大事な供養だと考えました。改めてお悔やみ申し上げます。

 

第66号:企業の学生呼び出しパターン

早いもので4月も中盤を過ぎ、大手企業の採用選考もドンドン進んでいます。まだ今年の戦線の傾向を判断する時期ではありませんが、企業が学生を呼び出すタイミングを見ていると、業界毎の特色が表れていてなかなか面白いものがあります。

・金融系(特に銀行)・・・4月に始まり一気に呼び出し。有望な学生は3日間連続で呼び出して短期決戦内定出しをすることも。(お上が絶対型呼び出し

・製造業・・・倫理憲章をしっかり守り4月1日に始まるが、真面目に集団毎に管理して1週間おきに選考呼び出し。なので、全部終わるのに3週間位かかることも。(生産管理型呼び出し

・総合商社・・・4月に入ったら自信満々マイペースで呼び出し。4月後半頃に余裕をもって内定出しをして、学生のもっている他社の内定を辞退させる。(殿様商売型呼び出し

・ベンチャー系・・・2~3月から早期決戦で出会った学生はすぐに面接に呼び出して結果を出す。内定辞退されてもへこたれずに説得、またはすっぱり諦めて次の応募者を呼び出す。(ホリエモン型呼び出し

こうしてみると、それぞれの業界文化というか企業のカラーというか、上司からの呼び出され方や、仕事の進め方もこんな感じかもしれません。知らないうちに企業の仕事スタイルが採用スタイルにも現れているのでしょうね。

ところで、選考に合格した応募学生に企業が結果を伝えて次の選考に呼び出す手段は今でも電話が中心です。電話は一度のコンタクトで結果通知と次の面接の出席確認がとれるのでもっとも効率が良いのです。最近はインターネットでのメールで連絡をする企業も増えてきましたが、結果通知メールを発信しても学生からの返事がないと面接スケジュールが確定できないので、却って非効率になる場合があります。(最近は面接日時をいくつかの候補の中から選べるシステムもありますが。)

最終面接で役員や人事部長等のオエライ様の面接スロット(面接に呼び出す時間割)に穴を空けてしまって時間を無駄にするのは恐ろしい事態なので、採用担当者は必死に面接スロットを埋める努力をしているのです。

携帯電話の無い時代の電話連絡では、学生の不在時には家族への伝言、一人暮らしの学生へは留守番電話にメッセージを残していました。ご家族の方が出られたときは、そのご家庭の様子が垣間見えてホノボノしたものです(親御さんから「どうぞ娘を宜しくお願いします!」と頼まれたりして・・・)。

いまは携帯電話への連絡が中心になりました。企業からの電話は通常、発番号非通知で連絡しますので、この時期は非通知の着信記録に「どこの企業からだろう?」と学生は疑心暗鬼になっておりますね。無機質な世の中になってしまったものです。

 

第65号:採用選考の「合格」と「内定」

4月の1週間が過ぎました。今年の桜は遅咲きですが、企業の内定出しも同様でチラホラ開花の便りを聞くようになりました。花の命は短いですが、就職内定桜の花見時期は一斉に満開ではなく、ちょっと長目ですね。桜の開花予想や桜前線の情報は天気予報で聞けるのですが、就職内定の動向のリアルタイム情報があれば採用担当者も是非聞きたいものです。自社の桜がいつ満開になるかとても気になるものですからね。最近は、開花できずに終わることもありますし。

少し早く咲いた桜、いやもとい、いくつかの内定を戴いた学生の話を伺っていて「第一希望」と言わないといけないか?という相談がやや増えてきてきます。昔から多い相談なのですが、最近はこれに対してのアドバイスも難しくなってきました。

多くの企業は、以前ほど学生の志望度合いを気にしなくなってきて、本人の実力が理解できて将来性高しと判断すれば、内々定を出すようになってきましたが、一度、内々定を出したら、いきなり企業と学生の立場は180度逆転し、学生がアドバンテージをとってしまいます。そのため企業も内定の出し方にいろいろ策を講じます。

もっとも多いのは、採用選考の考合格」と「内定(内々定)」を区別するやり方です。最終選考が終了した時点で、選考合格の結果を伝え、そこで改めて入社の意志を確かめます。そこで「お世話になります。」という言質が取れたら内定を伝えますが、もしそこで「まだ迷っています。」という発言が出たら、「内定保留」ということを伝えます。

本気でその学生を採用したいと思う企業は、学生が回答を保留する原因を丁寧に聞き、それに対しての相談にのったり、企業の理解不足であれば社員との面談を設定してくれたりします。大量に学生を採用する企業や人気企業では、日限を切って回答を求めたり、逆に放っておかれたりしますので、こんなところからもその企業のカラーがわかります。

一方で注意したいのは、上記と似たような対応でありながら、選考合格の結果を伝えずに学生の選考保留を長期に渡って引き延ばす企業です。選考途中で第一希望でないとわかると「企業理解が足りないね。社員との面談を設定しましょう。」ということで、数回に渡って面談を続ける企業があります。企業はその間、もっと有望な候補者が居ないかを探しています。

志望動機の書き方から面接テクニック、そして内定を貰うまで、学生の相談もますます高度で複雑になってきましたが、企業採用担当者も大学就職課職員もよりますます頑張らなければなりませんね。これからの1ヶ月は山場ですが、皆様のご健闘をお祈り致します。

第64号:採用担当者が描く応募者のキャリア・プラン

ようやく春らしい季節となってきましたが、花粉症に悩まされている方はご愁傷様です。この時期になると学生もだんだと面接にも慣れてきて、ぎこちない志望動機や自己PRもスムーズな「会話」になってきます。ウォーミングアップも済んで、いよいよ就職戦線キック・オフですね。既に結果の出ている企業もありますが、内定した学生のことを振り返ってみると、自分のキャリア・プランをしっかりもっている方が多いです。しかし、それは採用担当者の考えるキャリア・プランとは必ずしも一致しているとは限りません。

学生との模擬面接や個人面談(キャリアカウンセリング)を繰り返していると、有望な学生ほど就職活動で社会を知り始めて、目がキラキラしてきます。同時に「これまで自分の大学生活は何だったんだ?」「もっと早くこんなことを知っていたら学生生活も変わっていたのに。」と自分の無知に気づいてきます。そんな学生は志望動機や自己PRもどんどん良くなり、「この会社にはどういえば受かるか?」ではなく、「自分はこの会社にはこう主張していこう。」と主張の軸が定まってきます。そうなってくると迷いや悩みが減って自信が出てくるので、結果的に面接でも良い結果がついてくるようになります。迷いながらも、自分はこんな風に生きていこうという信念(キャリア・プラン)が生まれてくるのですね。

さて、採用担当者はそんな学生が主張するキャリア・プランをそのままに受け止めるかどうかはまた別の問題です。メディアでは「自分のキャリア・プランをしっかりもっている学生が求められている」、というように書かれていることもありますが、正確に言うと「採用担当者が応募者のもっているキャリア・プランを聞いて、その応募者のキャリア・プランをイメージできたら内定を出す」ということではないかと思います。つまりポイントは、学生がしっかりとしたキャリア・プランをもっているかどうかではなく、採用担当者が応募者のキャリア・プランを描けたかどうか、ということです。

上述の通り、学生の描くキャリア・プランは限られた経験や耳学問によるもので必ずしも現実的ではなかったりしますし、採用担当者が企業の内部からの視点でその学生をみた時に、異なるキャリア・プランを描くことも多いです。学生のプランを軽視しているということではなく、「そんなキャリア・プランを志望するならこんなキャリアも歩んでくれるだろうな。」という想像を働かせているということですね。企業内部には、とても学生に説明しきれない仕事情報(キャリア・プラン)があるのです。

最近、大手電機メーカーの中途採用で細かい職種別募集は止めて大まかなくくりで募集し、やってきた中途応募者と採用担当者がキャリアカウンセリング風に話し合いながら具体的志望職を決めていくという方法をとるケースが出てきました。新卒採用の場合、採用担当者が描いたキャリア・プランを選考中の段階で学生自身にフィード・バックすることはあまりありませんが、お互いがそんなプランを描けたら採用担当者は安心して内定を出すことができますね。

第63号:「三方良し」の志望動機

近江商人の古くからの商売の理念に「三方良し」というものがあります。商売は、売り手と買い手という当事者に都合がいいというものだけでなく、その取引が世間にとっても好都合(有意義)でなければならないというもので、「売り手よし、買い手よし、世間よし」それを「三方良し」と言います。採用面接で伺う志望動機もそんな考え方を持って貰えると良いのですが、最近はなかなか商売ッ気のある学生さんは少ないようです。

就職活動は、言うまでもなく自分自身を企業に売り込むための営業活動です。採用担当者が内定を出すということは、企業が「君の将来を買った!」と判断したわけですね。ところが、最近の採用面接ではどうもその点がうまく売り込めていない学生が多いようです。(相手の買いたい)自分のセールスポイントをまとめるのが自己分析の主な作業であり、それを整理したセールス・トークが志望動機ということなのですが、それが「三方良し」ではなく、「一方良し」になっていることが多いです。

「三方良し」の理念に沿った志望動機とは、下記のような内容がしっかりまとまっていることです。

・売り手よし・・・自分のやりたいことができる、やりがいがある

・買い手よし・・・企業がその学生を採用して業績が伸びる、採用担当者が評価される

・世間よし・・・その学生を採用した企業が(その学生の業績によって)社会からも評価される

「三方良し」の志望動機を話せる学生は、人生に対する視野の大きさや、仕事や社会における自分の位置づけも感じさせてくれます。これが「一方良し」になってしまっているということは、自分の利益・メリットだけを述べている、自分の熱い気持ちだけを述べている、ということです。

先日とある面接の場で、最近増えている大学院生の就職面接に立ち会いました。その方は自分が学部生に比べどれだけ勉強しているかを一生懸命に述べておりました。専門的な勉強に力を入れていた分、却って熱が入ってしまったのかもしれませんが、それを聞いている私がどれだけそれを評価しているか、という視点には欠けていたようです。こちらから「では何処でも貴方の希望する部署に就かせてあげますので、そこで何がしたいか、何ができるかを述べて下さい。」と質問したところ、具体的な話が殆ど出てきませんでした。つまり、「買い手よし」の視点が無いのです。

採用担当者はキャリアカウンセラーでも人生相談役でもありません。面接は営業活動であるという原点にかえって、「よし、君を買った!」と言わせるような志望動機や自己PRを聞かせてほしいものです。

 

 

第62号:「自己紹介」と「自己PR」

就職活動では、採用担当者がどうでも良いと思っていることに意外と悩んでいる学生が多いです。前回、模擬面接について書きましたが、参加学生から一番多かった質問は「『自己紹介』と『自己PR』は何が違うのですか?」でした。面接者は厳密にこの言葉を区別していませんし、面接者毎に定義が違いますから正解などないのですが、デジタル時代で単純にA=Bとの公式でつながらないと動けないのは今の学生の大きな傾向のようですね。

あまりに悩んで眠れそうもない学生が居たので、下記のようなアドバイスを伝えました。

「自己紹介」=口頭で伝える自分の名刺、インデックスのようなもの、1分程度。

「自己PR」=自己紹介で出した項目(インデックス)の具体例等をあげながら自分のアピールポイントを説明すること。長くても3分位まで。

ということで、もし面接者が「1分程度で自己紹介して下さい。」と言われたら、その企業で伝えたいこと(主な活動や長所等)を3件位あげてみる。

もし「3分位で自己紹介(自己PR)を・・・」と言われたら、上記のインデックス(自己紹介)から始めて詳細(自己PR)を付け加える。用意した内容を全部話す必要はなく「3件有りますが、特に××について述べます。」とその企業に一番適していそうな1件(自分が一番、その企業の採用担当者に売り込みたい点)を集中的に話しても構いません。

特に時間指定もなく「自己紹介(自己PR)して下さい」と言われたら臨機応変に判断して(どうもデジタル世代にはこれができないようですが・・・)、まずは1分位話してみて、面接者の反応を見ながら続けるかどうか判断すれば良いです。よく考えればわかることですが、初対面の人間に最初から3分間も話されたら、それだけで第一印象はあまり良くないでしょう。

一番、面接者が聞かされたくないのは、用意したことをテープのように話されることです。特に履歴書やエントリーシートのままに話されたら、面接者の心情は間違いなく「早く終わってくれ。」となっています。とはいうものの、就職活動の最初の段階では決められた文書を話すことから始める方がとりつきやすいのも確かです。早く「会話」としてそれを伝えられるようになって欲しいです。スポーツでも芸術でも基本の型の練習はつまらないですが、それを踏まえて応用ができて個性が出てきます。

とある週刊誌の記事に「内定とれる面接」という特集がありました。その中で超有名企業の採用担当者が、「志望動機・自己PRは聞かない。行動事実だけを話せばよい。それで会社の方が判断する。」と発言されておりました。この記事だけでは真意はわかりませんが、私には何とも学生を見下した書き方と映りました。背景には、確かに年々低下(超マニュアル化、生徒化)する大学生の実態があります。行動実績中心に質問するのが最近の面接の主流であり、採用担当者の判断のバラツキもなくなるでしょうが、肝心なのは行動実績を学生がどう捉えて今後に活かしていくかという点だと思います。それが志望動機と自己PRに繋がっていれば、何の問題もありません。私は過去の行動実績を本人がどう捉えているか、その見方や発見こそが良い自己PRと考えております。そんな志望動機や自己PRは是非、聴かせて戴きたいと考えています。

 

第61号:模擬面接参加は“とりあえず”思考?

採用担当者はこの時期ご縁のある大学に招かれて模擬面接の面接官もよく行います。昨年からProfessional Recruiters Clubで就職指導のお手伝いを引き受けている大学でも模擬面接を行いましたが、採用面接という特種な環境下でふつうに会話するというのはなかなか難しいことです。今回、参加して戴いた学生の一部の方は、以前にお会いしたこともあるのでふだんの会話でどれだけしゃべれるか、どれだけ良い人物かを知っているのですが、模擬面接では実力を発揮できない方が殆どです。

ふつう、企業の採用面接では以下の5段階で応募者の合否判定をしているでしょう。

レベル1:立ち居振る舞い(第一印象)

レベル2:話し方(敬語、積極性)

レベル3:話しの構成(論理的思考)

レベル4:話しの内容(実体験の難度、行動力、学習能力)

レベル5:人間的魅力(人間性、本人のもつ哲学)

今回の模擬面接で、レベル4まで会話が進められたのはごく少数でした。

思うように話せなかった学生が多かったのは、模擬面接の実施時期が昨年よりも1ヶ月ほど早かったせいかもしれません。企業の先行早期化に対応して大学内指導も早期化しているようですね。しかし、もっと気になったのは、学生の“とりあえず”思考です。模擬面接を受講するに際し、事前準備をしてからやってくる学生は少なく、まず体験してから考える、という学生が殆どです。そのため、せっかく採用担当者が腕まくりをして望んでも、たった1回の模擬面接ではこちらが指導したいレベルの「会話の構成・内容」まで行けることは少なく、それ以前の「入退室の立ち居振る舞い」「履歴書の書き方」「話し方」までで終わってしまうことが殆どです。

学生の“とりあえず”思考を生んでいる原因に思いを巡らせると、やはり情報過多社会、スピード社会という現代の世相が浮かびます。特に就職活動はそれが凝縮されているようです。企業は早期に、一時期に、大量に、学生への応募エントリー、セミナー参加を求めます。学生は企業が開催する就職セミナーに十分に調べていく間もなく、“とりあえず”参加して、その雰囲気や印象で応募するかどうかを決める。こんな構図を見ていると、採用担当者が学生の準備不足を嘆くどころか、企業の作る情報津波が“とりあえず”学生を生んでいると言っても良いかもしれません。

しかしながらこんな時代だからこそ、事前にしっかりと準備して就職活動に臨む学生が光ってくるのも確かなことですね。努力をする学生にとってはやりやすい、採用担当者にとっても見分けやすい、それが今の少数精鋭採用を生んでいるのかもしれません。