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第80号:クリスマス商戦と就職商戦

今年も最後の配信となりました。街を歩けばクリスマスの飾り付けが綺麗です。景気が上向いてきたせいか、この年末はクリスマス商戦も盛り上がっているようです。先日、都心のターミナル駅のある繁華街に買い物に行ったのですが、ふと気づくと大勢のリクルート・スーツの学生たちが。どうやら近くのホールで企業の合同就職説明会があったようです。どうもクリスマスは就職商戦の時期にもなってきたようです。

大きな交差点で信号が青になった途端、クリスマスの華やかな色彩の中に何やら無彩色のリクルート・スーツの大集団が渡ってきます。手に肩にしているのは某有名企業の広告が入った紙袋。一見して就職説明会の帰りとわかります。それもかなり大規模なものだったようで、リクルート・スーツの人並みは途切れることなく延々と続いています。ふと気づいたのは、その学生達に向かって走り寄る同じリクルート・スーツの数人の学生たち。気になって観察していると、何やらアンケートらしきものをとって、それから何かを宣伝しています。まるで怪しいキャッチ・セールスのようです。

何だかクリスマス気分が滅入ってきたのですが、気を取り直してお目当てのデパートに入りました。そこですぐに目に入ってしまったのはリクルート・スーツのセールです。勿論、スーツだけではなく、靴、カバン等の就活7つ道具までしっかり揃っています。化粧品売り場では就職面接向けのメーキャップ指導。驚いたことに、最近は男性向けもあるんですねえ。とある大学で面接官を印象づけるメーキャップという男子学生向けのイベントを発見した時もたまげましたが、今の就職活動は本当にお金がかかりそうです。

企業の採用戦略は、ふつう商用(一般広報)から採用(求人広報)に向かうものでした。まずは企業の認知度を高めて企業のファンを増やし、そこから求人集団を形成するという流れです。どうもそれが最近は逆になっている企業もあるようです。採用広報で大集団を形成した後、その集団に自社製品を買って貰うという流れです。そもそも採用広報で形成する集団の大多数は選抜されてご縁がなくなるわけですが、それでは勿体ないとの企業の商魂が動いているようです。つまり、採用から商用へという逆流がおきているようですね。

企業にとっては自社のものを買って貰わなくても良いんです。今回の繁華街での就職イベントのとおり、自社の広告の入った紙袋を大勢の学生が持って歩いてくれたら十分な(一般)広報になりますからね。学生はいつの間にか歩く広告塔にされているわけですが、これは新聞などよりはるかに安価な広告活動です。

どうやら今の日本には巨大な就職産業という業界が形成されたようです。就職シーズンの長期化がそれを急成長させているようですね。せめてクリスマスには学生も大学も採用担当者も休息しましょう。戦争だってクリスマス休戦があるじゃあないですか。

来年も皆様のご活躍をお祈りしております。良い年をお迎え下さい。

 

第79号:コミュニケーションの達人生協の白石さん

あっと言う間に「時の人」になったのが生協の白石さんですね。(大学職員でご存じない方は居られないでしょう。ついにアマゾンで書籍販売No.1になってしまいました。)少し前にTVで報道されてから一気にブレイクしたようです。白石さんの著書は顧客対応の模範ですが、コミュニケーションの達人です。面接でもまれにこんなウィットに富んだ学生さんとお会いすることがありますが、見習って欲しいところが多々あります。

東京農工大学の生協職員として顧客である学生さんのコメント・カードの内容がインターネットかされてついに今月出版されました。この本が売れた理由はいくつかあると思いますが、まさに時代が求めているアナログ感覚というか、暖かい人間的コミュニケーションですね。思いつくところでヒット要因をあげてみると以下の点でしょうか。

1.顧客に対して真面目に向き合う

⇒どんな難題、いやがらせ、クレームについても真剣に非常識なほど真面目に対応する。

2.組織の視点ではなく個人の視点で向き合う

⇒所属する組織から最低限求められている対応の上に個人のできうるサービスを載せている。

3.サラリーマン(社会人)としての悲哀も伝える

⇒どんなに個人で対応したくてもできないところはできないと(優しく)伝える。

4.ユーモアを忘れない

⇒コメントには必ず嫌味にならないユーモアを載せて余裕のある回答をする。

5.どんな質問にも対応するプロ意識

⇒決められた時間内に全ての回答を必ず行う。

*と、書いてきてみると、コラムを書いている私も見習わなければなりません。

白石さんの魅力は数々ありますが、昔はこんな対応をしてくれる大人は多かったです。子供の頃、小中学校での先生でも人気になるのは厳しさと同時に優しさも与えてくれた先生だったと思います。今は学校の先生も余裕がなくなってきているのでしょうね。

こんなコミュニケーションが話題になるほど、今の時代は乾いてデジタルになってきているのだと思いますが、採用選考面接でもふとこんなユーモアのある回答をしたくなりました。きっと白石さんは就職課職員に採用されてもカリスマ的な相談役になりますね。社会の現実と楽しさをうまく教えてくれるのはないかと思います。あまり知名度が上がることは望まれないかもしれませんが、そこがまた好感をよんでしまいそうです。

 

第78号:採用トレンドはダイレクト・リクルーティング

大学祭の時期ですが、既に3年生向けの企業のセミナーやエントリーシートによる書類選考が始まっております。昨年からドンドン進んでいるのが、企業が直接学生とコンタクトするダイレクト・リクルーティングの手法です。古くはリクルーター制度ですが、今年はついに企業連携の合同企画が始まってきました。

少し前に大手企業17社が合同で企業セミナーを開催する報道が流れました。内容は仕事理解のための社員との対談が中心で、合同社会人訪問という方が正しいでしょうか。いろいろな業界の企業が集まることによって、それぞれの業界・企業に関心のある学生母集団をシェアしようという狙いです。その背景には以下のようなことがあげられるでしょう。

1.早期の学生情報の入手

⇒個人情報保護法の関係でダイレクトにコンタクトする必要がある。

2.メガ就職情報サイトとの使い分け

⇒数千社登録されている集合サイトでは、如何に有名企業でも埋もれてしまう。

3.学生への直接認知度の向上

⇒Web登録数よりも直接コンタクト数の向上を重視する。

4.コストダウン

⇒採用シーズンの長期化により低コストの企画の回数を増やす必要がある。

5.異分野の優秀な学生とのコンタクト

⇒異業界の企業が集まることによってタイプの異なる学生集団をシェアできる。

こういった合同セミナーはこれまで就職情報企業が企画・主催していたものですが、企業の方で会場やエントリー用ホームページを用意して行うことは殆どありませんでした。それぞれの企業が形成する母集団をシェアするのは学生の奪い合いになるからです。ところが少子化の傾向もあり、これまでのように自社と馴染みのある大学・学部の母集団形成だけではなかなか良い学生と出会えるチャンスが少なくなってきました。

それに学生の大学での指向(志望業界・企業)というのは、それほど具体的なものではなく、入社してから変わることが多いものです。かつては業界毎のカラーというのは明確でしたが、今はサービス産業化(ホワイトカラー化)の傾向が高く、建設業でもメーカーでも商社でも仕事内容が似てきています。直接に社員と対話することによって志望が変わるのはよくあることです。

米国ではダイレクト・リクルーティングは主流で、そのためリクルーターという職種が確立しています。ダイレクト・リクルーティング手法はいろいろな形態がありますが、これから日本企業もいろいろなノウハウを持ってくるでしょう。日本の採用担当者もようやくプロ化の傾向がでてきたということかもしれませんね。

 

 

第77号:社員紹介採用と入試広報活動

企業の採用方法にはいろいろな手法があります。外資系企業においてはポピュラーで、最近は日本企業でもたまに見かけるのが「社員紹介採用」です。縁故採用の一種ですが採用部署が公募するので従業員は誰でも利用できます。これは社員のクチコミを採用広報に利用するものですが、大学の入試広報でも応用できるかもしれません。

日本企業の縁故採用というと、紹介してくるのはお偉いさんが多いので、採用選考の現場にあれやこれやと口を出すことが多いのですが、外資系企業では縁故紹介という習慣がないので、採用担当者は精神衛生上、とても楽です。そもそも外資系では現場のマネージャーが採用権限を持っていることが多く、彼ら自身が人事部長のようなものですから、人事部に紹介するというのは入社手続き作業にすぎません。

この「社員紹介採用」は、中途採用で一般に用いられており、公募に知人を紹介して、その人物が採用選考をパスして入社したら一定額の報奨金が出るのがふつうです。報奨金は紹介したポジションによって異なることが多いのですが、トップレベルの経営コンサル業界では100万円を超えるようなこともあります。こういった報奨金が出ることもあって、紹介者は採用選考に口を挟むことはできず、また仮に不採用だった場合もクレームをつけてくることはまずありません(この点、外資系は本当に楽です)。

ただし社員紹介採用は、やり方によっては日本の職業安定法に抵触することがあるので(人材紹介は国の許可が必要)、報奨金の支払い方法等については気を遣います。一般社員を即席ヘッドハンターにするようなものですからね。それでも人材紹介業を使うより、はるかに安価で良い応募者が集まることが多いのです。

さて、大学入試広報担当の方と話をしたときに、大学広報では在学生のクチコミによる受験生への紹介が一番効果があると聞いたことがあります。クチコミによる広報はバイラル・マーケティングと呼ばれますが、ネット上での個人間のネットワークでも応用されています。バイラル(viral)というのは「ウイルスによって起こる」という意味で、伝染病のように伝播する効果を表します。少子化のこれから、どこかのカード会社ではありませんが、紹介した新入生が入学したら、紹介してくれた学生に報償金(奨学金適用等)を払うというのは効果があるかもしれませんね。

社員紹介採用が成功するキーは、社員が自分が属する会社を他人に紹介したくなるような状態であること。つまり社員がその会社を好きであるということです。同様に、在学生が自分の大学を好きであることがクチコミ広報が成功するキーとなるでしょう。学生への報奨金は非現実の域としても、企業も

大学もまずは社員・学生に対する精神的報酬を用意することが第一歩ですね。

第76号:脳の運動不足にならぬよう

第76号:脳の運動不足にならぬよう

3連休の体育の日にショッキングなTVニュース画像を見ました。子供の体力低下が止まらずに、ジャンプがちゃんと出来なくなっているシーンです。報道によると、9歳の男子の体力は20年前の女子の体力と同等だとか。運動不足が原因なのは明らかですが、ふと思い出したのは大学で行う就職ガイダンスでのシーンです。講演最後にお決まりの問いかけの「何か質問はありますか?」。何処の大学に行っても無反応なのをみると、大学生の運動不足も相当に深刻なようです。

企業採用担当者やキャリアカウンセラーが大学で懸命に講演をし終えたとき、もっとも期待と不安をもってむかえる時間は最後の質疑応答です。今日の話はどんな風に聞いてくれたんだろう?自分の話はわかりにくくなかっただろうか?講演者にとっての評価ともいえる緊張の一瞬です。

しかし、今ではすっかりこの緊張感も薄くなり、講演者から積極的に働きかけない限りまず質問が出ることはありません。気を遣ってくれる大学職員の方が、「うちの学生は大人しくて真面目なので質問はできないと思います。」と講演の最初から伝えて戴くことも多いです。「いえ、どこの大学も同じですよ・・。」とお答えするのは私だけではないでしょうね。

私は学生時代に運動部だったのですが、入部して来た新人の動きを見ていると、同じ未経験者であっても、運動に慣れている新人はすぐにわかります。特別に才能のある者を除いて、小さい頃から体をどれだけ動かしていたかの差によるものでしょう。

しかし、冒頭で申し上げた運動不足とは、勿論、手を挙げる筋肉が衰えているということではありません(もしかするとそれもあるかもしれません。)彼らが運動不足に陥っているのは、脳の使い方です。養老先生ではありませんが、人間の思考や発想も神経回路の使い方による個性で決まります。それまで一度もやっていない運動ができないのと同じで、使った経験の少ない脳の使い方はできないのでしょう。つまり、質問が出てこないというのは、授業や講演を聞いてもそれに疑問を持ちながら聞いた経験が少ないのでしょう。

今の時代、子供にはあまりに全てが用意され過ぎて回り道や失敗をする機会が少なくなっています。大人の方でもしっかり用意しておくので、失敗したくてもなかなか失敗できないんですね。その結果、体験してから考えるという非効率な生き方はやりにくくなり、失敗してはいけない、失敗は無駄である、という思考がかなり強くなっているようです。私は最近の講演では「生きるってことは実験と冒険」「失敗から学べ」ということを繰り返し話すようにしているのですが、この話を聞いた学生は口を揃えて「不安だった就職活動の気が楽になった。」と言います。この反応もどこの大学でも共通の講演後の感想です。

私の運動部の先輩はこの夏、高校1年生の息子さんと二人で東京から仙台まで自転車で帰省したそうです。息子さんはきっと型破りな体力と脳力をもった若者になるでしょう。私も体力に衰えを感じる年齢になってきたのですが、今の学生のためにもうちょっとむち打って頑張ろうと思います。負けてはいられません!

 

第75号:学生時代に一番、力を入れたこと

この夏休みに関西の大学数校の学生サークルを対象に、ビジネスプラン・コンテストを開催しました。以前から就職活動のためだけのプレゼンテーションやネゴシエーションの指導ではちょっと物足りないと思っていたので、実践的なビジネストレーニングをやってみたかったのです。最近は学生起業ブームなのでこの種のイベントは盛んですが、就職面接ではなかなか見られない生の学生の姿を知ることができました。

このようなビジネスプラン・コンテストは企業の広報手段として使われることが多いのですが、その多くはプランだけに終わってしまうことが多いので、実際のビジネスの流れ(実務)を知ることはできないことが多いです。大企業の経営企画とかマーケティングとかの部署だけでビジネスの全てを知った気になるのは危険なことです。実際、今回参加した9チームで入賞できたのは、商品企画だけではなく、その開発行程、販売ルートまで机上調査だけではなく実際に検証してきた2チームだけでした。ビジネスの実現性の有無が勝負を分かれ目になったわけですが、そこが、経営コンサルタントか実業家かの分かれ目でもあります。なお今回のコンテストでは入賞者は提案したプランを1年間、実際に行います。事業が成功したら、そのまま起業してしまう学生が出るかもしれません。

今回のコンテストでは企業経営者に加えて、Professional Recruiters Clubの採用担当者にも審査員をお願い致しました。面接やインターンシップでは見られない生の学生の姿に感心しており、「我々は採用選考で何を見ていたんだろう?」とつぶやいておりました。「これが学生本来の姿なのか、それとも我々がこのような学生と出会えていなかったのだろうか?」とても考えさせられたようです。

(例えが失礼ですが)動物園の動物のように檻の中では動物の本来の姿は見られないのでしょう。採用担当者は学生の本来の姿や、個人の能力をもっともっと知る努力をしなければなりません。企業の営利活動というコストの限界はありますが、例えばこういったビジネスプラン・コンテストの開催費用など、就職情報業者の広報費用に比べたら微々たるものです。大学においても経営学部や商学部なら、こんな企画を企業スポンサーで開催すれば、立派なキャリア教育になるでしょう。

新学期が始まり、これから3年生、修士1年生の就職活動が本格化してきますが、今シーズンは企業のオンキャンパス・セミナーが相当に流行りそうです。過熱気味の就職行事を考えながら、今回の審査員の彼とこんな話をしながら帰路につきました。

「学生が一番、元気で能力を発揮しているところを見て採用したいね。」

「『学生時代に一番、力を入れたことはなんですか?』という質問に、『就職活動です。』なんて答えさせることになっちゃいけないね。」

 

第74号:指定校制度と学校名不問

少し前の新聞で某有名企業の相談役の就職体験談の記事を見つけました。

「当時の大手企業の新卒採用には指定校応募と縁故応募の二つの枠があった。指定校といっても単に受験資格を得られるだけで、しかも大学から指定校としての推薦状を貰えるのは30人まで。縁故枠も含めて合否は筆記と面接で判定されるので、今振り返っても公正だったと思う。」

*抜粋編集しています。

これは昭和30年前半の就職事情で、当時の大学進学率は15%以下でいわゆるエリートの時代です。少し前の日本にもこんな時代があったのだなあ、と採用担当者としては羨ましくなります。というのは採用担当者の現在の最大の悩みは採用活動にかかるコストアップだからです。コストには広告宣伝にかかる費用の他に、採用担当者が費やす時間コストもありますが、指定校制度というのは募集費用と選抜費用が大学で一部肩代わりしてくれていたのですね。学生の「資質・能力」と「入社意思」を大学が保証してくれていたわけです。現存する理工系学生の推薦制度はその伝統を残しているものですが、さすがにほころびが目立ってきています。

外資系企業の日本法人で採用責任者を担当していたとき、「今の日本では学校名不問というのを標榜する企業が出てきているんだよ。」と米国本社の採用担当者に話したら、「Unbelievable!なんで日本はそんなコストのかかることをするんだ!?大学との関係を軽視しているのか?」と言われ、説明に苦慮しました。はたして指定校制度と学校名不問は、どちらが学校・学生を尊重しているのでしょう?

大学進学率が50%を越えエリートからユニバーサルの時代(全入時代)に入ったいま、採用担当者が企業経営の視点で求められているのは、「資質・能力」と「入社意思」の明らかな応募者といかに効率よくコンタクトするかです。大学と連携の指定校制度と自社独自の学校名不問採用、はたまた社員の個人的ルートのリクルーター制度と、どれを選ぶかは企業の資産と価値観で判断されますが、採用担当者は今の季節、心底、悩みながら来期の戦略をたてています。

第73号:人生は実験と冒険

夏休みを迎えた大学からは学生の姿が消えましたが、最近は多くのオープンキャンパスを開催する大学が増え、高校生や親御さんの姿をみかけます。大学全入時代もすぐ目の前になり、無理をしなければ必ず大学に入れるようになりました。人間は失敗と挫折を繰り返しながらタフに成長していくものですが、大学全入時代では残念ながらその成長の機会が一つ無くなってしまうようです。

「最近の応募者はみんな綺麗な履歴書だねえ。」これはとある製造業で理工系学生の採用面接を担当している技術部長がつぶやいた言葉です。この企業は急成長したベンチャー企業ですが、かつては人材育成の余裕がなく即戦力の中途採用が中心でした。非常に苦労しながらも大きく成長し、今では新卒定期採用ができるよになりました。常に人材難に悩むベンチャー企業としては有り難いことなのですが、この技術部長の嘆きともとれるつぶやきの真意は、人生の挫折を経験したタフな学生が少なくなったということです。企業の知名度が上がり、今までは振り向いてくれなかった大学からも(履歴上・成績上)は優秀な学生がやってくるようになりましたが、浪人や留年を経験した学生の応募が減り、ストレートに大学卒業年次まで達している学生が増えてきています。この技術部長の嘆きは贅沢なことなのかもしれませんが、最近、仕事で壁にぶつかってなかなか挫折から立ち直れない新入社員が増えてきていることを危惧しているのです。

社会に出てぶつかる仕事の壁は、学生時代との問題とは違ってたった一つの正解が存在するものではありません。正解は無数にありますし、その点数も100点満点ではなく、150点ということもあれば、マイナス200点ということさえありえます。そんなときには自分でもがいて悩みぬいて行動したり、時には恥を忍んで他人に頭を下げて相談したりして何とか乗り越えていかねばなりません。そんな挫折経験から若者は自分の無力さを理解したり、コミュニケーション力を身に付けたりするのですね。

「もうちょっと回り道をしたり、挫折をしている面白い若者を集めなさいよ。会社に入ってから挫折にぶつかって立ち直らせるのは大変だし、最近は挫折から自分で這い上がれる新人が減って面倒だよ。」続けて語る技術部長の言葉は、来る大学全入時代においてますます難題になるかもしれません。願わくは、キャンパス外で飛び回る夏休み中の若者達が多くのことにチャレンジして挫折にぶつかりますように・・・・。人生は実験と冒険の連続ですから。

 

第72号:キャリアセンターと採用担当者のプロ

去る7月25日にダイヤモンド・ビッグ&リード社主催の就職指導支援セミナーで講演の機会を戴き、「大学就職課からキャリアセンターの機能変化」ということをテーマにお話し致しました。私は以前から大学就職課職員と企業採用担当者の仕事環境と課題の共通点が気になっておりました。長らく安定的な雇用慣行の中で行われてきたこの2つの仕事は新たな職業として再生・見直されてきて欲しいという想いです。

点のサポートから線のサポートへ。これが就職課とキャリアセンターの基本的な違いではないかと思います。就職支援という一時期一課題の相談から、キャリア支援という通年多様の課題の相談が求められてきてキャリアセンターと名称変更をした大学職員の方々は十分なリソースを得られないままに走り出すことを求められていることでしょうか。これは企業採用担当者もまったく同様です。これまで新卒採用を中心に人材調達をしてきたのが、突然に中途採用から契約社員・派遣社員、業務委託(アウトソーシング)という多様な雇用戦略の企画立案・実行を求められ、はてはM&A(企業合併等)による人事政策(会社単位の採用活動ですね)まで求められてきています。

また、就職課(キャリアセンター)職員と採用担当者のもう一つの共通点は定期人事異動です。外資系企業では職種別採用なのでふつう定期人事異動はありませんが、旧来型の日本企業では3年位で定期人事異動のシーズンがやってきて、それまでとはまったく異なる業務に就くことも珍しくありません。これは大学内も全く同じことでしょう。一つの組織(大学・企業)で短期定期的に人事異動があるという仕事環境では、長期的な戦略の立案が難しいのは当然で、前任者がやってきたことに沿って任期を勤め上げるというスタイルになりがちです。必然、特定分野での専門化を育成しにくく、逆に汎用的なマネジメントのできる人材が好まれます。こういった人材育成戦略は高度成長期に日本的経営として広く高く世界から評価されたものでした。

ところが、経済環境が成熟・低迷する現在は、同じ目標を多くの組織(大学・企業)が目指すことはすぐにマーケットが飽和してシェアの奪い取り合戦になり、勝者は一部に限られ二極化になります。こんな時代には自大学・自社に最適かつ個性的で他からすぐに真似のされない戦略を企画立案・実行する能力が求められてきますが、それは自大学・自社にある情報・ノウハウだけではとても対応しきれないでしょう。

かくして、今の就職課(キャリアセンター)職員と採用担当者は外部市場でも通用するようなプロフェッショナリズムが求められてきました。大変な時代ではありますが、まさにこの二つの職業にはピンチとチャンスが一緒に訪れたと思うのです。さて、それぞれのゴールは何処に?

 

第71号:個人情報保護法でOB訪問が難しく

この4月に施行された個人情報保護法ですが、だんだんと一般の認識も高まってきました。大学就職課の職員と企業採用担当者にとっては、一番大きな影響を受けるのは企業に就職したOBと現役学生との紹介方法でしょう。双方にとって難題を抱えながら方策を考えなければなりません。

殆どの大学就職課には開架式で企業別の資料が整備されておりますね。情報の豊富な有名大学では他大学の学生も忍び込んで閲覧していることも珍しいことではないでしょう。その企業別ファイルに常備されていたOBリストが姿を消しました。重要なOBの就職体験談についても個人が特定できる部分についてはそのままで公開は難しくなり、大学職員の方々も今春、相当に作業時間をとられていたのではないでしょうか。

一方、これまで大学からの要望に応じて従業員の部署や連絡先を提出していた採用担当者は情報の提供ができなくなりました。正直なところ、採用担当者は作業が一つ減って少々楽になりました。各大学別に送られてくるOBリストのフォーマットは、大学別求人フォーマットと同様、採用担当者にとって作業負担の大きなものでしたから。(今は企業のコンピュータから人事情報の必要な部分を検索してプリントアウトして送付するだけで、大学フォーマットに記入を避けている企業が多いでしょう。)

しかし、企業のOBリストを出せないということは、学生が企業に触れる接点を失うわけですから安穏とはしていられません。特にここ数年、採用担当者は「今の学生はITの情報だけで就職活動をしている気になっていていけません。もっと自分の目と手と足を使って企業研究すべきだ。OB訪問は不可欠です。」と大学内の就職ガイダンスで言い続けてきたのですが、学生がOB訪問をするための最大の情報ルートが無くなったというのは大変なことです。たまに企業採用担当者に電話をかけてきてOB紹介を依頼する学生には、「大学就職課にOBリストを出しておりますので、そちらをご覧下さい。」という黄金の言い訳もできなくなりました。

さて、こうなってくると双方にとっての頼みの綱は、やはり学内・社内のOBを如何に活用するかでしょう。大学OB会では既に現役学生の就職支援に手を付け始めたところもありますが、就職課やキャリアセンターと連携しているところはまだまだ少ないようです。その運営についてはいろいろノウハウが必要になります。企業側は、これまで以上にOBリクルーターを活用することになるでしょう。リクルーターには個人除法保護の知識をしっかり伝えて対応して貰わなければなりませんし、社内でOB対談会を設定することも必要でしょう(特定大学だけに行うのは好ましくない面もあるのですけどね)。

いずれにしても、学生が積極的にOB訪問をするのに大変苦労する環境になってきました。企業も大学でのOB講演にはもっと本気で社員を出さないといけませんね。