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第110号:就職支援とキャリア教育

新年度になりました。桜の季節に新入生を迎えるというのはやはり良いものですね。自然が新たな若者の旅立ちを祝福しているようです。私も昨年から大学非常勤講師として暖かく迎えられ、試行錯誤しながらキャリア教育に取り組んで参りましたが、この時期に改めて新入生に望むのは、現実を受け入れる勇気です。それこそがキャリア教育の第一歩であり、4年間のキャンパスライフと就職活動が成功するかどうかのキーになるでしょう。

 

この1年間、学生と触れ合って驚いたことは、意外と多くの学生が「自分はこの大学に望んで入ったのではない」と思い続けていたことです。大学受験に失敗したという意識ですが、入学したばかりならともかく、高学年になっても現実を受け入れることができずにネガティブな気持ちでキャンパスライフを過ごしているというのは驚きでした。経緯はどうあれ、この現実をどう良くするかと考えないのは、自分の時間を入学時で止めてしまうことです。失敗だったら失敗と認め、さてどうするかと考え始めれば、止まった時間が動き出し、失敗は成功のタネに変えられます。

 

就職活動でもこれは大事な能力なのです。自己分析をするときに学生が陥りがちな失敗は自分の過去を「客観的に分析」してしまうことです。企業の採用担当者が知りたいのは、そういった事実そのものではなく、そういった事実を踏まえて学生がどれだけ成長してきたか、です。つまり、採用担当者が求める自己分析は「主観的な意思」なのです。「分析」という言葉が良くないのかもしれませんね。私は自己分析とは、自分の過去の事実を現在の時間で見つめ直してその意味を読み解くことであり、更にそれをどう活かしていくか創造することだと思っています。だから自己分析とはクリエイティブな活動なのです。

 

『時計の針は元には戻らない、だが自らの意志で進めることはできる。』とはあるアニメのセリフですが、昨年の1年間の低学年キャリア教育では、学生にこういったものの考え方を教え、学生の時計の針を動かし、更に早く進めるように指導してきました。時計の針を動かし、有意義なキャンパスライフに自ら変えていくことが、就職活動で「もっとも力を入れたこと」をより大きなものにすることになるのです。

 

私は、就職支援が学生へのサービスであるの対し、キャリア教育はあくまで教育でありスタンスは異なるものと考えています。サービスは学生のニーズに合わせて提供するものであるのに対し、教育は(信念に基づき)学生に強いるものである、ということです。このことは教育職員の方々には釈迦に説法ですが、大切なことは学生がそれをちゃんと理解しているかどうかです。自主性は放っておいても育ちませんし、リーダーシップも役割が来なければ身に付きません。

 

多くの新入生を迎えるこの時期、改めて学生に勇気を伝える勇気をもって今年も頑張りたいと思います。それが学生生活の総括である就職活動を成功に導くと信じています。

 

第109号:裏金と栄養費と奨学金

2年ほど前にもここで書きましたが、またプロ野球の就職に関する事件がニュースになりました。球団に入団することを前提に、「栄養費」と称する金銭の授受を行ったものです。事の真相はマスコミに任せるとして、就職・採用の視点でこのテーマを考えてみます。

 

今回も出てきた就職を前提とする「栄養費」ですが、この行為自体については法的な問題はありません。関係者のご家族が当初「奨学金と思っていた」とコメントされていたように、多くの企業でも奨学金を設定しており、大学の掲示板でも募集広告をごくふつうに見かけます。その中にたまに入社を前提としたものもあります。金額は月に数万円位で、諸般の事情で入社ができなくなった場合は、変換する契約になっています。さすがに今回の事件のような高額なものは一般募集では出ませんが。

 

奨学金の意義は高い資質と能力と意思をもちながら、進学する経済力が無い有望な若者を支援するために始まったものと思われますが、苦学生という言葉が死語になりつつあるいま、その意義は優秀な社員候補の確保に変わってきているでしょう。内定した学生に奨学金を支給して、アルバイトなどに手を出さずに学業に専念して欲しい、と経済的援助を行う企業もあります。(ホンネは内定者の意思確認にあるのかもしれませんが。)

 

正社員の場合でも、幹部候補生育成のために海外留学制度(MBA等)を利用する際には、帰国直後に転職したら手当を変換させる規定を設けているところが殆どです。企業にとって、優秀な社員を選抜して重点的に育成投資することは極めて当然の活動です。

 

つまり今回の事件を見てみると、問題は「栄養費」を出した行為そのものではなく、そういった行為は協定で禁じたにも拘わらず、秘密裡に行ったことにあります。そこが「栄養費」が「奨学金」ではなく「裏金」になってしまった原因ですね。

 

翻って就職倫理憲章はどうでしょうか?プロ野球と違って、全企業が承諾したものではありませんので問題が発生することにはなりませんから「奨学金」が「裏金」に化けることはないと思います。しかし、

この憲章を遵守する企業から4月1日に内定が出てくるような場合、ちょっと突っ込んでみたくなりますね。大手メーカーの中には他社はどうあれ、律儀に4月から選考を始める企業も多いです。正直者が報われないような日本では困ります。

 

第108号:履歴書とエントリーシートと面接

企業のエントリーシート(ES)の締め切りが迫り、面接も始まってきました。学生達は履歴書を手に企業訪問を行っておりますが、この履歴書ES面接との使い分けがちゃんとできていなくて、勿体ないと感じることが多いです。幸いなことに、今シーズンはかなり門戸が広いのでESだけで門前払いされることは少ないように見えますが、ESの内容は面接の原稿作りの様なものですから、しっかり書いて欲しいものです。意外にも、会話に自信のある学生ほど、事前の準備がおろそかで本番で支離滅裂になることが多いです。

冒頭で書いた「履歴書」と「エントリーシート」と「面接」の使い分けですが、大雑把に言えば下記の通りです。

履歴書・・・骨格

ES・・・肉体

面接・・・服装(&化粧)

つまり、同じテーマでも3通りの表現方法ができるわけです。履歴書は自分のエッセンスというか、自分の経験を客観的事実中心に記載した面接のメモのようなもの。その上に自己PRが加わって具体的エピソードを述べたものがES。しかし、裸のままでは失礼ですので、ちゃんとリクルート・スーツを着ていくのが面接の会話です。(女性は化粧も忘れずに。)

履歴書・ESと面接の違いは、紙メディア人メディアの違いです。前者は文字に制限がありますので、専門用語・数値を使って無駄なく効率よく書いて欲しいです。後者は生きた言葉ですので文字制限はあまり気にならなく、具体的描写に自分の感情を載せて活き活きアピールして欲しいです。ESにすると相当文字数を食うものでも、臨場感を伴った会話ではそれほど気になりませんし、気持ちは文字よりリアルに伝わります。

ごく基本的なメディアの使い分けについて書きましたが、この3つのメディアを全く同じにしている学生をよくみかけます。勿体なあと思うと同時に、採用担当者として面接で履歴書やESと同じ話をされるほど退屈で眠たくなるものはありません。是非、目が覚めるような自己PRを聞かせて欲しいものです。

第107号:エントリーシートの選択テーマ

エントリーシートの受付を締め切る企業が増えてきたのでしょう。学生からの添削依頼がヤマとなってきました。数多く読んでいると、学生生活の実態が見えると同時に世の中の動きが透けて見えてきます。統計学的に分析したらとても面白い社会調査になりそうです。

エントリーシートの定番質問である「大学生活でもっとも力を入れたこと」について、学生が取り上げているテーマを分類してみました。私が相談を受けている学生さんからの限られた手元資料だけなので、全体的な傾向とはいえませんが。

勉強(研究活動、卒論・修論)について・・・26%

大学公式活動(各種実行委員会、体育会等)・・・10%

サークル活動・・・32%

アルバイト・・・15%

自己啓発(語学・留学等)・・・15%

体育会は活動内容ではサークル活動に分類されますが、採用担当者の視点では一般のサークル活動とは異なる視点で評価しますので、大学公式活動に分類しました。

サークル活動が選択テーマのトップでした。「学生の本分は勉強である」というのは死語になっていたかと思いましたが、まだ大丈夫なのかもしれません。企業によっては「大学での勉強内容」という別項目の質問を設けている企業もありますので、その場合は「大学生活でもっとも力を入れたこと」は勉強以外のことを選ぶ傾向がもっと高くなります。

エントリーシートでも採用面接でも、学生からは「何を答えて良いかわからない」という問い合わせを貰いますが、こう答えなければならないというものはありません。寧ろ、どんなテーマを選ぶかは重要な選考基準です。それによって応募者の個性も見えてきます。

また、採用選考は応募者が他者と何が違うかを判断する作業です。ところが、エントリーシートを読んでいると、テーマの選択だけではなく記載内容まで似たようなものがあるので評価に困ることがあります。特にアルバイトについての記述では全く同じものがあったりします。おそらく学生の労働力に依存する産業、「学生労働力産業」とでもいう業界が増えているからでしょうね。学生個人は自分だけの体験と思い込んでいるので悩ましいことです。

 

第106号:写真展とエントリーシート

この週末に銀座のフォトギャラリーへ行きました。とある写真展に知人が出品していたのです。私も写真は好きで、就職でもカメラメーカーを考えていたりしました。企業選択のキッカケなんてそんなものですね。多くの写真を見ながら良い写真が撮れる理由はなんだろう?と改めて考えていました。それは今が盛りのエントリーシートの書き方にも通じるものがありそうです。

良い写真が撮れるタイミングは以下の要素から成り立っているでしょう。

・素材、タイミング

・伝えたいメッセージ

・表現方法、撮影技術(構図、トリミング、カメラワーク)

・撮影後の印画紙を焼くテクニック

報道・スポーツ写真のコンテストなどでは、特に「素材・タイミング」の要素が大きいです。どんなに腕が良くても、そのシーンにたまたま居合わせた(ベスト・ポジションを取れた)素人が傑作写真をものにしたりします。では良い写真とは結局、偶然・運・不運の産物なのでしょうか?

いや、そうではないと思います。何故ならプロの写真家はいつもカメラを持ち歩き、更に偶然が起きそうな場所を意識的に狙っています。日頃の機材のチェックや撮影技術向上にも余念がありません。だからこそ、コンスタントに良い写真が撮れるのです。

エントリーシートを毎日添削するようになりましたが、書かれている体験談には良くも悪くも、運・不運を感じさせるものがたくさんあります。「これはラッキーだね。」「これはしょうがないよね。」感慨深く読みながらも、さて、この場面に出会うのに彼女はどんな努力をしたのかな?さて、この場面で彼はどうしたのかな?書かれた体験談の中からできるだけ応募者の努力を読みとるようにしています。

(まあ、こちらがこういった努力しなくても、自然とわかる描き方をされている方は、スッと合格します。あまりに大量であったり、疲れてくるとそこまで努力を発揮できないこともあるのですが・・・。)

写真撮影では力強い素材に出会えれば技術など無くても伝わるメッセージを出せますが、エントリーシートでは体験内容(素材・タイミング)も、その表現方法(メッセージ、撮影技術)も頑張って欲しいものですね。

しかし、写真展を見てエントリーシートのことを考えるなんて、この季節の職業病でしょうか?そろそろ花粉症にも気をつけたいですね。

第105号:「どれだけ就職活動をしてきたか?」

大学センター試験もほぼ無事に終わったようですね。天候に交通機関、最近は英語の再生機器と試験のスタッフをされた方々は気苦労が耐えなかったことでしょう。大学は期末試験の準備に入り、学生もレポート準備や授業ノートの調達に走り回る姿が目に付くようになりました。就職活動もこの位、気合いを入れて目の色を変えてくれたら良いのですが、なかなかそうはいきません。それは採用担当者の勝手な希望なのですが。

 

メディアの報道や業者の情報等では、今期の学生の就職活動の出足はノンビリしてきたと言われています。就職環境の急速な改善のせいなのか、「今年は売り手市場」との報道のせいなのか、原因はよくわかりませんが、私の就職ガイダンスの経験でも同感です。

春先はかなりの勢いで学生さんがセミナーに集まってきたものですが、夏から秋にかけて企業の業界セミナーや大学でのガイダンスが増加するのに反比例して学生の集まりが落ちてきておりました。一部の大学の就職課や教員の方々からは、この状況の危機感を訴える声も耳にします。「学生の準備不足で困る。」・・・ etc.

 

確かにその通りではあるのですが、よく状況を考えてみれば超早期化の現状ではそれも仕方のないことであります。セミナーで学生集客が今ひとつの企業の採用担当者も似たような発言をされることがありますが、我ながら勝手な発言だなあと思います。「大学で学んだことをどのように企業で活かしたいですか?」まだ3年生の秋でまさにこれから大学生活の集大成に入ろうという学生には答えも見つからないことでしょう。理系面接などでは研究テーマ(大体が卒論・修論テーマ)を訪ねますが、学部3年、修士1年ではまだ配属もテーマも決まっていませんね。

 

採用選考って、学生が「どんなキャンパスライフを過ごしてきたか?」と総合的に判断するものだと思うのですが、大学も企業も気づかぬうちに「どれだけ就職活動をしてきたか?」で判断していませんかね?気のせいだと良いんですが、「準備不足」って学生を怒る前に気をつけたいものです。

しかし、若者を甘やかさずに伸び伸びと育てるって本当に難しいことですね。

第104号:就職の構造変化が確定した1年の始まり

新年、明けましておめでとうございます。まだ正月明けのせいなのか、就職環境の急速な改善のせいなのか、就職活動中の最近の学生を見ているとノンビリ感が漂っている一方で企業側はドンドン厳しい状況になってきています。今年の就職活動を総括するには早過ぎるかもしれませんが、間違いなく多くの企業が採用活動に失敗することはもう明らかです。

 

といっても、正確には全ての企業が失敗するのではなく、成功する一部の企業と失敗する企業に分かれてくるということです。その成功と失敗の分かれ目は、これまでの採用手法を変革した企業とそうでない企業との違いです。少し前のメルマガで紹介した採用する前に育成する「養殖型採用」のような新しい手法をとらない限り、企業が新卒人材を確保するのは難しくなります。(正月からのTV-CMでは某金融企業が小・中・高校・大学への寄付講座を社会貢献と宣伝しておりますが、あれはどうみても商品説明会です。金融教育の前に行うべきことがありますね。)

 

学生は少子化で間違いなく減っておりますし、学力低下も著しくなっています。先日集計したProfessional Recruiters Clubの意識調査でも、採用担当者の意見の過半数を占めています。学生は減り、求人が急増しているわけですから、上記の通り、今シーズンは採用方法を変えない限り、採用活動に失敗する企業が出てくるということです。しかもこの構造的要因はしばらく変わりません。

 

しかし、大学に寄付講座を作って提供するのは大きなハードルがありますのでこういった手法が取れるのは一部の大企業に限られるでしょう。中小企業については、いわゆる第2新卒の方に重点を置き、退職率が高く採用数も多い業界からの転職規模者を、即戦力ではなくある程度の教育を施してから採用する方向に向かうと思われます。新卒採用の場合は、採用時期(入社時期)が限られますので、とても新卒不足分を翌年まで待つことはできないからです。

 

いずれにしても、求職側にとっては待ちに待った”やり直しのできる時代”を迎えつつあるわけです。フリーターとして正社員採用の機会を失った若者にはこういった機会を積極的に活かして欲しいです。企業にとってはしんどい1年の始まりですが、もうそのコスト増には十分耐えられるだけの内部留保を上げております。従業員の報酬にはまだ十分に還元されておりませんが、せめてこれからの社員への投資は積極的に行って欲しいものです。

第103号:ハードルが若者を強くする

今年の就職戦線は学生有利の売り手市場が本格的に認知され、企業採用担当者の苦戦が続いております。セミナーや応募エントリー等もなかなか集まらないとの声が聞こえてきます。企業からの積極的なアプローチと反対に、学生の動きは昨年と比べると少々スローな気が致します。売り手市場になるとどうしても学生は受け身になり、「用意された環境」を「利用」する立場になります。それは学生にとって必ずしも良いことではないかもしれません。

 

就職環境のこの数年の劇的変化は驚くばかりです。学生の就職年次の違いによる運・不運は、本人の努力や能力を越えるほど激しいものかもしれません。ただ、何度も書いているように、こういった景気・市場の影響を受けるのは、上位・下位(という表現は妥当ではないかと思いますが、他の表現方法を思いつきません)の学生ではなく、中間層のごく「ふつう」の学生だと思います。上位・下位の学生はいずれも周囲の環境にあまり影響されないと言う意味では共通ですが、中間の学生はその逆です。

 

その中間の学生達を如何にその気にさせて企業に惹きつけるかというのが採用広報活動で、前回のメルマガのとおり、今シーズンは多くの企業が一般社員をリクルーターとして動員して大学に送り込んでいます。大手企業の中には数百人のリクルーターを組織化してターゲットとする(という表現も妥当ではないかもしれませんが、ご容赦下さい)大学を選んで送り込んでいます。面白いもので、企業によって動員されるリクルーターの意識は異なり、大手企業ほど「なんでこんな仕事をしなければならないんだ!これは人事の仕事だろ!」というクレームが多かったりします。

 

閑話休題、就職活動の学生はこんな恵まれた(?)環境になると、環境をなんとかしようという努力は少なくなりがちですが、逆に言うとこんな中で自分から環境を切り開いていく学生は目立ってきます。例えば個人情報保護法の影響で、自大学のOBに直接会って話を聞くハードルは高くなってきておりますが、何らかの手段を講じてOBとコンタクトしていく学生は間違いなく対人スキルの高い人でしょう。企業にとっては面接でなかなか測定出来ない行動力やコミュニケーション力の指標になります。

 

さて年も押し詰まって参りました。年が明けて試験が終われば、いよいよ就職活動の本番ですね。大学も企業もますます忙しさの渦に巻き込まれていきますが、就職活動がいつのまにか急成長する「就職産業」になっており、今が異常な就職早期化であることを忘れずにいたいと思うこの頃です。同じ労力をかけるなら、いかに大学との連携した人材育成&評価を考えるか、という点にかけたいものです。どうぞ良い年をお迎え下さい。

 

第102号:採用戦力になっている内定者

就職・採用活動の長期化により、入社までの内定期間も長くなりましたので採用担当者は内定者に対しての辞退防止のフォロー策にも気を遣うこの頃です。この時期になると3年生(修士1年生)向けの来シーズンの採用活動も盛んになって参りますが、最近は内定者を採用活動に引き出す企業も多くなりました。入社前教育として集合研修や教材を渡すくらいならまだ良いですが、「戦力」として扱うならば、せめてアルバイトとして扱って欲しいと思うこの頃です。

 

今は昔、私たちの世代が就職活動を行っていた頃は解禁日が10月1日であり、(4年の)夏休みに内定を持っている友人が居ると羨望のまなざしで見られたものでした。のどかな時代で入社までの内定期間の約6ヶ月、内定した企業の採用担当者に「何か入社前にやっておいた方が良い勉強はありますか?」とこちらから尋ねてみても、「学生のうちに思いっきり遊んでおきなさい。」と言われることが多く、入社前に膨大な課題を与えられるのは金融機関に内定した学生くらいでした。

 

ご存知の通り、入社前に内定者を最大限に戦力にしているのは人材ビジネス(人材派遣・紹介、就職情報等)業界でしょう。学生自身の日常の活動やネットワークがまさに即戦力になる産業ですから。大学内で後輩を集めて先輩体験談を行ったり、就職活動支援サークルを作ったり、ときには企業の人事部を訪問して就職イベントの提案まで持ってきてくれます。人材ビジネスに内定した学生にとって、これらは確かにとても良い「インターンシップ」でしょう。しかし企業サイドから見たとき、彼らは明らかに有望な戦力になっているわけですから、待遇面での考慮も忘れないで欲しいと思います。

 

私も以前、学生サークルから起業した就職情報のベンチャー企業とお付き合いがありました。熱心な内定者が稚拙ながらも学生らしい提案をもってきたので、広告でも出してあげようかと、いざ企画書や名刺をよく見てみると連絡先が個人の携帯電話番号・メールアドレスになっていることに気づきました。学生本人に確認してみると、内定企業のボランティアとして自主的に活動しているとのこと。しかし、たとえ本人が納得していたとしても、企業としては無給で働く学生個人と取引するわけにはいきません。その学生さんに法的なことも説明して、アルバイト社員になって貰ってから改めて出直して戴きました。

 

これは特殊なケースだったかもしれませんが、今は内定者を自社のセミナーに参加させることは多くの企業が始めてきております。これから就職活動を始める学生には先輩体験談はなによりの情報でしょう。しかし、法律やビジネス面で知識の少ない学生には、大人がしっかり配慮してあげなければいけないと思います。逆にこういった面をしっかり学生に教えて配慮し、協力を仰ぐやり方ならば、それは内定者にとっても非常に良い社会人教育になると思うのです。

 

 

第101号:採用担当者はマニュアル通りが嫌い

ICU(国際基督教大学)の大学院生が企業採用担当者の面接における意識調査を行いたいとの依頼があり、Professional Recruiters Clubを中心に約50名の採用担当者にアンケート調査を致しましたのでその結果を少々ご紹介致します。この研究はドイツ・米国・日本の採用面接において各文化による印象管理の相違を明らかにしようということだそうですが、いわゆる採用の面接本に書かれていることが、本当かどうかを調べてみたいとのことでした。

 

▼カジュアルな服装はあんまり気にしないが好印象にはならない。

服装についての印象は「どちらでもない(43.4%)」「悪い(41.5%)」の回答で、「良い(1.9%)でした。カジュアルな服装はデメリットになってもメリットになることは殆ど無いとのことですね。これかファッション業界等で集計すると傾向が変わるかもしれませんが。

 

▼ノックは2回でも3回でも気にしない。

入室時のノックの回数ですが、2回ノックは「良い(30.2%)」「どちらでもない(56.6%)」、1回または3回ノックは「どちらでもない(77.4%)」で、殆ど気にしていないということですね。採用担当者は応募者の入室待ちの時は、選考書類の確認に集中していることが多く、ノックの回数まで気にしていないと思います。マナー研修講師は「2回はトイレのノックですので止めましょう。」と良く言われますが、これはやはり笑い話にとどめて良いと思います。

 

▼給料や手当について質問するのは好まれない

「どちらでもない(49.1%)」「悪い(49.1%)」の回答ですが、これはこの質問自体が良くないというよりは、もっと就職に関する大事なことを聞いて欲しいということだと思います。給料等の実態は企業間・企業内でも差がありすぎて回答にもあまり意味がないでしょうから。外国のように給与が個別契約で一人一人異なる国では逆に印象が悪くなることはないと思われます。

 

▼マニュアルを見るのは良いが、マニュアル通りに回答されるのは嫌い

マニュアルを読んでいることについては「どちらでもない(45.3%)」「悪い(37,7%)」でやや印象が良くないようですが、実際の面接の回答でマニュアル通りの暗記回答では「悪い(43.4%)」「非常に悪い(30.2%)」でした。やはり「生きた会話」をしたいというのは大切なことのようです。

 

正直な所、アンケートでは採用担当者が全く気にしていない設問があったり、設問文言だけでは一概に判断できないこともありますが、大きな傾向として見るには参考になるでしょう。

マニュアル・ブームは情報過多社会の若者の傾向で、考える労力を省くという非常に危ないことです。学生と日々触れ合っていての個人的な感覚ですが、今の若者は「言葉にしないとわからない」「よろしかったですか?と過去形で丁寧表現をする」等、米国化が進んでいるようです。日本人は「空気を読める高等民族(?)」だったのですが、なかなかそうはいかなくなってきたようですね。