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第130号:模擬面接における自分軸と社会軸

最近は、大学入試と就職活動(採用選考)の開始が同時期になりました。大学内は受験生で溢れ、大学外は就活生で溢れています。受験大国日本の盛りですね。今年は例年以上に企業の選考開始の足並みにバラツキが出ているようで、それに合わせられたかのように学生の面接準備にもバラツキが激しくなってきたようです。

 

先日大学での模擬面接を行ったところ、なかなか話ができない学生にひとつの傾向がありました。自己分析を行っているのに、説得力のある志望動機を話せない学生です。その学生の話をよく聴いていると、体験談の整理や強みはまとまっているのに、それを志望する企業で、または社会でどのように活かしていくかを関連付けられていないのです。学生が最近よく使う就職流行語に、「自分軸」というものがありますが、それが世の中でどう発揮するかという「社会軸」を持っていないのです。

 

「自分軸」と「社会軸」について整理すると下記の通りです。

▼自分軸(垂直軸・時間軸)

過去の自分(体験談)⇒勉強、サークル、アルバイト、ボランティア、趣味

現在の自分(自己PR)⇒長所・短所、性格、能力、指向性、行動特性、専門分野

未来の自分(志望動機)⇒その企業で行いたい短期・長期の夢、希望、人生

 

最近は体験談を聞くコンピテンシー面接が大流行しているせいか、最後の志望動機について語るところまで思いつかない学生が増えてきました。これは、社会を表面的なところでしか知らないので想像がつかないのか、多忙な時間の中で自分を囲んでいる社会について見渡す余裕が無くなってきているのかもしれません。それが、下記の社会軸の視点の欠如です。

 

▼社会軸(水平軸・空間軸)

社会意識(一般常識)⇒時事問題、関心のある出来事、社会人意識

就活状況(企業研究)⇒他社の志望状況、企業(業界・職種)選択の基準

 

企業が社会軸を質問するのは、一般常識(知識)を見るだけではなく、その応募者の性格や本気度、意思決定基準がわかるからです。実際、自分軸(体験談等)を聴かなくても、その学生の人物の大きさは、時事問題の視野の広さや理解度、捉え方などによっても判断できます。自己中心がドンドン進む中で、むしろこれからはこちらを重視した面接が必要かもしれません。

 

売り手市場になると学生はどうしても「自分軸」を中心に考えがちですが、「一つのことに集中して回りが見えなくなる」のはドラマの主人公に任せておいて、広い視野から自分の軸を見直して欲しいものですね。

 

第129号:採用活動に関する大学との共同研究-3

昨年末にこちらでご紹介した、商学部のゼミ学生と企業の採用活動に関する共同研究(大学生の内々定辞退)の報告会が行われましたので、その調査内容を少々お伝えしたいと思います。この報告会は大学に企業採用担当者(約10社)を招き、学生のプレゼンテーションに対して質疑応答を行うという形式で行われました。今回で4回目になります。

 

1.採用予定人数を確保する為に採用基準を緩和することはありますか?(回答数48社、以下同じ)

・よくある           ⇒ 2.1%

・時々ある           ⇒31.3%

・あまりない         ⇒39.6%

・全くない           ⇒27.1%

⇒これはインタビュー調査でも明らかになったことですが、景気が良くなっても採用基準を緩めることは殆どないということです。どんなに厳しくても最低限の基準は守りたいということでしょう。

 

2.他社が採用予定人数を確保するために採用基準を緩和していると感じますか?

・そう思う           ⇒33.3%

・まあそう思う              ⇒47.9%

・あまりそう思わない ⇒18.8%

・全くそう思わない      ⇒ 0.0%

⇒ところが、これを他社の状況として聴いてみると意外にも、他社は緩和しているという感想の企業が殆どです。詳細にインタビュー調査してみると、これは大量採用を始めた特定の業界・企業の影響が大きいことが明らかになってきました。

 

3.学生は内々定辞退をする際に企業を充分に理解した上で辞退していると感じますか?

・そう思う           ⇒ 2.1%

・まあそう思う              ⇒22.9%

・あまりそう思わない ⇒72.9%

・全くそう思わない   ⇒ 2.1%

⇒さて、研究の本題である内々定辞退の理由ですが、採用担当者は内々定者に充分に企業を理解して貰ったとは感じていません。これは単なる「滑り止め」にされたということと、充分に自社のことを伝えきれなかったという採用担当者の辛い想いが現れています。インタビュー調査でも、充分に理解して貰った上で辞退されるなら仕方ない、というコメントが多く伺えました。

 

売り手市場になったため学生には洪水のように情報が流れておりますが、こういった環境では自分のペースで1社1社をしっかり考えることは困難になってきました。そのため、「取りあえず」就職活動で「取りあえず」内定取得となることも仕方ないことでしょう。知名度の低い中小企業の採用担当者にとっては悩ましい時代が当分、続きそうです。

 

第128号:大統領選挙と採用活動

1月になり、大学は期末試験やレポートの準備に追われる学生で活気に溢れています。通常、この時期の採用担当者は嵐の前の静けさというか砂漠のオアシスというか、エアーポケットのような時期なのです。しかし今シーズンは学生の都合に一切関係なく採用活動を継続する企業も出てきているので、秋からそのまま息つく間もなく走り続けている学生さんも目にするようになりました。取り乱している学生を見ていて、ふと、盛ん報じられている米国大統領選挙のことが思い浮かびました。

 

米国大統領選挙は11月の本選挙が本番です。例年であれば候補者選び(党員集会)の開始は春以降ですが、今年は既に口火を切りました。これから全米各州を回る壮大な選挙活動が始まります。各州の党員集会の最初は例年通りアイオワ州が最初でした。私はてっきりアルファベット順に行われるものだと思っておりましたが、これは各州から開催日が出されて早い順に決定されるのだそうですね。アイオワ州はトウモロコシ畑しか無い地味な州なので(と、言ったら怒られますが)、毎年大統領選の時だけは脚光を浴びるようです。大学対抗の駅伝大会などで、最初のスタート・ダッシュで飛び出してTVカメラに大学名を映させるという戦略と同じですね。採用活動でも就職シーズンの最初の方が目立ちますし、学生も集まるので企業が先を競って大学訪問を始めるのと同じことかもしれません。

 

米国をドライブしていると、候補者の名前の看板を市中の住宅街アチコチで目にします。(日本の選挙ポスターと違って候補者の顔写真がありませんので、初めて見た時は何かのフェスティバルかスーパーマーケットの広告だと思ってしまいました。)これも駅伝大会に例えるなら、ランナーが走る沿道で大学や企業名の旗を振って応援することでしょうか。採用活動なら、各種メディアに採用広告をだすことでしょう。(原稿作成って、結構、大変なのです。)

 

ところが、先日みた米国内のニュースでは、既に国民は大統領選挙の過熱ぶりにウンザリしてきたと報じられていました。運動資金の調達とそれを使った広告活動の膨張により、既に「選挙疲れ」をしているとのこと。有権者の70%が選挙の短縮化を望んでいるという調査結果もあるそうです。

 

大統領選挙や採用活動が無駄とは言いませんが、今のメディア過剰・情報過剰の時代では、誰もが気づかぬうちに混乱・混沌の渦に巻き込まれます。21世紀が環境の時代で、日本の節約文化が発揮されることは間違いないと思いますが、エネルギーや物質の節約だけではなく、人間の心や精神活動も節約して、本当に大切なことに使うことを忘れないようにしたいものですね。企業も大学も。

 

 

第127号:企業の採用本気度、学生の志望本気度

今年の採用戦線の過熱ぶりは本当に凄いですね。いよいよTVにまで新卒採用のCMが登場してきました。人材紹介業者のCMが初めてTVに流れた時にも驚きましたが、今の採用戦略は資金力(広告宣伝費)が成功を左右しそうです。そうなると、ますます苦しいのが中小企業です。今年は大手企業が相当の予算と人員(採用担当者以外のリクルーター)を導入してきているので、手詰まり感があります。そのため、今季は例年より多くの中小企業が大学就職課・キャリアセンターの皆さんのところへ訪問されているのではないでしょうか?

 

就職ガイダンスで地方の大学にお伺いするとき、いつも拝見しているのは就職課に掲示されている求人票です。どんな企業がその大学に求人に来ているのかは興味深いです。その多くは地場産業のものですが、遠く都心から地方の大学にまで求人を出されていることも珍しくありません。特に最近は、中小企業の採用担当者の多くが首都圏での厳しい競争を避けて地方に活路を見出そうとしているのでしょう。(しかし、最近はそちらにも大手企業から求人が送られていて苦戦しています。)

 

大学の求人掲示をよく見ていると、『来訪企業』等のシールや印が押されているものがあります。求人票を送るだけではなく、採用担当者がその大学を訪問されたことを示しているのですね。学生に対してどれだけのアピール効果があるのかはわかりませんが、少なくとも機械的に求人票を送っている企業とは区別されるでしょう。そうやって企業の採用本気度を支援してくれる大学は有り難いことです。

 

企業側でも、学生の志望本気度は知りたいところです。今は売り手市場になったのでやや陰を潜めた感じがありますが、何人のOB/OG訪問をしたか、何回ホームページを訪問して記事を読んだか、で学生の熱意を測ろうとする企業もあります。実際、面接していて、「御社が第一希望です!」と言われるよりは、「御社の社員、10人に会いました。」という学生さんの方が信じられますしね。営業活動と同じですが、一番わかりやすい熱意の表し方はやはり行動実績なのでしょう。

 

今年も押し詰まって参りました。多くの大学が冬期休暇に入られると思いますが、来年の皆様のご活躍とご健勝をお祈り致します。どうぞ良いお年をお迎え下さいませ。

 

 

第126号:採用活動に関する大学との共同研究-2

昨年もお伝えしましたが、今年も企業の人事労務管理を研究している大学のゼミ学生と採用活動に関する共同研究を行っております。そのシーズンに顕著に見られる傾向を課題として選び出しているのですが、今年は「内定辞退者の増加の原因」というテーマです。企業採用担当者側だけではなく、大学職員側にも悩ましい問題ですね。

 

このテーマを選んだのは、買い手市場から売り手市場への変化により求職者(学生)が有利になり、多くの内定を獲得するだろう、そしてそれだけ内定辞退数も増えるのではないか、という仮説からです。大手就職情報企業による企業のアンケート調査でも内定辞退数がここ数年で増加しているとの回答結果が出ています。

しかしながら、すべての学生が就職活動を楽観視しているかというと、そうではありません。内定を数多く獲得出来る学生と出来ない学生、いわゆる学生の質の二極化があります。今回の研究では、内定辞退の増加という現象が、どのような学生のどのような考えや行動から引き起こされるのかを明らかにすることが狙いです。そして、特に内定辞退が多いだろうと予想される中堅企業の採用戦略に対する提言を考え出すのが目的です。

 

ところが、先日とある訪問先から厳しい言葉を戴きました。

「この研究では中堅企業を対象にしているとのことですが、そうは言っても研究をしている学生さんもやっぱり大企業に入るんですよね?」

確かにそのとおりで、返す言葉がありませんでした。

 

これは日本の大学生の特長と言えるかもしれませんが、大学で学んだことを直接活かす企業や分野に就職する方が少ないでしょう。人事を研究している学生が人事を必ずしも希望しませんし、ベンチャー企業を研究している学生は殆どベンチャー企業には入社しません。多くの学生がいわゆる就社に近い感覚で就職を決めていることでしょう。また企業側も、大学生の勉強を選考基準で最重要と考えているわけではありません。全く米国とは正反対のことです。

 

ともあれ、内定辞退という学生・企業そして大学の3者に大きな負担となるこの現象を明らかにして、少しでも社会に役立つような知見を提供できれば幸いです。(研究成果については、また後日こちらでご報告したいと思います。)

 

▼アンケートのお願い:

この研究ではフィールドワーク(企業を訪問しての取材調査)による定性調査と、Webアンケートによる定量調査を行っておりますが、今年は学生側の意識変化も重要なので学生および大学就職課(キャリアセンター)への取材調査も行っております。お手数ですが、このメールマガジンをご覧になっている大学職員の方にも下記アンケートにご協力戴ければ幸いです。(5分で終わります。)

ご回答戴きました方には、集計結果報告をお送り致します。

http://www.recruiter.jp/enqout02/modules/bmsurvey/survey.php?name=2007questionnaire02

 

第125号:リアルな出会いに苦労する採用担当者

この時期は大学での就職セミナーに伺うことが多いですが、キャンパスを歩いていて昨年との明らかな違うを感じることは、リクルート・スーツの学生を良く見かけることです。昨年であれば冬休みに入る頃が多かったのですが、今年は11月に入ってから急に増えてきたようです。

 

おそらくその背景にあるのは、企業主催のセミナーが本格的に始まってきたことでしょう。特にこの時期の企業の動きで目立つのは、1~4日間程度の短期インターンシップです。昨年までは大学授業期間中である11月にはあまり見られませんでした。前回、「場つなぎに苦労する採用担当者」と書きましたが、それがこのような形で現れているのですね。

 

10月に就職Webサイトがオープンして企業の応募者受付が始まると、かなりの母集団(初期応募者群)が形成できて順調な滑り出しだ、と喜ぶ採用担当者がここ数年は多かったのですが、その後の実際の採用選考に関わるセミナー(1月以降)になると応募者がやってこない、と顔色を変える方が増えてきています。そのため、”繋ぎ止めるためのセミナー”を開催しているわけですね。ネットでの出会いを、早くリアルなフェイス・トゥ・フェイスの出会いにして少しでも応募意欲を高めたいということでしょう。

 

更に現在、実施されている短期インターンシップを見ていると、比較的小規模でセミナーの目的が特定の分野や特定の学部・専攻に向けて特化しているものが増えています。この時期、あまり大規模なセミナーを開催しても大学の授業で参加できない学生が多いのと、やはりフェイス・トゥ・フェイスの出会いを濃くするためには小規模な方が望ましいからでしょう。そして、その小集団も特定の目的を持たせた方が、企業も学生も無駄がありません。

 

ただ、こういった状況となると、やはり大学の授業への影響が気になります。前回、こういったセミナーが社会人教育とかキャリア教育になりうると、半分冗談・半分本気で書きましたが、そのためには授業期間中に開催する企業セミナー類も何らかのガイドラインまたは規制が求められてきそうです。

学生が教室から消えるのが、春先だけでなく秋にまで及ぶとは何とも悩ましい課題です。

 

第124号:場つなぎに苦労する採用担当者

スタートダッシュで始まった今シーズンも学生達の動きをを見ていると、やや落ち着きをみせてきた感じが致します。なんと行ってもまだまだ先は長いですからね。しかし、企業側にはこれまでに無い変わった苦労が生まれているようです。夏のインターンシップや早期の企業セミナーでコンタクトした学生達をいかに繋ぎ止めるかということです。

 

この夏に開催されていた企業のインターンシップやセミナーを見ていて一つの傾向があるのは、自己分析・自己啓発系のセミナーや、ビジネスマナーやコミュニケーション・スキル、更にはビジネスのイロハのトレーニングが多くなっていることです。学生の感想を聴いてみると、「とても社会勉強になったし就職活動の参考になったけれど、肝心の企業のことはあまりわかりませんでした。」という声が意外と多いようです。学生にとっては不満ではないですが、ちょっと肩すかしを食らった印象ですね。

 

これには企業側の理由があります。昨年の苦労から早期に学生にコンタクトしたのは良いものの、さてそこで通常の詳細な企業セミナーを行ったら、次に行うのは採用選考しかありません。しかしながら、この時期に面接を行っても、さすがに1年半も先の内定を出せる企業はまずありません。それを出せるのはアナウンサーや外資系コンサルタントのようなごく小規模の特定職種採用だけでしょう。そのため本番の企業セミナーに入る前に、ウォーミング・アップのイベントやセミナーを行い、とりあえず企業名だけは認知して貰おうという作戦です。

 

しかし、相当な大企業でもない限り、そういったプログラムのバリエーションは多くありませんからネタに困って、私のような外部講師や研修会社にキャリアアップやコミュニケーション・スキルのセミナーの依頼が来たりします。最近は就職に関係の無い芸能人を呼んだりした講演会まで見かけます。かつて早期の企業セミナーをあえて「業界セミナー」と呼んでいた頃を思い出しますが、今は本当に業界・社会セミナーになっているわけですね。

 

よく考えると、これは企業負担でキャリア教育(社会人教育)を行っているわけです。企業にとっては負担増ですが、それは早期に学生に火を付けた自業自得ということでしょう。こういった傾向がいつまで続くのかは分かりませんが、学生も賢くそのような機会を活用して社会の見聞を広げてしまえば良いと思います。企業にとっては、せっかく投資した(囲い込んだ)学生は逃がしたくないと思うでしょうが、仮にご縁が無かったとしても、いま流行のCSR活動と思って頂ければと思います。

(いやはや、採用担当者の心労はいつまでたっても耐えません。)

 

第123号:裁判員制度の判決と採用担当者の評価

今、大きな注目を集めている日本の法制度の大改革である「裁判員制度」があります。これまでは職業裁判官のみの判断で判決・量刑が決まっていたわけですが、今後は一般市民が裁判員として判決を下すようになります。つい先月、全国でその模擬裁判が実施されたところ、同じケースであるにも関わらず、一般市民の判断には大きなバラツキが出てしまいました。実は、この状況は企業人事部の内部事情ととてもよく似ているのです。

 

今回の模擬面接は、架空の殺人事件をケースにして全国35カ所で実施されましたが、一般市民の判断は、無期懲役から懲役16年まで約7つに分かれてしまいました(最も多かった判決は懲役20年)。その判決が分かれた理由はいろいろあるようですが、最も大きなものは裁判員の量刑に対する「相場観」だそうです。プロである職業裁判官の場合は、ある事件のケースにおいて、「この事件ならこの位の量刑だろう・・・。」と他の判例を考慮しながら懲役を決めるのです。ところが、一般市民の場合は、その相場観が殆ど無いためにこのようなバラツキがでたようです。(ちなみに、模擬裁判の被告人の演技はあまり影響が無かったとのこと。)

 

さて、この状況と企業の採用面接が似ているのは、人事部の面接者は職業裁判官と同じく”プロ”であり、現場の社員が面接に加わる場合、これが一般の裁判員に当たることです。人事部の面接者は数多くの応募者に触れて、合格・不合格の結果まで見ており、ベテランになると応募者とちょっと話しただけで、すぐにその応募者が、内定・ボーダーライン・不合格のどの辺かと直感が働きます。つまり面接者としての「相場観」を持っているのです。

ところが、人事部から依頼されて面接に加わった経験の少ない一般社員にはこの相場観が無いので、やってきた応募者についての判断にバラツキが出がちです。その結果、現場面接者は不合格の判断をなかなか下せず、内定またはボーダーラインにすることが多くなります。(ここが人間の心理で、面接で不合格を出すというのは相当なプレッシャーなのです。)

 

そこを補強するのがプロである人事部の面接者なのです。一般社員の意見を聴きながら意見交換し、今の応募者が自社にとって希有な存在なのか、平均的な存在なのかという「相場観」を伝えながら最終的な判断を下します。しかしながら、人事部の面接者でも自分の知識や経験値の弱い分野、例えば文系人事部員が理系応募者を面接するような場合は、逆に人事面接者は一般社員の判断に引っ張られがちです。

 

採用選考では現場の求める人材を的確に判断することが大事なので、業界や企業の方針によって異なりますが、こういった人事部と現場社員の交流による採用判断は今後ますます増えてくると思われます。しかし、裁判員制度同様、人事部から面接を依頼された一般社員は相当なプレシャーでしょうね。たまに応募者より緊張している面接者が居たりします。こちらも模擬面接をやらないといけませんね・・・。

 

第122号:スタート・ダッシュで始まった09シーズン

後期授業が開講し、大学内での就職ガイダンスが本格的に始まりました。多くの大学で企業合同説明会や就職活動に関するセミナーが開催されていますが、今年は非常に、というよりも異常に学生の動きが早いように感じます。

 

例年、この時期には大学に呼ばれて自己分析や業界研究等のセミナーを行っております。既に数校回っていて驚いたのは、例年と比較して参加学生が異様に多いことです。若干増どころではなく、2倍・3倍となっており、余裕をもって用意したはずの会場に受講者が溢れて大学職員の方が慌てております。売り手市場と言われる中で、学生の動きがスローになるならわかりますが、何故この様な動きになっているのかはまだわかりませんが、いくつか要因を想像してみます。

 

  • 企業側の要因

・今年は企業の夏休みインターンシップが急増して学生に火を付けた。

⇒昨年と最も異なるのはこの点だと思います。学生と話していても夏のインターンシップに参加した学生が非常に増えています。

・インターンシップで仕事や企業の本質は理解していない

⇒今はOne-dayのような仮想的なインターンシップが多く、参加しても仕事の実態が理解されずに期待だけが膨らんでいます。(通常のインターンシップでは、現実を知って進路を考える学生も出ますが、最近はゲーム・イベント感覚で関心を高めるタイプが多くなっております。)

 

  • 学生側の要因

・マスコミやメディアに影響されやすくなり、周りと一緒でないと安心出来ない。

⇒IT環境の進化等により、情報が高速大量に流れて今の若者は非常にマスコミやメディアの情報に敏感であると同時に、自分独自の判断で動く学生が少なくなっているように見えます。これは昨年から急に変化したわけではなく、IT環境の進化は90年代後半から始まった来ていることですが、企業からの採用情報がシーズン前から準備万端、満を持して配信され始めたのは今シーズンからです。(昨年はまだ業界や企業によってムラがありました。)情報が長期間大量に流れると、多くの人間は画一化された意識と行動パターンをとるようになります。企業の採用担当者が広報活動に全力を尽くすようになったのも全く同じです。

 

さて、シーズンが始まったばかりの今、この動向が何処まで続くかわかりませんが、先日の大学での内定者による就職体験談の司会を行ったとき、ちょっと感動した学生(有名企業内定者)がおりました。

「私は留学のため、実質、1ヶ月間しか就職活動はできませんでした。」

留学自体はもう珍しくはありませんが、このセリフを自信をもって発言した学生が光って見えました。もしかすると、この学生に内定を出した採用担当者も私と同じ印象をもったのかもしれません。就職活動は、最終的に自分と他者の相違点をアピールすることなのですから。

 

第121号:改正雇用対策法の求人年齢制限禁止

この10月1日から施行された改正雇用対策法では、企業の募集・採用時の年齢制限の設定が禁止されました。米国では人種・性差別と同様に以前から法律で禁止されておりましたが、ようやく日本でも適用されたわけです。ところが、日本企業の雇用慣行の主流である新卒採用については例外として見送られ、新卒募集要項には応募資格に「××年卒業見込」という表記が許されています。

 

このような例外が認められたのは、今回の年齢制限禁止の狙いが中高年や30歳を超えた年長フリーターなどの就職機会を広げる点にあったためですが、新卒採用という日本独特の雇用慣行にはまだ社会的に合理性があるということなのでしょう。もしも、いま新卒採用に年齢制限が禁止されたら、学生と企業の双方にデメリットが生じます。

 

学生が卒業後いつでも企業に応募出来るようになると、既卒の方の経歴はかなり多様になるので面接選考にコスト(時間・手間)がかかります。実際、採用担当者で既卒(中途)採用に慣れている方もそうは多くありません。採用担当者も転職経験のある人の方が少ないですし、大企業では新卒と中途採用の担当者は完全に別になっていることも多いです。

 

もし、こういった現状を踏まえなずに新卒採用の年齢制限が撤廃されたなら、企業側に採用する意思がないのに採用される可能性があると考える応募者が増えてしまい、結果的に双方が無駄な労力を費やすことになります。法的な見地からは不公平なことですが、雇用機会均等法で女性差別が撤廃されても、未だに「一般職採用」が残っているのと同じです。(寧ろ、復活を喜ぶ学生・企業がある位です。)

 

しかし、それも時間の問題でしょう。というのは、少子化という人口構造が変化しない限り、企業はいずれ中途採用(年齢不問採用)に力を入れざるをえませんから変化は確実に進みます。既に、同じ既卒でも他社で良い職業経験のある「第二新卒」は人気の的になっており、水面下の奪い合いになっています。

 

あまりのんびりともしていられませんが、日本は欧米社会の短期契約関係とは違って長期信頼関係を重視する農耕型民族です。流血革命は苦手で世界からは遅れているように見られるかもしれませんが、雇用問題というのは民族の労働観や文化的な側面も大きく、優劣で語るものではないと思っています。