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第140号:二極化する学生の理由は?

西の方から梅雨が明けてきましたが、採用シーズンも切り替え時期になりました。いよいよ2010年卒の3年生を対象とした採用活動が始まります。とはいうものの、やや景気の見通しには暗い材料が増えてきていますので、企業の採用戦略も慎重になりがちです。自社を取り巻く経済状況と今年の採用活動の成果を睨みつつ、来期はどうするか?と思案している企業が多いことでしょう。

 

企業採用担当者に学生の傾向を聴いてみると今シーズンも「二極化している」という声をよく聴きます。すっかり耳にタコができてしまったので当たり前のように感じてしまいますが、改めて何故そのような現象になったのかをと理由を考えてみるとなかなか難しいです。というのは、学生の学力が低下と言われていてもそれは二極化するものではなく、全体の平均値が下がりつつ正規分布するのが自然だからです。今の時代の経営戦略のように、トップレベルのシェアが取れなければその市場から撤退するというような何らかの意図を持った選択行動があれば別ですが。

 

いくつかその不自然な理由を以下の通り想像してみました。

 

・就職活動が厳しいからと早期に諦めた学生が就職戦線から撤退している。

⇒多少その可能性はあったとしても応募者数自体はそう変わっていません。

・大学生の就職指導やキャリア教育の成果に差がある。

⇒それならば大学間格差が出てきそうですが、同じ大学内でも二極化していると聴きます。

・AO入試&推薦入試で入学した低学力の大学生が増えた。

⇒いまや4割の学生がAO&推薦入学だそうですが、最近始まったわけでもありません。

・利用している就職メディア情報に差がある。

⇒学生は単一の就職メディアを見ているわけではありません。

・採用担当者の選考基準が変わって中間層が消えた。

⇒売り手市場とはいえ「迷ったら落とす」企業が増えているかもしれません。

・家庭の経済事情が二極化して学力も二極化した。

⇒東大生の家庭は必ずしも高収入ではないと言われています。

 

以上、二極化の原因を、学生側、大学側、企業側、家庭側といろいろ考えてみましたが、どうもこれが一番怪しいと思えそうなものはありません。となると、全部が組み合わさった複合的な理由なのか、または二極化自体が幻想なのか、ということでしょう。(意外と採用担当者の気のせいなのかもしれませんが。)

いずれにしても、二極化の上位学生が奪い合いになる中、「中間の学生」は一体何処に居ったのか?というのが採用担当者にとっての大問題です。みなさんの大学では如何でしょう?本当に学生は二極化していますか?だとしたら、その原因は何でしょう?

これは大学と企業が一緒に考えなければならない問題かもしれません。

 

第139号:二人の新社会人からのメール

この週末、春に就職した二人の新社会人からメールが届きました。 一人は「元気に頑張っています!」、一人は「心が折れそうです・・・」というまったく対照的な内容です。 雇用のミスマッチということが言われますが、改めてこの言葉の意味を考えさせられました。

この二人の状況で興味深いのは、両者とも1~2ヶ月の新入社員研修を経て現場に配属されたのですが、その環境が想像とは異なるものでもあるにかかわらず、反応が正反対なことです。元気に頑張っている方は「現場の方は人間的に素晴らしい方が多く人生の勉強になっている。」と書き、心が折れそうな方は「希望通りの仕事ですが、子会社の方とは気が合わなくて・・・」書いてきています。この違いは何から来るのでしょうか?

一般に就職(雇用)のミスマッチを言うとき、それは労働者のやりたいこと(活かしたい専門性)と使用者の求める能力のズレのことですが、もう少し広く見てみると会社のもつ資産との相性と考えられるでしょう。

ヒト ⇒経営方針、企業文化、社風、配属された職場の人間関係

モノ ⇒勤務地、労働環境(研究設備、生産設備、OA、IT等)、福利厚生施設

カネ ⇒給料、労働時間、社会保険関係、企業研修制度

上記の会社資産の何に対して多くを望むのか、ということが応募者の就職企業選定基準になります。最近の売り手市場の状況で学生が多くを望むのは当然ですね。採用担当者にインタビューすると、今年は福利厚生関係や労働条件(残業時間・ボーナス)について詳しく尋ねてくる学生(内定者)が増加したとか。

さて、この二人の新社会人は、人間関係について相反することを語っています。それぞれの詳細はわかりませんが、社会に出るとこれまでとは異なる人間関係にぶつかり楽しんだり悩んだりすることでしょう。大学と違って同質・同文化・同年齢・同価値基準ではない人々と触れ合うわけですから。

問題はそんな時にどんな対応をとるかです。言い方を変えればミスマッチにぶつかったらどうするか、ということです。そして、ここが今の学生の弱点(課題)だと思います。

どんなに業界研究をやっても、どんなにインターンシップを行っても、人間関係のミスマッチを無くすことは不可能でしょう。最終的に配属される部署(一緒に仕事をするヒト・組織)は入社前に確定はできませんし、会社訪問やインターンシップでの人間関係と、実際に配属されて仕事(ビジネス・利益)が絡んだ人間関係とは異なりますから。

ミスマッチという言葉に慣れてしまうと、ミスマッチ自体が問題であるように思われますが、本当の問題はミスマッチにぶつかったときにどうするかどう支援するか、です。景気がやや怪しくなってきた現在、売り手市場が意外と早く変わるかもしれませんが、そういった環境変化に自分を変えていける人が最後まで生き残るし、企業からも求められるのだと思います。

この二人の新社会人はこれからが本当の勝負です。暖かく応援していきたいものです。

第138号:あと一歩、内定のとれない学生のタイプ

企業での採用選考や大学での就職相談を行っていて、この時期に内定が取れない学生にはちゃんと理由があることがわかります。自己表現(プレゼンテーション)で失敗しているのが共通点ですが、この時期よく見受けられる、あと一歩が足りなくて内定が取れない学生の二つのタイプをご紹介しましょう。

 

  • 自己主張力(発言力)はあるが、他責的で自己のふり返りがないタイプ

アピール力(発言力)はあるのですが、内定が取れない理由が自分の何処にあるか客観的に見て反省する意識が弱く、次々に企業をまわります。強情でなかなか自分の考えや行動を変えようとはしないので、採用担当者からは自己中心的で扱いづらい人物と見られてしまいます。ちょっと意識を変えれば、その強情さは意志の強さになって長所になるのですが、それがなかなかできないのです。

 

2.セールスポイントはあるにも関わらず、プレゼンテーション力不足のタイプ

対人スキル(特に自分を上手に表現するスキル)が弱く、採用担当者に自分をうまく伝えられず、弱い人物と見られてしまいます。誤解されやすいタイプです。以下のようなタイプがあります。

・話す論理構造(結論・理由・事例)はある程度できているが、一般的すぎて印象に残らない。

・話す力はあるが、アガリ症で早口であったりして、話すうちに論理が崩れてしまう。

・話す内容が整理できていないので論理がたっていない。

*プレゼンテーション力不足の多くは、「話し方」の巧拙ではなく、「話す内容」が整理できていなくて自信がもてずにアガルという傾向が強いです。

 

上記の2タイプは、自分の課題に気づけば、比較的早期に選考合格することができますが、意外とできないのが自分の課題に気づくことですね。これは自分自身ではなかなかわかりませんから、就職課の職員の方などが上手に支援してあげる必要があります。(1のタイプは、就職課の言うことも聞かない傾向がありますが。)

 

他に、この時期に内定が無い学生に対して共通に指導すべきコトは、「内定がとれなかった理由」をちゃんと反省(分析)して、現時点の就活や自己理解にどれだけ活かしているかを話せるようにしておくことです。というのは、採用担当者はこの時期にやってきた応募者には必ず就職活動の経緯を質問してきます。そして、この時期に「内定無し」となると、「何が理由だろう?」と根拠を考えます。

 

つまり、春先の失敗経験は反省するかどうかによって、その後の成功につながるか失敗のまま継続するかの大きな分かれ目になるのです。これはとりもなおさず、学生自身の自己理解能力・現状把握力の開発および発揮でもあり、企業の採用担当者が重視するところです。人間、誰でも失敗はしますが、それを認められるかどうかがポイントなのですね。誰でも自分の若さ故の過ちは認めたくないものですが。

 

第137号:親の意見を重視する学生

内々定を得た学生が、最終的に就職先企業を決めるのはいろいろな意志決定基準がありますが、最近の傾向では親の意見が大きいことです。これは大学入試でも同じ傾向があるかと思いますが、採用担当者にとっても無視できなくなってきたようです。

 

私たちの世代では、親や大学就職課の意見で自分の進路を決めるというのはあり得ない選択で、精神的に独り立ちのできていない者、という見方がありました。しかしながら、今の世代はそういった理由だけではなく、下記のような社会的背景があります。

 

・大学卒業の親が増えた

今の親御さんの世代は高度成長期に日本を支えてきた大学卒のビジネスパーソンの方が増えてきました。当時の大学進学率は25%位で、私の親の世代のように自営業の方が多く、大学卒が希少だった時代と全くことなります。しかも今の親御さんたちは、自ら大学生として就職活動を(それも競争の激しい時期に)経験してきていますので、子供に対して一言を持っており、企業や業界を見る目もそれなりに持っています。(そのため、当時エリートだった金融業界や総合商社を勧める親がとても多い。)

 

・キャリアモデルになる親が増えた

これは高学歴(大学卒)の母親をもつ家庭の女子学生に多いケースです。母親が単純なパートタイマーの仕事ではなく、総合職として企業の仕事を継続している、保険関係の仕事で自営業を行っている環境では、親の生き方が自然と子供のキャリアモデルなっていることがあります。そのため、仕事と家庭の両立を企業選択の理由にする学生が増えてきています。

 

採用担当者にとってもこういった背景は無視できなくなってきて、今シーズンは最終選考で「当社に入社した場合、ご両親は何とおっしゃいますかね?」という質問をする企業が急増しています。相撲部屋や野球チームが中学生や高校生を採用するのならともかく、これも少子化社会(売り手市場)が生み出している現象なのでしょう。

 

就職活動を機会に、子供が親と仕事について話し合う場面はとても良いことだと思います。私たちの世代では親の意見が参考にならないというだけではなく、照れもあってなかなか親と面と向かって将来を語り合うということができませんでしたし、高度成長期の親の方も(家庭を守るための)仕事に全力投球で、なかなか家庭を振り返ることができませんでしたから。

(映画「ALWAYS 三丁目の夕日」や「Field of Dreams」をしみじみと観てしまいます。)

 

もっとも、学生から内定辞退される際に「親が反対して・・・」というのは何処まで本当なのか信じられませんけどね。

 

第136号:大手企業の採用活動が収束

GWも明け、大手企業の内々定出しは一段落いたしました。いくつかの企業に採用状況を伺ってみると、売り手市場と言われながらも、そこそこ順調に成果が出ているというところが多いです。そのポイントは何か特別な施策としたというよりも、学生とのコミュニケーションを丁寧に行った、という点にあるようです。

 

今シーズンの企業の採用戦略の傾向は言い尽くされているとおりですが、やはり下記の2点につきると思います。

 

  • 選考時期の早期化

⇒企業セミナーの方は、現状(10月)からこれ以上は早くはできないようですが、採用選考の方は2週間ほどスタートが早まっているようです。協定を遵守している大手製造業や総合商社は例年通り4月から選考を始めていますが、3月中に選考を済ませて4月からは連日フォロー面談という企業もありました。

  • リクルーター制の導入

⇒導入規模(リクルーター人数)、開始時期、運用内容はまちまちですが、どこの企業も人海戦術で早期から展開しています。大企業と比べると不利な中小企業も、こまめに社員を出身大学に送り込んで学生とコンタクトしているところは順調に成果をあげています。

 

さて、企業の採用活動は意外と順調だと書きましたが、これは正確に言うと「予想通りの成果が上がっている」ということのようです。決して企業側が苦労せずに良い人材を確保できているということではなく、採用選考プロセスが以前よりかなり緻密になり、学生との直接コンタクトが増えた結果、採用状況の把握が正確になってきた、ということです。

 

今の企業セミナーは、単純な一方的なプレゼンテーションではなく、参加型のワークショップやグループ・ディスカッションが増えてきましたから、応募学生の理解度も深まって応募意欲が高まると同時に、企業側ではそういったコミュニケーションの中から学生の志望度具合や応募水準が把握しやすくなってきています。そのため、わりと初期の段階から今シーズンの結果の予測がやりやすくなっており、いざ蓋を開けたら学生が集まらない、といった事態を避けられているようです。

(逆に、これまで通りのやり方を踏襲している企業は思った通りに成果が出ないと嘆いています。)

 

しかしながら、成果の最終的な判断をするにはもう少々時間がかかることでしょう。このGW中に、学生からの相談では「A社とB社の内定があるのですが、どちらが良いでしょう?」という相談が増えたたのですが、昨年と違ってA社もB社も遜色のない良い企業であることが多いです。やはり今年は売り手市場で企業の選考基準も緩んできているのでしょう。

それにしても、最近は早々に採用応募を締め切る大企業が多いです。まだまだ優秀な学生が居るのに勿体ないなあと感じるこの頃です。思わぬ辞退者発生で苦労しませんように・・・。

 

第135号:ファースト・トラックの応募者

いよいよ大手企業からの内々定が出始めましたね。やはり今年は昨年より1~2週間早いようです。早々と内々定を手にする学生は、早々と走り始めた学生かというと、必ずしもそうではありません。不合理かもしれませんが、やはりそこが大学受験とは異なるところであります。

 

外資系企業における採用担当者の業界用語ですが、有望な応募者のことを「ファースト・トラック(fast track)」と言います。本来は企業内での有望な出世コースを進んでいる社員を指すもので、社内での競争に打ち勝ち、人事部が選抜してエリート・コースを歩ませることを「ファースト・トラックに乗せる」と言ったりします。能力での選抜なので年齢や学歴は(あまり)関係ありません。

同様に、採用活動においても応募集団の中から有望な者を選抜して早期に採用面接に進ませることをファースト・トラックに乗せると言い他の応募者よりも早く選考に呼び出して早く結果を出そうとするわけです。

 

この形態は外資系企業だけではありません。日本企業においても、同じ日に応募して同じ日にエントリーシートを出して、同じ日に初回の面接を受けたとしても、その選考結果によって次の選考に呼び出される日が変わってきます。当然ながら、早く呼び出させるのは有望な「ファースト・トラック」です。ネットでの情報交換が盛んな今、学生同士でも呼び出される日が異なると、「ああ、俺は2番手か・・・。」と感づくようですね。たまに採用担当者に「なんで僕は呼び出されたのは遅いのですか?」と訪ねる応募者もおりますが、「ええ、君はセカンド(サード)・トラックですから。」などと答えるわけにもいかず「連絡して都合のついた方の順番ですよ。」とでも答えます。

 

そんなわけで、この4月中に内定を手にするのは有望な方々で、企業にとっては是非入って欲しい方々です。勿論、ファースト・トラックは何処でも人気ですから、早く内定を出したからと言って早く入社してくれるというわけではないんですけどね。

 

そうそう採用担当者の業界用語には、もう一つの「ファースト・トラック」があります。これはfirst track(優先道路・優先審査制度)の方で、他の応募者とは異なるルートで優先的に応募してくる若者です。一般に、こちらの方はあまり有望でないことが多いので、早く結果を出してお断りしないといけないんです。他の企業が採用活動を行っているうちに・・・。

 

 

第134号:他社選考に行かせない囲い込み

採用選考もまさに今がピークですね。4月から真面目に始めた企業でも早いところはそろそろ内々定を出し始めました。街を行く学生の顔にも笑顔が見え始めています。それとは全く対照的に、採用担当者の顔はどんどん険しくなってきました。やはり、採用担当者の最終的な敵は採用担当者なのでしょう。この時期は学生選考だけではなく、他社を意識した囲い込み活動も盛んです。

 

採用選考の方針や戦略は企業毎に異なりますが、業界でくくって比較してみると似たような傾向はあります。4月になって協定通りにセミナーを始め、選考を始め、結果を出す、という生真面目な業界もあれば、3月中に選考はほぼ済ませても結果は学生に伝えずに、4月から正式選考という名目で学生を拘束する業界もあります。その囲い込みのやり方を見ていると、懐かしいバブル期の囲い込み採用を彷彿とさせるものがあります。現在活動中の学生に聞いていると、こんな囲い込みにあっています。

 

・1日に連続して数回も面接を行い、結果的に訪問企業で丸一日過ごした。

・都心から遠く離れた郊外の選考会場に呼び出されて選考があり、他社を回る時間が無くなった。

・泊まり込みで合宿形式の選考にあった。

・1日から毎日連続で呼び出されて、他社に回れない。

 

やはり有名大学の学生ほど囲い込みが厳しいようです。企業に頼んで選考日程を変えてくれるように頼めば良いようなものですが、学生の都合を聞いてくれる企業とそうでない企業はやはり業界毎に差があります。今は売り手市場なのですから、学生が強気になって選考日程の変更依頼をすると、「ではご縁の無かったということで。」と切られてしまうとのこと。この舞台裏で採用担当者は採用数に厳しいノルマを課せられているので、必死なはずなのですが・・・。

 

前述の通り業界によって異なりますが、組織的な統制のきつい業界の大企業ほどノルマも厳しいように見えます。同じ採用担当者として、そこまで上から言われたら反論するだろうな、と感じることも多々あるのですが、現場で文句を言いながらもセミナーでは笑顔になり、言われたとおり忠実に動くモチベーションとは何だろうと不思議に思います。(私が比較的自由なベンチャー系企業に慣れてしまっているせいかもしれませんが。)

 

学生の意識調査を見ていると、大企業指向がどんどん高くなっているようです。大企業指向そのものがわるいことではありませんが、その組織的採用活動を知ったら学生の大企業指向は減るかもしれません。もっとも、大企業に入社して自分の人生も囲い込まれると、もしかするとそれはそれで安心なのかもしれませんね。だから大企業は学生を囲い込めるのかもしれません。

 

第133号:留年による内定取り消し

卒業式も終わりましたが、最後に就職課と採用担当者の心に残るのは留年による内定取り消し者でしょう。少数ではありますが、毎年出てきます。交通事故等による突発的な不可抗力ならともかく、履修単位数の不足や必修科目の不合格等ではなんとも憤りを感じます。

 

留年が確定した内定者から連絡があるのは、3月の初旬から中旬が多いです。大学側から本人への連絡はもう少し早いと思いますが、企業に連絡が来るのは学生側の万策が尽きてからなのでしょう。3月の入社直前に内定者が減るというのは採用担当者にとっても泣きたくなるような事態ですが、如何ともし難いです。多くの採用担当者はやるせない想いで配属プランを変更して調整に努めます。

 

しかしながら売り手市場になったいま、企業側ももう少し緩やかな対応を取るべきかもしれません。セメスター制度で半年後に単位が取れるなら、入社時期を半年ずらすとか、アルバイト採用(契約社員)にして単位修得後に正規採用する等の対応です。外資系企業のように、入社時期を選択できる企業であれば、このような対応はかなり現実的です。

 

よく考えてみると留年で内定取り消しになるというのは、卒業時期(入社時期)が一律で、卒業見込者だけを新卒採用とみなす、日本社会に特有の慣行なのかもしれません。海外のように、卒業後に就職活動を始める社会では、留年による内定取り消しというのはありえませんから。

 

私もかつて内定取り消しにした学生を採用したことがあります。なかなか優秀な内定者だったのですが、たった1単位を落としてしまい、泣く泣く内定取り消しをして見送りました。ところが、すぐ翌月(4月)に始まった採用セミナーにその本人が参加しているのです。セミナー後に個別に相談してみると、どうしても入社したいのでもう一度最初から受験して来年入社する、というのです。魚心あれば水心で、こちらもそこまで思ってくれているなら・・・、と人事内部で検討して簡易な面接だけで選考を済ませ、すぐに内定を出して翌年に入社してもらいました。

 

内定取り消しは個別対応になるのであまり表面には出てきませんが、実際はこういった対応を取る企業は少なくないと思います。売り手市場では1名の内定者を獲るのに莫大なコストがかかりますから。もっとも、あまり学生に甘くなるのは日本社会において良いことではありませんけどね。

 

第132号:エントリーシート締め切り前夜

4月からの採用選考開始のために、エントリーシート(ES)の締切日を3月中旬に設定している企業が多く、学生の方も必死に仕上げにかかっておりますね。この時期になると、いきなりメールでESの添削を依頼してくる学生さんが居りますが、私はESのメールでの添削は原則として行わないようにしています。いや、メールで添削を行うのは不可能だと思います。

メールでESを送ってくる学生さんは、藁にもすがる思いなのでしょう。面識の殆ど無い私に「是非、添削をお願い致します!」と書かれてきます。しかしながら、一度も面談やカウンセリングを行ったことの無い方では、書かれてきたESの語彙や論理のチェック等の「評価・訂正」はできますが、その内容までは改訂(添削)することはできません。学生さんが自己PRするテーマにアルバイトの経験を取り上げていたとして、そのテーマがその学生さんを最も良く表現しているかどうかはわかりませんし、もしかすると、サークル活動の方が良かったり学業の方が良かったりする場合も多いですから。つまりESの添削は、その学生さんとある程度の期間、面談を繰り返した後に初めて出来るものだということです。

就職課の皆さんも日々、同様の経験をされていることと思います。全く初めて相談に来た学生に「どう書けばよいのですか?」「何を書けばよいのですか?」と聞かれても、「それは自分で考えることです。」といった回答しかできないでしょう。逆に言うと、面談を3回か5回位繰り返せば、かなり学生の持ち味を引き出して、それなりに良い添削ができるようになりますが、そこまで根性のある学生さんも職員の方もなかなか居られません。(勿論、手取り足取りではなく学生自身にPRポイントを考えさせるのも就職課職員の大事な役割ですね。)

ES締め切り前夜に駆け込んでくる学生が居たら、なんとかしてあげたいと思うのも人情なのですが、こればかりは如何ともし難いです。ESの原稿を、400字から200字にして削減(添削の「」)してあげられても、200字を400字に創作(添削の「」)することはできませんからね。

そういう点では採用担当者も同じです。如何に採用担当者といえども「評価」はできても「添削」はできません。(その代わりに面接でESでは見えていない部分を聞き出していくのです。)

この世にESが登場して10年近くなりましたが、ESに追われる学生・大学職員・採用担当者を見ていると、果たしてこれで良いのだろうか?と思うこの頃です。採用担当者も罪なモノをつくってしまったものですね。

 

第131号:正体不明の「KY系学生」

採用選考が本格的に始まり、駅で見かける学生の表情も真剣度が上がってきました。面接を体験した学生も出てきていますが、まだまだ緊張感の方が先立ち、まとまった話の出来る学生は少数のようです。

面接慣れの問題かもしれませんが、採用担当者が困るのは、ここ数年、正体をつかむのに手間のかかる学生が増えてきたことです。採用担当者から言わせると、「KY系学生」です。

 

流行語にもなってしまった「KY」というのは、もう説明するまでもなく「空気が読めない」という意味です。言葉にしないと理解ができない若者が増えつつある今、こういった言葉を使っているのを見ると、まだ日本人の心は失われていないのかなとも嬉しくなりますが。

しかし、採用担当者の感じる「KY」とは「空気が読めない」ではなく、「気持ちが読めない」です。「KY系学生」は、面接を行っていて時間がかかります。具体的な会話例をご紹介しましょう。

 

採用担当者「あなたが大学生活で最も力を入れたことはなんですか?」

KY系学生「いろいろやってきましたが、アルバイトです。」

採用担当者「どんなアルバイトですか?」

KY系学生「接客業です。居酒屋のチェーン店ですが店長を任されていました。」

採用担当者「そこではどんな体験をしましたか?」

KY系学生「多くの社会人の方々に触れることによってコミュニケーション力を身につけました。」

 

今の面接では非常に多いパターンですが、上記の会話から採用担当者が得られる応募者の個人情報は殆どありません。この程度の情報ならば履歴書に1行記載してあれば十分ですから、ここまでの採用担当者の3つの質問は無駄になっています。こういった会話をする学生が「KY系学生」、つまり『採用担当者の気持ちが読めない応募者』です。面接は世間話の場ではありません。採用担当者は非常に限られた時間の中で応募者一人一人を知ろうとしていますので、その採用担当者の気持ちが読めているならば、最初の質問から「居酒屋のアルバイトを通じて社会人の方とのコミュニケーション力を身につけたことです。」と答えて戴ければ非常に助かりますし、応募者の評価も上がります。

 

学生は無意識に自分自身の存在を「××系」「××的」という表現を使い、曖昧で没個性にしていることが多いです。それは心理学的に自分の居場所を確認すると同時に埋没させる効果があるそうで、危険に溢れた現代社会において目立つことを避けようとする若者の意識の表れらしいです。しかし、採用面接でこれをやられては困ります。面接の場では採用担当者を信頼して早く素顔を見せて欲しいものです。マニュアル本に個人情報は小出しにした方が良いと書かれているものもあるそうですが、それは採用担当者には、「無駄に時間を使う人(MH)」「手間のかかる人(TH)」という印象になるでしょう。

 

売り手市場になってしまった今では難しいお願いかもしれませんが、採用担当者の気持ちを読んだ面接をして戴けたら助かります。お互いのために・・・。