少し前に内定取り消しについて触れましたが、一般的にも報道されるようになって新聞紙上を賑わしております。現時点で厚生労働省が把握している件数は約300件で、珍しく迅速に国の雇用政策として取り上げられていますが、状況を冷静に見ることが必要だと思います。一見、社会への影響は大きいようですが、今回のケースをよく見てみると、特定の産業の特定の企業による事件で、殆どの真面目な企業には縁のないことです。ですから、以前も書いたとおり、あまり慌てることはないと思います。
いま大きく報道されている不動産会社は、内定取り消しに対して100万円の「迷惑料」を支払うことを発表しております。他に外資系金融機関も数百万の迷惑料を支払ったとの怪しい噂がネット上で飛び交っておりますが、実態は定かではありません。私はこれらの事件の全貌がわからない限り、その是非を論じることにはあまり意味はないだろうと思いますが、前者のような事例は今後の企業の採用活動に影響を与えると思います。
実際にやったことはないけれど、『内定取り消しを行ったら、どうなるかな・・・?』と考えたことのある企業は多いと思います。そういった経営者や採用担当者にとっては、今回のケースはとても参考になると思いますし、そういった意味では、厚生労働省が悪質な当該企業の実名を公表する規定を設けようというのは大きな抑止効果あると思います。また今後、採用担当者は「選考合格」「内々定」「内定」という企業毎に異なる曖昧な意味を慎重に運用するようになるのではないでしょうか。密かに内々定取り消しや内定取り消しの実行まで考えていた企業も、今回の件で改めて気を引き締めることでしょう。
内定取り消しについての法的意義については、就職課の皆さんもご存知かと思いますが、実際の判例は意外と少なく、しかもかなり以前(有名な最高裁判例は昭和54年)のものです。今回の事件が裁判にはなるかは定かではありませんが、企業の実名と「迷惑料」金額が明らかにされたというのは、判例と似たような効果があると思われます。
ということで、現時点で考えると内定取り消しの現実的な影響はあまり出てこないと思います。皆様、就職課への相談は増加しておりますか?私の知る限り、内々定というグレーゾーンでの取り消しはたまに聴くことがありますが、10月以降の書面での回答後に内定を取り消したケースは殆ど無く、それも冒頭に述べた特定の産業の特定の企業に限られるのではないかと思います。
メディアが騒いでいるのはこの事件の希少性(ニュース性)のためであり、国が迅速に動いたのも件数が少なく予算(税金)の投入も少ない割にはアピール度が高いからでしょう。そういった意味では「ネットカフェ難民」の時と似ています。
当事者の方々には大変なことですが、状況を冷静に見て慌てずに見据えること。やはりそれが大切だと思います。