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第170号:「求める人材像」を求めるな

10月に入り、いよいよ採用担当者も先の見通しが見えないままに2011年卒の学生に向けた広報活動に動き出しました。今期は昨年の今頃と違って、最初から厳しい環境を前提としてのシーズンの始まりですので、採用担当者の顔も例年より険しい感じです。こんな時期には当然、選考基準が高くなりますので、学生側もワンランク・アップして挑戦する心構えが必要です。

 

今年もかなり厳しいということは大学・学生側も承知しているようで、「求める人材像」とは何ですか?と例年以上に真剣に尋ねられます。しかし私見ながら、不況期にはこうした問いを尋ねることが間違っていると思います。というのは、この質問の心には「どう言えば内定するのですか?」という気持ちが隠れており、つまり大学受験と同じで正解を答えられれば必ず内定が出るものという誤解(というよりは今はすがりたい気持ち)があるのでしょう。

この件については、以前にもこのメルマガで書いたとおり、企業採用担当者が答える「求める人材像」と選考基準とは異なるものです。企業が先の見えない環境下で厳選採用するときに、あえて「求める人材」をいうならば、自分でそれを提案できる人材、(他者の意見を参考するのは良いですが)他者に頼らず自分で考えて行動できる人材です。つまり、「求める人材像」など求めない人材が求められるのです。「自分はこんな人材です。是非、御社にはオススメです!」と自分に自信をもって語れる人材が良いのです。(根拠のない自信だけでも困りますが。)

 

そうは言っても、当事者の学生や大学就職課の方ならば、やはりある程度の求める人材は知りたいところですね。その場合は、その企業のどんな仕事で、どんな部署で、と採用するポジションを絞って聴いて戴けると良いと思います。ただ漠然と「求める人材像は?」だけでは、採用担当者としては無難な最大公約数しか回答できませんが、部署等を限定して戴けるとかなり回答しやすくなり、採用選考基準にも近付いてきますし、そうした質問の仕方で志望の本気度も感じられます。

 

余談ですが、採用担当者に「求める人材像」をしつこく尋ねてくる人々が他にも居ります。それは、採用コンサルタントの方々です。「御社は求める人材像が明確ではない!」と説教されることもあるのですが、こちらとしては「ごもっとも。」とだけお応えして余りまともに取り合わないことがあります。確かに採用面接者のレベル合わせや、効率をあげるためには自社の求める人材像をある程度まで把握して共有しておく必要があります。しかし、中途採用ならともかく、仕事経験がない学生についてはそうした基準にしばられて採用担当者の人を見極める目が画一化しても困ります。

 

つまり、採用担当者も「求める人材像」を常に模索し続けているのです。決められた採用基準だけで選考できたらこんな楽なことはありません。その答えが見つかった!と思った途端、今春のように経営環境がガラッと変わったり、採用選考基準(採用数)がいきなり変わったり、とても悩みがつきない仕事なのです。

やはり、こうした時期は「戦略的な頭と、行動的な体と、楽観的な心」で向かいたいものですね。

大学職員も学生さんも採用担当者も。新しいシーズン、頑張って行きましょう!

 

第169号:キャリア・ヒステリシスの回避へ

前回、前々回と政府の緊急若年雇用対策について論じてきました。多くの企業の採用担当者が2009年採用の扉を閉じて2010年採用に舵を切りはじめたいま、緊急避難的に頼りになるのはやはり大学しかないと思います。

 

就職相談を受けている4年生に、もし内定がとれないままだったらどうするか?と尋ねてみると、意外と多いのが「とりあえず卒業して考える」であり、その理由の多くは授業料の負担です。数年前なら「とりあえず就職留年する」の方が多かったのですが、不況の中で親に迷惑をかけたくないという心理が強く働いているのかもしれません。

しかしながら、採用担当者の視点で考えると、新卒無業の状態になるのは非常に危ういように思われます。長らく「大学卒業=企業就職」というタイムラグのない就職慣行が続いてきたので、採用担当者は卒業時に就職できなかったという事実を聴くと「何かあるんじゃないか?」という疑心暗鬼にかられるのです。「第二新卒」という労働市場が形成され、やりなおしのできる社会になりつつあるとはいえ、それは不況期に不本意な就職をした若者が転職をする方であればこそで、社会における経験(新社会人研修)で鍛えられていない新卒無業の若者には相当に高いハードルのままです。

 

そこで緊急避難的な対策として大学に提言したいことは、(就職)留年をしやすくする制度をつくることです。具体的には留年時の授業料負担を大幅に減らすことです。例えば、

・卒業必要単位の90%を習得した学生に奨学金を支給する

⇒1年間の留年を低コストで認める(内定取り消し対応と同じ⇒10万円での学生身分保障)

・留年中のキャリア形成活動(留学・インターンシップ等)を義務づけ、企業推薦する制度を創設する

⇒企業の採用選考コストの削減にもつながり、キャリア教育の充実にもなる

これらには、大学のキャパシティの問題や、大学評価と採用選考基準の摺り合わせ等、大きな課題がありますが、現在の厳しい経済状況を考えて是非チャレンジして欲しいと思います。

 

私は先日この提言を大学院の講義でも「キャリア・ヒステリシスの回避」という名で報告いたしました。「新卒大学生が、卒業年次の社会経済の好不況によってその後のキャリアの成否が決定される状況を如何に回避するか?」という課題に対し、「外部労働市場が発展するまで、卒業年次を本人の意志で柔軟に選択できる環境を用意すると同時に、就業のためのキャリア教育と就職支援を充実させる。」というのが私の結論で、上記の提言がその具体策です。

新卒時に就職ができないと将来にわたってのキャリア形成に影響を及ぼすという、いわゆる「学卒未就業問題」がありますが、これまで大学生よりも高校生において大きな問題として指摘されてきました。しかし、今後は大学生にとっても非常に大きな問題になってくるでしょう。今年はこの問題を考えて対策をとるべき元年にするべきだと思うのです。

 

*「キャリア・ヒステリシス」というのは私の造語です。ヒステリシスというのは物理学用語で、一度力を加えて変化させてしまうと、加える力を最初の状態のときと同じに戻しても、状態が完全には戻らないことを言います。一度折れ曲がった金属が完全には元に戻らないように。勿論、人間は金属とは異なり、折れ曲がったことは強みにもなりますね。

第168号:政府の「若年雇用対策プロジェクトチーム」-2

前回に引き続き政府の若年雇用対策について見てみます。「緊急」と名付けられただけあって、本当に8月26日に重点雇用対策(案)が出てきました。これも政権交代前の滑り込み予算獲得のようですが、若年雇用対策の重要性については新政権でも異論はないでしょう。

 

この政策の迅速性は良いのですが、やはり課題は実効性の方です。発表になった対策案の多くは、これまで省庁毎に縦割りで行っていたものであり、それらは中長期的な施策です(例えばキャリア教育の充実等)。新卒大学生に関する本当に新規の(緊急の)対策を探してみると以下の通りでしょう。

 

・内閣府(主幹)・・・「若年雇用者会議の開催」「企業・学生の実態調査」

・文部科学省(文教政策)・・・「就職相談窓口の充実」

・厚生労働省(雇用政策)・・・「事業主への求人取組促進と助成措置」

・経済産業省(産業政策)・・・「ジョブカフェによる中小企業の求人開拓」

 

期せずして厚労省・経産省の政策は、前回私が書いた企業の採用活動支援の方に近付いてくれました。しかし、これらの政策の実効性を求める時に採用担当者の視点で続けて言いたいのは、実行主体者は誰かということです。どんなに良い政策であっても、それを請け負う実行主体に実力が無ければ税金の無駄遣いになりかねません。逆に言うと、これまで政策が成果を出せなかったのは政策の問題ではなく、請け負った団体や組織に問題があったのではないでしょうか。

やや乱暴な提案ですが、今回の選挙で国民が政権交代を求めたように、政策の実行主体者を以下のように交代してみては如何でしょう。

 

・文教政策⇒就職課から民間企業で5年以上の採用経験者または企業内キャリアカウンセラーへ

大学就職課に緊急の外部就職相談員を採用する費用を支給する

・雇用政策⇒ハローワークから採用した事業主(企業)へ

日本における社会人の最強の教育機関は「企業」なので、2010年新卒の能力開発費用を支給する

・産業政策⇒ジョブカフェから民間就職情報企業へ

企業の活きた求人広告費用を支給する、地方から都心の就職セミナーへの旅費交通費を支給する

 

蛇足ながら、こうした政策は危機に瀕している就職産業に対する産業政策にもなるのです。大不況の現在、多くの企業が広告宣伝費を大幅に削減しておりますが一般の商品CMは無くても消費者にとっては致命的ではありません。しかしながら、職業生活のライフラインとも言うべき貴重な求人広告については不況下でも維持する必要があると思うのです。

さて、新政権ではどうなるのか引き続き注視していきたいと思います。

 

▼参考URL:

「若年層に対する重点雇用対策(案)」(内閣府)2009年8月26日

http://www5.cao.go.jp/keizai1/2009/0302shiryou2.pdf

 

第167号:政府の「若年雇用対策プロジェクトチーム」

就職支援関係者には周知の通り、若年者の雇用対策を検討する政府のプロジェクトチームが麻生総理の肝煎りで7月末に緊急に立ち上げられ、その骨子案(若年層に対する重点雇用対策)が8月13日に発表になりました。企業の採用活動が2011年卒業者向けに移行しつつあるなかで、どこまで実行性があるかはわかりませんが、この対策のスピード感は好ましいです。採用担当者の視点からこれらの対策について見てみましょう

 

■若年者雇用対策の骨子

・専門相談員による継続的な就職支援

・省庁横断による就職支援専門組織「新卒者緊急支援チーム」の設置

・官民連携の就職支援組織「若者雇用推進会議(仮称)」の設置

・医療、介護、保育など成長分野への若年雇用促進

・企業側に通年採用と就職採用活動の早期化見直しを呼びかけ

 

これらの対策を俯瞰してすぐに気づくのは、新卒採用とフリーター&ニートの対策の両方が盛り込まれている点です。まさか2010年卒業生が内定できずフリーター&ニートになった場合まで想定しているわけではないでしょうが、この二つの分野は相当に対策が異なると思われますので、しっかり区別することが大事ではないかと思います。特に今、“緊急”対策と謳うならば、新卒採用にもっと集中すべきだと思います。例えば、フリーター&ニートの方々には本人に対するカウンセリングが重要ですが、新卒採用の場合は学生よりも企業採用担当者へのアプローチ(求人開拓)をより重視すべきだと思いますし、フリーター&ニートになった場合のデメリットの知識を正しく教えるような指導の方が効果的だと思います。

また2010年卒業生にとって、将来の成長分野における(未来の)雇用創出では間に合いません。勿論、それは進めるべきことですが、今必要なのは既にそこにある雇用とのマッチング支援です。具体的には、2010年新卒を対象に採用選考活動を行う企業に対して補助金を支給することです。例えば、全国の中小企業を対象に、首都圏での就職セミナー会場を斡旋したり、その広告宣伝費・交通費(採用担当者の都心への出張)を支給したり、少しでも採用担当者のコストを軽減させることです。大学側もこうしたセミナーに会場を提供する等、協力できることはあるでしょう。

 

この骨子案は、かなり具体的なところまでよく考えられていると思いますが、就職支援側の視点だけではなく、採用担当者側からの視点ももう少し加えて欲しいと思いました。今月末にはこの骨子案が取組開始になるそうですが、期待をもって見ていきたいと思います。

 

▼参考URL:

「若年雇用対策プロジェクトチーム」について(内閣府)

http://www5.cao.go.jp/keizai1/2009/0730jakunenkoyou.html

「若年層に対する重点雇用対策(骨子案)」(内閣府)2009年8月13日

http://www5.cao.go.jp/keizai1/2009/0302shiryou2.pdf

 

第166号:大学生研究フォーラム2009から

去る7月25~26日に、京都大学高等教育研究開発推進センターと電通育英会の共催で『大学生研究フォーラム2009』というセミナーが開催されました。私も大学で非常勤講師をする身であり、また企業採用の視点でも興味があって参加して参りました。

 

フォーラムの参加者は、キャリア教育やFDに関わる大学教員、教育センターやキャリアセンターの大学職員、そしてこの分野の研究者と企業の人材開発系の方々、在野の実務家(NPOが多い)が主でした。

今回のテーマのひとつは、「大学生の何が育っていて、何が育っていないのか?」というもので、大学のキャリア教育で学生は何を学び、そしてそれが社会に役立つのか?ということが、研究者の報告とともに各大学の事例やパネルディスカッションで討議されました。

 

議論は「学力志向」と「対人志向」についてが中心で、労働政策研究・研修機構の研究員の方の報告では、この二つの志向性の高い学生は、就職活動において第一希望の企業に決定する可能性が高いということでした。聴いていて、なるほどと思う点もあり、当たり前だなと思う点もありましたが、こうした研究は大学生の学びがどのように社会で活きるか、就職活動につながるのか、ということにもつながり重要なものだと思いました。採用担当者の流行言葉で言えば、「地頭」と「コミュニケーション力」ですね。

 

私が個人的に非常に感銘を受けたのは、弘前大学の先生のご報告です。ここで詳細はご紹介できませんが、要するに予習・復習をしっかりさせて(予習しないと授業に出席させない、図書館で文献を見るのを必須にする)、学問への関心と意欲を自然と高めるということです。授業重視で教育の本筋をしっかり極めていると思いました。

この授業を受けた学生自身からもここで何を学んだかという報告がありましたが、この回答を聴いていて、思わず内定を出したくなりました。知識が問題ではありません。学習の重要さと意志決定がしっかりできているのです。これこそが一番の就職活動ではないでしょうか。

 

さて、今回のフォーラムで残念に感じることがありました。それは、この会場に企業採用担当者が殆ど居ないことです。「大学生の何が育っていて、何が育っていないのか?」を考えるのなら、それを一番良く見ている採用担当者を引っ張り出してくるべきでしょう。企業側も大学の授業に対してもっと関心を持つべきだと思います。これが日本のキャリア教育の一番の問題なのかもしれませんね。

 

▼参考URL:

「大学生研究フォーラム2009」

https://www.dentsu-ikueikai.or.jp/forum/

第165号:経費削減に走る採用担当者

この不景気は採用担当者の活動にも大きく影響しています。経費削減3K(交通費・広告費・交際費)が仕事の中心ですから。いま採用担当者は文字通り身を削る思いで経費を削減しています。しかし、経費を削減するということは仕事も削減されることになるので、結果的に学生の就職状況悪化につながってしまいます。

 

3K費用のそれぞれについて、採用担当者は以下のような経費削減を行っています。

▼交通費

採用担当者自身が地方に出張する回数を減らします。そのため、大学訪問も効率の良い大都市圏に絞り、地方の大学は避けていきます。悩ましいのは、大都市圏でもちょっと都心から離れたキャンパスです。東京から関西へ出張する採用担当者が、京都大学・大阪大学を回った後に、神戸大学に行かずに市内の私立大学を回るというようなことがあります。

もう一つは、採用選考についての学生交通費の支給を止めることです。景気が良いときには企業セミナーや一次選考から交通費を出す企業もありますが、その支給開始時期を二次選考以降(人事部長面接あたりから)にする、または全額停止する、ということになります。学生にとって評判が悪くなるので、交通費のかかる大学からは募集しないということもあります。

▼広告費

採用関係で使う広告費は、会社案内冊子・ビデオの作成やDM発送等ですが、これも経費削減の対象になりやすいです。冊子やビデオの改訂をやめて昨年と同じものを使ったり、プレゼンテーション・ツールも自前で作ったり、ビデオ撮影もハンディビデオカメラを片手に採用担当者自身が取材に行って原稿を書いたりします。こういった作業はプロの業者に任せた方が楽で綺麗なものができるのですが、背に腹は代えられません。

今の広告の主軸メディアはインターネットですが、これはなかなか止めるわけにはいきません。というのは、インターネットは広告宣伝というよりは、セミナー受付機能・応募者連絡管理機能として使われる方が多くなりましたから。また、インターネットでの広告は効果が測定しやすいので、マスメディアの広告より費用対効果が見えやすいです。

▼交際費

採用担当者が使う交際費というのは、大学訪問をする際の教授への手土産や、学生と懇親会をしたときの飲食代等ですが、これはそれほど多くはありません。接待交際費には税金がかかるので、低額の会議費にするという工夫は、大学の皆さんと同じかもしれませんね。

 

こうした費用削減努力は大変ですが、採用活動にはイニシャルコスト(初期費用)がかかるので、10人採用するのも100人採用するのもあまり予算は変わらないことがあります。(インターネットの就職サイトの費用は採用人数に応じて決まるのではなく利用するかしないかで決まるものが殆どです。)そういった事情を知らない経営トップから「採用数を半分にするから費用も半分で済むな!」と言われると思わずため息が出ます。「いっそ、採用ゼロにしてくれ!」と言いたくなりますが、そうなると「採用担当者も不要だな!」と恐ろしい返事をもらいそうです。早く景気が回復して欲しいものですね。採用担当者の雇用政策として国の支援を望みたいところです。

第164号:「新卒就職戦線総括」から

今週発売された週刊ダイヤモンドの特集に「新卒就職戦線総括」が掲載されています。今年の就職戦線の問題点をなかなか公平に指摘しておりますのでご参考になると思います。その中でいくつか気の付いた点をあげてコメントしたいと思います。

 

▼企業の問題:

「年末には内定を出し始めるテレビ局や外資系金融の狼藉ぶりも相変わらずだ。」

年末の寒い中、テレビ局の前に長蛇の列を作る大学3年生の状況を何故、報道しないのでしょう。今回の不況は、学生・大学・企業、それぞれに不毛な消費をもたらす就職・採用活動の早期化・長期化を本気で問題にして対処をすべきです。一部の識者が的確に指摘しているにもかかわらず、そういった声を大きくとりあげて欲しいと思います。何度でも言いたいと思います。

 

▼大学の問題:

「この10年大学はキャリア教育に力を入れてきたと“自己評価”しているが、・・・。」

大学におけるキャリア教育自体が未発達な状態ですが、大学が力を入れるべきは大学本来の授業を通じて高度な見識と実行力をもった人材を育成することでしょう。企業が求めるダントツ1位の「対人コミュニケーション力」は、ゼミ活動を工夫することで十分に養うことができます。それを行わずに、親に向けての就職説明会や下手な自己分析など行うのは本末転倒です。30年前の大学ならば、そういったノウハウが無くとも学生自身が考えて自己責任で行動したものですが、大学大衆化の現代では新たな手法が必要です。企業との連携によるプロジェクト・ベースの授業も結構ですが、企業の求める人材像などに迎合せず、企業に対して誇れる人材像を提案する矜持が欲しいです。

 

▼学生の問題:

「就職の厳しさを目の当たりにした今年の学生の多くは、早々に見切りをつけてしまったのである。」

今年の就職活動が本当に厳しいのはもう書くまでもありませんし、1年以上も就職活動を行っても内定の得られない学生には本当に同情します。しかし、あえてここで言いたいのは、今年内定した学生の共通点です。毎年この時期は就職活動を終えた多くの学生に体験談をヒアリングしており、「この急激な経済不況で大変だったでしょう?」と聞いてみると、内定を獲得した学生は全く同じ言葉を口にします。『確かに大変でしたが、環境のせいにしたくはないですからね。』

聞いていて思わず、膝を打ちたくなります。こうした学生は就職活動だけではなく、おそらく勉強やサークル活動やアルバイトにも同じ意識で取り組んでいることでしょう。

 

前回も書いた通り2010年卒学生の就職活動は終わったわけではなく、「総括」という言葉で締めくくる時期ではありませんが、こうした環境をしっかり受け止めて次のステップを踏み出したいものです。企業も大学も学生も。

 

*引用雑誌:「週刊ダイヤモンド(7月11日)28号」118頁

 

第163号:2010年卒を支援しよう

梅雨に入りました。夏休みが近付いてくるとサマーインターンシップの告知を始める企業が出てきます。夏休みは採用担当者にとって休息の時期だったのは何時の頃だったのかもう記憶の彼方となりました。しかし、まだまだ忘れてはならないのは、2010年卒業の学生達です。今シーズンの就職戦線の厳しさは、個人の努力だけでカバーできるようなものではありません。企業も大学も連携して支援すべきです。

 

既にいくつかの企業は既に2010年卒の採用活動に見切りをつけて、2011年卒への対応を初めています。だんだんと底が見えてきたこの経済不況とはいえ、2010年卒の採用活動については追加募集を出すほどの判断ができないのが多くの企業の本音でしょう。追加募集を出すには、もう少し実需での景気回復が欲しいところで、それは下半期(10月以降)の経営判断になるのが普通です。

 

経営判断に加えてもう一つ、採用担当者が追加募集をする時にキーとなるのは採用活動の予算です。上半期(4~9月)については仮に追加募集の採用枠が残っていても、採用活動にかける予算が無く、思うように動けない企業があります。周知のとおり、採用活動にかかる費用で大きいのは、募集にかける広告宣伝費と地方への旅費交通費です。緊縮状態にある企業ではこれらが今、バッサリ切られていて身動きができません。

 

こんな時に頼るのは皆様方、大学就職課ですね。少数の採用数なら、懇意にしている大学に対して求人票や自社での小規模セミナーの案内を送ったり、直接電話で学生の紹介や推薦を依頼したりします。

しかし、それもなかなか手間暇もかかりますし、肝心の就職活動を継続中の学生が大学(就職課)に来なければ話になりません。

 

そんな中で、先日報道された明治・法政・中央・日本女子大学の4大学による「スクラム合同説明会」は素晴らしい企画だと思います。4年生に対してこの時期にこうした大規模なセミナーは、なかなか開催されるものではありませんし、規模の大きさは学生と企業のマッチングに効果が大きくなります。

 

国としても、こうしたイベントには緊急に予算を振り向けて支援すべきだと思います。現状のまま2010年卒の学生を放っておいては、大量の大卒フリーターを生み出しかねません。新卒就職で正規社員として就職できないと、その後のキャリア形成に不利になることは既に多くの研究からも明らかにされていることですし、日本の大きな損失です。こうした不況期こそ、日本人独特の助け合いの精神であたりたいものです。

 

 

第162号:貴方を採用する理由が欲しい

今シーズンは応募者増加に反して採用数激減という買い手市場になったため、採用担当者側も選考合格を出すにはかなり迷います。例年に比べて、最終面接で不合格になる応募者が増加しているようですが、これはそれだけ人事部が迷っているということでしょう。採用選考の裏側からこの辺の事情を考えてみます。

 

多くの企業では採用面接が終わったその日のうちにミーティングを行い、各面接者が選考した学生の評価を話し合い、次の選考に呼び出す学生を絞り込む作業を行います。面接の印象というのは意外と早く忘れてしまうもので、当日のうちに確認しておかなければなりませんし、有望な学生は早く選考を進めたいという気持ちもあります。このミーティングでは、面接者は自分が選考進めたい(合格を出したい)学生の何処が良いのかを他の採用担当者に説明しなければなりません。その説明はまちまちですが、何故、その応募者が有望なのかしっかりした理由が無ければ、採用面接者としての資質を問われてしまいます。

こうして二次面接に呼び出す学生のリストができあがり、上位の選考者が面接を行いますが、その結果は下位の採用担当者にフィードバックされ、自分の選考基準を見直したり、上位選考者と意見交換をしたりします。こうしたプロセスを経て、採用担当者は徐々に自分の選考基準を身に付けていくのですが、上位の考課者に合わせていくか、それとも自分の選考基準を貫いていくかは、企業のカラーや採用担当者の性格にも左右されます。

 

いずれにしても面接を担当した採用担当者にとっては、その学生を何故採用するのか、という理由が明らかな応募者は助かります。ですので、実際に「当社が貴方を採用するメリットは何ですか?」とストレートに質問してくる面接者も居ります。

(逆に「不合格の理由が明らかな学生の面接の方が楽で助かる。」とひそかに考えている採用担当者も居ります。)

 

ですから、学生の方に知っておいて欲しいのは、目の前の採用担当者が求めているのは、他の採用担当者を説得するのに有望な理由だということです。それを簡潔に伝えて欲しいと思います。

視点を変えれば、如何に目の前の採用担当者を自分の味方にするかを考えて欲しいということですね。面白いもので、採用担当者は自分が合格を出した応募者についてはつい心情が入り、味方になることが多いものです。というのは、自分が合格を出したということは、自分の判断基準を上位考課者に仰ぐということですから、その応募者は採用担当者の分身のようなものです。

 

というわけで、今シーズン、最終面接でかなり不合格になるということは、その前の人事部の選考で合格判定が多く出ているということです。人事部でも絞りきれず、おそらく紙一重の最終判断が出ているのだと思います。

 

第161号:「覚悟」を求める採用担当者

企業の採用活動は時代や景気の変化に敏感に影響されます。特に今年のような売り手市場から買い手市場への急速な転換が起きると選考ハードルが上がり、面接の方法・形式・質問内容が変わってきたようです。その傾向をいくつか見てみましょう。

 

まずは採用選考(面接)の形式です。今シーズンの大きな特長は、グループ面接(複数の学生と複数の面接者)の増加です。これまでグループ面接というと、一般事務職の一次選考で使われることが多く、総合職については1対1の個別面接の方が多数を占めていました。ところが今シーズンは、総合職でも最初からグループ面接を行い、中には最終面接までグループ面接を行う企業まで出てきました。

その背景には、以下のような理由があげられます。

・採用数が減少し応募者増加したので、選考の効率をあげるため

・KY学生を見抜く(回りのペースを見ながら話のできる学生を求める)

・学生が自然に自分の選考結果を感じ取れる(不合格の場合に納得できる)

 

次に質問内容ですが、前回も触れた通り、ここ数年で自己PR(大学時代に頑張ったこと)を行動実績とともに聴くいわゆる「コンピテンシー面接」が主流になりましたが、今年はこれに加えて改めて志望動機を深く聴く企業が増加してきました。それが人事部長面接・最終選考において不合格になる学生が急増している理由です。最終選考で採用決定権を持った役職者が最も聴くのは志望動機と入社後の夢(キャリアプラン)で、それが自社の方向性と合っているか、本気度・覚悟を感じられるかです。その質問の仕方も、かつては「当社は第一希望ですか?」という単純な質問から、「貴方の企業選択基準をお話し下さい。」と第一希望の根拠まで深く聴くようになってきました。

これまで面接を企業広報の有力メディアとして活用してきた企業も、覚悟をもって方針変更を行っているようです。

 

こうした採用担当者側の急変化に対して、学生側の対応は十分ではありませんでした。志望動機が弱い学生の主な原因は、企業取材を自分で行っていないからだと思われます。自己PRは自分の材料を自分のペースで書けるのに対し、志望動機はまずその企業の材料(データ)を仕入れる必要があり、手間暇がかかります。そのため、学生はインターネットやセミナーのような手っ取り早く情報を得られるものから志望動機を考えがちですので、結果的に志望動機が似てきてしまいます。企業がOB訪問を勧めるのは、自社をよく理解して説得力のある志望動機で熱意を示して欲しいという気持ちの現れでしょう。(実際、そういった行動的な学生は内定獲得率が高いです。)

 

採用担当者の面接の傾向の変化は、テクニック本にもよく現れています。今、店頭に並んでいる多くの書籍は売り手市場の頃に書かれた(学生への丁寧な対応を勧める)ものなので、厳選採用に対するものはまだ殆どありません。少し前は「採用氷河期」という本が販売になったばかりですから、今回の変化が如何に速かったかを物語っており、著者(出版社)も泣いていることでしょう。バブル崩壊後に書かれた本がまた売れるかもしれませんね。