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第230号:就業力育成ビデオ

ちょうど1年前のこのコラムで、法政大学における文科省「就業力GP」の特任教員に就いたことをお伝えしました。この1年間、授業を通じたキャリア教育のプログラム開発をはじめ、様々な試行錯誤を行って参りましたが、その成果の一つとして「就業力育成ビデオ」を作りました。これは今後、ご希望のある大学には無償で提供して参ります。

 

このビデオを制作した目的は、主に以下の三点です。

  • 学生に仕事の現場をできるだけリアルに伝えること
  • 教員に大学の学びは社会で通用することを再認識して戴くこと
  • 企業に産学連携のキャリア教育に参画して戴くこと

まず、殆どの学生は企業で働いた経験を持っていません。良いインターンシップができれば理想的ですが、実施内容、期間、受け入れ企業等で、すべての学生にその機会提供をするのが困難なことは、言うまでもありません。アルバイト経験も、その多くが非正規社員労働で、採用選考で求めるものとは異なります。それを知らない学生の自己PRは、どんなに一所懸命に話しても採用担当者には響きません。

 

次に、「私の授業は就職には役に立ちません」と口にする大学教員がおられます。確かに大学の研究の中には仕事に直結するものではなく、物事の本質を究める知的活動という面があります。しかしそれだけに、応用範囲は広いものです。例えば人事制度や経営戦略の立案には、人間の心理が深く関わっています。就職活動や企業での仕事経験の無い教員には、そうしたことは未知の分野なのでしょう。

 

最後に、多くの企業は自社の仕事理解機会の提供をせずに求める人材要件のハードルを高くしています。仕事柄、数多くの企業セミナーを見聞きしますが、正直、表面的なものであったり、自社の宣伝で終わっているものが多く、仕事の大変さ(それは裏返せばやり甲斐です)を伝えきれておりません。充実した企業セミナーは、インターンシップと同じく、特定の少人数だけに実施されていたりします。

 

このような背景のなかで大学が学生にすべきことは、やはり授業時間を通じて仕事の現場と大学での学びの関係を伝える工夫をすることでしょう。このビデオでは有志の企業に協力を戴き、仕事の実例と現場をリアルに描写してみました。このビデオを見ながら、学生や教員に大学教育の実用性を感じて貰いたいと思っています。昨年度は、2本のビデオ(旅行代理店遍、産業機械遍)を制作し、今週から下記サイトでダイジェスト版の公開を始めました。一般の配布は来月末頃からの予定です。このビデオ教材はシリーズ化し、今後もリリースしていく予定です。

 

このビデオは文部科学省の就業力育成支援事業予算で作成したものですが、周知の通り、突然の通達で今年度から廃止となってしまいました。しかし、若者の就業力育成は、もはや大学だけの問題ではなく、広く社会の問題、更にはグローバル競争をリードすべき日本国の喫緊の課題です。そうした志に共感して戴ける大学・企業を募り、産学連携教育の一事業として継続していきたいと思います。

 

▼就業力育成教材ビデオ-1「ハタラクチカラ(社会人1年目の現場)」

http://3step.hosei.ac.jp/news/details/2012/04/18/id1400

第229号:内定の順回転と未内定の逆回転

企業の内定出しも始まり、学生の顔色にも大きく違いが出てきました。メディアは「勝ち組・負け組」の二極化でとらえることが好きですが、大企業の採用数は、全大学生数よりずっと少ないので、結果が二極化することは当たり前のことです。しかし、同じ大学の同じ学部でも、結果に差が出てくることがありますが、それは何故なのでしょうか?そのメカニズムがわかれば、未内定学生にとって現状打開のヒントになると思います。

 

勝ち組学生で典型的なのは、他者にない秀でた経験をもった学生です。例えば、日中英語の三カ国語に堪能でスポーツ万能で品行方正というような、天が二物も三物も与えたような人物です。しかし、ここではそうした超エリート人材ではなく、もう少し一般的な学生を考えます。というのは、採用担当者にとって評価が難しいのは、最優秀な人材ではなく、平均以上、優秀未満という「中の上」の人物の評価の誰に内定を出すか、という点であり、そうした僅差の応募者の中でも、内定を取れる人と取れない人の二極化が起きているからです。

 

その「中の上」評価の人物の結果が分かれる要因は、早く1つの内定を獲るかどうかです。勝ち組である内定獲得者には「内定の順回転(好循環)」が発生します。内定を獲たことで、面接のポイントがわかり、自分の話し方に自信がもて、態度にも堂々とした自信と落ち着きが現れ、その結果、次の内定が出やすくなるからです。その内定は、倍率の低い中小企業でも良いのです。

 

採用担当者の方でも、他社の応募状況を必ず聴きますが、その際に内定を持っている学生だと見る目が変わります。特に経験の浅い採用担当者の場合は顕著です。逆に、慣れた採用担当者が、ある大手企業の内定を持っている学生を面接すると、その企業の今年の採用基準がわかります(景気によって多少

採用基準はぶれるものです)。他社の選考基準をそのまま使っても問題無いわけですから、思い切って「他社の最終選考で不合格だった人を求めます」という募集広告を出せば、かなり楽な採用選考ができます。現実に、かつて「(内定をもっているけど)秘かに就職活動をしている人を求む」という募集広告を出した企業がありました。

 

逆に、未内定の学生は「未内定の逆回転(悪循環)」に陥ることが多いです。採用選考は、人物のほんの一面を見るだけなのに、全人格を否定されてしまったように感じて、ドンドン自信を失っていき、どうして良いのか自分でもわからないままに惰性で面接を受け続けている状態です。

 

一度こうした逆回転に入ると、なかなか自分では抜け出せなくなりますので、就職課やキャリアカウンセラー等のアドバイスが必要だと思います。また、悪循環に陥る学生には最初から有名企業ばかり受ける傾向も見られます。今年のように採用選考期間が集中してしまうと、応募時期が限られる焦りもあるのでしょう。事前準備ができないままに、多くの企業に「とりあえず」エントリーだけ行った結果、そのハードスケジュールをこなしているうちにドンドン逆回転の速度が上がり、休むことも怖くなります。

そんな場合、あえて志望分野方向性を変えたり、思い切って休んでみることも大事だと思います。自分を冷静に見ることができたなら、きっと自分の回転方向が見えてきて、逆回転を止め、順回転に転換するヒントも見えてくると思います。

第228号:楽観は性格ではなく意志と能力

いよいよ採用選考解禁が近づき、新聞雑誌上に毎日のように就職活動や雇用のテーマが取り上げられるようになりました。採用担当者も、エントリーシートの募集を締め切って書類選考をはじめたり、リクルーターを使ったりで、応募者集団の絞り込みに入りつつあります。街を行くリクルートスーツの学生さんの顔も、益々緊張感が高まってきたようです。しかし、こんな時だからこそ、学生の皆さんには得意の笑顔で頑張って欲しいと思います。それこそが採用担当者の求める「一緒に働きたくなる人」だからです。

 

採用担当者や社会人OBが、学生さんから「企業の求める人材は?」と尋ねられたとき、一番多い答えがこの「いっしょに働きたくなる人」ですね。これはかなり曖昧な表現で、採用担当者にとっては便利な言い方ですが、学生にとってはわかるようなわからない回答でしょう。それは人によってそれぞれ異なりますから。

 

しかし、これを「仕事仲間」という言葉に解すると、その包含する共通のニュアンスがわかりやすくなるのではないでしょうか?特に、新人としての仕事仲間とは、未熟でも大きく成長する可能性があり、将来、自分をサポートしてくれる、または会社を背負っていく期待の寄せられる人物です。具体的には下記のような就活行動をとる学生さんです。

 

・礼儀と元気がある・・・挨拶と笑顔がすぐに出る、初対面ですぐ名乗る

・成長意欲がある・・・セミナーや面接でノートをとりながら聴く

・学習能力がある・・・聴いた事に対して受け身ではなく積極的に質問をする

・対人能力がある・・・面接の質問を確認(会話)しながら進められる

・度胸と責任感がある・・面接で(正確ではなくとも)明確な態度で回答できる

・環境を楽しめる・・・面倒な作業もコツコツできる(行動することによって不安を消せる)

 

こう書いてみれば、なんだ当たり前のことじゃないか、と思われることでしょう。しかし、採用選考時期が近づいてくるほど、学生さんはこうした基本的なことを忘れてしまいがちで、選考会場に到着した時には緊張感でガチガチになっていたりします。当たり前のことが、当たり前にできなくなるのが、本番での状態なのですから。

もうひとつ採用担当者が求める人材をあげるとすると、可愛がりたくなる人です。それはどんな場面でも楽観的であろうとする意志と能力を持っていることです。人間は放っておくと(特に最近の若者は)悲観的になりがちで、失敗を極度に恐れています。しかし、失敗は未知の世界に挑戦した人だけが得られる成果であり、自分の限界に挑戦した人だけができる体験です。そして諦めずに続ける限り、それは失敗という結果ではなく、成功へのプロセスです。授業でも「大学生の失敗は財産だ、どんどんやれ!」というと学生は安心して逆に失敗をしなくなるものです。

 

日々の報道を見ていれば、学生を取り巻く環境は厳しいものに見えるでしょう。しかし、昨年の震災のことを思えば、環境ははるかに良いはずです。そうした楽観力で頑張れる人が、採用担当者の求める「いっしょに働きたくなる人」なのです。

第227号:KY学生のES

企業採用担当者のエントリーシート(ES)評価が忙しくなってきました。学生も大変ですが、採用担当者も大変です。中にはホテルに缶詰になって採点をしている方も居られます。ES評価に取り組む採用担当者のモチベーションは、会ってみたくなる学生のESを読むことに尽きます。しかしながら多くのESは、そうした採用担当者の気持ちを理解していないのでは、と思わされます。気持ちが読めない「KY」学生さんのESですね。

どんなESを書く学生なら会ってみたくなるのか?それはESの設問で定番の「学生生活で貴方が最も頑張ったことは何ですか?」という問いからも明らかです。つまり、難題を乗り越えて大きく成長した学生ですね。それも採用選考ですから、他者より抜きんでた能力や強味を期待しているわけです。ところが多くの学生がこんな書き方をしています。

「私は幼い頃から人見知りだったので、これではいけないと思い、あえて接客業のアルバイトに取り組みました・・・」

「私は人を引っ張っていくタイプではありませんが、周囲を俯瞰してから的確なアドバイスをするように心がけています・・・」

これを読んだ採用担当者は、どう思うでしょうか?会ってみたいと思うでしょうか?どうしてこのような自分の評価を下げる表現をするのか理解に苦しみます。自分の弱点が人並みなった、というものではなく、人一倍頑張って抜きんでた、という書き方をして欲しいものです。きっと書いた学生本人にとっては本当に頑張ったことなのでしょう。しかし採用選考は競争の場です。嘘はいけませんが、本当のことをまともに全部話すような人物は安心して採用できません。例えば営業の仕事では、顧客に対して自社の商品の欠点をすべて話すわけにはいかないように。(勿論、例外はありますが、それはベテランになってからの上級スキルです。)改めて学生さんに気付いて欲しいのは、就職活動というのは自分という商品の良さを一所懸命に売り込む場だということです。

確かに設問の「頑張ったこと」には、「弱点を書く必要はありません」とか、「強味を書いて下さい」とかは書いてありません。だからこそ、ここで読み手の気持ちを察しながら書く学生と、そうでない学生の差がつくのです。ESは面接に読んで貰うためのPRツールです。弱点は面接で突っ込まれてから話せば良いのです。勿論、ここでも本当のことを全部言うかどうかは考えるべきです。

もうひとつ気になる書き方があります。ESに具体的なことを書いていない学生が居るのです。本人に尋ねてみると「それは面接で会ってから詳しく話すつもりです。」とのこと。残念ながらそんな方には面接のチャンスが来るとは思えません。膨大なESを短時間で評価しなければならない採用担当者の気持ちを汲んで、出し惜しみせずに魅力的に書いて欲しいと思います。ES評価で不合格になったら元も子もありませんから。

 

第226号:大学でちゃんと学べばESは書ける

企業のエントリーシート(ES)の締切が迫ってきています。オフィス街のファーストフード店に入ると企業のロゴが入ったESを前に考え込んでいる学生が無数に居ります。中には数人で添削し合っていたり。これだけ熱心に勉強してくれたら・・・と思わされます。私の方でもESの評価をしますが、最近の学生は本当に文章を書く力が落ちたと思います。大学の授業で教えていることをしっかり理解していれば、相当に対処できるはずのですが、教員が教えていないのか、学生が学んでいないのか・・・。

私は、大学の授業は立派に世の中の役に立つと考えております。直接仕事に通用する知識ではありませんが、アカデミックスキルとは相当に応用範囲が広いものです。例をあげて説明しましょう。

一次情報にあたる

昨年このコラムで、大学では「事実」と「意見」を峻別することが必要だと書きました。レポートも「事実に基づいて意見」を展開するものだということですが、更にその「事実」は一次情報でなければなりません。文学であれば、誰かの書いた評論(二次情報)ではなく原典を読めということです。原典の読後なら他者の評論も自分の視点で解釈できますが、そうでなければ受け売りになってしまいます。一次情報にあたるのは手間暇がかかります。外国文献ならば語学のハードルもあるでしょう。しかし、そうした地道な作業こそが大学での研究活動であり、そこから忍耐力や文章力が身に付きます。

複数の情報を集める

更に、一次情報でも可能な限り多くの情報を集めることです。例えば経営学で労働者の意識調査を行うとき、アンケート調査定量調査)やインタビュー調査定性調査)を実施しますが、一人や二人の回答では一次情報とはいえ信憑性に欠けます。時間や費用の許す限り、数多くの情報を集めることが必要です。そして、そうして集めた複数の一次情報を、集計したり解釈することによって、分析力や判断力が身に付きます。

持論を展開する

更にこうした作業後に重要なのは、分析した情報をじっくり考察して自分の意見を考え出すことです。これが忘れては、レポートの個性が出てきません。これによって創造力や提案力が身に付きます。

翻って学生の書くESを読んでみると、志望動機の殆どが企業のセミナーやWebに掲載されている情報だけを元に書かれています。それらが人事部の用意した二次情報であることに気付いていないのでしょう。結果、誰でも似たようなESになってしまいます。ちょっとできる学生ならば、OB訪問で一次情報を求めにいくでしょう。しかし、一人や二人の社員に会っただけでその企業全体がわかったつもりになるのは早計です。そうした分析が甘いことを理解しつつ、更に多くの情報を集めるか、異なる情報リソースを求めていく、そうした学生ならば、事実に基づいた持論を展開できるようになります。つまり就職活動を上手くできる学生とは、ちゃんと大学の授業で学ぶべきことを学び、それを応用できる学生なのですね。

 

第225号:岩波書店の紹介採用はあたりまえ

岩波書店の採用手法(とりあえず『紹介採用』と呼びます)が話題となりました。既にネット上では沈静化してきたようですが、私も意見を述べてみます。結論から言えば、これは岩波書店(従業員約200人)のような中小企業ではよくあることです。法的にも何の問題もありませんし、私が採用コンサルタントならば、推奨したいくらいの方式です。

 

・縁故(コネ)採用ではない

どこの企業でも、縁故採用というのは発生します。というのは、縁故採用というのは採用担当者が積極的に働きかけるものではなく、応募者側から売り込んでくるものです。それも採用担当者の雲の上から。なので、紹介採用は縁故採用とは異なりますし、仮に縁故採用であったとしても、民間企業である限りどんな採用方式をとろうと自由です。公務員や何処かの地方自治体の教育委員会のでもないのに、厚生労働大臣の事実関係を調べるなどとは論外です。

・優良中小企業は紹介採用で十分

岩波書店の説明の通り、採用数が数名という中小企業では、ITを使った大量母集団形成を行う今の新卒採用方式(とりあえず『リクナビモデル』と呼びます)は不合理で、数百万円もの費用などかけていられません。実際、中小の優良企業は本当の縁故採用でも(応募者側から)人気で、取引先の業者や金融関係からの紹介だけで意外と良い人材が集まります。中小企業でリクナビモデルを使うのは、ITベンチャーのように社会での評価がまだ浅かったり、急いで人材を集めなければならない場合です。

・ミスマッチ防止でほめても良い

紹介採用は、かつて普通に存在した「指定校制度」と似ています。今回の論議で、岩波書店を指示した方々が指摘しているのはリクナビモデルの非生産性で、巨大母集団の選抜に学生も採用担当者も疲弊しており、これは壮大なミスマッチ生産システムと言っても良いでしょう。厚生労働大臣が顕彰すれば、ハローワークの仕事も少しは楽になることでしょう。

・紹介採用は逆リクルーター制度

岩波書店の主張では「これは選考基準ではなく応募条件」だそうですが、いずれにしてもこれは応募者の努力で作ることができるものです。もし今回の論議を機会に同社の方々がアプローチしてくる学生に積極的に会ってくれるようになったなら、これは「逆リクルーター」または「全社員リクルーター」ということですし、新しい採用方式ですね。OB/OG訪問の開拓能力が求められるわけです。

 

ただ、今回の経緯を注意して見ていると、岩波書店もまったく新しい採用方式として積極的に行ったわけではないように感じます。もともと慣行になっていたのを書面にして関係各位に連絡したのがネット上に公開されて炎上し、そこで同社も開き直って説明したように見えます。ネット社会と対極にあって泰然としていた紙文化重鎮の岩波書店らしい盲点で、さぞや驚いたことでしょう。

以下、参考サイトURL:

▼岩波書店、採用で「著者か社員の紹介必要」(読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120202-OYT1T00976.htm

▼謹告、小社の「定期採用」報道について(岩波書店)

http://www.iwanami.co.jp/company/index_s.html

 

第224号:法政大学での就業力GPシンポジウム

文科省事業である「就業力GP」については、このメルマガをご覧の皆さまにも関係している方が居られると思いますが、これが事業仕分けにより中断するという連絡が新年早々に飛び込んできました。既に来季授業の手配に入っている時期に大変なことですね。私が研究室を戴いている法政大学もその中の1校ですが、来る2月23日(木)に公開シンポジウムを開催し、我々の活動報告を行います。学内・学外の多くの意見交換できればと思います。

 

このシンポジウムは、今回の文科省の連絡に際して企画したものではなく、当初からこの1年間の活動報告として計画されていたものです。大学の授業は必ず就業力(仕事に就く力、仕事をやりきる力)につなげられるという信念でいろいろな試行錯誤をして参りました。主に以下のようなものですが、今回のシンポジウムではこれらの開発・試行状況を各担当教員がご紹介いたします。

 

1.大学の学びを就職・仕事につなげられる授業の開発

2.就業力が評価出来る手法(アセスメント)の開発

3.他大学でも利用展開できるビデオ教材の開発

 

まだまだ試行錯誤の段階のものも多いですが、今年の目標はこれらの成果を法政大学だけではなく、広く他大学の教職員や企業人事の方々にも評価して戴き、そのご意見を伺いながらより世の中で通用するものにしていきたいということです。そして、その成果を社会に返していきたいと思います。

そんな中で今回の事業中断の告知は、いきなり梯子を外されたような気分でした。しかし私は、これは本当に大学が主体性を発揮できるかどうかの試練であり機会だと考えています。学内連携のみならず、学外連携、産学連携、そうした理想を実現できるかのチャレンジです。

 

入学時期の変更等の改革も良いでしょう。しかし、本当に成すべきことは授業改革であり、その魅力から学生を惹き付け、育て、企業に自信をもって推薦できる人材にする。そして企業からも選ばれる。そんな初夢を今年は実現に向けて踏み出したいと思います。就業力の育成は授業を通じた就職支援、法政大学の覚悟を聴いて戴ければ幸いです。

 

以下、参考サイトURL:

▼法政大学就業力GPシンポジウム案内(どなたでも参加できます。)

http://3step.hosei.ac.jp/data/2011/12/5cbf529c8ae5ffe35e79e8ef7496e242.pdf

▼法政大学就業力GPニューズレター(第10号)

http://3step.hosei.ac.jp/data/2012/01/65e7f00ec55f6a9bb15b42dfa67e450f.pdf

▼法政大学就業力GP広報サイト

http://3step.hosei.ac.jp/

 

第223号:就活4年生にマッチする新卒人材紹介

成人式の連休が終わり、いよいよ世間も本格的な仕事始めとなりました。3年生に向けた企業セミナーが積極的に開催されていますが、その陰で就活4年生(2012年卒)は苦労しています。年末に私の方にも何人かの相談があり、ここはと思う企業の採用担当者に相談をしてみましたが、なかなか対応して戴けません。就職課の皆さんはそういうわけにはいかないでしょうが、企業では2世代同時対応というのは、相当に難しいことです。そんな中でいま一番、頼りになるのは新卒人材紹介だと思います。

就職活動を継続中の4年生の背景は様々です。昨春からの度重なる失敗、資格試験不合格、大学院進学不合格等々、年々その理由も多様化しているようです。しかし、採用担当者はキャリアカウンセラーではありませんので、学生の事情を聴いてそれぞれに個別対応するということは普通はありえません。というよりも採用選考プロセス上、非常に困難なのです。特に大手企業の場合、新卒採用プロセスは説明会の会場、面接官の手配、最終決定する役員のスケジュールの調整等、準備するものが多いので小回りが利きません。(役員や上司を説得するのも大変なのです。)

年末に馴染みの数社の採用担当者の方に「補欠採用とかで空きはないですか?」と頼んでみましたが、回答は「ご事情はわかりますが4年生は完全に締め切ってしまったので、2013年卒者としてしか受け付けられません。」とのこと。つまり「留年して下さい」ということですね。これが留学生ならば、出遅れたことが就業力の向上に資すると想像できるので、まだ何とか余地はありそうでしたが。

さて、こんな中で頼りになるのは、新卒人材紹介ですね。これまで人材紹介は新卒ではあまり発展しないと思われてきましたが、大企業でもどうしても数名の追加採用をしたいとか、中小零細企業でやっと今期の目処が見えて来期(4月)から新人を採りたいという企業にはぴったりマッチします。皮肉なものですが、超早期化で4年生がこの時期に就職できなくなってきたということと、ネット経由の大量母集団形成型の採用活動があまりにコスト(金銭、時間、人権費)がかかるようになってきたからですね。完全成功報酬型(内定が出たら紹介料を払う形態)であれば企業採用担当者も求人は出しやすいです。国もそこに補助金を出せば良いと思います。または3年生の就職支援にハローワークの職員を大学に派遣するくらいなら、相談員ではなく4年生向けの求人情報提供者(紹介者)であって欲しいものです。

もうひとつ新卒人材紹介の良いところは、採用選考が終わった後に、応募企業からフィードバックが貰えることです。一般の新卒採用選考においては、特別な意図がない限り、面接のフィードバックは行いません。すぐにネット上に流布して選考がフェアではなくなりますし、その回答が変に一人歩きするリスクもあるからです。しかし人材紹介業者には率直に話をすることができます。特にこの時期に内定のない4年生は、自分自身の言動に無頓着な方や自己中心的な方が多いように見受けられますので、親や就職課とは違う第三者の客観的なフィードバックが重要です。

最後に、採用担当者は中途採用では必ず退職・転職理由を尋ねます。その際、ネガティブな理由ではなかなかアピールになりません。4年生も同様にタテマエであろうがなんであろうが、出遅れた理由について納得できるように話して欲しいものです。できれば空元気でも一所懸命に。

第222号:採用活動に関する大学との共同研究-5

毎年大学後期は企業の人事労務管理を研究している大学のゼミ生と採用活動に関する共同研究を行っておりますが、今年は『学生・企業間におけるグローバル人材の認識差』がテーマでした。研究にご協力戴いた企業人事担当者(約10社)を招き、今週その報告会を行いました。グローバル人材というものは就職セミナーでは頻繁に目にしますが、学生と企業の認識には埋めがたい大きな溝があるようです。

 

この研究では学生(425人)と企業(76社)から集めたアンケート回答に加えて、直接訪問した企業(約10社)のインタビューをまとめています。その中でマスコミでもよく取り上げられる「グローバル人材を見据えた新卒社員に必要なもの」については、以下の点について学生と企業とで大きな違いが見られました。

・学生が重視しているが、企業はそれほどでもないもの(上位3つ)

1位:高度な語学力、2位:異文化適応力、3位:国際的視野

・企業が重視しているが、学生はそれほどでもないもの(上位3つ)

1位:情熱、2位:向上心、3位:一般教養

 

これらをみると、学生は具体的なスキルに着目しており、企業はそれよりも資質や人間性に着目しているのが明らかです。研究では更にこうした現象が現れるメカニズムについても考察し、企業の情報発信方法について課題があることを指摘いたしました。何分、大きなテーマだけに企業からの指摘も厳しく研究の不十分な点も明らかになりましたが、学生企業相互に有意義な質疑応答がなされました。

 

このゼミ学生達は全員3年生なので、12月になって始まった企業セミナーを周りながら研究報告をまとめるのに非常に難儀しておりましたが、その就職活動から面白いことを2つ発見しておりました。

・グローバル化に遅れている企業ほど、グローバル化が大事だと主張している。

⇒進んでいる企業はそれほどアピールしない。

・グローバル人材に求めるものは、どこの企業も似ている

⇒「情熱」「向上心」とは良く聴き、勢いはわかるが曖昧でよくわからない。

 

結果、企業への提言としては、現在の企業の一般的な採用方法(Webエントリー⇒大規模セミナー⇒ES⇒面接)は、時間・労力が取られるわりには学生と企業の理解を埋める機能を果たせておらず、長期インターンシップ等の新たな告知採用方法が必要である、となりました。当たり前の結論ですが、採用担当者の方々も実はそれは課題と思っていると共感されていました。今回のテーマが壮大だったので学生達は苦労しておりましたが、その研究結果またまた大きな問題が浮き彫りになったわけです。

 

しかし、この研究活動を通じて、学生達は就職活動や企業の採用活動、そして新卒就職市場についておそらく日本でトップレベルの理解に達しました。そして、大学の研究こそが一番の就職活動であるということに気付いてくれたわけです。指導には大変労力を取られましたが、こうした調査分析報告手法は、どんな学問でも指導できるはずです。苛烈な就職環境に惑わされずに対処する能力を、大学は与えていきたいものですね。末文になりますが、良いお年をお迎え下さいませ。

第221号:採用担当者セミナー三社三様

12月に入り採用広報が一斉に始まりました。採用担当者が各大学セミナーで忙しく飛び回っておりますが、いろいろな個性があって面白いです。採用担当者は会社の顔であり、良くも悪くも学生への印象を形成しますのでやり甲斐のある仕事です。先日、とある大学の合同セミナーで三社三様の個性を聴いてきましたのでご紹介しましょう。

 

理系の文系就職という主旨で行われたセミナーで、登壇された3社の採用担当者達は奇遇にも皆さん入社3年以内という若い方々でした。以下に簡単にそれぞれの個性をまとめます。

先発は有名大企業のA社です。勢いある話し方で「当社は文系も理系も関係ありません!」とビジネススケールの大きさを大声でアピールしている点は総合商社らしい豪快さです。聴講している学生は理系なので、日頃こうした勢いあるセミナーを聴く機会は少ないです。反面、個別の取り扱い製品やビジネスについての話は少なかったので、理系の強さを活かしたいと感じている学生には少々、物足りないと感じられたのではないかと思います。

 

中継ぎ中堅企業のB社は、A社とは対照的な落ち着いた話し方で、ビジネス規模よりも収益性や個別の商品について淡々と説明しておられました。理系の研究開発者向けのセミナーによくあるパターンです。学生には聴きやすい反面、ややインパクトに欠ける感じですが、ニッチな市場で技術者相手にクールな営業を希望する学生には好感をもたれると思います。丁寧な原稿を手元に用意されて読み上げるように話をされていましたが、最後に原稿ではなく個人の仕事観を話されていたのは印象的でした。

 

クローザーのC社は、学生が1時間以上も聴き続けて疲れ気味なところに気付かれ、いきなり「ストレッチしましょう!」と学生の気分転換から入られました。その後の説明で印象的だったのは、プレゼンテーションのスタイルです。A社が一方的にまくし立て、B社は受け身で淡々と説明するのに対し、C社は常に学生に軽い質問を投げてコミュニケーションをとりながら進めていきます。顧客に対し、提案型の営業をしたい学生に共感されたと思います。

 

採用担当者の盲点になりがちなのは、自分のプレゼンテーションが学生にどのように見えているのか気付きにくい点です。なかなか難しいのは、ターゲットとする学生は誰で、何をどうアピールするか、と絞り込む点です。万人に受けるプレゼンテーションというのはありませんから、そのメリハリが大事です。なので、こうした合同セミナーでは自社の特長や自分の個性に気付く良い機会です。

一般的に言って有名大企業ほどこうした点にわりと無頓着です。BtoB系の無名企業の採用担当者だった私もそうでしたが、合同セミナーでは特に知恵を絞って自社の魅力をアピールするプレゼンを考え、その駆け引き(?)に燃えました。

 

ところで、今回の3社の若い採用担当者の方々のプレゼンテーションはどれも個性があり好感がもてました。企業規模や業界特性などに関係なく、若い社員が自己流ながらも試行錯誤しながら現場で頑張っていること、それが何よりも就職活動中の学生へのアピールになるのでしょうね。採用担当者の先輩として、師走に全国を飛び回りはじめた後輩達にエールを送りたいと思います。