「未分類」カテゴリーアーカイブ

第290号:論文不正問題で考える成績評価

ノーベル賞の発表と同日に早稲田大学で小保方晴子氏の博士論文不正問題についての結論が出されました。この事件については既に様々な議論がなされておりますが、私が学生として、採用担当として、そして大学教員として感じたことを述べてみたいと思います。

 

科学的な視点でのSTAP細胞の存在の是非についてはまったくわかりませんが、大学と大学院で学んだ学生の端くれとして、今回の判断手続きはあまりにも不可思議です。単純にこの博士論文が、修論や卒論や期末テスト、更に日常的に求められる授業でのレポートだとします。もし学生が清書した論文やレポートではなく、不注意で書きかけの原稿を出してしまい、数週間後に気づいた時、大学側は再提出を認めてくれるでしょうか?それも本人が申告したものではなく、大学側が気づいた場合に。

 

それが許されるのだとしたら、学生は「とりあえず」締め切りまでにダミーを出しておき、後日、「先日のものは間違えでした」と差し替えることが可能になります。ここで問題なのは、この当事者の学生の行為だけではなく、真面目に締め切りを守った多くの学生に対して大学がアンフェアな行為をしていることです。勿論、私の知る限り、何処の大学でもレポートの提出締め切りはおそろしく厳格で、フェアな対応だと思います。だからこそ、余計に今回の件の特別扱いが納得できないのです。

 

採用担当者として考えてみた時、すぐに浮かんだのは「まあ、大学の権威(博士)なんてそんなものだね」「どうせ大学成績なんて期待できないんだから」といった少し醒めた見方です。前回のメルマガで書いた通り、ドクターの世界というのは日本の企業社会から見ると理解不能なものです。確かに最先端の研究をしているメーカーにとっては優秀な研究者は必要ですが、それがアメリカと同じくらいに求められるだろうというドクター1万人計画になり、そしてそれが原因のポスドク問題になり、それは日本企業のグローバル化が遅れているからだ、企業の雇用責任だと言われても困ります。

 

つまり、採用担当者としてみるとこの問題は結局、大学というコップの中の騒動で、採用選考では学生に騙されないように気をつけよう、学校名や肩書きに左右されないようにしようという「他山の石」に過ぎません。

 

最後に、大学教育者として改めて思ったのは「成績は真摯に付けよう」ということです。成績採点後、どの学生から問い合わせがあっても根拠を示して明確に説明できるようにしておくことです。ちなみに、私の授業では毎回の出席票(リアクションペーパー)と期末テスト・レポートとの積み重ねで採点しており、学生から問い合わせがあった場合も、各点数を伝えながら総合的な判定を伝えています。毎回のリアクションペーパーも可能な限りコメントを付けて授業中に返却しています。

 

今回の論文事件は早稲田大学だけの問題ではなく、大学界全体の信頼に関わる問題と捉えるべきだと私は思っています。大学教員として信頼される成績・学生・カリキュラムをまた一つずつ作り上げなければと。「就活後ろ倒し」で地に足の着かない学生に、ちゃんと地に足を付けて勉強する時間を貰ったのだから、来たるべき日に備えた力をつけてやりたいと思います。

 

第289号:ドクター採用の難しさ

3人の日本人研究者のノーベル物理学賞受賞はとても喜ばしいことですね。しかも今回の受賞のポイントになったのは、伝統的な研究のための研究ではなく発見の社会貢献度ということであり、この3人の研究者に共通の社会に対する関心の高さは技術国日本の誇りだと思います。

 

今回受賞された3名の研究者の印象をメディアから察すると、三者三様の個性の違いが面白いと思いました。最年長の赤崎勇氏(85)は、絵に描いたような滅私奉公型の研究者で、社会のために真理を追究する事を天命と考える公務員の鏡のような方です。私が企業時代に技術開発を委託していた帝大系の教授によくあるタイプです。とても素晴らしい研究成果を惜しみなく発表されるので「それは特許をとった方が良いですよ」とお伝えしても「いやいや、私はそうしたことに興味はありません。」という研究者です。

 

中村修二氏(60)は、既に多くの方がご存知の通り、出身企業との特許訴訟で争うような主張の強い個性の人です。渡米されて向こうの水が肌にあい日本社会の問題を強烈に指摘されておりますが、こうした研究者も日本の大学では多く出会いました。私の居た企業で主催した技術研究会で、10対1になっても一歩も引かず、多くの方から変人のように言われておりましたが、数年後にその研究者の考えていたことが理解されはじめた、ということがありました。

 

最後に、天野浩氏(54)は、先代の偉大な教授の影で支えながらコツコツ頑張るタイプです。かつての助教授のポジションで実績を積みながら、教授に代わって研究室の切り盛りを行い、後輩達にもフレンドリーに接してくれます。赤崎氏のような偉人から見れば「現代っ子」と見られがちですが、内心には期するものを持っている「オタク」型といえるでしょう。研究室を訪問すると、いつも丁寧に対応をして下さるタイプです。

 

このように優秀で個性的なドクターが日本の大学にも大勢おられますが、さて、企業の研究開発者として是非、採用したいと思うかどうかは微妙です。1980年代までのように、多くの企業が中央研究所を創設して基礎研究に取り組んでいた時代ならともかく、今は選択&集中投資の時代です。企業のコアとなる研究分野以外は自社内で行わずに、大学と共同開発や委託研究を行うアウトソーシングの時代です。その結果、特定の専門分野に深いドクターの採用はリスクが高くなり簡単に採用できません。ドクターは特定の専門分野だけではなく、幅広い汎用性をもった真理探究者である(どんなことにも取り組める)と言われますが、企業採用担当者が面接の現場でドクターを見ていると、どうしてもそう思えない方々が多いです(採用担当者に見る目がないだけかもしれません)。

 

というわけで、私はドクターの日本企業での採用は、今後もあまり進まないのではと思います。こうした個性溢れる研究者は、窮屈な企業より伸び伸び動ける大学の方がきっと居心地が良いでしょうし、そうした研究者との雇用以外の付き合い方を考えるのが採用担当者の仕事です。ドクター1万人計画やキャリアコンサルタント5万人計画のように、数値を先に決めるのではなく、社会変化と人材特性をみて、お互いがハッピーな社会・関係を考えるべきだと思います。

 

第288号:大学キャリア教育は採用担当者の能力開発

先日、採用選考についての経団連の「採用選考に関する指針」が改訂・公開されました。今回の改訂では「広報活動開始前に行われる学内セミナーについて」の項目が追加され、「大学が責任をもって主催すること」「参加学生に対し、キャリア教育の一環であり、採用選考活動とは関係ないことを明示していること」などの条件を満たす場合、企業が学内セミナーへ参加することを認めるが加えられています。これは企業採用担当者にとって良い能力開発(または試練)になります。

 

「後ろ倒し」により、いま多くの採用担当者がどうしたものかと右往左往しております。採用担当者の発想力や行動力が求められるので、私は良いことだと思っています。日頃、「個性のある人材を求む」という採用担当者自身が身をもって体験するわけですから。その中で、リクルーター再編成と今回の「大学キャリア教育」へのアプローチが盛んになってきました。

 

大学キャリア教育自身が、まだまだ発展途上段階、またはカオス状態であると言っても良いですが、企業との連携が大きなポイントになることは間違いないでしょう。これまでも、企業採用担当者やOBを並べたオムニバス講座のキャリア教育はありました。これは大学も企業も最も楽で効果の上がるものですが、中には企業の採用セミナーをそのまま話すものもあり、それでは芸がありません。

 

そこで大事なのは、採用担当者が能力開発のスキル・視点をもつことです。企業人事部では、社員の採用活動と能力開発活動は連続していることが多いですが、その順序が「採用⇒開発」から、「開発⇒採用」になるわけです。それは、採用担当者が「求める人材の能力判定」から「求める人材の能力設定と育成」を行うということです。人事で能力開発の経験のある方には腕に見せ所ですが、そうでない採用担当者にとっては試練です。人を批判することは楽ですが、育てることは本当に難しいことですから。

 

大学が伸ばしている能力と企業が求める能力、曖昧模糊といわれる「求める人材像」も、こうしたキャリア教育が進めば自然と解消されてくることでしょう。日本の新卒一括採用は、批判されることが多いですが、大学と企業が連携して採用・育成してきたことは日本独特の良い点だと思っています。世界のやり方をそのまま持ってきても絶対に成功しませんし、逆に強みや個性を失うことになります。

 

今回の指針に合わせて大学側(就職問題懇談会)からも方針が出され、外形的なルールが定められましたが、これからは更に内容の進化まで踏み込んで貰いたいものです。ピンチはチャンスと良く言われますが、是非、良い方向に活かしていきたいものです。

 

▼参考URL:採用選考に関する指針(2014.9.13 経団連)

http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/081.html

 

▼参考URL:大学内キャリア教育の申し合わせ(2014.9.16 就職問題懇談会)

http://www.keidanren.or.jp/policy/2014/078_moushiawase.pdf

第287号:アルバイト今昔

大学の夏休みも終盤となりました。早い大学では来週から授業が始まることでしょう。大学生にとって夏休みといえばアルバイトですが、今はアルバイトの内容も目的も昔とはだいぶ変わりました。その過渡期は、バブル崩壊からIT時代の始まりである90年代です。アナログ時代からデジタル時代への変化と言っても良いと思います。その変遷を考えてみましょう。

 

バブル崩壊までのアナログ時代(80年代まで)は、学生のアルバイトは社会の中で中心的な労働力ではなく、正社員中心の中での補助的な存在でした。企業での仕事もネットはなく、パソコンも限定的な使い方をされていました。こうしたアナログ時代では、職場の社員のコミュニケーションも会話や電話が中心で、事務のアルバイトに就いた学生は知らぬ間に門前の小僧となり、社会人(正社員)の仕事ぶりを感じ取ることができました。

私は学生時代、お中元やお歳暮の宅配便のアルバイトを行っていたのですが、オフィス街を担当すると大企業の中まで入って配達することもありました、社会人のデスクやオフィスの掲示物などを見て、ビジネスの世界を垣間見ることができました。

 

しかしデジタル時代になると、こうした大人の世界は学生から隔離されてきます。情報漏洩防止のセキュリティ強化によってオフィスの中には入れなくなり、非正規社員の増大により仕事の内容も正社員とは切り離されてきました。その結果、正社員とアルバイトとの職場もデジタルに切り離され、アルバイトはアルバイトとしての仕事になり、どんなに頑張っても正社員の仕事を理解することは難しくなりました。

 

学生のアルバイトの目的も変わってきました。アナログ時代は何かの目的(スキーに行く、ギターを買う、旅行に行く、等々)のために行ったアルバイトが、アルバイトを通じてのコミュニケーション力向上、自己理解、友達作り等の自己啓発やコミュニティになってきています。手段が目的になってきたようです。

 

そしていま、インターンシップがそれに代わろうとしています。夏休みに頑張ったことは何ですか?という質問に「企業のインターンシップに取り組みました!」という学生が急増しそうです。日本で言うインターシップは期間も内容もご本家米国とは相当に違ってきてしまいましたが、アルバイトの敷居を越えて正社員の仕事の中にちょっとでも踏み入ることができるなら、それはそれで良いのかと思います。少子化で企業が求人不足になれば自然と競争が進み、インターンシップの内容は改善されてくるでしょう。現に採用時期の後ろ倒しで何をして良いかわからない企業採用担当者は、いまインターンシップのあり方を考え直しています。

 

上述の通りデジタル時代には門前の小僧は自然には生まれませんので、成長機会を意図的に作ってあげなければなりません。かつてアルバイトが社会の窓として機能していたように、インターンシップがそれに代わってくれれば良いと思います。職場と隔離された研修ではなく、職場から学び取れるインターンシップであって欲しいと思います。

 

第286号:期末試験答案を採用選考基準で見てみると

大学教員として期末試験の採点をしていると、最近の答案の解読が難解なことに悩まされます。学生の書いている内容が高度なら悩み甲斐もあるのですが、一見して(一読ではありません)、この文字はどう読むのだ?という象形文字のような字体が増えてきています。これらの答案を企業の採用選考基準で判定したら、半分も通らないでしょう。それらのケースをご紹介致します。

 

1.判読不能な文字(筋力・集中力不足?)

まずは冒頭に述べた、もの凄いクセ字で、何を書いているかわからないケースです。教え子の答案なので、なんとか読み取って単位を出してあげたいのですが、あまりにも個性的すぎて判読できない文字(?)が増えています。スマホでキーボードばかり使っているからでしょうか。特に、最近流行のキラキラ名前は、「薔薇」のようにとても画数が多くて書きにくい漢字をもった子が増えています。他人事ながら、自分の名前をそんな字体で書いて恥ずかしくないのかなあ、と感じさせられます。親御さんもそうした名前をつけるなら、必ず書道教室に通わせて欲しいものです。

 

2.与えられたスペースの半分も書いていない(忍耐力・思考力不足?)

期末試験の立ち会いをしていると、退出可能な時間になると、すぐに答案を提出して立ち去る学生が居ります。そうした学生の答案の殆どが白紙に近い状態で、諦めが良いものだと感心します。しかし、少しヤマが外れた位で白旗を揚げるということは、正解が1つしかないと思い込んでいる中学生と同じです。都市伝説になっているカレーライスの作り方を書かれても困りますが、目の前の問題を如何に解釈し、如何に自分の論に展開し、それを丁寧に書いたなら、少なくとも情状酌量されるかもしれません。与えられた課題を持っている限りの知見で何とかするのが社会人で、一見して無思考でやる気がないとわかるのは困ったものです。

 

3.品格がない(常識・コミュニケーション力不足?)

設問とは関係のない授業や社会の不満等を長々と書いているケースです。こうしたことを書く学生には乱文&毒舌家が多いです。仮にそうしたことを書きたいのなら、表現・敬語を工夫すれば、採点者に知的水準を感じさせることもできるでしょうに。どんな試験でも、評価する人間は自分ではなく他人になります。この答案はどのように読まれるのか、ということを考えたこともないような答案では、コミュニケーション力(人を動かす力)がないなあ、と感じます。(本人は気分良く書いて、単位を捨てているのかもしれませんが。)

 

現代は手書きの機会もどんどんなくなっており、多忙で、ストレスが多いです。しかも自分らしさが大切にされていますから、これらは若者の現代病といえるかもしれません。学生は男女とも、ファッションやお洒落には熱心ですが、1日3分でも良いので心を落ち着かせ、自分の名前を清書して「ありのまま」を見直すことを勧めたいと思います。ちなみに私は、来期のシラバスの評価項目には「この授業の評価基準は企業のエントリーシートと同じにする」と記載しようかと思っております。

 

第285号:オープンキャンパスとリクルーター育成

大学は夏休みに入り、キャンパスは静けさを取り戻しました・・・、というのは昭和の時代のお話しで、夏休み突入は、即オープンキャンパスのシーズン突入ですね。私も期末試験の採点をちょっと横に置いて、保護者向けのセミナー等に駆り出されています。猛暑の中をお集まりの親子連れの来訪者に向けて講演をしていると、採用担当者として企業セミナーをやっているデジャブ(既視感)におそわれます。自社のここを見て欲しいなあ、という点は、きっと大学でも同じなのだと思います。

 

私は大学側の人間としてはまだキャリアが浅いので、オープンキャンパスの本当の見所を理解しきっていませんが、企業採用担当者の目線で思うのは、ハードだけではなくソフトをしっかり見て欲しいということです。ハードとは校舎や設備やキャンパスの場所等で、ソフトとは授業内容や学生支援制度、そしてなにより現役の学生達です。企業で言うならば、現場の社員を見て欲しいということですね。

 

これを感じた理由は2つあります。1つめは、オープンキャンパスで熱心に活動する学生スタッフ(ボランティア)の姿を見たからです。猛暑の中、大学正門で「ようこそ、○○大学へ!」と大声を張り上げ、笑顔でパンフレットを配る様子はまるで体育会の夏合宿です。キャンパスツアーでは年配の保護者や年下の高校生を引き連れ、小旗を片手に大学の歴史を熱く語っています。

 

2つめの理由は、先日、学生スタッフの研修を引き受けたからです。オープンキャンパスや、多くの大学で導入されているピアサポート(在校生による学習指導・相談等)を志望する学生達に、チームビルディングの研修を行いました。新入生や高校生への対応や、チームリーダになる上級生に役立てればと、企業研修で良く使われるチームビルディングのプロセスを学生向けに簡単に説明してワークショップに落とし込んで実施しました。志願してくる学生達だけに、多くの者は積極的に取り組みますが、なかなか溶け込めない学生も居ます。

 

ふと、ここでまたデジャブにおそわれました。「ああ、これはリクルーター研修と同じじゃないか!」と。企業でもリクルーターを募集して対人スキルのトレーニングを行います。大学と違って、志願者だけでは人数不足になることが多いので、業務として現場社員を駆り出すこともあります。この場合、必ずしもやる気のあるメンバーだけにはなりません。しかし面白いもので、文句を言っている社員も訪問してきた大学生と向き合うと、中々良い話しや対応をしてくれます。

 

学生に授業で大学の理念や精神を一所懸命に説明しても居眠りをされるように、企業の社員に経営理念や創業者の精神を話してもなかなか響きません。そうした話しを無理に聞かせるよりは、学生や社員を信頼して現場に出せば、そこから自然に愛校心や愛社精神が生まれてくるものなんですね。

 

何処の大学でも企業でもこうした取り組みを行っていると思いますが、こうした学生や社員の育成と自慢の競い合いは素晴らしいことだと思います。今年も酷暑になりそうですが、知恵と汗を絞って頑張りましょう!

 

第284号:お客さん化する学生

私立大学では春学期(前期)の期末試験の時期になりましたが、私の授業を履修している学生から、「企業のインターンシップに行くので、試験が受けられません。どうすれば良いですか?」という相談が増えてきました。来年への布石として、企業による夏季インターンシップの早期コンタクトが増えてきているのを実感します。キャリア教育の担当教員としては、できるだけ学生の希望は聞いてあげたいのですが、学生の態度を見ていると悩みます。

 

私の昭和時代のノスタルジーかもしれませんが、こうした場合、学生から「スイマセンが・・・」という配慮の一言が欲しいと思います。期末試験期間というのは学期の最初から決まっていて、シラバスにも試験実施と書いてあるのですから。にもかかわらず、当然の権利のように自分の都合への対処を求めるのは如何なものでしょう?企業から一方的に呼び出されるインターンシップならまだしも、中には「サークルの合宿があるので」「友人と旅行に行くので」という私的な理由を臆することなく主張する学生もおります。

 

そこで頭に浮かぶのは、この学生は企業のセミナーでもこんな態度をとるんだろうなあ、ということと、ああ、またバブルの売り手市場と言われた頃の再来か、ということです。

 

好景気の際の企業セミナー開催では、多くの採用担当者が学生集客に躍起になります。如何に多くの母集団を形成するかが使命ですから。その結果、学生には無数の企業からセミナーから案内が届きます。ネット時代の学生側からは当然のことですが、多くの会社にエントリーをして、結果ダブルブッキングでドタキャン&ブッチ、無理してセミナースケジュールを詰め込んではセミナー会場に滑り込む・・・。

 

授業での学生の態度を見ていて更に心配になるのは、学生の態度は相手に対して相対的だということです。マナーとかモラルというしっかりした自分軸をもって振る舞う学生がだんだん減り、教職員の対応によって自分の態度を決める学生が増えています。学生に対してちょっと配慮をしてあげると、どんどん要求がエスカレートしてきます。つまり優しい教職員ほど、苦労が増えるわけですね。

 

私の授業でも、いつも遅刻する学生が居るので注意したところ、既に企業で見習いのように働いているとのこと。それは大変だとその時は不問にしてあげたら、どんどん遅刻時間が遅れるので再度また注意したところ「先生、何も注意しなくなったので、認めてくれたと思いました。今日は30分遅れましたけど、タクシー代、5000円使ったんですよ!」と主張されました(何処から来たんだ?)。

 

そういえば、第二次大戦における日英の外交に於いて、チャーチルが議会の無理な要求を日本に突きつけ続け、日本はいつかわかってくれるだろうと要求をのんできたところ、英国議会の要求はどんどんエスカレートし、日本はもう堪忍袋の緒が切れた!と開戦に至ったはずです。学生と企業が開戦する前に、しっかり大学で教えなくては、と意を決した春学期の終わりでした。

 

第283号:動活(動画を使った就職活動)2.0とは

皆さんは「ドー活(動活)」という言葉はもう耳にされていますか?この春の就職活動を終えた学生に様子を聞いたところ「最近、動活というものが出てきたらしいですよ。」とのコメント。さてはまたブラック企業に面接で脅された(恫喝)のか?と思ったところ、動画を使った就職活動(自己PR)のことだそうですね。

 

このサービスは、昨年の秋からチラホラ聞き始めました。上位大学の学生がスマホで自分のPRを撮影し、企業採用担当者むけの求人サイトにアップする仕組みです。いわゆる逆求人企画のネット版といえばわかりやすいでしょう。このシステムの最大の魅力は、動画の効果と言うよりも、上位校の学生に絞られているという初期選考の労力削減になるところです。いくら机の上で学生の生の姿が見られるといっても、膨大な応募者全部を見る時間は採用担当者にはありませんから。

 

一方、企業側も採用広報セミナーをビデオで収録し、オンデマンドで学生が時間や場所に囚われずに見たい時に見られるシステムも現れ、なかにはリアルタイムに学生とコミュニケーションできるサービスも出てきましたから、地方学生には朗報でしょう。こうした企業側の動画の活用は、今後ますます進んでいくのではないかと思います。動画のコンテンツは作成は手間がかかりますが、一度作ってしまえば何度も再生ができますし、ネット配信ならばセミナー会場の確保というコストもかかりません。どの程度見られたかという聴取率も測定することも可能です。

 

さて、では大学では動画をうまく就職支援に活用できているかというと如何でしょうか?キャリアセンターでは、模擬面接やグループ・ディスカッションの対策ビデオを用意して誰でも閲覧できるようにしているところもありますが、上述の学生・企業との使い方での大きな違いは、動画を一方向の情報提供だけで使うか、双方向のコミュニケーションとしても活用するかの違いです。手垢の付いた言い方ですが、動活2.0ですね。

 

そんななか、大学でも動活2.0的な使い方が出てきたと感じています。それは授業での動画を使った課題作成&報告です。経営学関係のゼミ等で、研究対象企業に協力して貰い、学生にビデオで調査報告させるものです。これはビデオ制作という作業を通じて企業と学生(大学)がコミュニケーションをとり、相互理解を深めることができます。そうしてできたコンテンツが、ゼミ報告だけではなく、大学の資産として活用されるようになれば、素晴らしいのではないでしょうか。採用活動が大きく変わろうとしている今、動活は大学と企業が直接に関係をもつために絶好の機会になると思います。

 

さて、今年も法政大学で新しいビデオ教材の研究報告会を開きます。今回はキラリと光る中小企業(製造業)と流通小売業(百貨店)を舞台にした新作2本と、新たに「ビデオ教材の活用法」という教職員向けのビデオ(参加者に差し上げます)も作成しました。動活2.0も話題にしながら情報交換をしたいと思いますので、ご関心のある方は、どうぞお越し下さい。

 

▼「新作教材ビデオ」ワークショップ(8月1日)⇒教職員向けです。

http://3dep.hosei.ac.jp/event/details/2014/06/16/id3290

第282号:「夏採用」での課題とは

採用の人材ニーズというのはバーチャルなマーケットで、マスコミが作り出すムードに大きく左右されます。「夏採用」という文字がだいぶ増えてきたので、これまでやっていなかった企業も「周りが始めたからちょっとやってみるか」と動きだし、あれよあれよという間に市民権を得てくることでしょう。この動きは、来年の採用活動の時期変更に向けてのリハーサルのようなものかもしれません。

 

春採用(という言葉もこれから定着するかもしれません)の場合は、応募者の集団に大きなバラツキはありませんが、夏採用の場合は多くの学生が採用選考の洗礼を受けてきます。そのため学生の面接は、比較的に容易です。春先の就職活動でどんな企業を回ってきて、どんな結果が出たかを丹念に聴けば良いわけですから。それは募集の際に選考がある人気企業のインターンシップを受けてきた学生のようなものです。

 

しかし、夏採用での大きな課題は、春採用で良い結果を出した学生が、就職活動を継続してくれるかどうかです。春採用で内定を出した企業は逆に、必死に内定フォロー策を行って就職活動を止めようとするでしょう。採用活動の時期の移行(夏採用)は、今や国家政策にも上げられている程ですから、もし本気でこれを成功させたいなら、国の行うべきことは悪質なフォロー策に目を光らせることです。

例えば、法律知識のない学生に書面で誓約書を取って拘束する企業をブラック企業として告発することです。勿論、内定者懇親会というような良質(?)なフォロー策については問題ありません。

 

さて、夏採用といって思い出されるのは、キヤノンマーケティングジャパン社のことです。同社が春採用一抜けた宣言を行い、夏採用に移行して4年が経ちました。当時は「売名行為」「茶番劇」だと言った方もおりますが、同社はそのまま継続しており、そろそろ時代が同社に追いついたと言っても良いかもしれません。

 

同社のメッセージを見ると、学生の事情に合わせて理系学生には春採用も行うような対応をしており、更に改善しています。その中で、私が着目したのは、春採用も夏採用も選考基準は変わらない、という点です。これは、更に夏採用の向こうにある、「通年採用」へのステップのように感じられます。それは世界では当たり前のことですが、日本にとっての課題です。また長い目でみていきたいと思います。

 

 

▼参考URL:キヤノンマーケティングジャパン社採用メッセージ

http://cweb.canon.jp/recruit/students/message/2015-spring.html

 

 

第281号:広がってきた新卒人材紹介

大手企業から追加採用の求人がチラホラ出ています。比較的少人数の募集なので、景気浮揚で採用数が増えたというよりは、内定先を絞り込んだ学生に辞退され、欠員募集のようにみえます。しかし、こうした小口の採用を行うことは、簡単なようでなかなか大変ですが、新卒人材紹介は新たな流れになるかもしれません。

小規模な追加採用ニーズが出た時、採用関係費用を使い果たした企業では大規模ナビは使えず、また予算があったとしても、採用工数に手間ひま時間がかかりすぎます。そこですぐに浮かぶのは、今も昔も同じく、採用実績のある大学就職課に「良い人は残っていませんか?」という個別求人で、改めて求人広告を出したり、前回お伝えしたような大学内セミナーを開催してみるということですね。実際、私の方にもいくつかの企業から「良い学生居ませんか?」との問い合わせが来ておりますので、きっと皆様の方にも相当数の依頼が届いていることでしょう。

こうした状況の中で、私が最近、着目しているのが新卒人材紹介事業です。まだ新卒採用の本流ではありませんが、少しずつ世の中に広まってきているようです。試しに「新卒人材紹介」でググってみると、無数のサービスが検索できます。見ていて面白いのは、大手就職情報サービス企業が出ているの当然として、学生ベンチャー企業のような中小企業や、まった人材ビジネスとは関係のない大手メーカーも見つかることです。

リクルート社が学生の起業でスタートしたように、そもそも人材サービスは技術上の参入障壁が低く、ビジネスモデルもシンプルですから、取り組みやすい事業です。人材紹介の仕入れは、個人的な人脈でも可能ですから、ちょっと大規模なサークル活動をやっていた学生でも起業できます(周知の通り、職業紹介事業はオフィスの用意等が必要ですが、仕事の上のノウハウよりもはるかに準備は容易です)。就職活動がうまくいかない学生達が、もし大勢集まって協力したら、昔のドラマの「俺たちの旅」のような面白いことになるかもしれません。

もう一つの興味深い動きは、異業種からの参入です。私が外資系で採用担当者だった十数年前、数十社の人材紹介業者とお付き合いしておりましたが、オムロン社のようにまったく人材サービスとは縁が無いと思っていた企業が居ることに驚きました。翻ってみると、今は多くの大手企業が本業とは縁の無さそうな新規事業を始めてきています。JRが市場調査サービスを行ったり、ソニーの金融業が伸びていたり、ソフトバンクがロボットを作っていたり、DNAが医療事業に取り組み始めたり。仮に銀行が人材バンクを始めたら、いきなり業界トップになってしまうかもしれません。(やれるものなら大学就職課だった起業してみたいものですね。笑)

いまのちょっとした景気浮揚は、かつてのバブル期のようなムードを感じされるものがありますが、様々な人材調達手段が出てきているいま、かつてのように大手企業が一気に採用数を増やすようなことはないでしょう。新卒人材紹介のように、成功報酬型で堅実な方法を選び、もしかするとこうした形で新卒採用と中途採用の就職の形が融合していくのかもしれません。