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第310号:学内選考会でわかる学生の資質

日頃キャリア教育でお世話になっている企業への支援で、今年も学内選考会を開催しました。採用人数がそれほど多くないということで、マスメディアを使わない「ダイレクト・リクルーティング」のお手伝いです。集まった学生の中には私の教え子も居りましたが、日頃授業で身に付いている言動は、良くも悪くも出てくるものですね。

 

夏休みで使い放題の大学の教室に連携大学数校の就職課を通じて募集したところ、意外にも3日間で定員が一杯になってしまいました。1時間程度の企業セミナーを行った後に筆記試験を行い、通過すれば面接に進むという標準的な採用選考プロセスです。通常のWebからのエントリーに比べるとエントリープロセスが少なく選考期間も格段に短いです。応募した学生にアンケートをとってみたところ、大学内なので私服で良くて緊張しなかった等、好評でした(以下参照)。

 

▼学生アンケートから

・セミナーと選考を学内で行うものに初めて参加しました。普段の選考会と異なり、分かりやすく企業について説明して戴けたので良かったです。

・企業セミナーでは一部分を切り取ったビデオは良く見かけますが、仕事の始めから終わりまでどう対処するのかは初めて見ることができ、仕事の流れがわかりました。

・企業セミナーは理念のみを前面に押し出すものが多く、具体的に(その企業の仕事を)理解するのが困難ですが、今回はとてもイメージが持ちやすかったです。

 

私も一緒にセミナーを聴いておりましたが、注意して見ていたのは学生の反応の方です。流石に居眠りをしたり、後ろの席に学生が集まったりすることはありませんでしたが、セミナーを聴いている学生の反応は殆ど授業と同じです。採用担当者の説明に、頷いたり相槌をうったり質問をする学生は自然と印象に残ります。アンケートの書き方も上記のような具体的な例なら良いですが、「今までの説明会の中で一番、充実したものとなりました。」とだけでは何がどう良かったのかわかりません。

 

人間は、日頃から定着しているスタイルをすぐに変えられるわけがありません。ですからセミナーの受講態度を見ていると、学生のコミュニケーションスキル(スタイル)が一目瞭然です。学内選考だとリラックスしている分、企業内よりもっと現れやすいのでしょう。勿論、企業はこうした態度を採用選考に直結させませんが、結果的につながってしまうことが多いのは、採用に無関係のインターンシップに参加した印象の良い学生が記憶に残るのと同じです。

 

というわけで、私の授業では何度も学生に言っています。「私の授業の評価基準は企業のセミナーと同じです。私の話に無反応にならないで下さい。コミュニケーション力とは言動力です。特に非言語コミュニケーションは運動と同じで体を使わないでいると、使わないでいる方が身に付いてしまい動かそうと思っても動けなくなりますよ。」結果、昨年はこの学内セミナーから見事に教え子が内定しました。今年も吉報が届くことを楽しみにしています。

 

第309号:知らぬが仏も良いことも

残暑お見舞い申し上げます。早いものでお盆休みとなりました。このメールをご覧になるのがお休み明けという方も多いでしょう。今年の夏は、安保関連、原発再稼働、戦後70年、記録的猛暑等々、例年にはない大きなニュースがたくさん流れています。そのせいか、この8月1日からの就活解禁は、あまり世間で大きな話題にならなかった気が致します。ちょっと嬉しいような寂しいような気分です。

 

少し前までは、イスラム国、ギリシャ経済破綻が大きな話題でした。これらの問題は決着がついたわけではありませんが、ニュースにならなくなると私たちの意識から遠ざかり、あたかも片付いたかのような錯覚に陥ります。これだけの記録的な猛暑が続いたなら、水不足や電力問題だって大きな問題になっているはずですが、どうなっているのでしょう。

 

こういう話題を引き出してみたのは、世の中には知らなければ幸せだということもある、と言いたかったのです。自然環境破壊などの本当の大問題が人知れずに進行するというものと違って、人間社会における経済・社会活動では知らなければ何の不安も問題もなく過ごせるものがあり、大学生の就職活動や企業の採用活動は、そんな性格もあるのではないかと思います。

 

例えば、パワハラ面接・オワハラ問題についても何処まで実態の把握は本当に困難ですし、対策もたてようがありません。私自身が出会った無数の企業採用担当者の方々も、それは何処でやっているの?と思っています。特定の地域・業界・時期では頻繁におこっているのかもしれませんが、そうした局所的な事実がニュース報道されると一気に世間全体がそうであるかのように拡散、多くの学生を不安に陥れます。

 

そうしたブラック話題ではなく、もう少し身近なホワイト話題だと、友人の内定情報も同様です。早期に内定を貰った優秀な学生は、周りの就活仲間にはなかなか言えませんね。話すことよって友達が焦ったり、距離ができたり、場合によっては僻まれたり。内定を持っていない学生も、そうした情報を仲の良い友人から聴くと自分の面接に気負いすぎて悲壮感が出て失敗することもあります。

 

マスコミが社会の問題を取り上げて報道する使命はわかりますが、今年のように粛々と進んでいく状態は、あながちわるいものではないと思います。逆に、何処の会社がこんな良い採用活動をしている、こんな良い会社が若者を求めている、という報道を期待したいものですね。

 

さて、手前味噌で恐縮ですが、今春から毎月行っている法政大学でのビデオ教材研究会ですが、この夏休みは集中勉強会として、企業人事担当者と学生とこうした時代のキャリア教育や大学と企業と学生のあり方も討論してみたいと思っています。ご関心あるかたは、是非熱い話をいたしましょう。

 

▼8月27・28日 企業人事・学生とのビデオ教材研究会(法政大学)

http://3dep.hosei.ac.jp/event/details/2015/07/27/id4107

 

 

第308号:この時期を冷静に見る

いよいよ来週からは倫理憲章での採用選考解禁です。解禁日の後ろ倒しには「誰も得をしていない」という感情的な意見もありますが、損得や善し悪しはちょっと横に置いて、冷静に現象を見極めてみましょう。意外と見えてくるものがありますし、懐かしいと感じるものさえあります。

 

マスコミ報道では現時点での内定者は約30%とも言われています。大学や学生によって状況が異なるのでこの数値は参考程度ですが、春から相当数の学生が内々定を取得していることは間違いないのでしょう。私の教え子からも内々定の報告が届いて解禁前に既に就活を止めたという者がだいぶおります。

 

これらの内々定者は、既に就職市場から離脱して8月になっても(形式的に呼び出されても)本気の就活は行いません。競争力のある(優秀な?)学生ほど早くいなくなり、ふつうの学生の本番がやってくるのです。総合商社のように本気でトップレベルを待ち受ける企業もありますが、冷静に見ればその採用数は全学生のなかの少数です。これは30年前の就職・採用活動と同じで、解禁日前に既に優秀層は内々定が出ており、一般応募の学生が大企業のビルの周りに行列を作るのと同じ構造です。

 

リクルーターや学歴フィルターというものの存在もかつての指定校制度と同じで、採用市場全体の学生数の動きから見れば、差別しているというより順番を付けているという見方もできます。実際、今のネット経由での応募では、一時期に学生が一気に応募に来ると、企業のサーバーには相当な負荷がかかります。技術的な視点からは、学歴フィルターは応募者の集中を分散させているのにすぎません。

 

以上のように、学生の就活動態のトラフィック(移動量)を客観的に見ていると、今年の就職活動は見事に分散化・平準化しているともいえます。

 

先日、発表になった文科省からの調査では、今年度の就活は長期化して問題であるという意見も出ていましたが、これも冷静に動態を見れば、今年度のあり方がわからずとりあえず昨年度と同時期に始めた学生が多いのですから当然の結果です。学生や企業が困惑しているという指摘は間違っていませんが、これは時期が遅いとか早いとかよりも、昨年とは大きく変わったので「前年度の経験が殆ど役に立たない」ということが理由です。なので、来年になればこれらの不安はだいぶ解消されると思います。

 

巷では「誰も得をしない」との声もありますが、今年度の解禁日の変更は、学生の学習・生活環境を取り戻そうということが本旨なので「損得」という視点そのものが間違っていると思います。損でも得でも、守らなければならないものはあるのです。

 

この10年、大学教育に関わって学生の力の変化を目の当たりにしてきましたが、その低下には相当な危機感を感じています。読む力、考える力、書く力、話す力、期末試験の採点を採用担当者の視点で見ているとすべてにおいて不安を感じます。これからの本当の課題は、来たる4年の就活に向けて基礎力のある学生を育成する、というのが冷静な視点であると思うこの頃です。

 

第307号:学生が提案する採用活動

先日、私が昨年から担当している2~3年生向けの新しいキャリア教育で、提案力向上のために「学生が提案する採用活動」というプレゼンテーションを行いました。評価者には馴染みの企業採用担当者にご協力戴き、率直な意見を戴きましたが、学生にとって良い勉強になりました。

 

受講学生は約200名で、そのうち7チームがこのテーマに取り組みました(テーマは他にもいくつかある)。必ず定量・定性調査等を行い、調べた事実に基づいた提案をするというルールで、大学で身に付けるべき基本的な報告手法の実践がこの授業の狙いです。今回の各チームの提案内容は以下の通りでした。

 

1.服装自由で自分らしさをオープンに聴く面接

2.長期インターンシップを組み合わせた採用

3.学校推薦制度と面接官に質問する面接(逆面接)手法

4.RJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)広報による離職率低減

5. 学生による合同プレゼンテーション会(逆求人フェスティバル)

6.部署別(職種別)採用

7.課題解決型プレゼンテーション面接

 

調査期間が2週間と短かったのと、まだ就職活動について殆ど知らない2~3年生たちなので、提案内容は拙いものが多かったです。自分たちの「要求」や「願い」を伝えることと「提案」することとの違いがわかっておらず、WIN-WINになっていないものが過半数でした。

しかし授業後のリアクションペーパーを見てみると、このプレゼンテーションを聴講していた他の学生達には、そこがよく見えていたようです。学生の主張を客観的に聴講し、企業の方から率直なフィードバックを貰うことによって、多くの学生が「提案」というもののあり方と、就職・採用活動という難解な社会問題に気付いておりました。

 

採用担当者の方にとっても、学生の気持ちをよく知る機会にもなったようです。ネット社会・セキュリティ社会になり、また採用担当者自身が年齢を重ねるに従い、学生の気持ちや現状が見えにくくなってきていますので、こうした授業が良い情報源になると思います。中にはキラッと光る提案もあり、ちょっと検討してみようか、というヒントも得られたようです。

 

さて、この授業での本当の狙いは、もう一つあります。それは、学生が企業の採用活動を研究すればするほど、就職活動に役立つということです。自分自身の課題を、客観的に見る、社会の中での位置づけを知る学生とそうでない学生では自然と発言が変わります。

私が10年前から行っている人事労務管理のゼミ生との共同研究ではこうした採用活動の研究を半年かけてじっくり行っておりますので、このゼミ生達はおそらく企業の採用担当者や下手な大学研究者に負けない知見を持っています。結果、ほぼ希望通りの進路に進んでいます。

大学は就職予備校ではありません。しかし、このように取り組む学生と企業が増えてくるならば、大学の学びを育みながら社会との自然な接点が作れると思います。

第306号:4年生が消えた春学期

早いもので、大学の春学期も終盤になりました。今年度の大きな変化は4年生が教室から姿を消したことです(私の担当する必修単位ではない科目の場合です)。4月の頃はわりと見かけたのですが、GWを過ぎるとチラホラとなり、6月に入ってからは皆無となりました。こうしたシーンを見ると、私が就職活動をしていた30年前と同じになったなあ、と感じます。時代は新しい方向に向かっているのでしょうか、繰り返しているのでしょうか。

 

私が社会人になったのは、1984年のことです。当時の就職活動解禁日は10月1日でしたから、今よりもう少し遅いです。私は4年の春学期まで運動部を続けていたので就活を始めたのは夏休みに入ってからでしたが、気の早い学生はGWの頃から活動を始めて6月には早々に内定を手にしていました。当時の多くの学生は「4年になったら就活で忙しくなる」という意識でいたと思いますので、卒業に必要な単位は3年までにとっておいて4年は必須の科目とゼミだけにするという戦略が多かったと思います。

なので、4年になったらできるだけ企業訪問ができるような体制(単位取得状態)にしておくというのは、今求められる状況と似ていると感じます。また、当時はネットや大規模な就職セミナーは今より少なかったと思いますので、学生が企業とコンタクトするのも個別に電話したりOB訪問したりで、今のターゲットリクルーティングのような個別対応と似ています。

 

逆に、以下の様に今の学生と違うところも多いです。

1.情報が少ないのであまり不安にならない。(能天気になれた。)

2.人と比べられて評価される事になれている。(受験地獄時代だった。)

3.大学単位取得が楽だった。(お上があまりうるさくなかった?)

 

これらの現象がなくなった背景には、当時にはなかった社会の構造的変化があります。それぞれ、ネット社会の発展、少子恒例社会の到来、大学教育の改革ですね。当時としては想像し難いことでした。このように、現象面では似通っていても、その原因が同じか違うかは注意してみる必要があります。それに気付かないと「昔は良かったなあ」「最近の若者は」という懐古主義になってしまいます。

 

4年生が教室から消えたとしても、社会に飛び出てそれまで学んできたことが、役に立つ・役に立たない、ということに気付いた、というのであれば、それは自主的なキャリア学習とも言えます。

 

秋学期になって4年生が教室に戻ってきたとき、笑顔で就活体験を語ってくれたなら、この春学期の欠席状態は、決して嘆くべきことではないと思います。(もっとも、秋学期に出てくる4年生は、単位不足で焦っている学生の方が多い気もしますが。)

第305号:「学歴フィルター」の捉え方で判断ができる

某国民的有名企業が「学歴フィルター」の存在を暴露されたと話題になりました。ネット時代になってから定番ネタになっているので真剣にとりあうのもなんですが、このフィルターの捉え方でその人(学生、採用担当者、教職員、コンサルタント等々)の見識のレベルがよくわかります。

 

採用活動が企業の営利活動の一環である以上、コンプライアンスに触れない限り、どのような方針をとろうが企業の自由で、この資本主義社会の基本が、何故か企業(採用担当者)が叩かれることになるのはちょっと可哀想だと思います(「指定校制度」を堂々と言えた昭和が懐かしいです)。いつもお約束のように、公的な資格試験や大学入試の如く「公平ではない」「アンフェアである」とのコメントが頻出します。

 

もっとも今回の場合は、学歴フィルターそのものではなく、これを使っていないように見せながら(積極的にそうした表現をしていたとは思えませんが)使っていた現象が不誠実であると批判されています。だから「学歴フィルターを使っていると公開すべきだ!」という意見も目にしますが、私にはこれらもナンセンスに思えます。というのは、こうした方々は世の中の現象が全て公明正大に動いている、世界は白か黒かのどちらかであるべきであるというデジタル思考の論者だと思います。もし、こうしたデジタル論者の人材を企業が採用したら、現場から「扱いにくくてしょうがない!」「なんでこん奴を採ったんだ!」と言われます(私も本当に言われました)。

 

世界の殆どはグレーでアナログなのです。グレーとは怪しいとか疑わしいとか悪いことができるというのではなく、現実的で人間が知恵で個別に対処しなければならないということであり、そんな人材が企業には有用なのです。

 

ということで、学歴フィルターというものの捉え方で、その人間の成熟度というか、社会適合性が判定できると私は思います。以前、このコラムでもご紹介したとおり、できる人の共通点は、環境のせいにしないことですから。できる学生は、学歴フィルターの存在を問題にするより、それをどう乗り越えるか、避けるかを考えます。採用担当者としては、そうした若者の方が魅力的ですからね。採用選考で「学歴フィルターをどう思うか?」というグループ・ディスカッションをやってみたら面白そうです。

 

ところで、こうした学歴フィルターに似たネット社会独特の現象(問題?)はどんどん増えています。そのもっとも身近なのは、Googleの検索結果の表示です。あまりに良く使うので忘れられがちですが、Googleのような検索エンジンの仕組みでは利用者の傾向にあわせて表示結果が変わります。ユーザー重視の「最適化」とか「カスタマイズ」などと言われますが、良く考えると恐ろしいことです。知らぬ間に毎日の我々の関心や行動が分析され、それによって見せられる世界がコントロールされている・・・、学歴フィルターより罪深いかもしれません。

 

 

 

第304号:デキル採用担当者は我が道を行く

ワークスアプリケーションズ、キヤノンマーケティングジャパン、ネスレ日本、ロート製薬、岩波書店、ドワンゴ、三幸製菓・・・これらの企業の共通点がおわかりでしょうか?そうですね、ユニークな採用活動で一世風靡(?)した企業群です。採用活動の後ろ倒しで不安を語る採用担当者も多いですが、こうした企業の採用担当者(または経営者)は、面白い時代になったと微笑んでいます。

 

各企業の独特な採用手法を振り返ってみましょう。

・ワークスアプリケーションズ              ⇒採用直結型インターンシップ

・キヤノンマーケティングジャパン   ⇒元祖採用活動後ろ倒し

・ネスレ日本                       ⇒シーズンレス採用

・ロート製薬                       ⇒ネット不可、電話・葉書エントリー

・岩波書店                         ⇒社員紹介優遇採用

・ドワンゴ                         ⇒採用選考有料化

・三幸製菓                         ⇒日本一短いエントリーシート

 

上記の中には10年以上前から独特な方針を続けている企業もあれば、経営者のトップダウンでいきなり始めたケース、あまり公開するつもりではなかったけれどネットに広がってしまったケース等、状況はマチマチです。必ずしもデキル採用担当者が行ったというものでもありませんが、結果的にうまく回っているようです。

 

これらの中でもいま脚光を浴びているのが三幸製菓です。同社は上記に上げた事例だけではなく、超多様な採用選考手法(おせんべい採用等)を駆使し、昨年頃から急速に採用業界で注目されてきました。たまたま同社の採用企画をしている方とお話しをする機会があったのですが「我が道を行くデキル採用担当者」の考え方に共感致しました。具体的にいうと以下のような点です。

 

・他社のやらないことをやる(採用手法を広報活動にする)

・割り切りがしっかりしている     (ターゲッティングが明確)

・効率測定の技術をもっている(データ分析ができている)

・採用担当者の思い入れリスクを知っている(情より理を優先)

・採用担当者にとって経営者が最大の抵抗勢力だと思っている

 

話しをするほどますます面白くなったのですが、何故こんな「我が道を行くデキル採用担当者」になったのかというと、他業界から転職してかつ人事以外の部門から異動してきたからでした。つまり既存のやり方に率直に疑問をもち、改革ができたのですね。更にこの方の素晴らしいと思ったのは、社会にも学生にもフェアであることです。それを表すご本人の言葉を最後にご紹介致します。

 

「正しい選考をして、学生が正しい選考をされていると感じる企業にはちゃんと学生が集まり、うまく回っていますので、採用選考後ろ倒しはそんなに気にしなくても大丈夫です。今は採用担当者にとって面白い時代になったと思っています。」

 

第303号:相談後の礼の重要性

GWが明け、新入生もいよいよ大学の勉強に本格的に取り組む時期ですが、この春に社会へ巣立った新社会人達も世間の風に吹かれ始めます。この季節になるとよくあるのが、卒業した新社会人達の営業研修や見習いとしての飛び込みセールスです。私のところにも毎年やって来るのですが、彼らの訪問スタイルを見ていると、それは就職活動がうまくいく学生とそうでない学生との違いのように感じることがあります。

 

強制的にノルマを与える飛び込みセールスはブラック企業の例とされるようになってきたので最近は表立っておりませんが、訪問販売を必須とする産業では避けて通れない試練でしょう。私も商社で半導体の飛び込み営業をしておりましたので、その苦労と必要性もわかりますが、今回ご紹介するような新社会人とのお付き合いは避けたくなります。

 

その新社会人とは、私が授業におけるグループワークで相当に苦労しながら指導したメンバーの一人です。頭はとても良く仲間からも一目置かれるリーダー格の存在でしたが、時間や連絡にルーズでプライドが高く、考え方や行動に自己中心的なところがあって手を焼きました。そんな卒業生から先日こんなメールが届いたのです。

 

「鈴木先生、お久しぶりです!これからそちらの大学に伺うことになったのですが、今日は授業ですか?もし、瞬間お時間があればご挨拶させていただけたらと思ってます!急なご連絡で申し訳ありません。よろしくお願いします。」

 

こんなに愛想の良かった人だったかなあ?と思いつつ、当日は都合がつけずに会えない旨を返信したところ、その訪問理由は入社した会社の取り扱う大学生向けの商品を、私の授業で学生にプレゼンテーションしたいという依頼(飛び込み営業)でした。残念ながら都合がついたとしても、授業において営利活動をお手伝いするわけにはいきません。営業活動に張り切る新社会人の気持ちはわかりますが、そこは協力出来ない旨を丁寧に伝えました。

 

さて、問題はここからです。昔の学生であれば、必ず「それは残念です。事情はわかりましたので、また機会があれば宜しくお願い致します。」という形ばかりでも返事が来たものですが、この新社会人からは何の返信もありませんでした。ここで本人に悟って欲しいのは、こちらも申し訳ないと思いながらお断りした気持ち、そして何か別の方法や機会を設定してあげようという気持ちもあることです。しかし、自分からの都合を一方的に伝えて自分に役に立たないと見切るような人間は、可愛さ余って憎さ百倍です。(正直、そうなるだろうとは予想しておりましたが。)

 

こうした現象は最近の学生にますます増えている気がします。皆様方も就職相談に何度も来ながら結果報告をしない、お礼の挨拶もなく音信不通になる学生と接したことはありませんか?結局、こうした若者は大切なことを気付かずに過ごしてしまい、せっかくの機会や人の信頼を失うことになります。若者には堅苦しいと思われるかもしれませんが、知能だけではなくこうした人の心を普通に察することが、就活の最後の最後での差になるのでしょうし、社会の中でも他者から求められるかどうかになると思います。

第302号:大学生による採用活動プロデュース

政治の世界ではありませんが、企業の採用活動も粛々と進んでいるようです。現時点での2016年卒学生の内定率速報では4%程度で例年と同じ位ですが、今シーズンは学生も企業も「先が見えなくて不安だ」という声を耳にします。その不安を消すにはどうするか?それは未来を自分で創ってしまうことです。

 

私の授業でも就活中の受講生から「不安だ」との大合唱を聞かされるので、先日の授業で学生達に伝えました。「そんなに不安なら、どうすれば良いかを皆で考えてみたらどうだ?」というわけで彼らにグループ・ディスカッションをさせてみたところ、面白いアイデアが飛び出してきました。それは、企業の採用活動を自分たちでプロデュースしてしまおう、ということです。

 

彼らのアイデアの元は大学受験でした。内部進学や自己推薦入試等で大学受験が早く決まってしまえば気が楽だという発想で、いつ企業が採用活動をするのかわからないなら、自分たちの都合ではじめてしまえと考えました。大企業の採用担当者からは相手にされないかもしれませんが、倫理憲章に縛られていない企業で採用後ろ倒しに困惑している企業なら話しにのってくれるかもしれない、ということです。ちょうど大学受験にも指定校推薦があるように。

 

実は彼らの企画には布石があって、それはこの3月に終わった文科省のプロジェクト(産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業)です。この補助金事業で法政は、オリジナルのビデオ教材やアセスメントツールを開発して学生に試行してきました。これまでご紹介したように、一部の企業ではこれらを採用広報や内定者研修に活用して戴きました。時には大学の授業におこし戴いて学生とディスカッションを行って評価して戴いたりもしており、こうした経験が、学生のヒントになっています。

 

荒唐無稽な企画で企業に持ち込んでも一笑に付されてしまうかもしれませんが、私はそれでも構わないと思っています。開き直って行動している彼らは、もう不安ではなく未知の世界を自分たちで創造することを楽しんでいますから。不安というのは、仲間との共同作業によって消えていき、逆に期待というワクワク感に変えられ、その過程で精神的にも成長していきます。

 

「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ。」これはパーソナルコンピュータの父といわれる米国の計算機科学者のアラン・ケイが1971年に残した名言です。授業で私がよく学生に伝えている言葉ですが、逆に私も学生に見習ってみたいと思います。今年度の私の課題は、これまで培ってきたプロジェクトの資産を、広く学内外に展開することです。来月から始めるビデオ教材の研究会(新作ビデオ発表会)では、授業や就職支援での活用方法だけではなく、企業の研修や採用活動にも活用できることも視野にいれてみようと思います。皆さんもこの混沌とした今シーズンの不安を期待に変えていきませんか?

 

▼ご参考:5月8日(月)15:30~17:20 法政大学市ヶ谷キャンパス

ビデオ教材研究会(2015年度 第1回)

http://3dep.hosei.ac.jp/event/details/2015/04/22/id3729

第301号:元気な留年のススメ

大学が新年度に入り、1年で最も活気に溢れている時期ですね。そんなキャンパスでは卒業が出来なくて留年している学生もチラホラ見かけます。心なしか肩身が狭そうに見えたり、開き直って妙に明るかったりと表情は様々ですが、私は元気な留年生が増えたら大学はもっと面白くなるのではないかと思っています。採用担当者の声でよく耳にする「最近は個性的な学生が少なくなった」というものも少し解消できるのはないでしょうか。

 

個性的な学生が少なくなった理由には、以下のようなものが考えられます。

・画一的な非正規労働(アルバイト)に多くの学生が従事するようになった。

・ITの進展により、情報の伝搬速度が速まり受け売り現象が増えた。

・何でも用意されていて、創意工夫や失敗の経験が減った。

・浪人生が減って現役学生が増えた。

 

大学大衆化の時代になって、本来ならば学生は多様化していても不思議ではないのですが、残念ながら多様化したのは学力(それも下位の方向へ拡大)くらいで、行動や思考バターンは画一化が進んでいると感じます。私が大学に進学した頃は、全国各地からやってきた学生や、浪人していた学生と出会うことができ、同じ大学の同期なのにこんなにも考え方や習慣が違うのか!と新鮮な驚きがありました。

しかし現状は全国何処に行っても同じチェーンのスーパーやコンビニやカフェがあり、浪人生も減りました(学校基本調査で浪人率は、2013年度で12.4%、1985年度では38.5%)。つまり、空間的にも時間的にも今の大学生は多様化できなくなっているのです。

 

法政大学では、かつてこの多様化を意図的に作り出すことに挑戦したことがあります。10年ほど前のキャリアデザイン学部設立時に、入学生の20%を社会人にしようと募集をかけたのです。社会人と学生が同じ場で過ごし、学び、語り合うことによって、相互成長、多様な学びを狙ったのです。しかし残念ながら、社会人入学者は少数にとどまってしまいました。

 

こんな現状の中で、私のススメは積極的に留年すること。かつて浪人が珍しくなかったように、大学を元気に5年間過ごして卒業する学生が増えてきたら大学は面白くなると思います。就職留年だって良いです。日本の一般的な新卒採用が2浪まで許されるように、1留などは多目に見てくれます。欧米のように、卒業してから就活をするのは、今の日本ではあまり現実的ではありません。もし留年という言葉がどうしても気になるならば、社会人大学院のように、入学募集時から予め4年卒業コース、5年卒業コース、6年卒業コースと分けてしまうという手もあります。5年・6年コースの学生が途中で気が変わったら早期に(4年で)卒業できるようにすればなお良いでしょう。

 

新学期の熱気にうなされた夢物語のような話しをしましたが、こんな風に学生が多様化すると学生は多様化できるでしょうし、経済要因とか倫理憲章の変更とか外部的な環境変化にも柔軟に対応できる(卒業時期を自分で選べる)ような若者が増えてくるのではないかと思います。