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第330号:本当のポテンシャル採用とは

第一希望に内定したという学生の報告がだいぶ増えてきましたので、大手企業の内定出しも進んできているようです。採用担当者の仕事もそろそろ終盤と言いたいところですが、ここ数年、辞退率が年々高くなってきているので、企業によってはこれからもう一働きというところもあるでしょう。

先日伺った一部上場企業の採用担当者の話では、今期の内定辞退率がついに50%を越えてしまったとのこと。こうなるとこれまでの厳選採用という方針の見直しを余儀なくされてきます。ITバブル崩壊以降、景気がよくなってもこの方針は変えないと言われて続けてきましたが、その後の社会変化の影響で、今後は以下のような変動が起きてきました。

1.IT(Web)採用が増加する ⇒母集団が肥大化する

2.厳選採用を多くの企業が行う   ⇒内定者は上位学生に集中する

3.大学大衆化が進む                    ⇒不採用者が増加する

4.少子化が進行する                    ⇒内定集中が加速する

5.景況感が停滞する                    ⇒採用数減少で益々内定集中

6.非正規雇用が進行する         ⇒採用担当者が減少する?

厳選採用が進んでも学生数が増え続ければ(少子化が進行しなければ)、各社がそれなりに内定者を確保できたことでしょう。しかし上昇し続けた大学進学率もこれからは停滞し、事態はますます深刻になりそうです。 こうなると採用選考基準を下げて必要数を確保してきたのが過去の循環的労働需給関係ですが、そのように進まなくなってきたのは非正規雇用の進行(雇用の海外流入)と二次産業の海外移転(雇用の海外流出)という構造的変動(景気が戻っても元に戻らない)が進んできたからです。

こうした環境になると、採用担当者が対応しなければならないのは上位層の次に来る中位層(というより「中の上位層」)採用です。言い方を変えれば、「本当のポテンシャル採用」です。企業採用担当者はよく「重視しているのは『伸び代(ポテンシャル)』です。」と言います。これは入社後に成果を出してくれる人材という期待ですが、厳選採用は既に学生時代になんらかの成果を出したり、採用選考で明確にデキル!と感じさせたりする能力が顕在化した上位層の採用です。

それに対し「本当のポテンシャル採用」とは採用選考の場では確固たる印象とはいえませんが(いわゆるボーダーライン)、その可能性を信じて内定を出すことです。そして、このボーダーラインの判断が最も難しい採用だと思います。合格層と不合格層は、誰が見でも「良いねえ」「ダメだねえ」と選考判断がぶれることは殆どありませんが、ボーダーライン層は選考担当者によって意見が分かれますので。

そうした判定は面接では判断しにくいので、インターンシップ等である程度の時間と工数をかけて選考を進めた方が良いです。それが今の3年生に対する早期のコンタクトにつながっており、当分は増えていくでしょう。学生にとっても短時間の面接より、例えワンデイでもリラックスしてポテンシャル(伸び代)を発揮しやすいと思います。大学生活が就職活動で塗りつぶされるのも困りますが、双方に良い関係の就職選考活動になっていけば良いですね。

第329号:就職活動による未履修単位証明書

想定したくはなかったですが、想定していたが事態が起きてしまいました。私の授業の履修登録はしていたものの、一度も見たことのない学生が出席してきたのです。お察しの通り、春休みからずっと就職活動を続けてきた学生で、やっと内定が取れたとのこと。本来であればこれまでの苦労をねぎらい、祝福してあげたいところですが、既に授業の半分を終えた時点からの出席では単位履修を認めるのは困難です。

 

今年は昨年以上に4年生が授業に出て来ませんでした。昨年のマスコミの弁によれば、解禁日を6月にしたのは「学生が勉強しなくなるから」だそうですが、授業出席率だけをみれば昨年の方が良かったです。少なくとも4月初旬の授業に4年生は居たので「これから就活でなかなか出られなくなるかも・・・」という相談を受けて補習課題を出す等の対応をしていましたが、履修登録をしていても姿を現さない学生はどうしようもありません。

 

私は授業シラバスにも記載していますが、授業は全出席を求めています。しかし、体調不良等の不測の事態のために2回だけは欠席を認めています。教職課程や運動部での海外遠征等による欠席にはレポートを課すというオーソドックスなものです。しかし、無断欠席には厳しい対処をしています。なぜなら、私の担当するキャリア教育の領域は、社会で通用する就業力を教えていますが、無断欠席に寛容な企業など殆どないと思いますから。

 

私も採用担当者時代には学生を平日授業のある日に呼び出すのは忍びなく思っていましたので、選考面接日が授業とぶつかった場合には別日程をたててできる限り対応していました。最終選考で役員面接などになると日程調整をするのはなかなか大変でしたが、就職活動が原因でその学生が卒業できなくなったら元も子もありませんから。

 

しかし今回の事態のように、そのまさかの事態がおきたならどうすべきか。私は内定を出した企業が責任をもってその学生を受け入れるべきだと思います。求人票や内定誓約書には応募要件に「卒業見込」という文言が必ずありますが、これは別に法律で決まったものでもなく、その企業が了承すれば採用するのに何の問題もありません。会社内の法律である就業規則に採用の条件として記載されていたとしても、知恵と度胸を働かせればいくらでも対処方法はあります。

 

もし私の授業単位が取れなくて卒業できなかったということなら、その企業の選考日時と授業日時が重なっていることを確認して、喜んで『就職活動による未履修単位証明書』なるもでも書きましょう。就職活動が原因で卒業できない学生が出たならば、責任を散るべきは大学ではなく授業期間を無視して採用選考を行う企業とそれを許してしまう社会ではないでしょうか。

 

そもそも殆どの企業が大学卒業見込みを応募要件にしているのですから、その意義と責任を改めて認識してほしいものです。

 

第328号:採用活動の「旬」

鮎漁解禁(7月1日が多い)と聞けば、太公望ならずとも夏の訪れを感じワクワクするものでしょう。しかし、今年の就活については解禁日直前というのにあまり盛り上がっていないようです。既にマスコミで報じられているとおり、学生も企業も粛々とフライングをしていますから。

 

物事には何でも潮時やタイミングがあります。私は商社マン時代に一所懸命に営業活動を行っていましたが、初心者の頃は顧客にはそうした時期があるとは気づけませんでした。努力しても売れないのは自分の力量不足のせいだと思っていたのですが、タイミングを知らずに無駄な活動をしていたということが後からわかりました。

私が販売していた半導体はコンピューターや通信機器に使われる部品で、お客様は高い技術力をもったメーカーの開発者です。そして、このお客様の仕事には、材料を選んでいる時期、試作している時期、量産している時期等があります。このタイミング(選定時期)を上手く掴んで売り込めば、商談はまとまりやすいですが、材料の選定が終わってしまうと、どんなに売り込んでもチャンスは殆どありません。

 

このような状況にあるのが今の採用担当者です。春先からES(エントリーシート)等で形成した母集団の面談を続け、最終判断がすぐに出せるように仕込みを続けてきました。企業のタイミングは多様ですが、多くの大手企業は解禁日の6月1日に向けて選定を終了し、ここまで集めた学生が逃げないようにフォロー(面談)をしています。つまり、いま学生が売り込んでも(応募しても)、しばらくは手元に集めた材料(母集団)で手一杯なのです。

ですから、この時期に呼び出される機会がなかった学生は、ジタバタせずにちょっと自分のやり方を見直す時間にあてた方が良いでしょう。というのは、これまでは各社各様のタイミングでしたが、解禁日から全体が一つのタイミングに集約されます。6月の1週目で一気に結果が出て学生のホンネもわかり、内々定を出した企業の第一希望者実数がわかります。結果、想定外の辞退者が出てしまった企業は次の母集団形成に入り、再び選定時期が始まります。一方、学生側も、これまで結果が出ずにキープされてきた企業から最終選考不合格を言い渡されたり、第一希望に内々定を貰ったので複数内定を辞退したりしますので、これまた応募時期が盛んになります。

 

ところで、学生を採用するのに良い「旬」とはいつでしょう?旬はただのタイミングではありません。漁業でも農業でも生物には自然の旬があり、それは収穫物にもっとも脂がのって魅力的な時期です。就活をする学生の旬、企業から見てもっとも魅力的な時期はあるはずですが、現状の争奪戦は成熟だろうが未熟だろうが奪い合いの様相です。勿体ないのは、未成熟な状態の学生が能力不足な学生と混同されてしまうことです。これは企業にも学生にも不幸なことですね。

 

若者の成長は漁業や農業の収穫物ほどに均一ではありませんが、貴重な自然資源の枯渇を防ぎ、密漁を防いで多くの若者に一番脂がのった収穫時期に解禁日が設定されると良いですね。

 

 

第327号:言文不一致ESのススメ

江戸時代までは、話し言葉は口語体で書き言葉は文語体を用いていたが、明治時代になると夏目漱石や二葉亭四迷らによる言文一致運動が起きた・・・、というのを日本史で習いませんでしたか?元々、日本語は書き言葉と話し言葉は別々の発達をしてきたそうですが、ペンを取って手紙をしたためるよりメールやLINEで連絡を取るようになった現代では、若者の言葉はしっかり言文一致になってきたようです。そしてこの影響がエントリーシート(ES)の書き方に現れています。

ESの採点基準はいろいろありますが、例えば限られた文字数でできるだけ多くの情報を伝えるスキルを把握するには、数字、漢字、固有名詞を多用しているかを見れば良いです。また、無駄な描写をせず、できるだけ簡潔な表現をしていることが望ましいのですが、それには冒頭で述べた「話し言葉」と「書き言葉」の使い分けができているかで判断します。実際に私が見たESの例で見てみましょう。

▼学生の書いたES

「私の学生時代の1番エネルギーを注いだ経験はアルバイトです。私は、高校時代から苦手だった初対面の人とのコミュニケーションを少しでも克服しようと思い、あえてアルバイトは百貨店のテニスショップでの接客を選びました。最初はドキドキの連続でした。しかし、目標を持ってはじめた以上、逃げてはいけないと思い、誰よりもはやくお客さまに挨拶することを心がけ、取り組みました。 アルバイトを始めて2年以上になりますが、今ではコミュニケーションに対する苦手意識はなくなってきましたし、また、最近では店長から「2年前とは大きく変わったね。」と言われたことがとても嬉しく、自信にもなっています。」(283文字)

すらすらと読みやすいですが、それは文章が会話調の口語体だからです。確かに面白いのですが、無駄な表現が多く、文字数に比して読者が得られる有益な情報量(応募者の強み)は意外と少ないです。また、本人は頑張った経験なので是非書きたいのでしょうが「対人コミュニケーションが苦手」という表現を使うのもどうかと思います。読み方によってはやっと人並みになったのかな、とも捉えられかねません(どうせ書くなら「社会人にも通用するコミュニケーション力を身に付けたくて」とかすれば)。
これをシンプルに改訂してみたのが以下です。

▼改訂例

「大学入学後に百貨店のテニスショップでアルバイトを始め、2年以上頑張っています。接客業は初めてでしたが、誰よりも早くお客様に挨拶をすることを心がけ、店長から高く評価されるようになりました。」(93文字)

ちょっと無味乾燥ですね。でも、この学生の「能力」で採用担当者が得られる有益な情報はこれくらいです。文字数が半分以下になりましたので、更にまた別の能力について書けば当初のものより倍以上の情報を採用担当者に与えることができます。言い方を変えれば、当初の文章は面接の会話用して改訂例をESや履歴書の文書用使い分ければ良いのです。

ところが、学生の中には履歴書やESや面接の文章・文体が、全部同じの「超言文一致」の人がいます。何が原因かはわかりませんが、ツイッターやLINEでどんなに長時間呟いても、書くための訓練をしなければ文章力は向上しません。是非、メディア特性を活かした表現をして欲しいものです。

第326号:大学を回って感じる校風

新学期の授業もそろそろ学生の履修登録が決まり、ようやく本格的な授業が始まる頃です。私は複数の大学で非常勤講師を行っていますので、この時期に多くの学生と新しい出会いは楽しみです。4月は授業以外にも就職セミナーやインターンシップやアルバイトの心構え等、ゲスト講師で招かれることもあります。そのように複数の大学での学生の受講態度を見ていると、明らかな大学毎の校風を感じます。各校の学生達はその環境に馴染んでいるので気づきませんが、これは自然と採用担当者の評価(心象)にもつながります。

新入生(1年生)の受講態度は、ほぼどの大学でも同じで、緊張感の中にも好奇心が垣間見え、真っ白で素直な人が多いです。校風が出てくるのは2~3年生になってからで、各大学の授業の規模や形態に適応して身についた独特の行動特性なのでしょう。私は講義の中で常に学生に話しかけながら授業進めるので、そのリアクションに特にそれがよく現れます。例えば以下の様なパターンです。

・高偏差値のミッション系大学

授業形態が伝統的な大人数の講義形式で教員が一方的に話すので、しっかり聴く体勢やノートを取るスキルは身についているが、質問を投げかけるとフリーズしてしまう。回答が浮かばないのではなく、大人数の教室でちゃんと答えなければというプレッシャーで戸惑ってしまう。

・中偏差値の理工系大学

学問分野が価値観を問われるものではなく真理を追究するものであり実験や課題が多いので、正解のない問いを投げかけられると真面目に悩みながら訥々と答える。「解答」はできるが個人の意見「回答」を求められるという授業に慣れていない。

・小規模な女子大学

授業の人数が少なくメガ大学のような大教室授業ではないので教員と学生の距離が近く、質問に対して人なつこく回答するが、内容は比較的自己中心で感情的なものが多い。小規模大学独特のアットホームな環境だが、他者の意見を受け入れる柔軟さに欠ける。

これらは私が経験した中での心象なので、大学毎の違いというよりは大学内で受講してきた経験の違いなのかもしれません。または高度に進化したIT社会の中でリアルタイムに反応する経験が少なくなってきたという要因の方が大きいかもしれません。いずれにしても、こうしたリアクションの違いは、それまで受講してきた授業環境や過ごしてきたキャンパスライフから身についたものでしょう。

人の行動パターンは、定着すると容易に変えることができなくなります。大学生活数年間で、受け身の体勢を続ければ即興のリアクションがとれなくなるのも無理はありません。そしてそれが顕著に現れて学生が悩むのは、就職活動の面接というリアルタイム・コミュニケーションの場です。新学期にあたり、授業というものは学生に知見を授けるだけではなく、指導形態から学生の行動パターン、ひいては学生の人生さえも左右するということを自覚しながら取り組みたいものです。

第325号:受講態度を見ていてわかるデキル学生

先日、とある大企業の小さな(10人弱の)企業説明会を見学する機会がありました。今年度は採用数がそれほど多くないのでネット等は使わずに、リクルーター等を使って狙った大学の学生だけを招待するターゲット・リクルーティングです。そのセミナーを後ろで聴いていて感じたのは、採用選考に通りそうなデキル学生は見ていてわかるということです。

採用選考とは関係のない企業セミナーと言っても、自然と目につく学生がいることは、私にも経験があります。それはレベル別に書くと以下の通りです。

1.メモを取っている。

2.リアクション(うなずき等)がある。

3.簡単な確認の質問をする。

(以下は質疑応答に入った時の場合です。)

4.深い理解を求める質問をする。

5.自分の意見を述べられる。

お察しの通り、カウンセリング・スキルを使ったアクティブリスニング(傾聴力)ですね。これらが身についている学生は好感がもてます。更に細かいところをそれぞれのレベルで見ると、以下の点があります。

1.持っているノートの形状・記述の仕方が良い。

ノートある程度の大きさ(タブレットくらい)で、覗き込んだわけではないので、内容はセミナー後に書かれた文書から判断しますが、一見して見やすくポイントを抑えています。

2.話者とアイコンタクトができる。

リアクションのタイミングが重要で、周りにつられて頷くのではありません。逆に、目立ちたがる人(自己顕示力)もわかります。

3.不明な点を自主的にすぐ質問できる。

セミナーの流れや話の切れ目を見て、適切なタイミングで不明点を確認する。わからないことをその場で聴ける勇気は、伸びる新人の共通点です。

4.聴講した内容に好奇心と疑問をもつ

時折、話者の想定外の深いとらえ方をする学生がいます。こうした点から個性や独創性を感じます。(但、脱線質問はNG)。

5.自分の仮説を即時に述べることができる。

聴講内容をその場で客観的・比較的に述べるには、自分に知見がなければできません。また、地頭と採用担当者は良く言いますが、論路的思考力の速さです。

如何でしょうか?セミナーの受講態度を注視しているだけで、相当な判断ができますね。勿論、これは外形的な判断なので実際の学生の実力が隠れていることはあります。しかし、企業の初期の採用選考ではこうした言動だけでも相当に仕事力は判断できると思います。社会では自分がどんな実力があっても、顕在的に発揮できなければ意味がありません。だから目で見てわかるというのは大事です。

翻ってみると、こうした受講スキルは大学授業でいくらでも評価・指導できると思うのです。講義をしている教員が授業中に観察評価をするのは困難ですが、同僚の教員やTAの学生にチェックして貰うとか方法は考えられます。こうした振る舞いは1日や2日でできるものではありません。日頃からの習慣になるように、1年生の新学期から身につけさせたいものですね。

ただ座って聴いているだけの講義は、相当教員が上手出ない限り、コミュ障を育成してしまいます。

第324号:大学入試改革は、企業の採用選考化

去る3月17・18日に、京都大学で第22回大学教育研究フォーラムが開催されました。このメールマガジンをご覧になっている方々でFD等に関わっている方はご存じでしょう。全国の大学教員が集い、教育についての実践的な活動研究報告やシンポジウムが展開されており、私もビデオ教材を用いた授業について発表を行って参りました。

毎年トレンディなテーマが扱われていますが、今年度は「高大接続・入試改革」が目立ちました。特に入試改革における各大学の取り組みや課題を聴いていると、大学入試が企業の採用選考と似てくると感じました。

 

昨年12月に出された中教審答申の「高大接続・入試改革」では、2021年の大学入試からこれまでのセンター試験が新テスト「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」に代わることとなり、試験の形式がマークシート方式以外に記述方式が導入されます。これは企業の採用選考で言えば、SPIに加えてエントリーシートが導入されるようなものですね。主に「知識・技能」をみるもので一次選考にあたります。

 

更に企業の二次選考にあたる、各大学の個別の方針(アドミッションポリシー)によって行われる入試には、「思考力・判断力・表現力、主体性・多様性・協働性」を評価するために以下のような多様な選考手法が導入される予定です。既に大学入試が外注される時代ですから、選考内容によってはアウトソーシングされるものも出てくるでしょう。

 

『小論文、プレゼンテーション、集団討論、面接、推薦書、調査書、資格試験等』

 

如何でしょう?全く企業の採用選考と同じ形式ですね。これらの導入には、企業と同じく、以下のような大きな課題があります。

1.選考基準の設定が非常に難しくなる(非数値的判断)。

2.選考過程に手間がかかり費用(時間・金銭)が増える。

 

しかし、こうした入試改革、そしてそれに続く大学教育の改革が順調になされたならば、(淡い期待ですが)企業の採用選考は大学の成績を重視するようになるかもしれません。こうした入試改革が始まれば、きっと高校や予備校でもこうした講座が増え、学生の資質が底上げになるでしょう。

結果、学力格差は経済格差と益々近づくかもしれません。とても悩ましいことですが、より良い大学入試も企業の採用選考には手間はかかるものだということです。そこをどれだけ上手に行うべきか。企業の採用担当者にとっても、これから「高大連携・入試改革」は目が離せなくなりそうです。

 

▼参考URL:第22回大学教育研究フォーラム(2016.3.17.18 京都大学高等教育研究開発推進センター)

http://www.highedu.kyoto-u.ac.jp/forum/2015/

▼参考URL:新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申)(中教審第177号)(2015.12.22 中教審)

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1354191.htm

第323号:ビジネス感覚は君子豹変の成長機会

企業と学生のコンタクトが一気に始まりました。大学受験が終わり、しばし閑静だったキャンパスがリクルートスーツで溢れています。日本の新卒一括採用には批判も多いですが、四季がはっきりしている(最近はどうも異常気象で続きすが)我が国らしさかもしれません。この時期に学生がグッと成長できるかどうか、豹変できる君子であるかどうか、期待を持ってみていますが、そのキッカケは意外と小さな意識の変化だと思います。

 

採用担当者としてどのような視点で学生を見るかは、本当に企業毎、個人毎に異なりますが、学生から社会人への意識の切り替えができているかは誰しも期待を持ってみているところでしょう。しかし、この「学生から社会人へ」という言葉の解釈が、私のように営業現場を経験した採用担当者と、人事部だけしか経験していない採用担当者では、だいぶ異なるように感じます。前者であれば採用選考の場を「取引」の場と見なすことができますが、後者の場合はこのビジネス感覚が欠けていると感じることがあります。

そして、学生(応募者)も複雑な交渉を伴う取引(ビジネス)の経験がまずありませんが、ここに気づけていたら、話し方は大きく変わってきます。それには以下の小さな意識の変化があるかどうかです。

 

『就職活動とは、企業に対して自分という商品を売込む人生で初めてのビジネス』

 

なんだ、こんな簡単なことかと思われましたか?確かに言われれば当たり前のことです。しかし、この小さな意識の変化をちゃんと理解できていたなら行動が変わります。採用面接の場が商談の場だと理解できているなら、そこですべきは「要求」ではなく「提案」です。

「要求」とは、相手の思惑はともかく自分の想いを一方的に伝えることです。国同士の取引(外交)では某大国のように、過大な要求をつきつける交渉術もありますが、通常のビジネスではそうした態度は疎まれます。翻ってみると、相手のことを考えたり調べたりしないで自分の想いだけを熱く語る学生はおりませんでしょうか?具体的に言うと、自己分析はやっているけど企業研究をやっていない学生のことです。相手は当然わかってくれると思い込んでいるのでしょう。

一方で「提案」とは、自分と相手の合理的な、いわゆるWin-Winの関係を考えながら話すことです。具体的に言うと、相手の求めているものを理解した上で(企業研究をしたうえで)、そのニーズに合うように話すことです。

ここでいう「相手の求めているもの」というのは、採用担当者が語る「求める人材像」のような抽象的なものではなく、その組織が求める具体的な業務内容や仕事能力の理解です。上述の通り、営業経験のない採用担当者は前者をみる傾向にあり、現場経験のある採用担当者は後者を見る感覚があります。

 

採用活動を冷静にビジネスの場と考えると、性能も可能性も未知数な製品をたかが10~20分の面接数回で購入する非常にリスクのある判断です。しかも購入金額(生涯賃金)は2~3億円です。こんな商談は世の中にそうそうありません。というわけで、「わけのわからないもの(自分という商品)を、わかりやすく説明して売り込むのだ」そうしたビジネス感覚で提案できる学生ならリスクをおかしても購入してみようかと思えます。願わくは、この春に多くの学生が豹変することを!

第322号:期末試験答案とエントリーシートの共通点-2

もうひとつ期末試験もエントリーシートも選考基準で同じだと思う点をあげます。それは採用選考基準が教員(企業)毎に異なるということです。大学は正解のない課題に取り組む場ですが、そうした考えが身に付いていない学生には悩ましいことでしょう。言い換えれば、大学の試験に対処する知見があれば、就職活動での選考にも対処できるということです。

前回あげたエントリーシートの書き方については、比較的どんな科目や企業でも共通だと思いますが、それは誰でも求められる基本的なスキルだからです。これらは単位認定(選考合格)のための必要条件でありますが、(私の場合は)これだけでは十分ではありません。設問に対する回答が、文量も形式も整っていたとしても、表現されている内容が題意とズレている場合には合格にはできません。例えば、試験のヤマが外れたら「カレーライスの作り方」を丁寧に書けば単位が貰えるという都市伝説は私には通用しません。

しかし、選考基準が教員(企業)によって異なることは当然にありえます。以下のような視点をもった教員や採用担当者なら、カレーライスの作り方での答案でも合格にするかもしれません。

・論理的な視点が身に付いている   ⇒能力重視

・諦めずに挑戦する意欲がある            ⇒意欲重視

・この学生は前回の成績が優秀だ   ⇒実績重視

・この学生は日頃から真面目だ            ⇒態度重視

・この学生は発想がユニークだ            ⇒個性重視

・単位が取れないと可哀想だ              ⇒情実重視

こうした成績評価をするのはアンフェアですが、皆さんも大学時代に理由もわからずに良い成績が取れたり、逆に何故不合格になったか理解に苦しんだりしたことはありませんでしたか?企業の採用担当者にもそうしたことがあります。例えば、有名大学の応募者のエントリーシートはスルーパスにしたり、縁故応募者の場合などには見て見ぬふりをしたりして合格させることがあります。但しそれは初期選考だけで、最終的に内定することは滅多にないと思いますが。

というわけで、就活でエントリーシートを出して(これは面接でも同じだと思いますが)、通ったり落ちたりする現象がおきますが、それは普通のことで、学生側の理由だけではありません。

もし、いくら回っても全然、選考を通らないならば、それはきっと必要条件をクリアしていない学生側に理由があります。そこを改善しないで数多く回っても結果は変わらないでしょう。逆に、いくつも内定を取る学生は、こうした必要かつ十分な条件を満たしているからでしょう。

こうした現象は不合理なように見えますし、学生には納得できないことかもしれません。しかし、それは社会人(採用担当者)も同じです。社会で働いていると「正解」がある方が少ないですね。より良い答えを考えながら、模索して生きていく。大学の試験はそうした点で採用選考と同じだと思うのです。

第321号:期末試験答案とエントリーシートの共通点

期末試験答案の採点も佳境を迎えているところですが、試験の終わった学生(3年生)からはエントリーシート(ES)を見て欲しいという相談も増えてきています。企業(採用担当)出身のキャリア教育担当教員としては、いつまでも採点が終わりませんが、無数に答案を見ていると期末試験もESも選考基準は同じだと思わされます。

私が授業で学生に口を酸っぱくして伝えているショート・レポートや答案の書き方の注意点は難易度順に以下の通りです。こうした書き方は、中高時代に習っていないのか、マークシート中心の大学受験では必要なかったのかわかりませんが、出来ていない学生が相当数にのぼります。

1.量があること(答案に空白エリアを作らない)

2.見やすいこと(誤字脱字は勿論、私の授業では鉛筆は不可)

3.漢字を使うこと(文字数を圧縮でき、知性も伝わる)

4.自分の意見(学んだこと)があること(聴いたまま書かない)

5.事実+意見であること(単純な感想を書かない)

6.前向きであること(否定的表現を語彙でカバーする)

7.品格があること(読者の心情を意識した書き方)

そして、実際に答案(ES)の採点をしていると、以下のような気持ちにさせられます。

1.結論から書け

⇒最初の2~3行で先まで読む気がおきるか。採用担当者ならすぐにNG判定で読むのを

やめられますが、大学試験では先が面白くないと判断できても読まねばなりません。

2.問われていることを書け

⇒山が外れてとにかく自分の覚えていることを書くのは、諦めない姿勢として評価出来ますが、

それが設問とどのように関わるかという意味づけ(論理構築)がないとNGです。

3.読める字で書け

⇒残念ながら私は考古学者ではありません(象形文字は読めない)。

最近、ますます読みにくいクセ字・悪筆が増えています。

「採点」より「解読」に時間がかかり苦労させられています。

こうしたライティング・スキルは大学でも教えるべきことなのでしょうが、如何に多くの学生が「読まれる」こと意識した文章を書いていないか、教えられていないかがわかります。今はちょうどシラバス作成の時期でもありますので、上記内容は「評価基準」に書いておこうかと真剣に検討中です。