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第340号:わかっているようでわからないコミュニケーション力

経団連が定期的に行っている会員企業人事採用担当者へのアンケートが公表されましたが「選考時に重視する要素」では、13年連続でコミュニケーション力がトップでした。何処が調べても不動の1位で居続けるのはジョコビッチもびっくりです。しかし、その意味・意義についての解釈には十分とはいえないところがあります。

 

このアンケート結果を論じるにはいくつかの視点があります。ここでは以下の3つの視点を挙げてみたいと思います。

1.コミュニケーション力という言葉がちゃんと理解されているか?

2.学生のコミュニケーション力の有無は問題なのかどうか

3.企業の期待するコミュニケーション力は大学で習得できるのか?

 

まず、「コミュニケーション力」という言葉は業界や企業や人によって捉え方に幅がありますので、意外と誤解を生みやすい言葉です。更に、社会(企業)と学生(大学)でも意味が微妙に異なります。例えば学生に「コミュニケーション力とはどういうものですか?」と質問すると殆どの学生が「相手の話をちゃんと聴いて理解して適切に対応すること」と答えます。これは全くその通りですが、企業からすればそれは当たり前のことで、その先まで求めています。というのは、学生の世界ではコミュニケーションそのもの(プロセス)が大事ですが、企業では過程よりも結果を求めます。つまり求めているもののレベルが違います。

 

次に、コミュニケーション力が低いのは問題かどうかです。最近、ユニークな採用活動で脚光を浴びている新潟のお菓子メーカーの三幸製菓では「コミュニケーション力は、会社に入ってから誰でもそれなりに伸びるので問題ない」と考えています。面接をしない「卒論採用」で有名なチームラボ社では、「当社は技術的な仕事が中心なので、対人スキルが弱い人でもネットで意思疎通が早く出来れば問題ない」と言っています。ちょっと特殊なケースかもしれませんが、これもコミュニケーション力の捉え方の違いを現し、更にその対処法まで考えています。

 

最後に、「コミュニケーション力」の正体が明らかになったとして、それは大学で指導・育成できるのか?という問題です。大学教員は「コミュニケーション」の分析を行い、理論を講義したり論文に著すことはできるでしょう。しかし、そうした教員自身が「企業の求めるコミュニケーション力」を教えられるでしょうか?研究者であり、かつ教育者になりえているでしょうか?それは相当に難しいことで、故に勉強せずアルバイトばかりしている学生が、あっさり内定を取ってしまったりします。

 

こうしたアンケートが出てくると識者やマスコミはすぐに「若者のコミュニケーション力の低下」を指摘しがちですが、「最近の若者は・・・」の前にちょっと注意して考えてみたいものです。

 

参考URL:2016年度新卒採用に関するアンケート調査結果

http://www.keidanren.or.jp/policy/2016/108.html

第339号:米国大統領選から学ぶこと

世界中が衝撃につつまれた米国大統領選挙の結末でした。英国のEU離脱と同様に、大勢の推測とは反対の結果が出たことに驚きです。かつて民主党が政権をとった時と似ているという人もおりますが、なかなか見られないことだと思いますので、採用の仕事の示唆として考えてみましょう。

 

マスコミでは既に今後はどうなるのかという予測や対策に論点が移ってきましたが、なぜ予測が外れたかに着目したいと思います。私見では以下の点があげられます。

 

1.マスコミはヒラリー支持派が多かった

⇒米国の新聞は日本よりずっと政治家の支持姿勢が明確で、殆どがヒラリー支持に回った。

現政権(民主党)との関係からマスコミ側の期待度も現状より高くなった。

 

2.トランプ氏は政治家としては未知数だった

⇒フィリッピンのドゥテルテ大統領と違い、政治家としては初心者でマスコミからは想定外。

強烈な発言も伴い、エリートからはまさか通るとは思われなかった。

 

3.ネット(デジタル)データではすべては読めない

⇒ネットで動く(反応する)人は把握しやすいので、全体的な動きと見誤りがち。

ネット分析や広報が進んでも、投票行動は直接歩いて投票所に行かねばならない。

ジャーナリストの木村太郎氏が的中させたのは、自ら現地取材を行っていたから。

 

4.隠れトランプ派が多かった

     ⇒マスコミ報道の逆効果で、トランプ支持とは言いにくい風潮になっていた。

     選挙結果判明後、私の周りにも「実は俺はトランプ支持だった」という人が出ました。

つまり動態が把握しづらいサイレント・マジョリティが意外と動いた。

そして、不満をもっている人ほど連れだって積極的に行動に出るのはEU離脱と同じ。

 

こうした背景を鑑みると、日本の就職市場がネット経由からダイレクトリクルーティングにシフトしてきている状況と似ていませんか?見える市場から見えない市場への変化です。メディア経由の間接情報から、企業人(採用担当者やリクルーター)経由の直接情報で訴求していくようになってきました。今は企業の採用活動や学生の就職活動がなかなか見えなくなってきています。

また候補を企業に例えるなら、ヒラリー氏はメガバンクでトランプ氏はITメガベンチャーあたりでしょうか。求めるタイプ(支持するタイプ)が違うので、訴求ポイントも違ってきますが、新卒一括採用という現体制を、通年採用、キャリア採用に切り替えていく動きにだんだんと変わっていくでしょう。

 

こうなると採用担当者に求められる資質も(集団形成については)人事労務分野からマーケティング分野に変わります。雇用の流動化が激しい米国では昔から内部労働市場を対象にする仕事と外部労働市場を仕事にするのは似て非なるものです。日本の採用担当者も変革を求められてくるのでしょう。

第338号:電通という企業の特異なところ

大変な事件が起きてしまいましたが、正直「またか」という印象でした。この事件は広告代理店の異常な体質のように思われますが、業界の問題というよりは、私は同社独特の体質から出た問題だと感じています。なかなか実態のわかりにくい世界ですが、私が採用担当者として見ていて不思議に思うことの多い企業でした。

 

電通は最近でこそ巷で知られていますが、かつては特定の上位大学や広告研究会の強い首都圏メガ大学等にしか知られていない企業でした。ロサンゼルス・オリンピックのプロモーションを請け負った1984年頃から段々と一般に知られるようになり、学生人気ランキングにも顔を出すようになりました。そんな電通で私が不思議に思ったのは以下の点です。

 

1.紹介採用が異様に多い

2.圧倒的業界シェアだが、学生人気は2番手。

3.女性転職希望者の多さ

 

紹介(コネ)採用自体は何処の企業でもあり、珍しいことではありません。中小企業となると紹介採用だけで行っているところも多いです。しかし同社のような大企業では一般公募が殆どで、例外的に少数の紹介採用を行うものです。ところが、同社は紹介採用が一般の企業より多いようです(通説で1~2割といわれていて定かではありませんが、内定者から「半分がコネ採用でビックリしました」と聞いたことがあります)。これは同社の事業形態が多くの企業との関係性の中で決まっていく特殊な事情によるものと思われます。官公庁と取引の多い企業が天下りを受け入れていたのと同じです。

 

広告・マスコミは人気業界なので私も多くの学生から相談を受けますが、殆ど学生が第一志望にあげるのは業界2位の博報堂です。売上も社員数も採用数も圧倒的に電通の方が多いので、どんな事情があるにせよ第一希望にならないのは不思議でした。その事情がわかったのは、私がコンサルティング業界に入ってからです。コンサルティング業界は広告代理店と業態が似ていて、個人の力を思い切り発揮したい人が志願することが多く採用選考も何度が高いです。そのため企業との関係性より個人の能力がより発揮しやすいと感じる博報堂の方に集中するのでしょう。

 

私が外資系でコンサルタントを採用する時に、広告代理店もターゲットにしてヘッドハンティングしていました。当然、人数も多く高学歴で優秀な人材がいそうな電通にアプローチしたのですが、不思議だったのは、男性社員がまず誘いにのらないのに女性社員は殆どの方が「話だけでも・・・」と関心を示してくれたことです。これは今回の事件のようなパワハラやセクハラということより、女性が将来のキャリアパスを描きづらい(出世できない)という点にあったようです。

 

つい先日、大学授業にお招きした広告代理店の方が「今回の件が業界全体の慣行と思われては困ります。」とおっしゃっていました。なかなか一般にはわかりづらい世界ですが、これを機会に少しは理解がすすむと良いと思います。それが事件の再発防止にもなるのではないでしょうか。

第337号:院落ちの就活学生の救命採用

急に秋の訪れを感じる気候になってきました。採用担当者も内定式が終わり、やっと一息ついたところですが、落ち穂拾いの仕事があるのもこの季節です。大学院の入試に失敗して急いで就職活動を始めなければならなくなった、いわゆる「院落ち」学生の追加採用です。今ではこうした採用活動に動く企業は減ってきましたが、先月、そうした相談に乗ったのでご紹介しましょう。

 

日本での大学院進学はまだまだ理工系が多数ですが、その中でも国公立や上位私立大学が中心です。学部卒で社会に出るのは、大学の研究に拘らない「文系就職」をしたり、生活環境の事情で大学院進学が困難な学生達です。

 

私が今回の相談を受けたのは、大学院進学が過半数を占める大学で、当然のように進学を予定していた学生さん10名程です。たまたま会議で伺った大学が大学院試験の発表日で、そこで不合格になって真っ青な顔をしておりました。

 

本来、こうした相談は個人の心情を配慮して個別に行うべきですが、今回は状況が切羽詰まっていたので駆け込んできた全員一緒に事情を聴きました。まるで企業の集団面接のようでしたが、それぞれの研究内容や志望先を整理しながら、その会話の中から個人の性格や指向性やコミュニケーションスタイルを読み取っていきました。

 

まったく就職活動をしていない学生達なので、業界研究も自己分析もやっておりません。なので、私の方でいくつかの選択肢(まだ採用可能性のある企業)を紹介し、後日、企業との面談機会を設定しました。大学側の方も、心ある教官の方々が企業に直接あたって紹介先の開拓に奔走してくれました。

 

結果、幸いにも過半数の学生が「院落ち」から1ヶ月以内で内定をとることができました。勿論、学生達の希望が完全に通ったわけではありませんが、社会に出るパスポートを手にすることができたなら、その後のチャンスはまた自分で切り開くこともできるでしょう。内定が取れた学生は、晴れやかな顔をしていました。

 

今回の件で私が改めて思ったのは以下のことです。

1.就活は長ければ良いものでもない。  ⇒メチャクチャ時間効率が良かった

2.選択肢は多ければ良いものでもない。 ⇒選択肢の少ないと覚悟を決めやすい

3.切羽詰まった状況ではカウンセリングより強い指導の方が良い ⇒救命救急隊員の気分

 

最後に今回ラッキーだったのは、なんとか採用窓口が開いていたことです。これ以上早期化すると、採用担当者も動けなかったことでしょう。いくつかの企業に打診した際に良くあったご返事は「担当者としては面談してあげたいのですが、既に選考日程が終わってしまったので・・・」というもの。比較的若くて大局的に判断する権限や意欲のない採用担当者の方々でした。良い人材だったら通年で採ってほしいものですが、新卒採用のあり方、採用活動の早期化について考えさせられた一幕でした。

第336号:厳選採用&リテンション

採用担当者にとっては少し緊張感を伴う内定通知日(10月1日)が近づいてきました。今年は採用選考期間が長くなったので、この時期に内定先を迷っている学生は少ないようですが、リテンション内定辞退者防止策)もしっかりしないと痛い目を見ることがあります。

外資系企業(特にコンサルティング業界)では昔から、集団形成採用選考リテンション3つのプロセスをそれぞれに担当チーム作ってシステマティックに行われてきましたが、日本も採用の厳選化に合わせてリテンションにも力が入ってきました。しかし、一度決定権を応募者に委ねるとなかなか苦労します。攻撃より防戦の方が大変ですから、それが嵩じてオワハラなるものが生まれています。

リテンションというと以前は内定者の懇親会(食事会・飲み会等)を開くのが定番で、IT環境が整ってきてからは企業側が内定者のコミュニケーション促進のためにSNSを提供しますが、あまり有効ではありません。今は個人でSNSやLineを活用することができますし、企業とは距離をおきたい個人も居ります。密かに内定辞退を考えている学生であればなおさらです。そこで最近のリテンションもいろいろ工夫されてきました。例えば以下の様なものです。

・内定者の中で盛り上げ役を作って支援する

内定者の中にはイベントやコーディーネーター役が好きな人が居ます。このような学生は辞退をしない前向き第一志望者なので、「内定者の懇親会を開くなら開催費用(飲み代)を支援するよ」と伝えると、喜んでSNSやLineグループを立ち上げて仕切ってくれます。最近のSNSでは業者が直接に宣伝を流すのではなく、ターゲット顧客の友人が「いいね!」と言っていると間接的に宣伝する手法です。

・選考結果と将来の期待をフィードバックする。

先日、某大手企業のリクルーターの方に今期の内定者の様子を伺ったら「やたら自分の評価を気にする」とのことでした。大学の授業でも同じで、自分のレポートやテストの成績をとても気にします。アクティブラーニングが増えて学生と教員の距離が近づくと、ますますこの傾向は強くなる気がします。

大学教員には「リアクションペーパー」という短い授業感想を書かせる方がおります。教員にとっての「リアクション」は授業内容を学生がどのように受け止めたかという意味ですが、学生の中には教員が自分にコメントに回答(リアクション)をするためのものと思っている者がいます。
(学生目線では一理ありますが。)

なので、採用選考結果(何処まで本当にことを言うかは別ですが)を伝え、更に将来の配属プラン(これも何処まで約束するかは別として)を本人に話します。

手間暇のかかることではありますが、本気で採用したい人物には努力を惜しむことはできません。厳選採用とリテンションはセットで扱うべきもので、収穫した後に丁寧に梱包して鮮度を保ってお客様(配属現場)に届ける高級生鮮食料品のようなものですから。

第335号:期末試験答案とエントリーシートの共通点-論外編

  • 期末試験答案とエントリーシートの共通点-論外編

夏休みも後半となりましたが今回は採点後のちょっとした笑い話で、答案で見た漢字の誤用をご紹介します。真面目に考えると笑っている場合ではありませんが。

▼読みが似ている間違い

「コーチの知事がわからない」⇒貴方のチームに「指示」しているのは県知事か?

「リーダーとして指切らなければならない」⇒約束は指切り、会議は「仕切り」が大事だ。

「即先して行動できる」⇒「率先」なら即戦力になれたかも。

「見内のなかでは」⇒「身内」は確かに見える範囲だが。

▼字形が似ている間違い

「主張には自分の陣をもつべきだと思う」⇒君は戦国大名か?自分の「軸」は大事にね。

「区悪犯による殺人事件の放動を見ると」⇒「凶悪犯」の「報道」だろうね。

「自分の椎格を変えたい」⇒まずは正確に「性格」を把握しよう。

「認耐力は身についた」⇒その「忍耐力」は認め難い。

▼字義が似ている間違い

「部活が急しい」⇒相当に忙しいらしい。

「錠破りなことをした」⇒「掟破り」か?オーシャンズか?

「討議の決論に至った」⇒気持ちはわかるが大事なのは「結論」だ。

▼間違えた理由が謎

「違ちがえた字で違ちがえた表現をした」⇒「間違え」に目がちかちかする表現だ。

「実じつを踏まえて」⇒「事実」は小説より奇なりです。

「悪魔で書き手は人間であるから」⇒あくまで?手書き試験で何故こう書く?

私の期末試験は持ち込み不可の手書き記述式回答)なので、スマホ等での誤変換ではありません。漢字の誤用は昔からありますが、今は誤用というよりは、そもそも漢字の理解の仕方が昔と違ってきているのかもしれません。使う言葉の意味を頭で理解してから使うのではなく、見たり聞いたりした視覚・聴覚の印象で体感的に捉えている感じです。

さて、このように答案採点をしてきて思うのは2020年度入試改革のことです。周知の通り、この改革プランでは記述式問題が課せられようですが、果たして試験官は上記のような誤用についてどのような判定を下すのでしょう。

期末試験採点ならば、教員は教え子に単位を取らせたいという好意的な主観を働かせるでしょう。しかし、大学入試では客観性・公平性が求められ、なおかつ指定された期間内に膨大な処理(採点)をしなければなりません。外部機関(アウトソーシング)や人工知能(AI)による支援も議論されていますが、そうなると主観的な判断より、基本的語句、語彙数、記述量で評価されるのでしょう。こうした誤用が見られるのも今のうちかもしれません。

第334号:期末試験答案とエントリーシートの共通点-3

残暑お見舞い申し上げます。立秋を過ぎて台風シーズンになりましたが、皆様の大学ではご無事でしょうか。この時期はオープンキャンパスで高校生も保護者も全国を移動されますのでご無事を祈ります。

さて夏休みに入り、春学期授業の期末試験を振り返っていますが、改めて答案の書けない学生はエントリーシート(ES)も書けないだろうなあ、と思わされます。逆に言うと良い答案が書ければESも上手に書けるはずです。例えば「分析せよ、論ぜよ」という試験問題の場合、良い答案は「文頭」に、ズレた答案は「文末」に特長があります。試験でよく見る具体例を示します。(教員としても、採用担当者としても、私の採点ポイントのひとつです。)

良い例(接続詞の使い方で論理がちゃんと構成されている)
⇒いわゆるPREP法Point、Reason、Example、Point)

『~は△と△とで構成されており、~は××といえる。

何故なら、(というのは、)~だからである。

例を挙げると、(例えば)~ということがある。

もう一つ例を挙げてみると、~ということもある。

以上のことから、~である。そして、今後は~。』

事実を元に見解を展開するのが「分析」の基本です。これは就職活動で求められる「自己分析」でも同じです。実績に基づかない論じ方は、以下の通り説得力がありません。

ズレた例(根拠のない未来志向は説得力がない)

『~と考えたい。

~のスコアを上げたい。

~と心掛けたい。

~たら良いと思っている。

~に挑戦したい。』

志望動機のように未来への希望を問われているのならともかく、自己分析自己PR)を求められているのに希望的観測を書かれても困ります。試験のヤマが外れても、問われていることに対して論理的に回答している答案は救いようがありますが、この基本ができていなければ不合格です。

ESは奇をてらった能力を見るのではなく、会ってみるのに十分な基本があるかどうかが大事です。名作小説にする必要はありません。基本がない個性だけでは変な人になります。 答案を方程式に例えれば、「公式=基本」「変数=個性」です。数百字の小論文・試験答案・ESはこれで十分対応できると思います。基本をしっかり身につけ、あとは変数(豊かな体験値語るべき事実)を充実させることですね。そうした実績を積み重ねるためにも夏休みはあるのでしょう。

第333号:調整派の経団連と行動派の同友会

経団連は来年の採用解禁日も本年度と同じ6月にする方向で調整していると報じられました。一方で、経済同友会からは「あるべき姿の(長期型)インターンシップ」の提言が報じられました。同じ経済団体でも組織の性格上、社会への発信内容やスタイルが違うところが面白いです。

この2団体の性格の違いは以前にも述べましたが、それぞれのタイプを対比するキーワードを思いつくままに挙げてみると・・・、現実と理想、国内と国際、タテマエとホンネ、形式と実質、慎重と迅速、組織と個人、利益重視と社会貢献・・・ etc.

総じて、調整派の経団連行動派の経済同友会といえるでしょう。なんせ1400社の企業集団(経団連)と、1300人の経営者集団(同友会)です。前者が調整派になるのはメンバーが企業単位であり、経営者とはいえ自社の中で意見を調整してまとめさせていますから。後者はメンバーが個人単位で、経営者が自由好き勝手に発言できますから。調整と行動のスピードに差が出るのは当然です。

新卒採用の倫理については、これまでもこの2団体を中心に意見が出されてきましたが、昨年の採用活動の後ろ倒し(経済同友会的な意見)が今年の前倒し(経団連的な意見)になり、更に来年はまた前倒しにもっていきそうな動きをみて、経済同友会は愛想をつかしたような感じです。いくら議論をしたところで解決されそうもないので、採用活動解禁時期の小田原評定はやめ、その前にある正統派インターンシップについて提言を行い、根本的なところから採用活動の見直しを計らせようという感じです。

このインターンシップについてもまたこの2団体の意見や方向性は異なることになるでしょう。しかし、それはそれで良いのです。というのは、今の経済団体の使命はあるべき姿のモデルを示すことで、全体を統一することではないからです。世間一般の企業(採用担当者)も大学(学生)も、いつまでも高度経済成長期のように同じ成長モデルでみんなが成功するような幻想は捨てるべきです。そうした手法が効果的なのは、市場(人口・経済・学生数)が拡大するような市場であって、それらが成熟して縮小傾向に逆転した現在は、各者各様のスタイルを考えて実行しなければなりません。

経済同友会の提唱する長期型インターンシップの賛同企業は大手企業のたかだか数十社ですが、狙いは模範的な行動を見せることによって、全体に問題提起をすることです。マスコミはよくこの程度の企業が動いただけで、市場全体が動き始めたように報じますが、それは書きすぎです。

たとえば、最近よく使われるようなった用語に「ダイレクトリクルーティング」があります。これも同様で、全ての企業が同じことを行うのではなく、企業が得意の分野をつくって独自路線の採用手法をあみだすことです。だから、ダイレクトリクルーティングは、マスメディアで大きく取り上げられ、みんなが一緒にやるような就活Web型採用とは根本的に違います。

大学生の資質も企業の求める人材も多様化している現在、全体が同じ動きで成功するというのは現実的ではありません。大学の育てる人材も卒業後の進路も時期も、翻って自校独自の方向や手法を考えてみても良いのではないでしょうか。

第332号:2社内定したらどちらでも良い

「内定を戴いた会社のどちらが良いでしょう?」学生相談も最終段階のものが増えてきました。先日やってきた学生は、人もうらやむ有名企業2社に内定を貰い、ハムレットのように悩んでいました。就職担当者や採用担当者やなら、それなりの見解(ものの見方)を示してあげることも大事ですね。

この学生が迷っていたのは、1社は日本型雇用の大企業、1社は成長著しいハイテク企業と、魅力が真逆で事業内容や社風や人事制度などもまったく異なります。身もふたもない結論を言えば、以下の3点の理由から、どちらを選んでも大丈夫です。

1.学生はどちらを選んだかより、自分で決めたことに納得するから

カウンセリングやコーチングを学んだ方は「答えは貴方の中にある」と言いますが、米国のように大学生がそれなりに企業の事情を知っている社会なら学生も自分の知見から判断できるでしょう。しかし、日本の新卒採用のように、学生が社会の労働実態を殆ど知らない社会では、正しい判断ができるかどうかより、自分で判断したという納得感があるということでしょう。仮に社会に精通した社会人が、事業内容の優劣や生涯賃金の違いを教えてあげても、どちらが幸せな人生になるかなんて、その人生を歩んだ本人にしかわかりませんね。

2.採用担当者は、できない人、向いていない人には内定は出さないから

採用選考においては、よほど没個性な肉体労働でない限り、採用選考時に配属先のイメージがわかないと内定を出せません。どんな企業でもおおよその配属プラン(人員計画)をもって面接に臨みます。だから、内定を貰った時点で、その会社に向いているという他者判断はなされているのです。少なくとも、能力的についてこられないと思う学生に内定は出しません。なので、内定した会社についていけるか心配だという学生もいますが、その心配もまずありません。

3.隣の芝生は常に青いから

二つの会社のどちらに合っているかどうかは、二つの会社を体験してみないとわかりません。しかし、現実的に、人間は同時に二つの企業で働くことはできません。仮に、ある会社が自分に合わないと思って転職したら良い会社に巡り会ったということがあったとしても、それは最初の企業での経験があったら次の企業への対応力がついたからかもしれません。つまり、もう新卒ではなく社会適応力や判断力がついたからです。就職後、心の中で自分はあの会社に行っておけばよかったなあと思ったとしても、それは検証できませんからね。

ちなみに先日、辞退者がたくさん出て困ったという企業の若手採用担当者に話を伺いました。この方の悩みは、内定者からいくつかの企業で迷っているという相談を受けた際に「絶対にうちの方が良いよ!」と言い切れなかったそうです。まだ入社2~3年目だったので、学生の気持ちの共感しすぎる優しい採用担当者なのでしょう。こんな時にこそ、ハムレットの名文句でも思い出せば良いと思います。

「生きるべきか死ぬべきかそれが問題だ」ではなく、

「天と地の間にはお前の哲学などには思いもよらぬ出来事があるのだ」

だからどちらを選んでも大丈夫、迷わず我が社を選びなさい、と。

第331号:圧倒的な業界研究不足には

先日とある企業の採用選考に立ち会いました。ES(自己PR)と筆記試験は合格し、面接に臨んだところ、応募企業の業務内容や業界動向についてあまりに無知で不合格となりました。今回、唖然としたのは、自己PRと業界研究の大きな落差です。これはコンピテンシー面接の弊害ともいえるのですが、業界研究の進め方にも問題がありそうです。

周知の通りコンピテンシー面接では応募者の体験事実を掘り下げていわゆる「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」を聴きだしていきますが、今回の学生は、ここは良く話せており自己分析対策をやってきたのでしょう。しかし、その次に尋ねた志望動機では、不思議なほどに話せません。こうした学生が増えているのは、おそらく大学受験のように就活対策でやりやすいところから行ってきたからでしょう。自己分析は業界研究に比べて自分1人でできますし、どこの企業でも同じ話をしても大きな問題はありません。つまり点数の取りやすい(?)問題です。

それに対し、業界研究はデータを集めること自体に手間暇がかかりますし、更に分析して自分の意見(志望動機)にもっていくのも大変です。上記の学生は、自己分析を仕上げて時間がなくなってしまったのでしょう。または、企業によっては志望動機を聞かないコンピテンシー面接だけで行いますから、そうした企業が第一希望だったのかもしれません。業界研究は確かに大変面倒なものですが、要領さえ押さえられれば面白くなり、以下のようなステップで行えば大学で学ぶ分析手法とも同じです。

1.学生向けのデータ収集(就活本、企業セミナー等)
文献調査一般情報

2.社会人向けのデータ収集(ビジネス書籍、IR情報等)
定量調査専門情報

3.最新の現場動向収集(OB・OG訪問等)
定性調査先端情報

大学で学ぶべきスキルにロジカルシンキングがありますが、それは事実を元に見解を述べるという点ではコンピテンシー面接や業界分析と同じです。最初に一般情報を得て問題意識を高め、専門情報を得て課題を発見し、絞り込んだ分野の先端情報を得て持論を展開するのです。

ところが多くの学生は一般情報の段階で時間切れになっているようです。加えて学生向けの就活情報が溢れて便利になったようですが、それは誰もが目にする一般情報なので志望動機にも個性がなくなります。逆に言うと、個性的な志望動機を作りたいなら他者と違うデータ専門&先端情報)を入手すれば良いのです。これは大学のレポートや論文で求められるオリジナリティと同じです。