「キャリア教育」カテゴリーアーカイブ
第378号:学生が感じるキャリア教育の課題
本年度から新たに上智大学でキャリア科目の授業を担当することになりました。私が大学キャリア教育に深く関心を持つようになったのは10年前に同大学で教育社会学に触れたことでしたから、恩返しのような気分で上智大学らしいキャリア教育の開発に取り組んでいます。
新任の大学では学生との距離感に戸惑いますが、まずは「自校のキャリア教育の課題」というレポートを学生に課して問題意識を探ってみました。このレポート求めると、多くの大学で共通に見られる課題と、その大学固有の課題が見えてきます。
共通に見られる課題としては、キャリア科目の存在を知らないという(広報課題)、科目数・定員が少なくて履修できない(機会課題)、低学年から受けたいという(時期課題)等の科目設定に関するものと、講義型が多くて受け身になる、公開講座なのに他学部の学生と交流できない、既存科目との関係がわからない等の授業内容に関するものがあり、量的課題と質的課題に分類できます。
今回、良く書かれていたレポートに「授業時間やコマ数の改革ではなく授業内容を改善して欲しい」という上述の量的・質的課題の関係を指摘したものがありました。具体的な改善案としては「もっとアウトプット重視の授業にして欲しい、グループワークをやりたい」等ですが、それでは、とレポートを増やすと学生の顔色が変わります。
学生の言うアウトプットを、単純なおしゃべりのグループディスカッションにしてはいけません。論理的に考え、文書・言語で発信できるスキルを意識して授業を設計すべきです。それは就活だけではなく、就職後にも役立つロジカルシンキングの基本ですから。
私のレポート課題では、自己都合の要望や単純な若者の主張はNG、読み手を意識した提案にする、事実(データ)を元に意見を展開する、等々の基本中の基本を指導して求めています。これらは就職して報告書や提案書を書く時にも求められる能力ですし、就活のエントリーシートでも同様です。結果、殆どの学生が基本をクリアして今学期末の履修OKを出せそうです。
こうした授業を進めていくと、最初は拙くても3~4回繰り返すと、真面目に取り組んだ学生のレポートは必ず良くなります。そして変わった「顔色」が良い「顔つき」に変わってくるのです。教育とサービスは違います。学生の要望をそのまま聞いて提供するのは教育ではなくサービスで、人材企業にお任せすれば良いでしょう。大学教員は、学生が(最初は)嫌がっても本当に大事なことは信念を持って強制すべきです。未知の経験をさせて自信をもたせることです。それが教育だと思います。
さて、まもなく学期末ですが、私の授業の最終日には企業採用担当者を招いて学生にレポートをベースにしたプレゼンテーションをさせています。今学期の学生との授業で考えてきたキャリア科目の課題を企業の方々とも討議して、冒頭に述べた上智らしいキャリア教育を形にしていきたいと思います。
第361号:大学教育と就職指導をつなぐキャリア教育
「この秋は大学の就職セミナーに学生の集まりが今ひとつです。」と、先日、大学就職課職員の方から伺いました。昨年までは100人規模で集まった人気講座に数名の申込しかない日があるとか。この大学だけの現象なのかは定かではありませんが、一葉落ちて天下の秋を知るように、2018年問題を控えて就職指導のあり方もそろそろ見直されるべき時期なのかもしれません。
最近の学生を見ているとだいぶ忙しそうです。大学祭のシーズンのせいかと思いきや、主力の3年生は就活で忙しかったり、文科省ご指導の学業重視政策で大学祭そのものが縮小になったりしているところもあるそうです。確かに、例年ではこの時期にあまり見られなかった平日インターンシップが増え、学内では入ゼミ生募集を兼ねたオープンゼミで授業を欠席する学生も目立ってきました。
こうした中で学生の就職指導を進めるには、大学教育との融合を本気で図るべき時期になってきたのかもしれません。10年ほど前から登場・発展してきた多種多様なキャリア教育は、本来の大学教育と就職指導をつなぐ役割を果たしてきたと思います。それらは「社会人基礎力」を代表にするように、当初は大学外部からの要請が強かったせいか、本来の大学教育に「ネジ止め」されてきましたが、これからは「融合」することによって就職指導の効率化が図れるのではないでしょうか。その視点から、私はキャリア教育について以下の三つの定義をもっています。
1.生徒から学生へ導くもの
正解のある問題を効率的に解く力を求められた高校の学習方法から、正解のない問題に取り組む意思、自ら問いを設定して解き明かす力を身につける大学の学び方の違いを指導・演習すること。
2.大学の学びを社会に向けて応用する
研究活動の成果を社会に展開する応用力と発信力を身につけ、大学低学年次に身につけた資質を更に伸ばす。PBL(Project Based Learning)を用いた産学連携型授業で社会の評価を受けながら実践する。
3.学問を統合して理解するもの
大学教育には高学年になり専門科目が中心になるに従い、幅広い視野を忘れがちな構造的宿命がある。その学際領域の学びを育むために各学部の知見を得た高学年次に学部横断の公開授業を行う。この学習からいずれの学問にも共通の「アカデミックスキル」を気付かせ、大学の学びの汎用性を認識させる。
上述の三つの定義を総じて「キャリア教育とは大学と社会をつなぐもの」といえましょう。バレエに例えれば、本来の大学教育はクラシックバレエ的で、世俗の事象や経験をメタ認知化(言語化・理論化・法則化)して天上をめざす伝統的学問でしたが、その後にモダンバレエ的な地に足を着けたフィールドワークが登場してきました。前者は理想を求め続ける故に天から降りられず、後者は多様で実践的なので地上から離れられません。この天に上がった概念を地上に戻す(有効活用・応用する)のが、現代の実践知型キャリア教育(PBL・インターンシップ等)ではないかと思います。そんな形で発展すれば、就職指導の形もこれから新たな形態に変わっていくのではないでしょうか。
▼参考URL:学園祭 縮小傾向…「就活熱」「学業重視」 2017/10/27 (毎日新聞)
第347号:キャリア教育と大学メディア化
3月も残り少なくなり、大学内就職セミナーもひと休みで、卒業式と入学式のシーズンですね。私事ながら私も年初に修士論文を提出し、先日修了が認められて大学卒業式に学生として出席できることになりました。研究テーマは、大学と企業のミスマッチの検証とその対策です。大学の教育改革と企業の採用改革を同時に行う提言ですが、これは大学を「メディア化」することです。
大学メディア論は、東京大学の社会学者である吉見教授が提言するものです。私はこの論を読んだ時、これを大学キャリア教育として応用してみようと思いつき、キャリア教育の定義を「大学と社会をつなげるもの」と決めました。それは社会の出来事を大学の各学問の知見を使って解きほぐし、広く社会に伝える役割です。その代表的な手段がビデオ教材を使った授業で、この5年間で10本の業界・企業を扱ってきました。
ビデオ教材そのものは就職セミナーでも使えるものですが、授業として使う場合は産業理解だけではなく、ビデオ教材を正課授業との関わりを考えさせてディスカッションをしたり、レポートを書かせたりする点です。そうした過程を経て、学生として必須の「メモを取る」「不明な点を考え討議する」「思いついたことをプレゼンテーションやレポートにまとめる」「締め切りまでに完成させる」ということを指導してきました。
こうした効果は、大学内就職セミナーを見ていてハッキリわかりました。上記授業を受講していた学生は、採用担当者の話しが終わって質疑応答の時間になると、真っ先に手を上げて深い質問を投げかけていました。一方で講義型の受け身の授業ばかり受けてきたと思われる学生は、セミナー中もメモをとらず聴きっぱなしで、質疑応答でも無言であったりレベルの低い質問(採用選考や待遇面に関するもの等)しか思いつきません。
そして今年度は更に進め、チーム分けした学生達にビデオ教材のテーマ設定から企業選択・訪問・撮影交渉まで体験させてみたところ、見事に国際航空物流企業(ANA Cargo社)の了解を取り付けて最新作を仕上げることができました。最初は上手くいくか心配しましたが杞憂でした。大任を与えられた学生には自主性がうまれ、判断力も責任力もつきました。来年度は規模を広げて多くの学生にインターンシップとして経験させ、その成果物を他大学とも提供できれば大学メディア化は更に広がると思います。
これまで学生に会社案内やWebを作らせる企業インターンシップは定番プログラムとしてありましたが、企画から更にメディア化、授業化まで行うものはなかったのではないかと思います。もしこうした学生発の成果物が蓄積され、大学というメディアで授業や就職セミナーで共有できれば、春の大学内説明会の風景も変わってくるかもしれませんね。
▼参考URL:『大学とは何か 』吉見 俊哉 2011年(岩波新書)
https://www.amazon.co.jp/dp/400431318X/
▼参考URL:法政大学産学連携ビデオ教材新作発表会(3月29日)
第288号:大学キャリア教育は採用担当者の能力開発
先日、採用選考についての経団連の「採用選考に関する指針」が改訂・公開されました。今回の改訂では「広報活動開始前に行われる学内セミナーについて」の項目が追加され、「大学が責任をもって主催すること」「参加学生に対し、キャリア教育の一環であり、採用選考活動とは関係ないことを明示していること」などの条件を満たす場合、企業が学内セミナーへ参加することを認めるが加えられています。これは企業採用担当者にとって良い能力開発(または試練)になります。
「後ろ倒し」により、いま多くの採用担当者がどうしたものかと右往左往しております。採用担当者の発想力や行動力が求められるので、私は良いことだと思っています。日頃、「個性のある人材を求む」という採用担当者自身が身をもって体験するわけですから。その中で、リクルーター再編成と今回の「大学キャリア教育」へのアプローチが盛んになってきました。
大学キャリア教育自身が、まだまだ発展途上段階、またはカオス状態であると言っても良いですが、企業との連携が大きなポイントになることは間違いないでしょう。これまでも、企業採用担当者やOBを並べたオムニバス講座のキャリア教育はありました。これは大学も企業も最も楽で効果の上がるものですが、中には企業の採用セミナーをそのまま話すものもあり、それでは芸がありません。
そこで大事なのは、採用担当者が能力開発のスキル・視点をもつことです。企業人事部では、社員の採用活動と能力開発活動は連続していることが多いですが、その順序が「採用⇒開発」から、「開発⇒採用」になるわけです。それは、採用担当者が「求める人材の能力判定」から「求める人材の能力設定と育成」を行うということです。人事で能力開発の経験のある方には腕に見せ所ですが、そうでない採用担当者にとっては試練です。人を批判することは楽ですが、育てることは本当に難しいことですから。
大学が伸ばしている能力と企業が求める能力、曖昧模糊といわれる「求める人材像」も、こうしたキャリア教育が進めば自然と解消されてくることでしょう。日本の新卒一括採用は、批判されることが多いですが、大学と企業が連携して採用・育成してきたことは日本独特の良い点だと思っています。世界のやり方をそのまま持ってきても絶対に成功しませんし、逆に強みや個性を失うことになります。
今回の指針に合わせて大学側(就職問題懇談会)からも方針が出され、外形的なルールが定められましたが、これからは更に内容の進化まで踏み込んで貰いたいものです。ピンチはチャンスと良く言われますが、是非、良い方向に活かしていきたいものです。
▼参考URL:採用選考に関する指針(2014.9.13 経団連)
http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/081.html
▼参考URL:大学内キャリア教育の申し合わせ(2014.9.16 就職問題懇談会)
第115号:法政大学キャリアデザイン学部のキャリア教育検証
今春、初めて卒業生を輩出した法政大学キャリアデザイン学部開催のシンポジウムに参加してきました。この4年間のキャリアデザイン学部の取り組みを通じて見えてきたキャリア教育の検証というテーマで、非常に参考になる内容でした。
シンポジウムの個別内容は多岐に渡りましたが、その中でも私個人の印象に残った言葉をご紹介したいと思います。
・『自分探しの学生はお断り』
キャリアデザイン学部は創設当初より高い人気で志願者を集め、大学経営としては成功を収めました。しかし志願者の内訳は期待通りではありませんでした。というのは、この学部に志願する方は「他者のキャリアデザインを支援できる人材」と「自分のキャリアデザインができる人材」であり、前者を社会人、後者を高卒学生と想定しておりました。その社会人と学生との交流から学習するのが狙いだったわけですが、社会人学生の入学は少なく殆どが「自分探し」の学生になってしまったそうです。
しかし「自分探し」は大学生(若者)にとっては当たり前の行為であり、しかも卒業までに答えの出るものでもありません。そのため、キャリアデザイン教育という独自性がわかりにくくなってしまい、最終的に卒業後にどんな分野でどんな活躍をする人材を輩出するのが曖昧になってしまいます。その点への問題提起でしたが、非常に潔い言葉だと思いました。
・「キャリア教育は道徳教育」
キャリアデザイン学部は設立する前からそのコンセプトを理解して貰うのに苦労したそうです。経験豊かな教授に説明をすると、「なんだそれは道徳教育ではないか!」と言われてしまったそうです。確かに多くの大学で導入されているキャリア教育プログラムを見ると、以下のようなものが多いです。
1.学外社会人講話によるオムニバス講義
2.自己理解・自己発見ワークショップ
3.コミュニケーション系トレーニング
4.インターンシップ
5.地域コミュニティ活動
これらを見ていると、やはり日本社会から失われつつある人間関係を感じます。本来はそこから自然に身に付いた道徳や常識や対人スキルが未成熟成っているのでしょう。それに大学進学率向上やデジタル社会等の現代の社会変化が拍車をかけています。
こうしてみると、キャリア教育には、これまで当たり前でやらなくても良かったものを、改めて行うところに現代的な意義があるようです。キャリア教育としての議論もいよいよ第二章に入ってきたようですが、法政大学にはこの分野の更なる研究を期待したいと思います。
第110号:就職支援とキャリア教育
新年度になりました。桜の季節に新入生を迎えるというのはやはり良いものですね。自然が新たな若者の旅立ちを祝福しているようです。私も昨年から大学非常勤講師として暖かく迎えられ、試行錯誤しながらキャリア教育に取り組んで参りましたが、この時期に改めて新入生に望むのは、現実を受け入れる勇気です。それこそがキャリア教育の第一歩であり、4年間のキャンパスライフと就職活動が成功するかどうかのキーになるでしょう。
この1年間、学生と触れ合って驚いたことは、意外と多くの学生が「自分はこの大学に望んで入ったのではない」と思い続けていたことです。大学受験に失敗したという意識ですが、入学したばかりならともかく、高学年になっても現実を受け入れることができずにネガティブな気持ちでキャンパスライフを過ごしているというのは驚きでした。経緯はどうあれ、この現実をどう良くするかと考えないのは、自分の時間を入学時で止めてしまうことです。失敗だったら失敗と認め、さてどうするかと考え始めれば、止まった時間が動き出し、失敗は成功のタネに変えられます。
就職活動でもこれは大事な能力なのです。自己分析をするときに学生が陥りがちな失敗は自分の過去を「客観的に分析」してしまうことです。企業の採用担当者が知りたいのは、そういった事実そのものではなく、そういった事実を踏まえて学生がどれだけ成長してきたか、です。つまり、採用担当者が求める自己分析は「主観的な意思」なのです。「分析」という言葉が良くないのかもしれませんね。私は自己分析とは、自分の過去の事実を現在の時間で見つめ直してその意味を読み解くことであり、更にそれをどう活かしていくか創造することだと思っています。だから自己分析とはクリエイティブな活動なのです。
『時計の針は元には戻らない、だが自らの意志で進めることはできる。』とはあるアニメのセリフですが、昨年の1年間の低学年キャリア教育では、学生にこういったものの考え方を教え、学生の時計の針を動かし、更に早く進めるように指導してきました。時計の針を動かし、有意義なキャンパスライフに自ら変えていくことが、就職活動で「もっとも力を入れたこと」をより大きなものにすることになるのです。
私は、就職支援が学生へのサービスであるの対し、キャリア教育はあくまで教育でありスタンスは異なるものと考えています。サービスは学生のニーズに合わせて提供するものであるのに対し、教育は(信念に基づき)学生に強いるものである、ということです。このことは教育職員の方々には釈迦に説法ですが、大切なことは学生がそれをちゃんと理解しているかどうかです。自主性は放っておいても育ちませんし、リーダーシップも役割が来なければ身に付きません。
多くの新入生を迎えるこの時期、改めて学生に勇気を伝える勇気をもって今年も頑張りたいと思います。それが学生生活の総括である就職活動を成功に導くと信じています。
第87号:就職ガイダンスからキャリア教育へ-2
新年度になりました。日本の春は国を挙げての人事異動の季節ですね。大学にも初々しい表情の新入生が溢れています。いつもお世話になっている就職課の職員の方々からも異動のご挨拶をいくつか頂戴致しました。さすがに企業の採用担当者は戦線真っ盛りで異動は少ないようです。私事で恐縮ですが、私も今月から大学デビューを果たすこととなりました。就職ガイダンスからキャリア教育へ一歩踏み出します。
倫理憲章の解禁日も過ぎ、日中のビジネスタウンはリクルート・スーツの学生で溢れています。企業の採用担当者はドキドキしながら学生の応募状況を見ています。どれだけ事前のエントリーがあっても、本番の面接にやってきてくれるかは未知数ですから。採用担当者も選考開始の時期は慣れていないこともあります。特に現場職員を臨時に面接担当を配置する大企業では、学生との会話になれていなくて、慣れてくるまで多少の時間を要します。まさに4月は誰もが初心者なのですね。
さて、最近の面接の傾向としてコンピテンシー面接が増えてきていることは皆様もご存知だと思います。将来への志望動機よりも過去における活動実績を重視してカウンセリングのように聴きだしていく手法です。コンサルタントの方によると、過去の行動事実を質問していくので面接者の主観による個人差はなくなり、本当に行動できる学生が的確に選別できるとのこと。この手法の是非はともかく、大学生活が如何に充実していたかというのは就職面接でも最も合否を分けるポイントでしょう。どんなに面接テクニックがあっても肝心の話すべき内容が無ければ意味がありません。
年初から数多くの模擬面接を行ってきましたが、模擬面接でアドバイスできるのはあくまでも面接のテクニックです。個人差はあってもこのような対人スキルはわりと短時間で身につけることも可能ですが、やはり話すべき内容があって初めて活きるものです。ところが、こ高度に発達したメディアの影響によるものかもしれませんが、最近の学生たちの活動実績はますます画一化されてきていたり、企業や社会の見方もドンドン表層的なものになってきているのを感じます。やはり一番良い就職活動と言えば、キャンパスライフを如何に充実させるかということだと思いますが、そこに個性差が少なくなってきているのかもしれません。
ということで、小さな試みですが、いわゆる低学年からのキャリア教育というものに取り組んでみることに致しました。既に多くの大学で開始されていることありますが、日本の教育において最も重要なことではないかと思います。以前も書きましたが、良い学生が育ってこなければ良い採用活動はできないのです。特にこれからの本格的な少子化時代を迎え、一人でも多くの学生がキャンパスライフで切磋琢磨し、謳歌し、社会で活躍するステップとして欲しいと思うのです。何年か先に満開の桜とともに成果が花開くことを祈りながらチャレンジしてみます。
(2年前の春にこのタイトルで書いたのですが、まさか自分で取り組む機会がやってくるとは!)
第48号:低学年のキャリア教育について
いよいよ3年生向けの就職ガイダンスがあちらこちらで始まってきている中で、チラホラ見かけるのが1~2年生を対象とした低学年向けのキャリア教育です。若年労働者の就業問題は、今では年金問題を出すまでもなく国家的課題になりつつあり、早期に若者の就労意識を高めていくべきだ、との声も聞きますが、その方法論はまだ模索中というところが多いでしょう。いろいろなアプローチがあると思いますが、その基本中の基本は「モデリング(観察学習)」、やはり自分の理想とするモデルを見つけることからはじまるのではないかと思います。
この時期に開催される低学年向けのキャリア・ガイダンスは、就職課の方が多忙なせいか、就職情報企業や学生サークルにアイデアから実行まで委託しているところが多いようです。いくつかのガイダンスを見学いたしましたが、どうも参加者数はいまひとつのようです。ガイダンスの内容はよくできていて、参加した学生の関心も高いようですが、やはり課題は動員数を如何にあげるかという点で、大学によってはガイダンスから講義に昇格させて強制的に聴講させているところもあります。いましばらくは主催者にとっての模索の時期が続きそうですね。
低学年向けのキャリア・ガイダンスでは、「なりたい自分をみつけよう」とか「やりたいことを見つけよう」というスローガンを良く伺います。初心に返ってこの言葉を考えたとき、私の頭にいつも浮かぶのは、「坂本龍馬」「野口英世」「豊田佐吉」「ファーブル」「シュリーマン」等々の偉人達です。初学生の頃に図書館で読みあさった偉人の伝記は今でも鮮烈な記憶に残り、いつか自分はこんな研究者・発明者になるんだ、というイメージをもったものです。これはまさにキャリア開発でいうところの、「モデリング」です。遠い世代・世界の偉大な人物なので直接に薫陶を受けることはできませんが、大きな夢を描くには十分なモチベーションになりました。
最近の子供達はどんな偉人伝を読むのだろうと、知人に聞いたところ、最近は多くの伝記が廃版になっていると聞き残念でしたが、NHKのプロジェクトXを見て感動する若者が最近多いと聞きます。これもモデリングなのでしょう。
低学年のキャリア・ガイダンスで何をやるべきか?今の雇用情勢を伝えたり、身に付けなければならないスキルを教え、足元をしっかり固めることも必要でしょう。しかし、一番大事なのは若者が高い空を見上げる意志と希望を持たせることではないかと思います。自分よりも高いところにモデルを見つけた若者は、きっと自ら努力もするでしょうし、敬語も自然に使うようになるでしょう。モデリングとはタテの人間関係を知ることに他なりません。低学年のキャリア・ガイダンスの大きなヒントがここにあるような気がします。
第43号:就職ガイダンスからキャリア教育へ
桜咲く日本の4月は新しいシーズンの始まりですね。企業人事部は新入社員の受け入れに、大学就職ご担当の皆様は新入学生の受け入れに慌ただしく追われる季節です。大学生のキャリアに関する講演やトレーニングを行う私の方にも今期のお問い合せを戴くことがありますが、最近は就職ガイダンスというよりもキャリア教育という視点でのご依頼が増えてきました。時には教授と協力して正規の授業の講義として行うこともあり、徐々にではありますが、大学改革もようやく春を迎えつつあるのかな、と感じます。
この春は多くの企業業績も上向いておりますが、少数精鋭の号令の元、採用と能力開発に関わる人員は削減されたままで、両方の業務を兼務している方は多いです。今はまさに新入社員の研修プログラムが始まったところですが、企業と大学とは似た課題を抱えているようにみえます。例えば現在、若年社員層の能力開発の基本路線は外部業者を使ったアウトソーシングを導入することであり、優秀なインストラクターを確保することがポイントですが、これは大学就職担当の方が職業ガイダンスの講師を選定するのと同じことです。そして厳しい競争を越えた上級社員になると、コーポレート・ユニバーシティという名の社員講師(その企業の役員やトップレベルの業績を出している実力者)が直接指導したり、留学として社外の修行に出したりしますが、それは大学上級生のゼミや、交換留学にあたるのかもしれません。
さて、こういった新入社員・学生向けのアウトソーシング中心の能力開発スタイルには2つの課題があるかと思います。
まずは、星の数ほどある業者のメニューや、講師をどう組み合わせて全体のプログラムの方針を考えるか、ということです。大学の就職ご担当の方からは、「今年はこんな内容で実施するつもりですが、他に何かご提案はありますか?」というお話をよく伺います。各プログラムは十分な内容で、新しいメニューを追加する必要は無いようですが、気になるのはそこには全体に流れる思想はあるか?各メニュー間の関係はとれているのかな、という点です。
次に、そのメニューを受講していく新人の進捗状況はどのようにフォローするのか、という点です。企業においては、ここをフォローするのがOJT(On The Job Training)という各配属現場の先輩社員による指導やナレッジ・マネジメントというITのシステムです。小規模な大学であれば、学生全員に面談を行ってきめ細かく指導することもできるでしょう。しかし、ある程度の規模を越えた時、就職担当者だけでは対応は不可能になり、それを支援するシステムやチームが必要になってきくるのではないかと思います。
また、就職活動からキャリア開発活動へ、就職ガイダンスからキャリア教育へ、という課題の答えもここにあるのではないでしょうか。時節柄、就職年次だけではなく、新入生からキャリア開発教育が必要だ、という声を多くの大学からの方々からお伺い致しますが、まだ日本のどこの大学もこれといった切り札は持ち合わせてはいないでしょう。しかし、大事なのは暗中模索しながら実行することで、それはまさに個人のキャリア形成と同じことではないかと思います。同じやるならば、企業の能力開発も大学のキャリア開発も、同じ豪華なフルコースのメニューを作るだけではなく、例えスープの一皿だけでも暖かい我が家だけの手料理のメニューを作ってみたいものですね。「ガイダンス」から「教育」へ進化させる秘密のレシピもそこにあるのではないでしょうか。