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第362号:大学教員の就職シーズン

秋学期も中盤となり、大学教員の公募・就職シーズンもたけなわです。私事ながら、今年度で法政大学のプロジェクトが終わり、私も就職活動をしてみようかと大学の求人公募を物色してみました。大学生の就職活動とは違う風景が見えて面白いですが、懐かしくも不可思議に感じることも多いです。

周知の通り、来年度(4月)の教員公募は夏頃からボチボチ始まり、秋学期になると非常勤講師の募集も一気に増えてきます。これは私の大学時代と同じタイミングで、当時の就職活動は4年の10月が公募解禁日でした。有名企業のビルをリクルートスーツ姿の学生が行列をなして履歴書を届けるのが風物詩でしたね。いま思えば、そこから卒業までの半年で、今とは進学率も大学生数も異なるので比較は出来ませんが、よくぞ大半の大学生が進路を決めたものです。経済学的にみると、恐ろしく効率の良い市場マッチングでした。

そんな中でも今と同じくフライングする企業があり、10月から企業説明会のはずが裏側では内々定式を行っていたりしました。金融機関などでは顕著で、支店長推薦等で既に殆どの内定枠は埋まっているのに、解禁日にやらせの採用活動をやっていて、現場の担当者もやる気がなかったが謎でした。

同様に、大学の求人情報を採用担当者の視線で見ていると、これは「出来レース」だなと感じさせるものがあります。公募期間が異様に短い(20日間位)、募集用件がピンポイントでハードルが狭い等が特徴的ですが、この辺の大人の事情は皆さんの方がご存知でしょう。

これは企業でもあることで、実際は早期採用や縁故採用で過半数が既に内定済みなのに、協定や倫理憲章遵守のアリバイ作りで求人広告を出したりセミナーを行ったりしていました。大学も企業も無駄と知りつつお上の方針に従っているわけです。勿論、採用広報手法としてハードルをあげるのは当然のことです。大学大衆化時代になり、やたらに応募者を集めるより、ターゲットを絞ったダイレクトリクルーティングへ移行していますね。しかし、一番気の毒なのは何も知らない応募者です。

というわけで、これから私も初心の学生気分(?)に戻って就職活動をしてみようと思います。これも周知の通り、2018年問題を前にして、大学は厳しい経営状況に直面しています。企業での非正規社員の処遇問題と同様、非常勤講師・特任教員の扱い方の問題がありますが、まあ宝くじも買わないと当たりません。就活にとって大事なのは、いつも学生に言っていますが「犬も歩けば棒に当たる」歩かずに待っている犬にはチャンスは来ないということです。「捨てる神あれば拾う神あり」ですし、こうした楽観性と達観力がないと就職活動は本当に辛いものになりますね。

最後に一つ問題提起しておきます。それは大学研究者に教育者の面接(評価)は可能なのかという点です。研究業績はともかく、長年の経験から教育スキルとして疑問に思う方々と出会ってきました。特にキャリア教育の領域では、何故この人が採用されたのか不思議でした。その謎も、自分の就活で解けたら嬉しいと思います。

▼参考URL:年収300万円「非常勤講師」が苦しむ常勤の壁2017/10/25 (東洋経済オンライン)

http://toyokeizai.net/articles/-/193885?page=2

▼参考URL:ポスドク問題の次は「特任教員問題」が発生か2017/6/25 (JBpress)

http://news.livedoor.com/article/detail/13140930/

第361号:大学教育と就職指導をつなぐキャリア教育

「この秋は大学の就職セミナーに学生の集まりが今ひとつです。」と、先日、大学就職課職員の方から伺いました。昨年までは100人規模で集まった人気講座に数名の申込しかない日があるとか。この大学だけの現象なのかは定かではありませんが、一葉落ちて天下の秋を知るように、2018年問題を控えて就職指導のあり方もそろそろ見直されるべき時期なのかもしれません。

最近の学生を見ているとだいぶ忙しそうです。大学祭のシーズンのせいかと思いきや、主力の3年生は就活で忙しかったり、文科省ご指導の学業重視政策で大学祭そのものが縮小になったりしているところもあるそうです。確かに、例年ではこの時期にあまり見られなかった平日インターンシップが増え、学内では入ゼミ生募集を兼ねたオープンゼミで授業を欠席する学生も目立ってきました。

こうした中で学生の就職指導を進めるには、大学教育との融合を本気で図るべき時期になってきたのかもしれません。10年ほど前から登場・発展してきた多種多様なキャリア教育は、本来の大学教育と就職指導をつなぐ役割を果たしてきたと思います。それらは「社会人基礎力」を代表にするように、当初は大学外部からの要請が強かったせいか、本来の大学教育に「ネジ止め」されてきましたが、これからは「融合」することによって就職指導の効率化が図れるのではないでしょうか。その視点から、私はキャリア教育について以下の三つの定義をもっています。

1.生徒から学生へ導くもの

正解のある問題を効率的に解く力を求められた高校の学習方法から、正解のない問題に取り組む意思、自ら問いを設定して解き明かす力を身につける大学の学び方の違いを指導・演習すること。

2.大学の学びを社会に向けて応用する

研究活動の成果を社会に展開する応用力と発信力を身につけ、大学低学年次に身につけた資質を更に伸ばす。PBL(Project Based Learning)を用いた産学連携型授業で社会の評価を受けながら実践する。

3.学問を統合して理解するもの

大学教育には高学年になり専門科目が中心になるに従い、幅広い視野を忘れがちな構造的宿命がある。その学際領域の学びを育むために各学部の知見を得た高学年次に学部横断の公開授業を行う。この学習からいずれの学問にも共通の「アカデミックスキル」を気付かせ、大学の学びの汎用性を認識させる。

上述の三つの定義を総じて「キャリア教育とは大学と社会をつなぐもの」といえましょう。バレエに例えれば、本来の大学教育はクラシックバレエ的で、世俗の事象や経験をメタ認知化(言語化・理論化・法則化)して天上をめざす伝統的学問でしたが、その後にモダンバレエ的な地に足を着けたフィールドワークが登場してきました。前者は理想を求め続ける故に天から降りられず、後者は多様で実践的なので地上から離れられません。この天に上がった概念を地上に戻す(有効活用・応用する)のが、現代の実践知型キャリア教育(PBL・インターンシップ等)ではないかと思います。そんな形で発展すれば、就職指導の形もこれから新たな形態に変わっていくのではないでしょうか。

▼参考URL:学園祭 縮小傾向…「就活熱」「学業重視」 2017/10/27 (毎日新聞)

https://mainichi.jp/articles/20171022/k00/00m/040/110000c

第360号:授業におけるRJP(Realistic Job Preview)

大学授業の履修登録期間というものがありますね。新学期の最初の1~2回がお試し参加で、授業内容や教員との相性(?)を確認してから履修確定になるシステムです。これは私のようにグループワークを行う授業では、なかなかメンバーを確定できずにやりにくいですが、一方で、楽な授業ではないことを知らしめるには良いと思います。それは企業が採用広報で使うRJP(Realistic Job Preview)になるからです。

RJPは、神戸大学の金井壽宏教授が企業採用担当者に広くご紹介されたので、皆さんも耳にされたことがあるかもしれません。採用広報において、良いことや楽しいことだけではなく、大変なこと、苦労することも包み隠さず伝えることです。どんな新入社員も多少経験する理想と現実のギャップをできるだけ埋める工程です。例として有名なのは、1900年頃のロンドンで出されたという新聞広告の以下の文章です。

『求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。暗黒の日々。絶えざる危険。生還の保障はない。成功の暁には名誉と賞賛を得る。アーネスト・シャクルトン』

これは南極探検の隊員募集の広告で、5000人が応募したといわれています。これと同じ手法は、企業もよく使っていて、入社後に早期に退職されるよりは、最初から避けて貰う、入社するからには覚悟して貰う、というワクチン効果です。ブラック企業かどうかを見分ける時にも有効ではないかと思います。良心的な人事はとりあえず入れてしまえば後でなんとかなる、とは考えませんから。

ということで、私はいつも初回の授業で「プレゼンテーションは必須」「無断遅刻・欠席不可」等と言ってきたのですが、昨年からシラバスにも「私語厳禁」と記載したら履修者が3割ほど減りました。元々、教室が一杯になっていたので良いかと思っていたのですが、先日の授業で「私の方針に合わないと思えば履修しない方が良いです」と言ったら、その場で2~3人の学生が退席しました。この現象はあまり見られるものではありませんが、やる気のある学生(覚悟を決めた学生)が残るので良しとしています。

少し心配になったのは、退席した学生達は「自分にあった環境」でしか生きたくない(生きられない)のではないかということです。環境に相当に恵まれていない限り、自分の思うとおりの人生など歩めませんし、そうした葛藤のなかで人は成長したり仕事力が付いてくるものです。若者が誤解しているのは、大学は成功する場ではなく「実験と冒険の場」であること。未知のこと、未経験なことをやるから上手くいかないことの方が当たり前だということです。

「だから、大学には失敗などありえないし、上手くいかないから面白い。」

とか話すと気を取り直して参加する学生も多いですが、それでも友達と一緒でないと嫌な子も居て、見ていて伸びそうな子が友人(出席番号が近い者同士が多い)と共に来なくなって、勿体ないなと思います。どれだけ多くの若者が自分の可能性を知らずに閉じていることでしょうね。

 

第359号:院落ち学生の対応で感じる採用担当者の資質

出張で新幹線に乗り、車窓から黄金色の稲穂を見ると、日本列島もようやく秋らしくなってきたと感じます。そして、この時期は大学院試験の結果が出て、採用担当者にとっては「落ち穂拾い」の季節です。今年もまた真っ青になって駆け込んでくる学生達を有志の企業にご紹介していますが、企業のまちまちな対応をみていると、何となく採用担当者の「資質」を感じることがあります。

企業に追加募集の可能性を電話で問い合わせてみると次の3パターンが多いです。

1.即答で「今年度はもう終了したので関心ありません。」

⇒大企業で10月1日の内定式を前に人員を確定している。

2.即答で「是非、紹介して下さい。すぐに会います。」

⇒新興企業で退職者が多く、年中採用活動をしている。

3.迷いながら「どんな学生さんですか?と質問してくる。」

⇒中堅企業やBtoB系で知名度が低く、内定辞退に悩まされている。

勿論、院落ち学生に紹介したくなるのは3番目のパターンの企業です。1番目はとりつく島もなくお願いするのも時間の無駄です。2番目は紹介しやすいですがブラック的な企業の可能性もあります。

3番目のように質問してくる企業採用担当者には、こんな心理が働いています。

「もう欠員はわずかだけど、専攻学部は合うかなあ。」

「営業部員が欲しいけどコミュニケーション力はあるかなあ。」

「内定式も近いけど、間に合うかなあ。」

「応募者1名だと役員面接は設定しにくいなあ。」

上記のように、応募者の資質だけでなく、選考手続きの設定の「面倒くささ」も感じるのです。

 

ということで、私が採用担当者の資質として感じるのは、この「面倒くさいことをやる人」かどうかという点ですが、これはどんな仕事についても言えることかもしれません。世の中で100%成功する仕事とは時給で支払われるアルバイトのようなものです。しかし学生もやりたがる「企画」という仕事には常に可能性という課題があり、これを高める力のある人が資質のある人です。

3番目の「ご縁があるかわかりませんが、とりあえず会ってみましょう」という対応をしてくれる採用担当者は、まず自分で動いて可能性を判断し、会ってみて良さそうだと感じたら社内の調整を進めます。地味な仕事で小さな企画かもしれませんが、こういう人はマメな性格で着実に成果を上げるタイプで、いわゆるコンピテンシーのある方です。

「予算がないから」「時間がないから」「人手がないから」等のできない理由が先に立ち、面倒くさいことをやらない人は、比較的大手企業に多いです。個人の力より企業の力で仕事を進めることが可能ですから。これまで多くの企業採用担当者の方々にお目にかかりましたが、デキル採用担当者は中堅企業に多かったのは、もしかすると十分でない環境だから育ったのかもしれませんね。

第358号:若者の東京一極集中と首都圏大学入学者抑制

周知の通り、東京23区の大学新増設抑制がニュースになっています。首都圏への若者の集中抑止のために、大学定員で対処しようという政策ですが、全国知事会でも賛否両論になりもめにもめています。奇遇にも、私が今春、修了した大学院の研究ではこのテーマを扱っていたのですが、今回の政策にはまったく教育的な視点が抜け落ちており、目が点になりました。

私の在籍していた法政大学院政策創造研究科は、地方再生を主な研究領域としており、指導教官だった小峰隆夫教授(現大正大学)は、元内閣府官僚で経済白書を書かれておりました。大学院では人口問題と地方再生を研究され、「人口オーナス」という就労人口構成比の変化(労働人口が減って社会負担が大きくなる)に警鐘を鳴らしておられました。
そのゼミに所属していた私は『人口オーナス下における大学教育の課題と産学間の人材ミスマッチの実証研究』という修論をまとめたのですが、以下のようなロジックです。

1.人口オーナスは大学生数にも影響を出し始めた

⇒郊外、小型、教養系が過疎化になり、大都市、大規模、実務系の大学に集中する。

2.過疎化になる大学が学生を惹きつける王道はカリキュラム改革である

⇒しかし大学教育と就業力とには認知差があるので摺り合わせが求められる。

3.大学と企業の連携には双方の意識改革&行動が必要である

⇒大学はアクティブラーニングを強化、企業(社会)はインターンシップを改善すべき。

この論文を書いている最中に、政府の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が改訂され、大都市圏への若者集中を是正する政策が打ち出されはじめました(昨年12月改訂)。その中には「地方創生インターンシップ」など、教育的な配慮が盛り込まれておりますが、今回の文科省の動きは、内閣から言われたので(不本意ながら無思慮に)動いたと感じさせ、これでは過去の事務次官と同じです。

この問題は簡単に結論を出せるものではありませんが、今週おめにかかった福岡県の優良中小企業の社長のコメントを紹介してヒントとしたいと思います。

旧帝大といっても地元しか知らない人はまったく使えません。学生のうちに一度、東京に行って戻ってきた学生の方が欲しいです。我々の市場はもはや国内だけではないのですから。」

このコメントは、世界中に大きな影響を与えた神話学者キャンベルの書いた『千の顔を持つ英雄』を思い出させます。英雄は地元を旅立ち、異国で何事かをなして地元に戻る。世界中の神話に登場する英雄に共通の行動パターンです。若者を地元の英雄にするために、単なる数あわせの人口調整ではなく、しっかりした教育方針を踏まえた政策を望みたいですね。

 

▼参考URL:千の顔を持つ英雄(ジョーゼフ・キャンベル)

https://www.amazon.co.jp/dp/4150504520

▼参考URL:大学をどう変える(下) 強みを伸ばし自ら将来像描こう(日本経済新聞)

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO20183070Q7A820C1PE8000/

第357号:オープンキャンパスで感じる校風と求められる人材

前回に続いてオープンキャンパスについて書きたいと思います。いくつかの大学を回って学生と話してみると各校の校風が見えて勉強になります。教職員の方の説明会や模擬授業にも参加してみましたが、やはり説明には大きな違いがあると感じました。それは大学が大事にしている「教養」の差なのかもしれません。

 

大学では学生の引率するキャンパスツアーにも参加してみました。どちらの大学も30~40分の行程でキャンパスの施設や歴史を解説してくれますが、この説明の仕方に違いがあって面白かったです。

 

ある高偏差値大学でのツアーでは、担当学生が理路整然に時間通りきっちり説明してくれましたが、この説明の仕方が教員の説明とよく似ていたのです。ちょっと残念だったのは、これも教員と似ていましたが、質疑応答などの参加者とコミュニケーションが殆どなかったことです。大学予備校の夏期講習ではありませんが、知識を一方的に詰め込まれた印象です。

 

それとは真逆だったのが中偏差値大学で、こちらの学生はツアーの最中にクイズを入れたり自分の体験を話したり、来客を楽しませるところを重視しているようでした。その大学で別の学生のツアーも横目で見たり、この大学教員の説明も聴いてみたりしましたが、同様に個性を前面に出しているように感じました。

 

面白いもので、その大学の教職員や学生は気づいていませんが、知らぬ間に校風が組織メンバーの言動に現れているのですね。これは企業の社風でも同じことが言えます。だから就職セミナーで学生が最近、よく質問する「御社の社風は?」はなかなか答えにくいものなのです。

 

さて、上記の二大学について、どちらが就職しやすいかというのは難しいです。専門性(知識)を重視するか、人間性(相性)を重視するか、最近の人事戦略用語でいえば、ジョブ型雇用かメンバーシップ型雇用か。両方あるにこしたことはありませんが、就職実績を比較してみると、それぞれを重視する分野に進んでいるように思えます。

 

こうしてみると、オープンキャンパスから見えてくるものは、大学の雰囲気だけではなく、社会に排出する人材タイプもあるのでしょう。それはきっと企業採用担当者にも有用な情報です。

 

実は今シーズン、知り合いの企業人事部長から「実は私の子供が来年、大学受験なのでオープンキャンパスに行ってみたいのですが・・・」という相談がありましたので、法政大学で案内しました。日頃、厳しく人を見る目から親御さんの優しい目になり、昔はなかったオープンキャンパスの場で子供のように目を輝かせておられましたが、学生の説明を聴き終わった途端、「君、良かったらうちに来ない?」と人事部長の目に戻ってダイレクトリクルーティングしていました。

 

こんな風にオープンキャンパスは、企業採用担当者への良い広報の場にもなれるかもしれませんね。

 

第356号:オープンキャンパスと1DAYインターンシップ

暑中お見舞い申し上げます。日本列島各地では台風災害に猛暑と大変ですね。

さて、企業ではインターンシップが、大学ではオープンキャンパスが花盛りです。これらは良く似ていて、どちらも来場者を如何に引きつけるかに工夫&苦労しています。私も毎年、保護者向けにキャリア教育のセミナーを行っているのですが、内容を考えていると採用担当者の気分がよみがえります。

 

オープンキャンパスと似ているのは、インターンシップでも1DAYのもので、本来のインターンシップとは異なりますが、オープンキャンパスの模擬授業のように短時間の仕事経験を設定したり、在校生が高校生と話すように社員との対談やディスカッションを行ったり、教員が講義をするように社員が講演をしたりします。その際に、私が心掛けていたことは以下の3点です。

 

1.良いこと(自慢話)だけを話さない

2.来場者とコミュニケーション(質疑応答)をする

3.他社の動向もみて自社のオリジナリティをしっかり考える

 

採用広報では、優秀な人材ほどうますぎる話にはのらず慎重です。なので、高偏差値の大学生にはあえて仕事の大変なところを話します。これは大学が高偏差値の高校生をターゲットにするのと同じです。

ちなみに人事採用担当者は総務広報担当者とそりが合わないこともあります。採用担当者はRJP(リアリスティック・ジョブ・プレビュー)を伝えたいのでトラブルも貴重な経験と考えますが、広報担当者は企業の全般的なイメージ向上を考えますので、ネガティブな表現にはうるさいです。

 

来場者の入社意欲を高めるためには、イベントへの参画意識をそそることです。経営ゲームのようなグループワークを行ったり、セミナーでも必ず質疑応答(コミュニケーション)を取り入れたりします。質問が出ない場合でもそのままにせず、好奇心をひく問いかけをしながら質問や関心を引き出します。志望動機とは、来場者だけが作るものではありません。喚起して一緒に作り出すものです。

 

最後に、採用担当者は意外と他社のことを知りません。大学の合同説明会等でご一緒しないと、自社のアピールポイントだと思っていたことが、どの企業でも当たり前だということに気づけないのです。同様に、最近は大学生がオープンキャンパスに参加して大活躍していますが、彼らは意外と自大学の強みや弱みを知りません。企画担当の学生には改めて他大学のオープンキャンパス偵察を勧めたいです。

 

ところで企業では、オープンキャンパスのように組織全体をあげての大規模な広報活動はできません。しかし、これから人材の獲得は益々大変になりますし政府が一億総活躍社会を標榜するのなら、「オープンカンパニーの日」という祝日を作ったら良いかもしれません。社員の家族を会社に招待してパーティー等を行う企業もありますが、そうした中にオープンに大学生も入れてあげれば良いのです。大学生は社会人との交流に飢えていますし、社会人もまた若者との触れ合いを楽しめるはずです。こうした機会が多くあれば、学生の仕事へのミスマッチも減り、好奇心と行動力も高まるのではと思います。

大学と企業、似た課題を抱えているのですから、良い協力関係ができると良いですね。

 

第355号:「自主性」と「主体性」の違いを問われたら

エントリーシートや面接では、時々、これは何を知りたいんだろう?と思わされる質問を見かけることがあります。最近、学生から聞いたのは「自主性と主体性の違い」でした。これを聞いて応募者の何を知りたいんだろう?これを聞いたところで実証できるのだろうか?と思いました。

とある企業コンサルタントの論では、以下の様に述べられています。

自主性」⇒予め明確にされている課題を(他者に言われなくても)進んでやること。

主体性」⇒目標が明確でなくても自分で考え判断して取り組むこと。

上記では目標設定の有無を判断基準にしています。となると、自主性より主体性の方が上位のようですね。説によっては、自主性が基本で主体性が応用とも述べられています(自主性を身につけた人が主体性を発揮できる等)。

さて、この論に従うとして、それをそのまま面接で学生に問うことで何がわかるでしょうか?経営学のリーダーシップ論の期末試験ならともかく、そうしたピンポイントの質問は単なる知識の有無で、採用担当者の自己満足になるおそれがあります。面接の前にちょっと本屋で見知って受け売り回答できれば、採用担当者の覚えはめでたく「ういやつじゃ!」と(一次選考は)合格するかもしれません。

しかし、結局それは採用担当者が好きなフレーズを知っているかどうかの評価に過ぎません。本当に自主性や主体性を持っているかを見極めるのなら、そうした実績を聞き出すコンピテンシー面接を行う、発揮能力を見るグループワークを行う等で測定するべきでしょう。採用担当者が評価軸の定義(基準)に「自主性」と「主体性」をもつのはなんら問題ありません。しかし、その基準をどんな選考手法で測定するかをもってなければ意味がありません。

誰でも、知ったばかりの知識は使いたくなるものです。例えば、コーチングを習った面接者は「あなたの今の気分は何色ですか?」と聞いて、その色の説明をさせることがあります。これは自己理解のワークで定番の質問で、緊張しやすい応募者をほぐしてみるとか、発想力をみるとか、用意してない回答を見たい等の意図をもってなされるのなら良いですが、そうでなければ単なる面接者の自己満足になってしまいます。そして、一番、恐ろしいのは採用担当者ご自身がそこに気づいていないことです。

まあ現実、こんな問題に直面したら、正解を当てるのではなく「曖昧ですが~」「私見ですが~」と持論を展開できれば良いと思います。説教が好きな採用担当者はきっと解説してくれるので、その反応を見ながら「なるほど~」と共感を見せればきっと結果もついてくることでしょう。そうした対人スキルは社会でも有用ですし、大学の期末試験でヤマが外れても諦めずに発揮して欲しい能力です。

第354号:最新と言われる中小企業の採用手法

大手企業の採用活動は峠を越えましたが、中小企業の方はまだまだです。私の授業では、企業人事の方を招いて学生のプレゼンテーションを評価して戴いておりますが、今週も2社ほどおこし戴きました。両者とも優良中堅企業にも関わらず採用充足率は50%ということで、内定は出しているものの辞退率が高いそうです。そこで、これまでの手法を見直して、新しい採用活動を検討しはじめています。

 

大企業と中小企業の採用格差現象は何時の時代にもあるものですが、構造的に売り手市場になったので学生の大企業指向は以前より強くなり、ますます格差が広がっています。こうした状況下で、以下のような戦略に基づいた中小企業のユニークなダイレクトリクルーティングが流行っています。

 

・応募者に多くを求めず、一つだけ求める。(求める基準の一点集中明確化)

・面白く応募しやすいキャッチコピーで引きつける。(応募ハードルを下げる)

・社員との交流を増やし、人的魅力で引きつける。(個人体験で応募意欲を上げる)

 

要は、ピンポイントで濃い小集団を形成するわけですが、ちょっとネット検索すると百花繚乱に出てきます(こういう時こそ、まとめサイトが便利です)。以下はここで紹介したものもありますが、ますます増殖しています。

 

・麻雀採用(スターティア)

・変態×真面目採用(ピーススタイル)

・終わケド選考(電通)

・顔採用(東急エージェンシー)

・面接ナシ選考(エニッシュ)

・29品のふぐ採用(東京一番フーズ)

・日本一短いES(三幸製菓)

・受験料制度(ドワンゴ)

・卒論/卒制採用(チームラボ)

 

これらを俯瞰してみると、他社のやらないこと、業界初のことを宣伝にして耳目を集める手法は昔と同じで、とりあえず来て貰う集団形成を重視しています。なので、こうした手法は単年度で終わるものが多いですが、逆に手法(選考基準)としても意味があるものは継続して実施されています。

もう一つの傾向は、大学生を対象としていますが、大学の勉強は(卒論採用等を除き)重視していない点です。こうなると大学生としての意義は、大学進学できる身分(家庭の財務状況)を見るくらいになってしまいますが、大衆化時代の大学という場が社会から新たな意義を求められてきたともいえます。今の採用責任者は「大学はレジャーランド」と呼ばれた世代になってきましたしね。

 

▼参考URL:「【ちょっと変わった】面白い選考方法取り入れている会社【就活】」(NAVER まとめ)

https://matome.naver.jp/odai/2132949328677520401

 

第353号:インターンシップで求められるスキル

時節柄、3年生の夏のインターンシップに向けた指導でお忙しいことでしょう。インターンシップを実質的な採用母集団形成に活用する企業も増えているので、4年生の就活相談を行いながら進めるのは大変ですね。私もこの時期は「インターンシップの心構え」というセミナー依頼が多いです。既に各校で定番のプログラムになっておりますが、私が採用担当者と大学教育者の両方の目線で話していることをご紹介したいと思います。

まず、インターンシップとは大学と社会を切り離して理解するのではなく、自らの意志で大学研究と社会の関係を意味づけできる能力の育成と機会の提供です。例えば、定番のビジネスマナーにおいても、挨拶や敬語や名刺の渡し方だけにとどめてはいけません。ビジネスマナーとは自分と相手の時間を大事にして「効率」を求めることと理解して、的確迅速に自分の考えを相手に伝えることも含めます。それは大学でのコメントペーパーの記入、レポート作成、課題発表での質疑応答、グループ・ディスカッションでも同様に求められることです。そして、社会で求められる力(インターンシップで実行している目標)として、以下の7つを教えています。

傾聴力 ⇒相手の信頼を得る力

質問力 ⇒相手から情報を得る力

記録力 ⇒書き留める習慣の力

実践力 ⇒マルチタスク&リアルタイム

分析力 ⇒問題や構造を理解する力

説明力 ⇒論理的に話し、納得して貰う力

楽観力 ⇒悲観は気分、楽観は意志

どれも一般的なことで説明不要でしょうが、これらは以下の2点を踏まえて指導することが大事です。これを忘れると「わかったつもり」になりがちです。

1.一般的な言葉は意味の幅が広いので、認知差が発生しないように注意する

2.それぞれの能力の自己鍛錬方法(現場での実行方法)まで教え込む

例えば「傾聴力」は本来カウンセリング等での専門用語でしたが、「報連相」と同様に今では学生も自己PRによく使います。しかし、カウンセリングのトレーニングを受けた方にはおわかりの通り、「傾聴力」は単に黙って聞くのではなく、相手を話しやすくする技術です(なかなか大変ですよね)。「分析力」は一定の基準(時間・空間)で構造を明らかにすることです。これらは大学での論文作成や討議にも必須のスキルであり視点です。

このように「インターンシップの心構え」を精神論で終わらせず技術論に落とし込むと、学生の成果も上がりやすいでしょうし、後の達成評価もやりやすくなります。この夏休みに、多くの学生が社会の中で大学の学びを再認識してくれると良いですね。