リクルートキャリア社の内定辞退者予測サービス事件について、去る12月4日に内閣府外局の個人情報保護委員会が、リクルート社及びリクルートキャリア社と利用者であるクライアント企業35社に対して行政指導を行ったとの広報がありました。更に11日には、厚生労働省からは職業安定法による行政指導も行われました。この発表で実名が明らかになった企業には猛省を促したいところです。こんな裏技を使わなくても、内定者をフォローする方法はいくらでもあったことでしょう。
採用選考中で内定辞退可能性の高い応募者をスクリーニング(排除)する手法と、内定後に辞退防止のフォロー(確保)をする手法とは似て非なるものがあります。余程の有名企業でない限り前者に手を出すところは少ないと思いますが、某有名企業の採用担当者は「当社では役員面接に第一志望でない学生を招いたら大変なことになる」とトップの顔色に恐々としていました。そうした企業がこのサービスに手を出したのかもしれませんが、当該企業の殆どが「採用選考には使っていません」と口を揃えて述べています(どこまで信用できるか調べようもありませんが)。
一方で、内定した学生をフォローするのは採用担当者にとって重要な仕事です。米国ではリテンション(確保)という名で以前から行われていて、日本でも昔から内定者懇親会等、様々な施策が行われていましたが、本格的な業務として取り組まれてきたのはこの10年位かと思います。
私が企業時代に行っていたのは、内定者向け社会人研修です。社会人になったら必要な労働法や経理の知識、会社独特の文化を教える経営セミナーや、社内TOEIC試験への無償参加等を行っておりました。狙っていたのは学習効果より、社員と内定者との接触機会を増やして入社前の不安を消し、企業の実力を教えて入社意欲を高めることでした。そうした濃いコミュニケーションを通じて、内定者の辞退可能性を見極めていたのです。内定者向け企画は自由参加にしておりましたが、わかりやすいもので、内定辞退確率と企画参加率はほぼ比例しておりました。
人事仲間の他企業では、内定者に入社まで一定の奨学金(毎月5万円程度)を支給していました。その企画を始めたキッカケは、勉強不足で卒業できず内定取消せざるを得なかった学生がいたことです。内定後にアルバイトに没頭しすぎて大学の勉強を甘くみていたそうで、奨学金支給の条件にはアルバイトを止めて勉強に集中すること、とされておりました。無事に入社できたら奨学金は返済不要にしていましたが、そのため内定辞退する学生は確実にこの奨学金の受け取りを辞退していたそうです。
少子化の現在、この内定者奨学金を導入する企業が増えて来ています。その狙いや内容は、多くの大学生が抱えている大学授業料奨学金の返済を支援したり、福利厚生の一環として行ったり様々です。変な裏技企画に手を出すよりも、こうした施策に知恵を出して取り組んでほしいものですね。学生にも感謝されますし、何より採用担当者の精神衛生上にも有用です。
▼参考URL:
「株式会社リクルートキャリアに対する勧告等について」2019/12/4(個人情報保護委員会)
https://www.ppc.go.jp/news/press/2019/20191204/
「リクナビ「内定辞退率」問題、りそなHD、京セラなど利用企業にも行政指導などの方針」
2019/12/4(山本一郎氏:Yahooニュース)
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20191204-00153610/
「内定期間中もiPad貸出」(株式会社武蔵野 福利厚生)
https://recruit.musashino.co.jp/working/welfare/