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第262号:ブラック企業が生まれる背景

「ブラック企業」が流行語になってきましたね。その実態や定義が曖昧なので、私はあまり気にしておりませんでした(最近話題になった「ブラック企業大賞」がネットニュース上ではエンターテイメントのコーナーに分類されていたのは苦笑しました)。しかし、厚労省が来月4000社に立ち入り調査を行うとまで聞いて、人事の視点から少し考えてみました。

 

ブラック企業というのは、文献やネット上での定量的判断としては残業時間・離職率・有給休暇取得率等を目安にしているようですが、指摘されている企業の特長を定性(業界研究)的にみてみると以下の点が共通に見受けられると思います。

1.BtoC企業(一般消費者向けビジネス)

2.急成長業界(企業)で大規模化

3.カリスマ(ワンマン)型経営者

4.社員の能力開発投資が少ない

5.少数正社員+多数非正規社員

6.仕事の発展性(専門性)が低い

 

いわゆる労働収益型産業に多く見られる傾向ですね。これらの特長を備えていても立派な企業は数多くあります。しかし、規模が大きくなり従業員が増えるほど、ブラック企業と問われるリスクは高まります。企業にとって恐ろしいことは、数万人規模の企業でも、たった一人が労働災害にあえば、それだけである日突然、ブラック企業にされてしまう可能性があることです。ネット社会になったいま、人の意識も情報の流れ方も大きく変わり、それがまたブラック企業論議を増やす背景になっていますから。

 

正社員中心の日本型雇用慣行を行ってきた企業では、そのような事態にならないように管理者には指導教育をしてきました。それがブラック企業への防止策です。しかし、急速に非正規労働者を導入して拡大してきた企業では、体制構築が企業の成長(膨張?)に追いつかないことがままあります。急速な人員ニーズ⇒非正規社員の増加⇒企業の教育不足⇒労働災害⇒ネット社会での情報拡散というブラック企業生産の公式に陥ります。

 

ここまで書いてきたところで、この話題に当てはまりそうなニュースが飛び込んできました。「秋田書店のプレゼント未発送事件」です。ことの真相はまだまったくわかりませんが、果たしてブラックなのは企業の方なのか、社員の方なのか?注視して参りましょう。

 

*参考URL

▼秋田書店・景品水増し:不正訴えた社員解雇(毎日新聞)

http://mainichi.jp/select/news/20130821dde041040005000c.html

▼不当景品類及び不当表示防止法第6条の規定に基づく措置命令について(秋田書店)

http://www.akitashoten.co.jp/news/200

▼【社告】毎日新聞の報道に対する弊社の見解について(秋田書店)

http://www.akitashoten.co.jp/news/201

第261号:エイベックスの新卒一括採用中止は仰天か?

少し前にエイベックス社が新卒一括採用を中止して、自社独自の採用方式を行うと報道されました。メディアの一部では「仰天」採用、新卒一括採用の崩壊等、注目していたようですが、私にはごく当たり前のことで、何が「仰天」なのかがわかりません。改めて思うのは「新卒一括採用」の理解とは凄く難しいことなんだなあ、ということです。

 

私がこの方式が「仰天」にはあたらないと申し上げるのは、以下の理由からです。

「新卒一括採用」は、

1.日本全体の雇用からみれば、大企業だけの特殊な方式である。

2.過去の流れからみれば、相当に変化が激しい。

3.特定の産業には不向きな方式である。

 

周知の通り、世の中の殆どの企業は中小企業であり、新卒一括採用を行っている大企業は全体の1%にも満たないです。その1%の大企業に大学生の過半数が応募しているというのは、この10年間の情報技術の発展が可能ならしめたことです。そして、その応募者の殆どが不採用になっていることに疑問を持たずに毎年継続されているということの方が仰天です。(結果、大学・学生・企業が疲弊する。)

 

新卒一括採用は、少し長い目で見れば、相当に変化をしています。例えば就職活動の解禁繰り下げについて3年生の3月1日以降にするという最近の決定も、1980年代の解禁日は4年生の10月1日でもっともっと遅かったですし、更に遡って1970年代となると、今と同じく3年生の秋から開始されていました。他にも「指定校制度」の廃止等、仰天する出来事は多かったです。

 

また、新卒一括採用など最初から気にしていない特定の産業があります。この代表がマスコミ業界、新興ベンチャー企業等で、エイベックス社もその範疇です。創業20年の同社は、新卒採用を16年前から行ってきたそうですが、それは新卒一括採用が現在のように相当に産業化されてからの参入で、採用規模も20名程度ですし中途採用の方が中心です。

 

こうした背景の中でエイベックス社が「今の」新卒一括採用に疑問をもつのは当然のことであり、私から見れば本来の姿に戻ったという印象です。年初に話題になった、岩波書店の縁故採用重視主義と同様のルネッサンスのようなものです。岩波書店が採用方式を変えたのは、ネット環境の進化による無理解な応募者の急増によるもので、エイベックス社の動きと同じです。その変更方式を、大々的にやるのか、内々でやるのかには、2社の業界・社風の違いはありますが。

 

実は私も音楽業界に関心があり、4年生の夏からは有名なレコード会社に入りこみ、モニター活動に精を出していました。給料は貰えませんが、新人アーティストの広報活動のお手伝いなどをさせて貰いました。今ならまさに「インターンシップ」ですね。それによって、殆どの若者(大学生とは限りませんでした)は、「この業界は仕事にしない方がいいや」と判断して趣味と割り切りましたが、ごく少数の者は、そのままその業界に就職しました。エイベックス社の創業者がまだ大学生になる前の時代ですが、やっと同社もそうした原点に辿り着いたようですね。

第260号:教材ビデオの「ねじれ理解」

春学期(前期)の授業が終了しました。私が法政大学で手掛けている教材ビデオは、お陰様で今期も好評に終えることができました。この2年間で学内外の大学生、約5000人が受講しました。これだけの学生の受講感想を見ていると、想定外の「ねじれ理解」をしていることもあります。それは大事な指導ポイントでもあります。

 

教材ビデオは、実際の仕事の現場でおきた事例をモデルにして制作しておりますが、主人公クラスはプロの俳優の方にお願いして再現しています。ビデオを視聴した学生の感想で良く出てくるのは以下のようなものです。

 

「こんな優しい上司はいない」

「私のアルバイトの店長は指導なんかしてくれない」

「これはドラマだ(現実とは違う)」

 

こうした学生の感想を聴くと、確かにそのとおりだと思いがちですが、実はここに「ねじれ理解」が潜んでいるのです。というのは、殆どの学生は企業内での実際の上司が部下を指導する場面を見たことがありません。それなのにどうして上記のような感想が出てくるのでしょう?それは、学生の理解の根拠が、漫画やTVによるものだからです。私も多くのトレンディ・ドラマを楽しんでいますが、その中で企業の仕事を扱ったものは非現実的なことがよくわかります。なので、学生とは逆に「こんな酷い上司はいない」と思うことの方が多いです。私が恵まれた職場に居たからかもしれませんが、多くの企業の採用担当者を見ていても同様に感じます(だからドラマは面白いのですが)。

 

また、アルバイト店長という現実での学生の上司の場合、そうした上司(店長)も多くは非正規社員であり、部下の指導方法や育て方などのトレーニングも受けておりません。短期間に作業を行わせる作業効率中心の指導はしますが、それは正社員を長期に育成するようなものではありません。私も長年、社員研修や指導員をやってきましたが、新入社員にはあえて限界を超えるような仕事量を与えたり、未知の仕事をさせてみたり、わざと失敗から学ばせる経験をもたせます。

 

ところが、こうした(正社員の)上司と部下の指導関係を見たことのない学生にとっては、非現実的な上司を現実と思い、現実的な上司を非現実と思い込む「ねじれ理解」になっているのです。

 

これは民間企業で働いたことのない教職員の方には気づきにくい点かもしれません。しかし、学生が物事を判断する時に、その判断の根拠となる事実がオリジナル(一次情報)によるものなのか、誰かの価値観の入った伝聞操作(二次)情報であるのかは指導できると思います。大学で学ぶアカデミック・スキルは、そのまま社会でも就職活動でも活きるのです。国会のねじれ現象も片付いたようですので、学生の意識のねじれも解消してあげたいものです。

 

第259号:産学連携から「産学連続」へ

文科省事業の「就業力GP」については皆様の記憶に新しいと思います。2010年から5カ年の予定で開始された事業ですが、当時の民社党政権による事業仕分けで、わずか1年で廃止になってしまいました。その後を受け継いだ「産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」で継続的に取り組んでいる大学は約100校になりますが、法政大学もその1つです。来る8月5日(月)に公開シンポジウムを開催し、我々の活動報告を行います。企業、大学関係の方々と多くの意見交換できればと思います。

 

私が法政大学で取り組んできたテーマは、「産学連続教育」です。産学連携から更に一歩踏み込んで、大学と企業で協働した人材教育のプログラム開発のことですが、具体的には、以下のようなものです。

 

1.大学授業と企業研修で共通に使える教材の開発

2.大学の能力評価と企業の採用選考で共通に使える基準の開発

3.上記活動を共通の財政支出で開発

 

例えば、このメルマガでもご紹介してきた教材ビデオは、企業のケーススタディを戴くだけではなく、その教材の人材育成にも使用できるように上位バージョンを作成しました。法政で開発したアセスメント・ツールについても、そのまま企業の一次選考に使用できるものにしました(大学側の視点で言えば、能力指標付の新しい学校推薦です)。そして、これらを開発するための予算も、文科省の補助金だけではなく、協働企業にもご負担戴くことができました。シンポジウムでは、実際にこのプログラムに参画戴いた企業人事の方からのコメントも戴きます。

 

そして、私が「連続」という言葉に込めた想いは、この文科省事業が終了しても継続できる「体制」

の開発です。この2年間をかけて開発してきたプログラムはある程度の形になりましたが、これからの2年間はこのノウハウを多くの企業・大学の方々とシェアしていくことです。国の事業は往々にして予算が切れた時点できれいに消滅してしまいます。そうした前例を打破した「連続事業」にしたいと思っています。それはきっと、大学教職員と企業採用担当者の深く良い関係にもなると思うのです。

 

以下、参考サイトURL:

▼「働くチカラ」シンポジウム(8月5日)⇒どなたでも参加できます。

http://3dep.hosei.ac.jp/event/details/2013/07/04/id2716

▼「新作教材ビデオ」ワークショップ(7月19日)⇒教職員向けです。

http://3dep.hosei.ac.jp/event/details/2013/06/27/id2649

*ビデオワークショップにご参加の方には新作教材ビデオを差し上げます。

 

第258号:できない採用担当者とできない上司の共通点

採用担当者というのはとても危ない仕事だと思うことがあります。世間を良く知らない若者に対して、自分も一部の社会(会社)しか知らないのに、「最近の若者は・・・」「企業の求めるのは・・・」と偉そうに語ってしまったり、採用面接で大勢の若者を評価しているうちに自分は「人を見極められるプロ」と思ってしまったり。確かに採用のプロには違いありませんが、できるプロかできないプロかは、自分ではなかなか気付けません。

 

先日、馴染みの採用コンサルタントから、最近のお客さまから良く聞くという嘆きを伺いました。

「いまの学生は面接もグループ・ディスカッションもしっかり対策してくるから困る。就活テクニックを教えるようなキャリア教育なんかやらない方が良い。」

採用担当者から大学非常勤講師なった私に向けて言われているような気がしましたが、それはさておき、このセリフから私が感じたのは、多くの採用担当者は大学で学ぶアカデミック・スキルを学んでこなかったんだなあ、ということです。

 

私が大学で教えているのは、社会で通用する力は大学の勉強からも身につけられる、ということです。面接における論理的な構成の立て方、わかりやすいプレゼンテーション、討議の進め方、発想を引き出す手法、人を動かすためのコミュニケーションスキル、そして、未知の問題に向き合う根性。

いつも学生に伝えているのは、就職という未知の課題に対して迷ったり立ち往生するようでは、大学での学びは十分とはいえない、ということです。

 

一般に、採用担当者は面接で聞かれる質問や、グループ・ディスカッションのテーマを事前に知られることを嫌います。それは、応募者を公平に扱いたい(先に来ても後に来ても同じ条件にしたい)という気持ちと同時に、ネタがばれると選別できないという心理が隠れていることがあります。つまり、上述の採用担当者の嘆きは、アカデミックスキルの発揮による回答と、単なるネタバレの回答とを区別できていない、ということです。ちゃんと解決しようとする採用担当者はコンピテンシー面接等で、事実を中心に聴きだし、面接の順番や話し方だけでは左右されないような対策を考えます。

 

今春の麻布高校の入試問題で「ドラえもんが生物ではない理由を述べよ」という設問が話題になりました。一般の評価は分かれていますが、この設問の本来の狙いは、学んだことを総合・統合して回答に導く応用力だと思います。「どう答えれば良いのですか?」という生徒ではなく、「こう考えれば良いのではないですか?」という学生を求めているのでしょう。(採用面接でも試してみたいです。)

 

採用担当者がこうしたことを考えた上で選考をするのなら良いのですが、ネタバレを恐れる、つまり自分だけ正解・情報をもっていて優位に立とうとするなら、それはできる新人に対して情報の有無だけで偉そうにしている上司と同じことなのです。採用というのは大変苦労する因果な仕事ですが、無数の若者を選考しているうちに、「裸の王様」にならないよう、気をつけたいものです。

 

第257号:ターゲット採用の会社側の事情

最近のメディアでは「企業はターゲット採用を強めている」という文言を目にします。私が人事部に初めて異動したとき(1990年前半)、先輩から「ターゲット校はここと、ここ!」と言われました。私の就職活動時代はまだ「指定校制度」というのが世間一般に言われていましたので、まあ、うまい言い方があるものだ、と感心したものです。このターゲット採用の設定について、現場をみてみましょう。

 

「ターゲット校」という言い方は、特定の大学だけを相手にする「指定校」とは違って、採用担当者の気分も楽です。何処の大学でも応募できる窓口はそのままで、積極的にお伺いする大学を絞るわけですから。カタカナになっているのも何やらカッコ良い感じがしますね。

 

ターゲット採用の正体を会社側の事情で見てみると、それは採用予算の大きさです。どんな企業にも、ヒト・モノ・カネの予算には限界があります。ターゲット採用は、その限られた予算を何処にどのように振り向けるか、です。ターゲット大学がとても広いのは、やはり予算が大きくて、かつ以下のような特色のある企業でしょう。

 

・従業員が1万人以上いる企業

・人事部員以外のリクルーターを動員できる企業

・学生を将来のターゲット顧客と想定しているBtoC系企業

 

そうでない多くの企業では、もっとも効果の高いと思われるところに重点的に予算を振り向けるわけですが、ターゲットの設定にはいろいろな考え方があります。かつての郵送によるダイレクトメールの送付先をイメージすればわかりやすいでしょう。大学優先か、学部優先か、です。前者は「ターゲット大学」を決めたらその大学の学部に優先順位を付けてアプローチします。後者は「ターゲット学部」を決めて、次に大学毎にアプローチします。

 

このどちらを選ぶかは、なかなか悩ましい問題です。「地頭」は良さそうだけど、戦力になるのは少し時間がかかりそうな学生と、「専門性」はピッタリしているけれど、将来的に伸びて行けるかわからない学生と、皆さんならどちらを選ぶでしょうか?

やはりものを言いそうなのは、その企業において、どちらのタイプの社員が社内で活躍しているかです。特に、入社2~3年目の新人は、採用する「ターゲット学生」としてイメージがしやすいので、「××君のようなタイプを探せ!」と良く言われます。

 

ということで、一部の有名大学を除き、皆さんの大学がターゲットになるかどうかは、入社した卒業生の頑張り次第かもしれません。そうした有望な卒業生が、大学にリクルーターとして戻ってくるようになって欲しいものですね。

 

第256号:就活に役立つバイト御三家はホント?

私が法政大学で担当している授業に、1年生対象の「キャリアデザイン入門」があります。文科省の『産業界のニーズに対応した教育改革・充実体制整備事業』の一環として実施されている正課授業ですが、大学生活に慣れてきた学生からよく出てくる質問は、「どんなアルバイトが就活に役立ちますか?」です。雇用が正規・非正規社員に分かれてきた現在では、なかなか難しい質問です。

 

学生の間では、就活に役立つバイトの御三家は、スタバ(スターバックス)、マック(マクド)、ユニクロだそうです。どれも店頭販売系で多くの学生がアルバイト要員として採用されますので、数の上でも御三家というポジションにないやすいのでしょう。しかし、それぞれにかなりスタイルが違います。大雑把ですが、以下のような感じだと思います。

 

・スタバ ⇒対人個別サービス系(マニュアル無しで顧客対応をそれぞれ考える)

・マック ⇒均一販売サービス系(マニュアルに従い、正確迅速に対応する)

・ユニクロ ⇒販売サービス&マネジメント系(販売だけでなく店舗管理も行う)

 

では、これらのバイトが就活(正社員の仕事)に役立つかというと、冒頭に述べた通り、以前と違ってアルバイトからそのまま正社員に採用されるケースは少なくなりました。私が学生の頃からもあったマックのバイトでは、店長レベルまで任されるようになると「このまま就職しないか?」と誘われたものですが、今はそう簡単に正社員にはなれません。

 

こんなことを考えていた先日、法政大学の池永教授(労働市場の二極化等を研究)がネット上に書かれた記事(以下参考URL参照)を見て、ああ、こういう方向に進むのかな、と感じました。この記事によると、日本の労働市場はITの影響によって高賃金労働者と低賃金労働者の二極化が進んでいることと、高賃金労働者の増加は少な目で低賃金労働者は増加していることを指摘しています。ちょっと乱暴な類推ですが、その増加している具体的な仕事が、御三家バイトの形態と似ています。

 

・スタバ ⇒対人個別サービス系 ⇒介護士、ホームヘルパー、保育士

・マック ⇒均一販売サービス系 ⇒販売店員(携帯電話、金融商品等)

・ユニクロ ⇒販売サービス&マネジメント系 ⇒ケア・マネージャー、SE

*ユニクロの店長候補は、ハードワークですが高賃金労働者側に入りそうです。

 

ということで、御三家バイトは、就活に役立つとはいえそうですが、そのままでは就職先はあまり高賃金になりそうもありません。では、将来高賃金に就くことが期待できるバイトはあるのでしょうか?例えば、多くの有名大学生を雇っているカテキョー(家庭教師・塾講師等)系があります。なので、この業界はバイト中の成果を見て優秀な学生を正社員に登用してますね。

勿論、どんなバイトでもやり方によって就活には役立ちますが、同じやるならば、こうしたマクロ経済や賃金構造を見て大学生らしく選択・判断して欲しいものです。

 

▼参考URL:ITの「主人」になるかITの「被害者」になるか(日経ビジネスオンライン)

~日本でも失われる中程度のスキルの仕事~ 法政大学 池永肇恵教授

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130510/247875/?P=1

 

第255号:「グッドラック」と「空飛ぶ広報室」

最近、テレビ番組で就職活動を扱うものが増えてきた気が致します。バラエティ番組のネタに採用担当者が出演するようにもなりましたし、たまに企業の採用広告(CM)も目にすることさえあります。これまでTVというメディアの費用は高額すぎて、採用広報の予算では高値の花でしたので、TV業界は本当に不況でスポンサーがとれないんだなあとも思わされます。そんな背景の中、最近のTVドラマは、だんだんとリアルなものになり、学生の就職活動の参考になるものが増えてきた気がします。

 

学生の就職活動にTVドラマは大きな影響を与えます。2003年にヒットしたANAを舞台にした『Good Luck!!』は視聴率が平均的に30%を越え、航空業界の就職希望者が急増してニュースにまでなりました。このドラマをご覧になった方も居られると思いますが、主人公の設定について著名な人事コンサルタントがキャリアカウンセラー向けの講演で次のような注文をつけていました。

 

「このドラマは面白いが、やはりドラマに過ぎません。大怪我をして再起不能を宣言された主人公のパイロットが奇跡的な回復を見せてカムバックするわけですが、これはキャリアとしては非現実的です。本来ならば、大怪我をした主人公はパイロットを諦め、パーサーとしてのセカンドキャリアに生き甲斐を見出していく・・・、という方が現実のキャリアモデルになるのです。」

 

当時、ちょうどキャリアカウンセラーの資格を取ったばかりの私も、やはりドラマはドラマでキャリア教育や就職指導には使えないなあ、と観客席で思っておりました。しかし、この4月から始まった防衛省とTV局を舞台にした『空とぶ広報室』(奇しくも同放送局の放映)では、このコンサルタントの話を聞いていたかのようなストーリーになっていて驚きました。

このドラマの主人公は、航空自衛隊の戦闘機パイロットとして嘱望されていましたが、不慮の交通事故でパイロットを罷免され、広報室に配置転換になりました。最初は落ちこんでおりましたが、やがて新しい広報の仕事にやり甲斐を見出して前向きに取り組み始めまていくのです。

 

歌やドラマは社会背景を映す鏡ですので、2003年のITバブルの余韻の頃は、誰しも大きな夢を描いていたのかもしれません。『世界に一つだけの花』がヒットしたのもこの頃で、小さくても自分だけの価値観を大事にしていて良かったのでしょう。しかし、それから10年が経ち、書籍『置かれた場所で咲きなさい』がベストセラーになり、こうした現実的なドラマが出てきました。夢のような失われた20年が終わろうとしているのかもしれません。

やっと倫理憲章も見直され、ロート製薬のように、非現実的なネット母集団形成の「とりあえず」採用を止めて、現実的に学生と向きあおう、という企業も出てきました。

 

ということで、この4月からの夢のような就職活動で結果が出なかった学生達にも、これからが現実の就職活動だと思って頑張って欲しいと思います。採用担当者も同じです。有望な学生達に辞退され、現実的な採用活動を継続する企業もあるわけです。現実を見つめるとは、夢を捨てることではありません。現実の中に新たな夢を咲かせるのです。

 

第254号:現場採用担当者の悲哀と不採用通知

企業の「求める人材像」が明確ではない、とは本当に良く言われることですが、採用担当者自身も同じ想いにかられることがあります。それは、自分が良い人材だと思ったのに次の選考者(上司・役員)からダメ出しを受けたときです。自分が否定されたような気がしますが、それは学生が不採用連絡を受けたときと同じ気分でしょうね。

 

まだ採用選考経験の日が浅い面接者ならば、「ああ、そうした点を見なければならないのか!」と自分に欠けている自社の「求める人材像」の理解と受け止められますが、それなりの現場経験をもった面接者にはショックです。自信をもって提出した自分自身の提案が却下されたということですから。

 

選考の初期段階である、基本的な資質(筆記試験、語学力、成績等)の部分であれば、客観性があるので納得できますが、最終選考で役員からダメ出しをうけた時には憤ります。特に近年の最終選考では、以前のような顔見せ確認のように殆ど内定を出すようなものではなく、最終選考でもかなりの応募者が不採用になってきますから。学生も落ちこみますが、現場採用担当者も落ちこみます。

 

これは企業によって異なりますが、最終選考(通常は役員面接)に加わったことのある現場社員は少ないと思います。特に大企業で一次面接だけを担当している若手採用担当者は、直属上司(人事部長・課長)から結果と簡単なコメントを聞かされるだけで、役員がどんな質問をして、どんな評価をしたかを詳しく知らされることは少ないものです。役員から「人間力が弱い」「コミュニケーション力不足」「社風に合わない」と簡単に言われても、正直、社員だってよくわかりませんよね。(役員からのコメントはシンプルなものが多いのです。)

 

上司の説明をむなしく聞きながら、最後に行うのは不採用通知の発送です。内定ならば喜んで電話連絡しますが、不採用連絡を直接話すのは辛いものです。不採用通知を郵送(メール)にしながら、不採用者の応募書類と自分の気持ちを整理します。そんな採用担当者の悲哀が怒りに変わる時があります。それは内定受諾をした学生が辞退した時ですね。その怒りの内容は、辞退者自身の心変わりに対するだけではなく、「コイツが居なければ、俺の一押しのアイツが通ったのに!」と2~3倍になるわけです。

 

ところで、この不採用通知ですが、できれば採用担当者はしたくないと思っています。それは連絡がが面倒くさいということではなく、上記のような理由で、内定辞退者がいつ出るかわからないからです。もし辞退者が出たときに、不採用の連絡をしていない最終選考済の応募者がいたら、すぐに繰り上げて内定連絡ができるからです。だから、たまに最終選考から2~3週間も経ってから内定連絡があった、という事態がおきるわけです。

 

大学と違って、企業で「補欠採用」という手段をとっているところはまずありません。今はだんだん少なくなってきましたが、「選考結果はご縁があった方にのみお伝えします。」という対応の向こうにある採用担当者の状況と気持ちをわかって頂けると有り難いですね。

第253号:倫理憲章に望むたった1つのこと

経団連倫理憲章を見直す意向をみせてくれました。この話題についてまたいろいろな声が聞こえますが、あまり多くのことを倫理憲章に期待しすぎているのではないかと思います。私は倫理憲章に、日本を代表する経営者たちに望むのはたった1つで良いと思います。それは多くの企業がまさにいま新入社員に厳しく指導しているコンプライアンス、「人に迷惑をかけるな!」です。

倫理憲章をちゃんと読めば、そこに謳われているのはすべて「学生・大学に迷惑をかけるな!」ということがわかるはずです。つまり以下の2点です。

1.学生の就職活動の遵法

2.大学の学習環境の尊重

学生に対して不法な採用選考(人権侵害の面接、脅迫まがいの誓約書・不当拘束、 etc.)や、大学の学習環境の侵害(早期化、授業時間中の選考呼び出し、 etc.)をしない、ということです。「学生の便宜をはかる」や、企業側の都合である「採用活動の便宜」は含まれていません。

だから経団連の方がおっしゃる、「活動期間が短くて就職できない学生が出たらどうするのか」、「学生の声は聴いたのか」などは、極端に言えば余計なお世話です。百歩譲って上記の「人に迷惑をかけるな!」をちゃんと守ってから行うべきことです。

中小企業の採用活動にも配慮すべきだ」という企業同士の便宜(これを大企業経営者が本当に思っているのかは疑問です)も企業間の勝手です。中小企業は、大企業の動向が決まれば、それに合わせて対策をたてますし、そもそも大企業と違って1年も前に人員計画は立てにくいです。

新卒一括採用は限界だ」というコンサルタントの方も居られますが、それも上記と同じく、倫理憲章の目的を考えたら的外れです。世の中には新卒一括採用に向いている企業(主に大企業)と向いていない企業(主に中小企業)があるのですから。

外資系に優秀な学生を先に取られるというのも、企業側のご都合です。それが心配なら、何処でも同じような採用活動ではなく、オリジナルの企画すれば良いし、それこそが採用担当者の本業のはずです、

学生の中には「倫理憲章は学生不在だ!」と主張する人が居ます。青年の主張には聞く耳を持ちたいですが、採用担当者として伝えたいことは、以下の2点です。

1.内定する学生は、環境を理由にせずその対応策を考える人が多い。

2.この程度の波風は、社会にでたらいくらでもあるし対応するのが社会人。

ということで、経団連の方には、まず倫理憲章を良く読んで原点を理解して欲しいと思います。学生の就職支援はその後にして頂けるようにお願いしたいものです。