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第302号:大学生による採用活動プロデュース

政治の世界ではありませんが、企業の採用活動も粛々と進んでいるようです。現時点での2016年卒学生の内定率速報では4%程度で例年と同じ位ですが、今シーズンは学生も企業も「先が見えなくて不安だ」という声を耳にします。その不安を消すにはどうするか?それは未来を自分で創ってしまうことです。

 

私の授業でも就活中の受講生から「不安だ」との大合唱を聞かされるので、先日の授業で学生達に伝えました。「そんなに不安なら、どうすれば良いかを皆で考えてみたらどうだ?」というわけで彼らにグループ・ディスカッションをさせてみたところ、面白いアイデアが飛び出してきました。それは、企業の採用活動を自分たちでプロデュースしてしまおう、ということです。

 

彼らのアイデアの元は大学受験でした。内部進学や自己推薦入試等で大学受験が早く決まってしまえば気が楽だという発想で、いつ企業が採用活動をするのかわからないなら、自分たちの都合ではじめてしまえと考えました。大企業の採用担当者からは相手にされないかもしれませんが、倫理憲章に縛られていない企業で採用後ろ倒しに困惑している企業なら話しにのってくれるかもしれない、ということです。ちょうど大学受験にも指定校推薦があるように。

 

実は彼らの企画には布石があって、それはこの3月に終わった文科省のプロジェクト(産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業)です。この補助金事業で法政は、オリジナルのビデオ教材やアセスメントツールを開発して学生に試行してきました。これまでご紹介したように、一部の企業ではこれらを採用広報や内定者研修に活用して戴きました。時には大学の授業におこし戴いて学生とディスカッションを行って評価して戴いたりもしており、こうした経験が、学生のヒントになっています。

 

荒唐無稽な企画で企業に持ち込んでも一笑に付されてしまうかもしれませんが、私はそれでも構わないと思っています。開き直って行動している彼らは、もう不安ではなく未知の世界を自分たちで創造することを楽しんでいますから。不安というのは、仲間との共同作業によって消えていき、逆に期待というワクワク感に変えられ、その過程で精神的にも成長していきます。

 

「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ。」これはパーソナルコンピュータの父といわれる米国の計算機科学者のアラン・ケイが1971年に残した名言です。授業で私がよく学生に伝えている言葉ですが、逆に私も学生に見習ってみたいと思います。今年度の私の課題は、これまで培ってきたプロジェクトの資産を、広く学内外に展開することです。来月から始めるビデオ教材の研究会(新作ビデオ発表会)では、授業や就職支援での活用方法だけではなく、企業の研修や採用活動にも活用できることも視野にいれてみようと思います。皆さんもこの混沌とした今シーズンの不安を期待に変えていきませんか?

 

▼ご参考:5月8日(月)15:30~17:20 法政大学市ヶ谷キャンパス

ビデオ教材研究会(2015年度 第1回)

http://3dep.hosei.ac.jp/event/details/2015/04/22/id3729

第301号:元気な留年のススメ

大学が新年度に入り、1年で最も活気に溢れている時期ですね。そんなキャンパスでは卒業が出来なくて留年している学生もチラホラ見かけます。心なしか肩身が狭そうに見えたり、開き直って妙に明るかったりと表情は様々ですが、私は元気な留年生が増えたら大学はもっと面白くなるのではないかと思っています。採用担当者の声でよく耳にする「最近は個性的な学生が少なくなった」というものも少し解消できるのはないでしょうか。

 

個性的な学生が少なくなった理由には、以下のようなものが考えられます。

・画一的な非正規労働(アルバイト)に多くの学生が従事するようになった。

・ITの進展により、情報の伝搬速度が速まり受け売り現象が増えた。

・何でも用意されていて、創意工夫や失敗の経験が減った。

・浪人生が減って現役学生が増えた。

 

大学大衆化の時代になって、本来ならば学生は多様化していても不思議ではないのですが、残念ながら多様化したのは学力(それも下位の方向へ拡大)くらいで、行動や思考バターンは画一化が進んでいると感じます。私が大学に進学した頃は、全国各地からやってきた学生や、浪人していた学生と出会うことができ、同じ大学の同期なのにこんなにも考え方や習慣が違うのか!と新鮮な驚きがありました。

しかし現状は全国何処に行っても同じチェーンのスーパーやコンビニやカフェがあり、浪人生も減りました(学校基本調査で浪人率は、2013年度で12.4%、1985年度では38.5%)。つまり、空間的にも時間的にも今の大学生は多様化できなくなっているのです。

 

法政大学では、かつてこの多様化を意図的に作り出すことに挑戦したことがあります。10年ほど前のキャリアデザイン学部設立時に、入学生の20%を社会人にしようと募集をかけたのです。社会人と学生が同じ場で過ごし、学び、語り合うことによって、相互成長、多様な学びを狙ったのです。しかし残念ながら、社会人入学者は少数にとどまってしまいました。

 

こんな現状の中で、私のススメは積極的に留年すること。かつて浪人が珍しくなかったように、大学を元気に5年間過ごして卒業する学生が増えてきたら大学は面白くなると思います。就職留年だって良いです。日本の一般的な新卒採用が2浪まで許されるように、1留などは多目に見てくれます。欧米のように、卒業してから就活をするのは、今の日本ではあまり現実的ではありません。もし留年という言葉がどうしても気になるならば、社会人大学院のように、入学募集時から予め4年卒業コース、5年卒業コース、6年卒業コースと分けてしまうという手もあります。5年・6年コースの学生が途中で気が変わったら早期に(4年で)卒業できるようにすればなお良いでしょう。

 

新学期の熱気にうなされた夢物語のような話しをしましたが、こんな風に学生が多様化すると学生は多様化できるでしょうし、経済要因とか倫理憲章の変更とか外部的な環境変化にも柔軟に対応できる(卒業時期を自分で選べる)ような若者が増えてくるのではないかと思います。

 

 

第300号:文科省プロジェクトの終了と今後

平成24年度から始まった文部科学省の補助金事業の「産業界のニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」がこの3月で終了いたします。私も法政大学でこのプロジェクトに取り組み、早いもので4年が経ちました。初年度に教えた1年生と一緒にプロジェクトが終了するわけですが、法政大学では来年度もこのプロジェクトを継続することになりました。

 

去る2月に、この事業に参画している100校以上の大学教職員と共に、当プロジェクトの活動報告を文科省に対して行いました。評価委員の方々からは「評価指標に課題はあるが、その成果(アセスメントツールやビデオ教材等)を今後は学内外に展開して下さい。」という好意的な評価を戴いたことは嬉しいことでした。これまでアセスメントツールでは1000人以上、ビデオ教材では延べ1万人以上の学生を相手に評価や授業を行ってきました。まだまだ改善の余地はたくさんありますが、私たちの理念や方向性に間違いはないことを確信できました。

 

そもそも、法政大学ではプロジェクトの開始時期から、学内だけではなく他大学にも展開できるコンテンツを制作するというのが目標でした。この4年間の成果は、評価委員から指摘されたとおり、外部評価指標が十分とは言えません。しかし、その手応えを日々感じ始めております。というのは、文科省の報告後、初対面の大学の方々から多くの問い合わせを戴くようになり、対応に追われております。教育事業というのは、定量・定性評価がとても難しいと思いますが、このように同業の仲間から戴く関心は、なによりの評価だと感じています。

 

来年度も新しいコンテンツの開発は継続していきますが、同時に法政のコンテンツを用いた授業やワークショップの研究会を、大学教職員を対象に定期的に開催して参ります。最初に取り組むのは、ビデオ教材を使用した授業の講習会で5月から始め、実際の授業見学会や、模擬授業などを予定しております。私たちのビデオ教材は、実際にあった仕事の事例を元に作成しておりますので、撮影に協力して戴いた企業人事の方にも加わって戴き、仕事に求められる資質と大学の学びの関係を議論していきたいと思います。

 

数号前のこのコラムで「今後の新卒採用担当者の業務は、リクルーター、インターンシップ、キャリア教育、アウトソーシングの4つに集約される」とお伝えしましたが、来年度の法政の取組では、このキャリア教育に対して仕掛けていこうと企んでいます。就職課職員も採用担当者も先行き不透明な就職・採用活動において、もっとも正確な予測は自分たちで未来(既成事実)を作ってしまうことですから。

 

未知の分野に挑む卒業生達に負けないように、不安を期待とやり甲斐に変えていく攻めの来年度にしたいものですね。

 

第299号:大学同窓会の就職支援

3月になり、大学内での企業セミナーが一気に始まりました。いつもなら大学入試後でしばし春眠をむさぼれる季節なのですが、キャンパスは大勢のリクルートスーツ学生と企業採用担当者でごった返しています。私も長いお付き合いのある神戸大学へ就職支援のお手伝いに行きました。行き先は、キャリアセンターではなく、工学部同窓会です。珍しいことに、神戸大学の理工系学生の就職支援についてはキャリアセンターよりも積極的な活動をしており、企業採用担当者の評価も高いです。

大学同窓会というのは、本来卒業生同士の親睦・交流を深めることが目的ですが、歴史が長くなると、在学生への様々な支援を始めるようになります。奨学金や寄付金等の財政的な支援が多いですが、工学系では百年以上の歴史をもつ同窓会もあり、京都大学のように大学内で大規模な就職セミナーを開催するところもあります(私も採用担当者として何度か訪問しました)。

私は大学院時代の研究で、大学同窓会の就職支援機能について調査しておりましたが、就職支援については、同窓会には以下のような強みがあります。

1.常に最新の卒業生名簿を保持している

⇒個人情報保護法の影響で就職課では卒業生紹介が困難になってきた

2.大学内組織・企業の双方にネットワークがある

⇒存在そのものが大学と企業の絆である

3.営利目的ではない、自由公正な活動ができる(大学内第3セクター)

⇒独自収入(主に会員費)があるため、就職事業にする必要がない

4.財務的に安定している同窓会は、奨学金等の財政支援も可能

⇒海外への留学生支援、新入生向けの学費援助等

(法律改正で一般社団法人への移行等の課題も出てきましたが)

5.膨大な人的ネットワークをもち、年々人的資産が増加する

⇒大学就職課では困難なOBを対象としたキャリア支援も可能

欧米の大学では、卒業生が入学者募集まで手伝うところもあり、母校に対する支援という意味では学ぶところが多いです。しかし一方で、就職課職員の方に尋ねてみると、同窓会は意見が厳しくてつきあいにくい、という声もよく耳にします。これは、大学運動部と同じで、卒業した先輩がいろいろアドバイスや資金援助を下さるのは嬉しいのですが、必ず一緒に説教がついてくるのと同じなのかもしれませんね。社会でも銀行に融資を頼めばいろいろ言われますから。

ともあれ、企業の採用活動がネット中心から徐々にダイレクトリクルーティングインターンシップリクルーター等)に変わってくると、そうした窓口として大学同窓会が機能してくれれば大学としては強い味方になるのではと思います。

 

 

第298号:大山鳴動して鼠一匹

企業の採用広報活動の解禁日が近づいてきました。何処の大学でも学内セミナーの準備で多忙なことでしょう。さぞや学生が待ちに待っているかと思いましたが、どうも私の周りの学生は落ち着いている感じです。といいますか、学生達が先の見えない状況に慣れてきたのかもしれません。

 

年末には「昨年の方が良かった」とか「後ろ倒しは困る」と言う学生が多かったのですが、最近は「まあどちらでも良いです」「遅くなって良かったです」という声がだんだん増えてきました。人間の環境適応能力に感心させられますが、やはり締め切りが遠いと安心するというのは人間の性なのかもしれません。誰でもいつかは死ぬと分かっていても、その時期がわからないので普通に過ごせますし、夏休みの宿題を7月中に終わらせる子供もあまりいませんね。

 

いま改めてわかるのは、学生が恐れているのは時期の変更ではなく、変化することだったということです。昨年の情報が役に立たなくなることに不安があったのでしょう。

 

年末のTVのニュースやアンケート取材の「採用活動が後ろ倒しになることをどう思いますか?」という質問自体があまり意味のないことでした。というのは、学生は毎年就職活動をしているわけではないので、昨年と比較してどうなのか?という判断ができるはずもありません。しかし、そうした質問を投げかけられると、上述の通り先の見えない不安から「困ります」「今までの方が良かったです」と回答してしまうものです。

 

今年の企業の採用担当者の動きは、想像通り年末からインターンシップが花盛りです。しかし、インターンシップは受け入れ人数に限りがあることと、大手企業ほど有名校をターゲッティングしているので、就職市場全体への影響はそれほど大きいようには見えません。しかも学生はいわゆる二極化しているので、目ざとい学生はいくつもインターンシップを受けて内々定まで得ていますが、動かない学生は泰然としています。

 

こうしてみると、採用活動の後ろ倒しの効果というは採用時期のターゲット別分散化という現象を引き起こしているのかもしれません。これを長期化という人も居りますが、企業も学生も動いている層と動いていない層があります。つまり、企業も学生も最初から最後まで動き続けるところは少ないようです。

 

今年の動きを判断するのはまだ難しいですが、3月になれば、流石に多くの学生が動き始めることでしょう。そして4月になれば新年度の行事等で、また動く学生と企業、動かない学生と企業に分かれてくるでしょう。焦ることなく動向を見ていて良いと思います。

 

年末に大学就職課の方々が口を揃えておっしゃっていたのは「学生が動かなくて困る」「セミナーを開いても学生が集まらない」でしたが、そもそも企業の倫理憲章は、学生の就職支援でもなく、企業の採用活動支援でもなく、大学に平穏な日々を取り戻すことだったはずですから。

 

第297号:期末試験解答と伸びしろのある学生

大学受験シーズンで多忙な職員の方々の裏側で、教員は期末試験やレポートの採点シーズンです。私の授業の筆記試験は記述式解答の設問なので、エントリーシートの採点や面接での選考と評価基準が同じになることがあります。それは採用担当者が好きな「求める人材」と似ています。

 

皆さんもよく耳にすると思いますが、採用担当者に「求める人材」を問うと、以下の3つを応える人が多いです。

 

1.素直な人

2.伸びしろのある人

3.一緒に働きたくなる人

 

これらはどんな組織でも一緒でしょう。要は、若者の最大の魅力である成長・変化していける力をもった人です。自分の中に他者の意見や考えを素直に取り込む余裕があり、そうした伸びしろをもつ若者とは誰でも一緒に働きたくなるのではないでしょうか?

 

さて、私の期末試験の設問では「授業で取り上げたケースを元に、論理的に持論を展開しなさい」というものを出すことがありますが、その時にこの「求める人材」か否かを感じさせられます。ケースというのは、社会問題であったりゲスト講師の話であったりしますが、このケースの受け止め方に個性が出てきます。現象や思想に共感的・前向きに受け止めて持論を展開する者もいれば、批判的・客観的に受け止める者、否定的・排他的に切り捨てる者等々。

 

これらの回答からは性格の違いだけではなく、文章力(表現力・ボキャブラリー)の技術の違いもわかり、個性と能力が評価できます。つまり、上記の3つのパターン+文章スキルの優劣(2パターン)で評価してみると、6つに分類できます。

 

この中でもっとも採用してみたいと思うのは、共感的・客観的に受け止めて前向きな文章を書く者で、つまり上述の「求める人材」に近い人物です。批判的・排他的な者でも、文章の礼儀をわきまえて書く者はすぐに減点にはなりませんが、相当にレベルが高くなければ、他者を受け入れて自分の成長につなげる魅力に欠けます。自分の世界で小さくまとまっていると感じますから。

 

というわけで、日頃の授業のリアクションペーパーでも期末試験からでも、就職活動のうまくいきそうな学生とそうでない学生は判断できますし、育てることもできます。

 

ちなみに、採用担当者の方々は「伸びしろ」とか「一緒に働きたくなる」ということは良くおっしゃいますが、それをどういう質問や試験で見分けるかの方法論まで気づいていない方もおります(フィーリングで語っている)。だからこそ、応募者である学生が意識的に魅力を感じさせて欲しいですね。

 

第296号:今年度の新卒採用担当者4大業務

昨年末から企業のインターンシップ参加を理由に授業を欠席する学生がポツポツと出ています。思わぬところで企業採用活動の進行を垣間見ているわけですが、就活「後ろ倒し」の今年度は相当に採用担当者も混乱することでしょう。それは変革に必要な痛みだと思いますが、今後の新卒採用担当者の業務は、リクルーター、インターンシップ、キャリア教育、アウトソーシングの4つに集約されそうな気がします。

 

この4つの業務は、4つのメディアと言う事ができます。既存の紙媒体からネット媒体、そしてヒト媒体への移行です。企業の採用活動は業界や規模でまちまちなので、全体が一斉に同じ手法に動くとは限りませんが、ヒト媒体というメディアは、マスメディアと違って以下の特徴があります。

 

1.選択性 ⇒ターゲットリクルーティング

2.秘匿性 ⇒シークレットリクルーティング

3.信頼性 ⇒ダイレクトリクルーティング

 

狙った人材を(選択性)、こっそりと(秘匿性)、高い精度で(信頼性)採用する、ということで、特にリクルーターとインターンシップに当てはまります。この二つの業務は、今がまさに花盛りで、採用広報を後ろ倒しにされた企業が必死に取り組んでいます。ヒト媒体は、マスメディアと違って直接に学生とコンタクトできるので、そのやりとりから自然と採用選考情報が入るので精度(信頼性)も上がります(苦労して見つけた人材が必ずしも入社してくれるわけではありませんが)。

 

キャリア教育は、大学のコーオプ教育と連携することで大学に入り込むことです。これは企業単独で動くわけにはいかず、大学との何らかのチャネルがあって初めて実現できますから実施可能な企業は限られます。文科省指導でキャリア教育導入を求められている大学などは、お互いに渡りに船ですが、うまくコーディネートできる大学教職員との出会いがないと実現は困難です。なお、企業は本気で社会貢献と考え、採用部隊ではない企業人が担当したとしても、学生への企業認知度理解や学生の能力把握は自然と進みます。

 

アウトソーシングは、新卒人材採用の活用です。昨年もこのメルマガで新卒人材紹介の可能性には触れましたが、多様で面白いサービスが出てきています。NHKでも取り上げられた「ワイルドカード社」の他社内定者横取りサービスは企業人事部からの評価も高くて急成長しており、同業他社も追随する動きがあり、これまで人材紹介を新卒で使うことに抵抗のあった企業も、変革期には導入してきそうです。採用ノウハウがなく、「後ろ倒し」で採用難になるといわれる中小企業では、元々、採用ノウハウも採用予算も少ないので、アウトソーシングのような成功報酬型は相性が良いのです。

 

採用選考が「後ろ倒し」初年度の今年は、学生の就活時期が長くなり、景気上昇局面もあいまって、複数内定を取る学生が増えると予想されます。一つ内定をとったらドンドン上を目指したいのが応募者の心理で、その時間が十分与えられたわけですから。というわけで、冒頭で述べた通り今年度の採用・就職活動は相当に混乱しながら新しい手法が出てくる時期かなと思います。

第295号:とある企業の5日間インターンシップ例

今週の夕方、繁華街を歩いていると新年会らしき集団をみかけました。妙にスーツの似合わない賑やかな若者たちで和気あいあいとしていたのですが、インターンシップ体験者の集団でした。某有名企業のインターンシップを受けた仲間たちの懇親会が開かれたようです。そんなに大きな声で話していたらバレバレだよと、他人事ながら気になりました。採用担当者の方を見ていると、年末はインターンシップの運営で忙しかったようですが、その後もフォローで気を抜けないようです。

 

有名企業で行われる年末のインターンシップでは、いわゆる「ファーストトラック」という有名大学の学生にターゲットを絞った小規模で内容の濃いものが早期に行われています。外資系企業等が好んで行いますが、先日、とある企業のインターンシップの全容を教えて貰いました。定番の5日間コースで、以下のような構成です。

 

1日目:参加学生同士の顔合わせと企業セミナー&課題提示

2日目:指定課題について人事担当者に1回目のプレゼンテーション

3日目:指定課題の現場担当者(営業部)を訪問取材

4日目:人事部長に2回目のプレゼンテーション

5日目:現場&人事担当者に3回目のプレゼンテーション

 

指定課題とは、この企業の実際の客先を指定して学生が何らかの提案をするもので、参加者を複数のチームに分け(6人/チーム)、コンテスト形式でプレゼンテーションを行い、順位を決するものです。新入社員研修でも行われる形態のものですが、人事側では画一的に運用ができて現場の協力も取り付けやすく、教育効果もあがりやすいものです。

 

ファーストトラックというだけあって、このインターンシップに参加するためには、本番の採用選考と同様にエントリーシートと面接で選考を通らなければなりません。更に、このインターンシップの受講態度を見ていれば、受講者の生の姿もわかります。つまり、来年の夏の採用活動解禁を待たずに、合格レベルの学生を判定することが十分に可能です。

 

しかし、ここから大変なのは見極めた学生の継続的フォローです。5日間のインターンシップを終えた後は、リクルーター(人事部以外の若手現場社員)がメンターとして張り付き、定期的に連絡をとってきます。学生の個別の就職相談には勿論、インターンシップの同窓会を企画してくれたり、至れり尽くせりです。学生としては、エリート意識をくすぐってくれて良い気分だそうですが、昨年の実際の採用活動解禁時期には、インターンシップの結果に拘わらずダメな人はバッサリ不合格にされていました。

 

というわけで、冒頭のようなインターンシップ同窓会のようなものが年末年始に行われているわけですが、採用活動の後ろ倒しになったいま、多くのリクルーターが先の長いフォロー活動に入り、疲れ気味のようで同情を禁じ得ません。(もっとも、こうしたファーストトラック学生は全体から見ると少数です。)

第294号:大学生の課題、大学教員の課題

就活後ろ倒しになった今、大学の教員と学生が取り組むべきは、戻ってきた時間を学生の成長のために有効に使うことですね。不安を煽る情報の洪水を乗り越えるために、学生にジャーナリズムの課題を考えさせる授業を行っておりますが、参考文献にあげた本の中に現代の大学の課題を感じさせる文言がありましたのでご紹介します。

 

参考文献:『 ジャーナリズムの限場から』大鹿泰明編著 講談社現代新書 2014年

http://www.amazon.co.jp/dp/4062882760/

『いまのジャーナリズムを覆っているのは、わかりやすいニュース解説を求める「池上彰化」ですよ。池上さんの功績は大いにあると思いますが、あまりにそればっかりだと読者のリテラシーが一向にあがってこない。それどころか今の読み手は、書き手に対して「もっとわかりやすく解説してくれ」とか「どうすればいいのか答えを教えて欲しい」と求めてばかりいるようになってしまう。かつての読み手はもっと向上心、向学心をもって書物に触れていたと思います。』(同書66P 高橋篤志氏言)

『読者が求めているものだけを提供するのは娯楽・エンターテインメントだ。読者が必ずしも望んでいないものでも、社会的に必要性があれば、提示するのが僕らジャーナリズムの役割だ』(同書67P)

 

この「ジャーナリズム」を「キャリア教育」に、「読み手」を「大学生」に、「書き手」を「教員」に置き換えたらそのまま大学の現状になります。情報の溢れた現代で、食べやすいものを与えられ続けたら誰でもこうなるでしょう。かといって急に以前のやり方に戻しては消化不良になりそうですから、どうやって離乳食になる知的飢餓を起こさせるかが教員の課題です。向学心を刺激する良書をしっかり読ませ(更に自分でしっかり探し出させ)、しっかり講義を聴かせ、しっかり考えさせ、しっかり発言させる授業をしなければなりません。ハードな経験は、一時は恨まれても良い知見となり思い出になると信じ切る信念も教員には必要です。

 

私の授業では、聴く・読む・考える・分析する・書く・話す、の基本的学習力を厳しく求めているのですが、昨年ある指導者の言葉から「授業は教員と学生のチームワークだ!この大学で一番良い授業を目指そう!」というのをスローガンにしてみました。教員だけが頑張っても効果は出しづらいですし、学生の努力だけに求めるのも非効率だからです。教員と学生が一致団結して刻苦勉励することによって、良い授業が生まれるという信念です。

 

幸いにこの信念に賛同する学生は多く、授業見学に来られた大企業人事担当者から「こんな授業風景は見たことがない」「是非、このクラスから学生を採用したい」という言葉を戴くようになりました。そして2年たった今月、大学から表彰されることになりました。まさにチームワークの勝利ですが、来年は企業の採用担当者もチームワークに入れてやろうと企んでおります。笑

末文になりますが、皆様、良いお年をお迎え下さいませ。

 

▼学生が選ぶベストティーチャー賞(法政大学)

http://www.hoseikyoiku.jp/images/topics/1418898106/1418898106_3.pdf

第293号:採用担当者による新講義「働くための法律知識」

前回、女子アナウンサーの新卒採用内定取消問題を取り上げました。労働法を考えるうえでは参考になる事例なので、授業でグループ・ディスカッションのテーマにしてみたところ、過半数の学生が曖昧ながら内定者に問題がある、という回答でした。実際の訴訟の行方はさておき、学生の法律知識(意識)を向上させる必要性を感じました。

というわけで、以前からやってみたいと思っていた「働くための法律知識」という講義を、採用活動経験のある社会保険労務士と一緒に作ってみました。日本の雇用の実態は、法律よりも信頼によって運営されてきた(いわゆる日本型雇用)のですが、21世紀となって、企業に正社員を守る余裕がなくなり、非正規雇用が3割になった昨今、最低限の身を守る法律知識は就業者にとって必須でしょう。

しかし、一口に労働法といっても、現在は関連法規も多く、その全てをカバーすることは難しいです。しかも法学部ではない学生にとっては、法律という概念そのものがなかなか理解できません。そうした場合は、TV番組のように、分かりやすい事例研究判例のケーススタディ)が一番です。今回、作った事例研究は以下のようなものですが、実践してみたところ、評判は上々でした。

・遅刻、残業拒否、配置転換拒否で解雇された従業員

・妊娠出産を理由に降格・減俸された女性従業員

内定取消で勝訴(敗訴)した従業員

また、労働法ではありませんが、大学生がネット上で風評被害を起こして損害賠償を請求されたケース、なりすまし情報操作の事例などをとりあげました。今後、ブラック企業や就活学生を狙った悪質な就職塾勧誘ビジネス(つい先日も大学の近くで店を広げていました。)も扱って参ります。

この授業では、単なる法律知識だけではなく、社会人としての「権利と義務とキャリア形成」をしっかり伝えたいと思っています。権利を主張するばかりではなく、企業が守ってあげたくなる(大事にしたくなる)社員に成長すること、企業は学校ではありませんが、自ら成長する機会に溢れていることを理解させたいです。

そしてこの後、企業人事の採用担当者にこうした講座の講師になってくれないかと持ちかけてみようと思っています。採用活動後ろ倒しでやることが思いつかずに困っている採用担当者にとっては、学生と触れ合う機会にもなりますし、プレゼンテーションもうまくなり、更には採用担当者自身の法律に対する意識やコンプライアンスを向上させることができるのではないかと思います。