第413号:企業の採用活動のニュースランキング

今年も残り1週間を切りました。私見ながら、今年の企業採用活動のニュースランキングをあげると以下のようになりそうです。これらの背景にあるのは社会の大きな構造変動で、数年後に振り返っても今年が大きな転換点だったと位置付けられそうです。令和という新しい時代が始まったように。

1.企業の採用ルール廃止
2.インターンシップでの早期選抜採用
3.内定辞退者予測サービス事件
4.新卒人材紹介業の発展
5.通年型採用の試み

なんといってもトップニュースは、経団連の採用ルール廃止です。これが本格的に動き出し、2番目のインターンシップという名の早期選抜採用を促しました。その次に来るのは、内定辞退者予測サービス事件です。これは一部の企業の不祥事ですが、情報化社会の根幹に関わり業界全体に大きな影響を及ぼしました。新卒人材紹介業の発展通年型採用(1年生から応募できる等)は、存在そのものは目立ちませんが、着実に拡大してきています。

これらの諸ニュースの起因になったのは、やはりトップの採用ルール廃止だと思います。これによって企業と学生の動きが大きく代わり始め、過去にない様々な現象を引き起こしたのでしょう。採用ルーツの設定や廃止は、過去に何度もあったと語る方もいて、歴史は繰り返すだけだと言いますが、私はもう採用ルールは復活しないと思います。その理由は、採用ルール廃止の更に根底にある要因が根本的に異なるからです。

これまでの過去の採用活動の変化は景気動向の循環的な変化でした。しかし今回の少子高齢化という「人口構造変化」とインターネットの出現による「情報構造変化」は、日本社会の構造そのものが変わってきた過去に例のないことです。これらの社会インフラ変化は不可逆的な構造変動です。(もっとも、その余震は10年くらい前から現れていました。それらが大地震になってきたのが現在だということです。)

経団連の対応も、かつては「採用活動のため」の方針であり、大学や学生に配慮したものでしたが、今回のものは「終身雇用廃止のため」(新卒採用は、終身雇用制の一部分です)の戦略であり、企業に配慮したものです。企業にとってのライバルも、日本国企業から通年採用が普通の外資系企業となりました。

企業採用担当者は先の見えない状況で闇雲に早期採用活動に走っているようです。しかし、こうした時期こそ目先の情報だけではなく冷静に状況を分析することが重要です。企業採用担当者同士は競合するので意外と周りが見えづらいのですが、皆様には学会や研究会の知見がありますね。先日発行された以下の文献は、現状を各分野の視点からよくまとめていると思います。ご覧戴ければ今後の活動の参考になると思います。さて末文になりますが、どうぞ皆様も良いお年をお迎え下さい。

参考URL:
「IDE現代の高等教育 NO.616「就職秩序の模索」」2019年12月号(IDE大学協会)
https://ide-web.net/newpublication/blog.cgi?category=001

第412号:内定辞退者予測サービス事件-3

リクルートキャリア社の定辞退者予測サービス事件について、去る12月4日に内閣府外局の個人情報保護委員会が、リクルート社及びリクルートキャリア社と利用者であるクライアント企業35社に対して行政指導を行ったとの広報がありました。更に11日には、厚生労働省からは職業安定法による行政指導も行われました。この発表で実名が明らかになった企業には猛省を促したいところです。こんな裏技を使わなくても、内定者をフォローする方法はいくらでもあったことでしょう。

採用選考中で内定辞退可能性の高い応募者をスクリーニング(排除)する手法と、内定後に辞退防止のフォロー(確保)をする手法とは似て非なるものがあります。余程の有名企業でない限り前者に手を出すところは少ないと思いますが、某有名企業の採用担当者は「当社では役員面接に第一志望でない学生を招いたら大変なことになる」とトップの顔色に恐々としていました。そうした企業がこのサービスに手を出したのかもしれませんが、当該企業の殆どが「採用選考には使っていません」と口を揃えて述べています(どこまで信用できるか調べようもありませんが)。

一方で、内定した学生をフォローするのは採用担当者にとって重要な仕事です。米国ではリテンション(確保)という名で以前から行われていて、日本でも昔から内定者懇親会等、様々な施策が行われていましたが、本格的な業務として取り組まれてきたのはこの10年位かと思います。

私が企業時代に行っていたのは、内定者向け社会人研修です。社会人になったら必要な労働法や経理の知識、会社独特の文化を教える経営セミナーや、社内TOEIC試験への無償参加等を行っておりました。狙っていたのは学習効果より、社員と内定者との接触機会を増やして入社前の不安を消し、企業の実力を教えて入社意欲を高めることでした。そうした濃いコミュニケーションを通じて、内定者の辞退可能性を見極めていたのです。内定者向け企画は自由参加にしておりましたが、わかりやすいもので、内定辞退確率と企画参加率はほぼ比例しておりました。

人事仲間の他企業では、内定者に入社まで一定の奨学金(毎月5万円程度)を支給していました。その企画を始めたキッカケは、勉強不足で卒業できず内定取消せざるを得なかった学生がいたことです。内定後にアルバイトに没頭しすぎて大学の勉強を甘くみていたそうで、奨学金支給の条件にはアルバイトを止めて勉強に集中すること、とされておりました。無事に入社できたら奨学金は返済不要にしていましたが、そのため内定辞退する学生は確実にこの奨学金の受け取りを辞退していたそうです。

少子化の現在、この内定者奨学金を導入する企業が増えて来ています。その狙いや内容は、多くの大学生が抱えている大学授業料奨学金の返済を支援したり、福利厚生の一環として行ったり様々です。変な裏技企画に手を出すよりも、こうした施策に知恵を出して取り組んでほしいものですね。学生にも感謝されますし、何より採用担当者の精神衛生上にも有用です。

参考URL:

「株式会社リクルートキャリアに対する勧告等について」2019/12/4(個人情報保護委員会)
https://www.ppc.go.jp/news/press/2019/20191204/

「リクナビ「内定辞退率」問題、りそなHD、京セラなど利用企業にも行政指導などの方針」

2019/12/4(山本一郎氏:Yahooニュース)
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20191204-00153610/

「内定期間中もiPad貸出」(株式会社武蔵野 福利厚生)
https://recruit.musashino.co.jp/working/welfare/