大学入試改革の一環として進められてきた英語民間検定試験の導入が延期となりました。導入については各大学が判断に迷うなか、昨年7月には東大が成績提出を求めないと方針決定し、混迷を深めてきたことは周知のことです。ことの推移はさておき、英語民間検定試験は企業の採用選考基準として既に参考にされてきていますが、その評価については企業毎、職種毎に温度差があります。
女子大学での教え子にはCA志望者が多く、例年数多くの学生がES添削や模擬面接の相談にやってきます。皆様も実感されてきていると思いますが、ここ数年CAの採用選考基準が上がってきています。例年ならば内定水準と思われた学生が不合格になることが多くなり、その原因は英語の要求水準が上がっていることにありそうです。
もっとも、これは学生の言い分を聞いてのことなので、本当に英語力で落ちたかどうかはわかりません。企業が学生に採用選考不合格を伝えるには、筆記試験等の客観的基準の方が企業のイメージもわるくなりませんし、学生本人もその方が納得しやすいからです。
企業採用担当者が学生に欠けている能力を調べた調査では、2010年の経産省の大規模調査がよく引用されます。その要素の上位と下位を以下にあげました。(企業人事採用担当者2958人の回答)
▼企業が学生に対し、不足していると回答した能力要素上位
1位:主体性(20.4%)、2位:コミュニケーション力(19.0%)、3位:粘り強さ(15.3%)
▼企業が学生に対し、不足していると回答した能力要素下位
1位:簿記(0.1%)、2位:PCスキル(0.2%)、3位:TOEIC等の語学力(0.4%)
上記の通り、この調査では学生の語学力が不足している回答した採用担当者は殆どおりません。企業採用担当者の多くは語学力が大事だと言いますが、何故このような回答になるのでしょうか?それには、以下の理由があげられます。これらは他の下位要素である簿記やPCスキルについても言えます。
1.企業毎に部署毎に使う頻度・程度が異なる要素
2.企業に研修制度等があり、入社後または外部でも学べる要素
3.過去(資格・結果)よりも現在(能力・経緯)を重視する
つまり企業採用担当者は、語学力(英語)は、配属部署・職種・業務等で、使用頻度が大きく異なる能力要素であり、もしそれが必要になったら入社後に学べば良いと考えているからです。実際、簿記・PCスキル・英語の社内研修科目を持っていない大企業は皆無でしょうし、外部の英語民間検定試験で結果を出したら報奨金を出す企業もあります。
そして採用担当者がなにより重視するのは、英語の資格そのものではなく、英語学習過程において、どんな資質(計画性・忍耐力・向上心等)を身につけたかです。それが採用担当者のよく言う「総合的な判断」「人物重視採用」の正体です。即戦力として英語能力を求める企業は、上記のCAの例や外資系企業の様に当社から募集要項に掲載してきます。
今回の事例では、英語能力評価の公平性が問題となりましたが、更に国語での記述式試験で同様な問題が起きないことを祈るばかりです。企業側としては、ES評価方法の他山の石として参考にさせて戴くかもしれませんが。