リクルートキャリア社の内定辞退者予測サービス事件については、やはり国も職業安定法の行政指導という動きに出ることとなりました。徐々に事件の概要が見えてきましたが、現時点でも、一般の大学や学生にとっては不明なことも多いです。この事件は大学にとっても業界(人材だけではなく情報産業全般)にとっても重大な内容なので、今後も注視する必要があります。まだ総括できる段階ではありませんが、あまり語られていない点を、私見でお伝えしたいと思います。
1.アルゴリズムの問題
内定辞退者予測サービス「リクナビDMPフォロー」は、昨年度の学生の内定辞退動向から、本年度の学生の辞退率をAIが推測するというものですが、他社を多く回る学生が本当に自社の内定を辞退する確率の高い学生なのかは難しい判断です。確かに「就活フリーク」というべき「意識高い系内定ホルダー」は存在しますが、「御社だけしか見ていません」と真面目に言い切る学生も能力的に避けたいものです。
つまり、良い学生はそれなりに競合他社を回るものであり、採用担当者が知るべきなのは、その学生が「内定辞退した理由は何なのか?」です。更に、内定辞退をどのような形で行ったかも重要です。しかし、それはリクナビのデータにある行動パターンだけでは判断しにくいと思います。逆に、もしそこまでAIが見ているならば、相当に怖いシステムです。なので、法律問題はさておき「リクナビDMPフォロー」の的中率については興味深いです。
2.採用担当者の努力不足
学生の企業の志望順位は就活中にどんどん変化します。業界トップの企業ならともかく、多くの企業は内定辞退に悩みながら、いかに他社希望の学生を第1希望にするか、という努力をするものです。それを4~500万円という対価を支払ってでも、役員面接に第1希望の学生だけを集めたい企業が、このシステムを利用したのでしょう。
このサービスを利用した38社中、企業名が判明しているのは約20社です。取材に回答したのか自ら公開したのかは不明ですが、それらの企業は口を揃えて採用選考には使っていないと言っています。しかし、その証明は不可能でしょう。リクルートキャリア社からも「採用選考には使わないという条件」で導入されたと説明されていますが、そうした危険な商品を購入した時点で採用担当者のコンプライアンス感覚が疑われます。前回のコラムでも書きましたが、かつてのように自社内でデータを管理していた時代なら起きなかったことが、クラウド(就職情報企業サーバー)上に置くことや、自社の応募学生データ管理を外注管理するようになったために、鈍感になってしまったのかもしれません。
本件のネット情報は単なる転送や表面的な個人の論評が多いので、後で見直しても本質的な情報と思われるものを以下にあげました。この事件は風化させてはいけないものだと思いますので。
▼参考URL:
「「リクナビ内定辞退予測」問題でリクルートOBの僕が伝えたいこと」
2019/8/26(常見陽平氏:現代ビジネス)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66687
「リクナビによる「内定辞退率」データ提供の問題点はどこにあったか 法的観点から弁護士が解説」
2019/08/15(杉浦 健二弁護士:BUSINESS LAWYERS)
https://business.bengo4.com/articles/613
「リクナビ内定辞退率問題で厚労省激怒、「データ購入企業」にも鉄拳」
2019/9/20 (ダイヤモンドオンライン)
https://diamond.jp/articles/-/215312
「『リクナビDMPフォロー』に係る当社に対する勧告等について」
2019/8/26 (プレスリリース記事詳細:リクルートキャリア社)
https://www.recruitcareer.co.jp/news/pressrelease/2019/190826-01/