リクルートキャリア社の内定辞退者予測サービス「リクナビDMPフォロー」が炎上して廃止になりました。本件から思い浮かぶのは、DNA社のコンプガチャと興信所による内定者の身辺調査ビジネスです。どちらも違法ではありませんが、それが世に広く出ることによって社会問題が起きることは明らかで、こうした事件をみる度に『教養』の欠如を感じます。そして採用担当者の課題も。
この事件が起きた背景には、クラウド型採用管理ツールの市場への普及があります。2000年頃までの応募者情報は企業内機密で、私もまだクラウドサーバーに置くのはためらっていました。物理的に隔離するのが確実なセキュリティだからです。しかし、それから約20年、ネット環境の改善とツールの進化によって、応募者管理はクラウド上が普通となり、大手就職情報業者が一括してビッグデータをもつようになりました。
内定者防止の対策には、入社後の仕事イメージを形成するセミナーの開催、配属先の約束をする等があります。ネット&リアルにコンタクトして、内定者間のコミュニティを形成させ、会社への信頼関係や入社意欲を向上させることが狙いです。しかし今回の事件は、内定者が登録サイトから知らぬ間に動向を調査されて情報を形成・提供される異質なものです。
今回の事件がエグイのは、クライアント企業の応募者データ内でのサービスではなく、その応募者が他の企業を回っているデータとの関係性をAIで推察して内定辞退確率を算出・提供する点です。応募者が知られたくない本命企業へのアクセスが知らぬ間に内定企業に渡されているのです。同社では同意を求めていると説明していますが、このように使われることを利用者は何処まで理解しているのでしょうか。
かつて世界を騒がせたアンダーセンコンサルティング社が分割されたことも頭をよぎります。会計情報をコンサルティング情報に流用する不誠実さを、外部の利用者の誰が気付くことができましょう。
アナログ時代からの経験で、かつ知っている少数範囲の方々で恐縮ですが、昔の業者の方々は、こうした一線はこえないモラルや矜持、危ないところを避ける勘はもっていたと思います。そこに歯止めがかからなかったのは、IT時代のあだ花と言えるかもしれません。
今学期、あまりに一般常識を知らない学生達にこんな話しをしました。
「一般常識とは、正解がない時の判断基準だ。注意すべきは、自分都合ではなく、相手(社会)都合で考えることだ。その常識を形成するものは『教養』である。アリストテレスの『実践知』とは、そうした判断力(共通善)をもった行動力だ。」
面白いもので、教えればそれまで無礼だった学生達が多少なりとも相手の都合を考えるようになります。最終授業のリアクションペーパーで「この授業で自分が変わったと思う思考・言動は?」と問うと、この一般常識をあげる学生が多かったです。一般常識という言葉は知っていても、その本当の意味を初めて知ったのでしょう。
それにしても、このサービスを買う方も買う方です。内定者フォローに4~500万円もかけられる企業は、採用関係費が豊富で、内定者が相当に多い大企業に限られます。そんなに予算があるなら、もっと良い内定者フォローができるでしょうが、採用担当者不足なのかもしれません。
本件は、内定者の顔も心も見えなくなった(見ようとしなくなった)採用担当者の問題でもあるのです。