第399号:採用ルール廃止で苦労する者は?

採用活動解禁日までカウントダウンですが、就職相談の状況を見ていると既に多くの学生が内定を得ているので、昭和時代のように解禁日に一気に学生が動く風物詩は見られなくなってくると思われます。

いつも季節ネタとして解禁日を報道しているTV局にとっては見栄えのする映像が少なくなり、取材に苦労するかもしれません。その代わりTV局は就活・採用活動ネタを番組にするようになりました。採用担当者も宣伝になるので喜んで出演しますから、「捨てる神あれば拾う神あり」ですね。就活番組も、季節ネタから通年ネタになっていくのかもしれません。TVでの企業採用CMも増えていますしね(昔はコストが高くて手が出なかった)。

さて採用ルール新卒一括採用)が廃止になって通年型採用になると苦労する人は誰でしょう?それは学生だけではなく、採用担当者と大手就職情報企業、そして大学キャリアセンターです。

一定の時期にまとめてセミナーを行う仕事が、一時期に集まらないということは非常に効率がわるいことになります。学生の動きが五月雨式になるので一気に1回で済ませることはできなくなり、小規模にして同じ内容のイベントの回数を増やすということになるからです(もしくは諦める)。企業の採用広報セミナー、大手就職情報企業の合同企業説明イベント、キャリアセンターの就職セミナー等々、既にどのイベントも以前より学生が集まらなくなっていますね。逆に小規模な新興新卒採用支援会社が伸びています。

別の視点で見ると、新卒一括採用は、採用担当者が初心者でも仕事ができる優れた方式なのです。企業の就職セミナーに参加した学生の感想で多いのは「採用という人事の重要な現場に若い担当者が出てきて、この会社は権限委譲が進んでいると思った」というものですが、人事部全体で見れば新卒採用活動というのは新人でもやりやすい仕事です。対象が学生で近い世代ですし、就職情報会社(代理店)が相当な部分まで業務をカバーしてくれますから、極論すれば、予算さえあれば新入社員一人でも可能です。

新卒一括採用方式が通年型採用に変わってくると、採用担当者には以下のような中途採用の技量が求められてきます。私はこの事例を説明する時、新卒一括採用は「釣り堀」で通年型採用は「野釣り」と例えています。経験上、新卒採用学生相手)はできても、中途採用社会人相手)のできない採用担当者は多いです。(学生向けに話せても、社会人向けに話せない大学教員も似たようなもの?笑)

何時(When)⇒季節はなく、欠員や現場求人が出てから動く

何処(Where)⇒新卒の様な「母集団」が無いのでどうするか

誰を(Who)⇒採用スペック( 現場の要求業務と基準)の把握

いくらで(How much)⇒応募者の賃金額の設定と交渉

採用担当者の業務がこのように変わってくると新入社員には荷が重くなり、逆に集中的な繁忙期がなくなるので業務量は減ってきます。その結果、これから人材サービス業に委託する企業が増えてくると思われます。バブル崩壊時の様に、大手企業の採用担当者はこれから人材紹介業に転職するようになるかもしれません。

翻って、大学内での就職指導はどう変化するでしょう?新卒一括採用がなくなると、各大学のキャリアセンターの仕事も同様になると想像されます。外部委託を強化しますか?それとも転職しますか? え?心配しなくても、定期人事異動で何処かに動かされる?笑

第398号:5月病から自己成長シンドロームへ

10連休が丸ごとあった大学は少ないと思いますが、これだけ長期の休みがあると、学生も教員も4月から持ち上げてきた授業のペースがリセットされてしまいますね。かつての5月病になってしまいそうです。さて就活で必死の学生のエントリーシートの採点や模擬面接をしていると「自己成長シンドローム」という症状が大流行しているようです。

学生の志望動機を聴いていると「御社であれば、自分を成長させることができると感じたからです!」というものが多くありませんか?

勿論、成長意欲をもつことは良いですが、基本的能力として、自分の話す内容が相手にどう伝わるかを意識していない応募者は子供っぽくて(私の場合は)採用できません。学生も単純に待遇や環境を求めているのではなく、向上心をアピールしているのでしょう。しかし、社会はインプットではなくアウトプットで評価される世界です。こうした人は入社して現実に直面すると、すぐ折れるタイプになりそうです。もっとも、他に良い能力があれば拾います。心構え等は就職してから育まれるものも多いので。

視点を大学教育に変えると、大学では教えたことを社会で活かして成果を出すことの評価はできませんから、学生はアウトプット相手ファースト)が大事と気付かず、自分ファーストになるのかもしれません。「向学心」があることは学生の基本中の基本ですしね。なので、大学教育をフィードバック重視のアウトカム評価に変えれば改善されると思いますが、それは非常に面倒で手間暇もかかることです。教員もそれがわかっているので、そもそも論(社会は大学を分かっていない)と宣います。

それで、いつも志望動機を突っ込んで「就活は初めての自分個人で行うビジネス(交渉)で、自分の思いだけでは通用しないよ。」と諭します。学生によって、ハッと気付いたり泣きそうになったりしますが、夢や想いや笑顔(どれも今の学生が大好きな言葉です)を理想から現実にしていくのが働くということですので、こんなことで挫折するくらいなら最初から無理です。採用担当者の社会的役割には、社会の壁というものがあると思います。その能力がないうちは、外に出すわけにいきません。

翻ってみると、学生の受講している業者の就活セミナーは、こうした現実に向き合わせることを先送りにしているようです。学生の背景にあるのは、相変わらずの「まずは自己分析」型指導のキャリアセンター主催の就活コンサルの存在です。日常生活でも最近の素人集団歌唱隊のような「自分らしさ」「素人っぽさ」をウリにした流行の影響もあるのでは、と思います。しかし、学生は「自分らしさ」を主張したがるのに、独りで主張することはやりたがりません。個性を重視して欲しいと言いながら、みんなが一緒に活動する新卒一括採用に無思考に流されている楽さを享受しています。

早く「自己成長シンドローム」から抜け出して「我が社に入って何をやりたいの?それは何故我が社でやりたいの?」この採用担当者が最も知りたい質問に答えて欲しいものです。