第395号:増えてきた短時間「動画選考」

早いもので3月も終盤となりました。学校では卒業シーズン、企業では組織変更シーズンと、別れと出会いが錯綜する時期ですね。私事ながら、私も新しい大学でキャリア教育教員と、キャリアセンター就職相談員のパラレルキャリアをはじめることとなりました。これまでも教え子達には面接相談等を行ってきましたが、正規の業務として日常的に行うのは久しぶりです。改めて学生と企業の就職・採用活動の多様化を肌で感じています。

その中でも最近、気になってきたのは「動画選考」です。数年前に登場して総合商社のインターンシップ選考で用いられ、今シーズンは接客系の業務を行う業界等でも増えてきました。先日も就職相談の学生から「先生、私の自己PRを録画してコメント下さい!」という依頼がありました。

私は以前から学生との模擬面接では録画してフィードバックする手法を用いていたのでこうした対応には慣れていますが、動画そのものを提出するとなると、相談手法や体制を整えなければならないかもしれません。既に市中では「自己PR動画対策講」というサービスも登場しており、今後、導入企業がますます増えそうです。

企業が「動画選考」を行うメリットは、主に以下の3つでしょう。

1.ESではわからないリアルなコミュニケーション力がわかる

2.ESより採用選考効率が良い(選考時間が短くて楽)

3.遠隔地や海外からでも(疑似)面接選考ができる

ES(エントリーシート)が登場して約20年が過ぎましたが、導入の最大の理由はネット応募が可能になり、母集団が飛躍的に増加したので面接の足切りが必要になったからです。しかしESの評価は非常な労力を伴います。真面目な企業採用担当者はESの選考のためにビジネスホテルに缶詰になっていましたが、この状況は大学入試改革で論文を取り入れることと同じでしょう。

そこで短時間の「動画選考」であれば、30秒~1分でも楽に判断ができます。ESだと採用担当者数人で同時に1つのESの採点を行うのは困難ですが、「動画選考」なら実際の面接のように数名で同時に判定できます。ESを読んでからの判定会議では、これだけの短時間では無理です。勿論、文章による論理構成力等、短時間の動画では判断できない能力もありますが、初期選考と割り切って判断すればリアルな対人スキルが見える「動画選考」のメリットの方が大きいです。

こうした短時間「動画選考」で思い出すのは、TV局の採用選考で行われた「1分間面接」です。例え1分でも書面より面接の方が得られる情報量が多く、かつ対人スキルを重視する企業では有用でしたが、1分間の面接で多数の学生を連続的に集めて選考するのは相当な労力がかかりました。

高速インターネットの普及、スマホアプリの登場等、これまで高コストで実現できなかった手法が現実的になってきたわけです。既にスカイプによる遠隔地との面接も可能になってきていますし、今後こうした「Anytime Anywhere Recruiting」がどんどん普及し、最終面接まで一度も会わない採用選考も行われてくるかもしれませんね。

第394号:自己PRメディアの使い分け

就職活動解禁日となり、学生が慌ただしく企業説明会に動き始めましたが、キャリアセンターには相談が急増ですね。私もお手伝いで学生の面談をしますが、採用担当者目線で見ていると、疑問に感じることが多いです。特に、履歴書エントリーシート面接の3つの自己表現の使い分けが出来ていないと感じます。改めてこれらの使い分けについてお伝えしたいと思います。

選考基準や手法は企業によって、また採用担当者によっても多様ですから、ここでお伝えすることはあくまでも私の知見からくるものです。しかし、こうした基本的な指針をもつことで、学生の悩みや迷いも相当に減るのではないかと思います。まずは3つの自己表現のメディア特性を考えた上で使い分けることです。具体的に整理すると以下の通りです。

履歴書 ⇒少量 ⇒紙   ⇒見せる  ⇒体言止め      ⇒事実

ES  ⇒中量 ⇒ネット ⇒読ませる ⇒である調       ⇒詳細

面接  ⇒多量 ⇒言葉  ⇒聴かせる ⇒ですます調     ⇒描写

まず履歴書は、読ませるものではなく見せるもの、採用担当者側から言えば、履歴書にはどんなことをしてきたか(いわゆるガクチカ)をできるだけ多様に書いて欲しいと思います。採用担当者は応募者の様々な能力を知りたいと思いますので、勉強についてはゼミや卒論は当然として、専門科目以外での好きな科目を書いて貰えれば幅広い採用担当者にアピールできます。しかし、多くの学生はゼミや卒論のテーマを書いて、その後に詳細の説明を書くので(これもひとつの書き方ですが)、採用担当者が質問するポイントが減ります。

ES(エントリーシート)は、履歴書の内容を詳細に説明するもので字数も増えますから、具体的な説明をするものです。ただ、最近の大学指定の履歴書は以前のものと違って、勉学、ガクチカ、自己PR、志望動機が項目として用意されているものが増えてきました。文字数で言うと200~300字なので、ESよりは少なめです。なので、ここで学生が履歴書とESの書き分けに悩むようになってきました。そこで私が勧めているのは、履歴書は箇条書きにすることです。大学キャリアセンターは履歴書を箇条書きにしてはいけない、と指導するところが多いように感じますが、私は反対です。極端に言えば、履歴書は採用担当者が質問する項目の羅列にして、ESで詳細を説明するという使い分けです。

最後に面接は、ESで書くと文字が溢れてしまう「具体的な事実・体験の描写」について言葉で話します。テーマは同じでも、言葉ではより臨場感があるように語れます。ESでは「学生時代には」「多様な世代に」と書いたなら、面接では「大学2年のことですが」「若者から年配までの様々な方に」と活きた言葉で描写することです。

ここでご紹介したメディアの使い分け手法は、採用担当者側にとっても応募者を理解する上で非常に助かりますし、応募者の表現能力のアピールにもなります。大学生であれば、こうした文体の使い分けで教養を示して欲しいと思います。