第382号:経団連会長の採用ルール廃止発言

北海道地方の地震に西日本方面の台風と大変な災害が重なりました。幸か不幸か大学は夏期休暇中で授業対応等は殆どされていないと思いますが、皆様におかれましては災禍ないことをお祈り致します。

さて大学には、経団連会長の個人的な発言とはいえ、採用ルール廃止発言という突風が吹きました。過去に何度も吹き荒れたもので、各方面で「この道はいつかきた道」と騒がしく議論されていますが、あまり言われていない点を指摘してみましょう。

まず中西会長の発言は、日立製作所の事業体制と採用手法があってのものだということです。グローバル対応(顧客が海外日本法人ではなく世界各国の企業とのビジネスを確立している)をとっくに済ませており、米国型のスカウト型採(リクルーター動員)も導入済みです。トヨタと同じで、マスメディアに頼らずヒトメディアというダイレクトリクルーティングのチャネルを確立しているということです。その原点は理系職採用での大学研究室訪問です。金融業界等がキャリアセンター向けに出している第一志望保証制度のような一般事務職学校推薦ではなく、授業内容に
根ざした大学研究室との絆です。

つまり、日立製作所にとっては採用ルールなどあってもなくても関係ありません。また中西会長は日立製作所の再生に大なたを振るってきた経営者です。形骸化した慣行を廃して実質的な野武士経営を推し進めてきた目には、日本独特の採用ルールの意義は失われていると見えるのでしょう。これまでの経団連会長のような「調整的」役割ではなく「改革的」役割を重視しているようです。

経団連による採用ルールは、学生に対して不法な採用選考(人権侵害の面接、脅迫まがいの誓約書・不当拘束、 etc.)や、大学の学習環境の侵害(早期化、授業時間中の選考呼び出し、 etc.)をしないということが本来の目的のはずですが、中西会長の発言にはそうした配慮は感じられません(感じて欲しいですが)。

過去何度も議論されてきましたが、現在において採用ルールは機能しない環境になってきました。大学生(大学)の多様化が進み、一つのルールで全体を幸せにするのは不可能だからです。少子化時代に入り構造的な人手不足が続くことがわかっていても、今の大学生が不安なのは大学格差が広がっていることがわかっているからでしょう。これは企業側も同じで、採用ルールが存在するもう一つの意義は、中小企業のための大企業のハンディキャップです(だから商工会議所は採用ルール遵守を求めます)。

さて、もし採用ルールがなくなれば、早期化が進み混乱がおきることは間違いないでしょう。そうなると繰り返されてきた採用ルール復活という論もまたまた出てきそうですが、私は10年後には議論にもならなくなっているのではと思います。それは人類が過去に経験したことのない構造的人口減少が進み、新卒一括採用が年々効率のわるい採用手法になってくるからです。日立製作所のようなヒトメディア採用が増え、若年転職者が増え、海外との競争が増え、採用・就職多様化時代になるからです。

もしかすると、中西会長の目にはそうした情景が見えていて、いつか来る災難への対応を加速化させようとしての発言かもしれません。