本年度から新たに上智大学でキャリア科目の授業を担当することになりました。私が大学キャリア教育に深く関心を持つようになったのは10年前に同大学で教育社会学に触れたことでしたから、恩返しのような気分で上智大学らしいキャリア教育の開発に取り組んでいます。
新任の大学では学生との距離感に戸惑いますが、まずは「自校のキャリア教育の課題」というレポートを学生に課して問題意識を探ってみました。このレポート求めると、多くの大学で共通に見られる課題と、その大学固有の課題が見えてきます。
共通に見られる課題としては、キャリア科目の存在を知らないという(広報課題)、科目数・定員が少なくて履修できない(機会課題)、低学年から受けたいという(時期課題)等の科目設定に関するものと、講義型が多くて受け身になる、公開講座なのに他学部の学生と交流できない、既存科目との関係がわからない等の授業内容に関するものがあり、量的課題と質的課題に分類できます。
今回、良く書かれていたレポートに「授業時間やコマ数の改革ではなく授業内容を改善して欲しい」という上述の量的・質的課題の関係を指摘したものがありました。具体的な改善案としては「もっとアウトプット重視の授業にして欲しい、グループワークをやりたい」等ですが、それでは、とレポートを増やすと学生の顔色が変わります。
学生の言うアウトプットを、単純なおしゃべりのグループディスカッションにしてはいけません。論理的に考え、文書・言語で発信できるスキルを意識して授業を設計すべきです。それは就活だけではなく、就職後にも役立つロジカルシンキングの基本ですから。
私のレポート課題では、自己都合の要望や単純な若者の主張はNG、読み手を意識した提案にする、事実(データ)を元に意見を展開する、等々の基本中の基本を指導して求めています。これらは就職して報告書や提案書を書く時にも求められる能力ですし、就活のエントリーシートでも同様です。結果、殆どの学生が基本をクリアして今学期末の履修OKを出せそうです。
こうした授業を進めていくと、最初は拙くても3~4回繰り返すと、真面目に取り組んだ学生のレポートは必ず良くなります。そして変わった「顔色」が良い「顔つき」に変わってくるのです。教育とサービスは違います。学生の要望をそのまま聞いて提供するのは教育ではなくサービスで、人材企業にお任せすれば良いでしょう。大学教員は、学生が(最初は)嫌がっても本当に大事なことは信念を持って強制すべきです。未知の経験をさせて自信をもたせることです。それが教育だと思います。
さて、まもなく学期末ですが、私の授業の最終日には企業採用担当者を招いて学生にレポートをベースにしたプレゼンテーションをさせています。今学期の学生との授業で考えてきたキャリア科目の課題を企業の方々とも討議して、冒頭に述べた上智らしいキャリア教育を形にしていきたいと思います。