第377号:エントリーシートと大学受験テクニック

私事ながら、法政大学の非常勤講師の仕事が大学の組織変更により昨年度で終了しました(有り体に言えば「雇い止め」です)。これまで通常教員の2~3倍の授業をしてきたので、サバティカルに入った気分で余暇を楽しんでいたところ、有り難いことに仕事でご縁のあった大学からスポットの就職相談員のご依頼を戴き、お引き受けしました。

久しぶりにキャリアセンターで学生と向き合ってキャリアカウンセラー(私はGCDF)として個別相談をしていたのですが、エントリーシートES)の相談を受けていると、最近の学生の文章力は落ちているなあ、と痛切に感じます。大学受験のテクニックで学ばなかったのでしょうか。

お誘い戴いたのは都内の私立大学で、学生相談が増加する4~6月の短期間業務です。私は元採用担当者でしたので、相談内容は基本的なセミナーや相談後のES指導模擬面接が主でした。大学毎にレベル感は違いますが、基本的なスキルは同じです。相談を始めてみると、ESの書き方について基本ができていない(というより知らない)学生が多いです。私の授業では「ESは大学のレポートの書き方を応用すべし」と伝えてきましたが、それ以前の大学受験テクニックもES対処法には役立つと思います。例えば以下の3点です。

・「全体像」を理解すること

すぐに最初の質問に回答するのではなく、全質問を見てから回答する。質問の体系を理解して、漏れなくダブりなく回答すること。それは記憶することから理解することに変えることでもあり、以後の面接にも役立ちます。

・質問を良く読み「題意」を外さないこと

「具体的な経験を述べよ」では、事実を中心に書き、自己PRを書きすぎない。
「欠点は何か?」では、冷静に自分の課題を書き、改善策は述べすぎない。
意外とこの事例は多く、相手が聞きたいことより自分が伝えたいことを書きすぎて、題意とズレがあります。また、大学での期末試験で有用な「こじつけ」は、あまり通用しません。

・「会話調口語体)」で書かないこと

「最もチカラを入れたことは?」という設問に「私が最も力を入れたことは~」で書き始める等。
気持ちはわかりますが、話し言葉と書き言葉の違いがわかっていません。会話調では字数が増えますが、相手に伝わる情報量は意外と少ないです。この違いに気づけないと、ESの志望動機と面接での志望動機が完璧に同じになります。

ということで、ESで大学受験でのテクニックを使っていないのは、もしかするとAO入試等の影響があるかもしれません。また受験小論文では高校の先生が相当に指導するらしいので、自分で考えるチカラが養われていないのかもしれません。

私のように大学受験地獄経験世代は、受験を通じて語彙が増えたりしたものですが、大学全入時代で変わってきたのでしょう。大学入試改革で論述試験が始まることで、文章力が向上すれば良いですね。

 

第376号:日大アメフト事件を面接で問われたら

6月に入り、選考解禁日が過ぎて1週間ほど経ちましたが、私の教え子からも内々定の報告が入り始めました。中でも一番早く報告とお礼に来たのは運動部の学生でした。前回触れた日大アメフト部の事件の影響で、運動部や日大に対する採用担当者の印象悪化を報じるメディアもありますが、多くの採用担当者はあまり意に介していないと思います。仮に問われてもピンチはチャンスにできます。

私の授業の成績評価は厳しいですが、運動部の活動にはできるだけ配慮して試合等で欠席する場合には課題を出す等の対応をしています。そのため、文武両道の学生が受講しています。この報告に来た運動部学生は一部リーグの強豪チームを率いていますが、私が授業を終えて教室で後片付けをしているところに飛び込んできて、某人気企業に決まったことを伝えてくれました。報告後の雑談の中で、今回の事件について面接で何か問われたかと尋ねましたが、どちらの企業でも話題になったことはなかったそうです。

このように良識ある採用担当者は、この時期にこうしたテーマを扱うことには慎重でしょうが、スポットで面接を依頼された人事部以外の一般社員が面接官になった場合は、デリカシーなく好奇心で尋ねることもあると思います。学生は圧迫質問と感じるかもしれませんが、その場合は超然と対応するのが一番で、焦ったり、むきに持論を熱く展開したりするのは禁物です。

これは面接やプレゼンテーションにおいて難しい質問をされた場合の対応と同じで、感情ではなく論理で回答するロジカルシンキングの発揮チャンスです。私は授業や就職セミナーで、米国著名人の以下の名言を引用しながらこうした質問への対応方法を教えています。

Great minds discuss ideas;  ⇒思想を問う(社会・文化背景)

Average minds discuss events;      ⇒事件を問う(出来事の原因)

Small minds discuss people. ⇒人間を問う(当事者の責任)

この格言はマクロとミクロの視点を提供していますが、客観的に俯瞰して持論(仮説)を展開していけば、採用担当者の評価も上がると思います。また、ここから更に進めるならば、自ら学んでいる学部の知見と組み合わせればオリジナリティ(個性)も評価されることでしょう。例えば、経営学部なら組織論やブランディング論に引き付けられますし、文学部ならコミュニケーション論にもっていけるでしょうし、法学部なら第三者評価について論じられます。

今回の事件は、運動部の中でもトップレベルの超上位校の出来事で、運動部の中でもほんの一握りの世界の話しです。ですが、こうした危機を新たな学びの機会にしたり、より高次な視点で見るチカラの発揮の場にすることは大学運動部員全員に教えたいことですね。そういう運動部員なら、どんな企業でも喜んで迎えてくれることでしょう。