第375号:アメフト問題会見を採用担当者視点で見る

この度のアメフト反則問題は、大学関係者のみならず社会全般に驚愕の出来事として受け止められつつあります。真相究明は今後の次第を見守るとして、このコラムでは今週行われた日本大学の当事者(学生と職員)の会見と採用担当者の目線で考えてみたいと思います。

企業の採用選考面接の評価ポイントは、プレゼンテーションの以下の3要素と同じです。

1.発表内容 ⇒論理的(事実+意見)な構成、結論優先の話し順等

2.発表技術 ⇒アイコンタクト、声量、リアクション、質疑対応力等

3.人間性  ⇒上記(発表内容+技術)から形成される心象

3番目の「人間性」は、1・2番目の発表内容+技術の会話から形成されるもので、採用選考の評価そのものともいえますが、この心象は採用選考の開始(会場への入室時点)と同時に形成されはじめ、採用担当者の質問に対してすぐに影響を与えます。つまり、採用選考の前半と後半では条件が異なるのです。前半ではニュートラルな状態で質問をする採用担当者も、その心象が良いものであれば、後半の質問が好意的なもの(合格理由を探す)になりますが、心象が良くないと厳しい質問(不合格理由を探す)になってきます。

そして一次面接の通過後は、その心象(評価結果)が二次面接の採用担当者に伝達されるので、人間性は最初から存在することになります。これは先入観となって採用担当者の評価結果に影響を与えるので、二次面接者の中にはあえて一次選考の結果を見ないという方もいます。応募者の大学名を見ないで面接するのと同じ心理ですね。

さて、こうした視点から今回の当時者の会見を見てみると、両者(学生&職員)とも説明内容は一貫しているようですが、学生の回答が事実を淡々と述べて自分の評価については無意識(捨て身で結果を意識していない)のに対し、職員側の方は自分たちの知っている事実をそのまま伝えるのではなく、回答内容が自分達の評価に影響を与えることを意識しながら話しています。

そうした発表内容の捉え方の差が、発表技術(話し方)に影響を及ぼします。学生が記者全員それぞれの方向に体を向けて正対してリアクションを自然に行っているのに対し、職員達は評価結果を考えながら話している(思い出した内容をそのまま話さず、そこから話す内容を選んでいる)ので目線が泳いだり、回答に詰まったりしています。

こうした違いは両者の人間性の評価の違いとなり、会見視聴者の心象に伝わっていることでしょう。それがどのようなものになるのか、採用担当者はどちらを採用したくなるのか、一緒に働きたくなるのはどちらか?それは今後の世論として現れてくると思います。

▼参考URL:

「日大アメフト部問題 選手の会見」(YouTube 2018.5.22)

https://www.youtube.com/watch?v=DZqW9wtjS30&feature=youtu.be

「日大アメフト部問題 日大前監督とコーチの会見」(YouTube 2018.5.23)

https://www.youtube.com/watch?v=ZZxxyfz_AAc

第374号:自分らしさは無理に考える必要は無い

先日、都内大学のご依頼で「就職活動リターンマッチ」というセミナーを行いました。春先から動いてきたにも拘わらず、結果が出ていない学生を対象としたもので、内定を取れる学生と取れない学生の違いや、採用担当者の目線をお話ししました。企業も学生も好みは様々ですが、共通に求められるもの、共通に嫌われるものはあります。学生と話していて気になったのは「自分らしさ」に拘りすぎるところです。そんなに無理に考える必要はないと思うのですが。

ESや面接の就職相談で「自分らしさ」を上手く表現できないという学生は多いです。キャリアカウンセラーや就職課職員も、よく「自分らしさが出ていない」と学生にアドバイスすることがあります。しかし、採用担当者目線では無理に出さなくても良いと思います。というか、リーダーシップ(リーダーの心構えではなく自主性という意味です)と同様で、本人は気付かなくても「その人らしさ」は自然に現れてしまっているものですから。

最近学生が良く質問する「社風」も似たようなものです。長年続けてきたその業界・企業・社員の行動パターンが社風となって形成されてくるものであり、当の社員は意外と気付いていないものです。なので、転職してきた社員なら感じられますが、その企業だけで生きてきた社員には当たり前のことなので気付きにくいです。

今の社会は情報やサービスが洪水化して、自分で創意工夫しなくても楽に生きられるようになりました。高度情報化社会ならぬ高度シェアリング化社会です。全てが用意されていますから、気をつけないと皆似てきます。そんな時代、社会の中で学生が「自分らしさ」に拘るのは大切なことかもしれませんが、皆が同じ環境・体験で暮らしている中で「自分らしさ」を出すのは至難の業です。文科省が必死に旗振りをしている「トビタテ!留学JAPAN」にでも参加して、普通の日本人学生とは違う経験をしてきたならば自然に他者と異なる「自分らしさ」が出てくるでしょう。

ということで、「自分らしさ」を出すために最も必要なのは表現力ではなく、体験を積むことです。そして採用担当者が知りたいのもそうした「具体的な経験」です。確かに人を採用するには最終的にはその人ならではの理由があります。しかし、それは仕事をする上での「能力」「資質」を発揮する過程での「個性」であり、「自分らしさ」を最初に求めているものではないでしょう。

私は就職相談でも来訪者の学生生活を聞き出して、本人が感じる・アピールしたい「自分らしさ」ではなく、採用担当者として魅力的に感じるその人らしさを見つけて伝えるようにしています。このように「自分的自分らしさ(自分軸)」ではなく、「社会的自分らしさ(他人軸)」をフィードバックする、教えることもキャリア教育でもあると思うのです。社会人がよく口にする「一緒に働きたくなる人」という曖昧な言葉の正体も、こうしたことがわかれば見えてくると思います。

最後にもう一つ。自分らしさを出したいなら基本を踏まえた上での自分らしさにして欲しいものです。周りを見ずに自分らしさに没頭したら、自分が如何に個性のない体験と話し方をしているかにも気付けません。基本の上にある個性こそ採用担当者も知りたいです。これは専門家とヲタクの違いと同じで、基本のない自己流は自分ヲタクにすぎませんから。