第373号:採用したいと思わせる学生の行動

先日、大手企業の役員で、今まさに新卒採用の最終選考を担当している方の話しを伺う機会がありました。なかなか採用基準が厳しい方で、人材紹介業、人事部泣かせの役員ですが「この前、是非採用したい学生が居たよ。」とおっしゃっていました。

この方は役員になる前は営業現場のエースとして活躍し、顧客の絶大な信頼を得ておりましたが、人事・経理等の管理部門系の役員は経験しておられません。しかし、人を見る目や人材育成の力は抜群で、多くの顧客・社員から慕われております。役員になってからは、管理系の業務も責任範囲になり、数年前から採用選考も担当するようになりました。

この方が社内の会議に向かう際に、たまたま荷物で両手が塞がった状態になり、無理な体勢で会議室のドアを空けようと四苦八苦していたら、会議室の中に居た若者が気付いて駆け寄り、ドアを空けて荷物を引き受けてくれたそうです。「早く気付きませんでどうもスイマセンでした。」と一声かけながら。

実はこの若者はこの企業の採用選考(一次面接)のために来訪し、控え室になっていた会議室で待機していたのでした。この役員の方は会議室を間違って入室しようとしており、お礼を言いながら会話をしてみて応募者の大学生だと気付いたのでした。そしてこの学生が、この役員の方が採用したいと感じた学生だったのです。

この役員の方の直感ですが、何も指示されなくてもこうした状況ですぐにアクションを起こせる人物は有望だそうです。この大手企業の営業部門には中途採用の社員が中心の部署があり、外資系から転職してきた人材が多いそうですが、この部署のメンバーを見ていると、体に不自由がある人が作業に苦労していても誰も助けにこないとのこと。一方で、生え抜きの中小企業担当部門のメンバーは、誰でもすぐに手伝いに来てくれるそうです。そして、高い業績を出しているのは後者の部門でした。

こうした思いやりや配慮があると同時に、誰に言われなくても自ら動く人物は、それまで所属してきた企業や組織の文化や社風、また接してきた人物の指導や家庭環境等が影響しているのでしょう。業務内容が明確に区分されている外資系では、同僚の仕事を手伝うことは却ってその人の業務を邪魔することになる、仕事を奪うことになると考える人もいますから。

さて、この話しには後日談があります。この役員の方はこの応募してきた学生が最終面接にやってくるのを楽しみにしていたのですが、残念ながら現時点ではまだお目にかかれていないそうです。「うちの人事部員は、ちゃんと人を見る目をもっているのかな?」と心配そうにつぶやいておりました。

最近は一部の企業でAIが採用選考にも利用されるようになってきていますが、こうした資質を計ることはできるのでしょうか?筆記試験では判断できても、行動パターンを評価するのはなかなか難しいのではと思います。だからこそ、採用担当者は肩書きではなく、人物を見る目を養い、良い選考手法を考えなければなりません。