第372号:新入社員研修での上手な社員の教え方

新年度が始まり、益々ご多忙な日々をお過ごしのことと思います。企業も同様で、新入社員の受け入れ(研修)と早期化した採用面接がぶつかり、4月は人事部も労働力不足でてんてこ舞いです。採用活動の成功には、入社後にしっかり定着(リテンション)させることが重要で、そのため新人が最初に影響を受ける研修講師担当社員の選抜には気を遣います。

私も研修担当者当時、自分自身で講師をしたり、社員を招聘して講師依頼をしたりしておりました。その中で、新入社員の心をうまく掴んで定着させてくれる社員講師が何名かおり、こんな風に話しておりました。

あるベテラン社員講師は開口一番、「社会人の国へようこそ!皆さんはこの会社に入って、これまでとは全く違う人間関係や環境変化に戸惑っていることでしょう。でも、それは外国に来たようなものです。皆さんが無理に変わる必要はありません、新しいライフスタイル、新しい場面での振る舞い方ができるようになれば良いのです。」

新入社員の中には「企業は研修で洗脳しようとする、自分は染められたくない。」と感じている人も居るので、解きほぐすための導入として上手な話し方です。若者に受け入れられる大人の社会人とはこんな人物です。「自分らしさ」重視の若者が増えた今だからこそ、有効な対応です。

この社員は海外取引先との仕事経験も豊富で、扱う商品は一匹狼で売れるものではなく、チームで販売するコンピュータ・システムでした。社内外・国内外の人とチームを作って仕事を進めてきたベテランで、年齢・性別・人種等に左右されないコミュニケーション力・チームビルディング力を発揮していました。

そのビジネスモデルは販売して終わりではなく、その後に顧客サポートや運用セミナーも開催しておりました。この方は教育のプロではありませでしたが、こうした仕事を通じて教育力や指導スタイルを身につけたのでしょう。顧客対応というのは、教育スキルと多分に重なるものがあります。

この社員の素晴らしい点は、どんな相手にもリスペクトを忘れないということです。若者(新入社員)を子供扱いせず、一人の大人としての人格を認めることです。同時に、しっかり責任を自覚させ、大人としての思考と行動を促している点です。

新人研修の仕事は大変ですが、こうした達人社員から学ぶことができるのはとても参考になり、今の私のキャリア教育にも活用しています。こうした人物が新入社員をしっかり定着させ、成長させてくれたら、採用担当者は安心して採用選考にのめり込むことができます。皆さんが送り出した卒業生も、今頃、魅力ある大人の社会人に出会えていると良いですね。

また、こうした組織内の定着プロセスは、大学の新入生対応やFD活動にも参考になります。初々しい1年生の期待を裏切らない授業をしていきたいものです。