第367号:放送大学から学ぶ新卒一括採用改革の可能性

入試の季節が近づいてきました。いよいよ2018年問題が数字として現れてくるのでしょう。この問題は18歳人口が限られているので、年々厳しい結果が出てくることは間違いありません。企業側には採用活動の未達という現実への対処が求められるので、新卒一括採用の本格的な見直しになるでしょう。そんな背景の中で、放送大学の運営は参考になるかと思われます。

新卒一括採用の効用については賛否両論ありますが、18歳人口の減少で若者労働力が供給面から破綻してくることは確実なので、将来性が低いことには是非もありません。日本の労働力問題と同じで、女性・高齢者・外国人に期待するように、大学は共学化、社会人入学、留学生募集等、対策を講じてきましたが、この中では社会人入学(リカレント教育)がまだ手薄のように思います。

それを私が肌身で感じたのは、放送大学でのキャリア教育の授業からです。私は7年前から放送大学の非常勤講師として面接授業を担当してきました。内容は教育社会学やキャリア教育に関するものが中心ですが、私のクラスを受講する社会人大学生のレベルが年々、向上しているのです。大衆化の進む一般の大学では、逆に年々学力の低下を感じています。

例えば私の担当科目の「キャリアデザインの基礎知識」では、当初はフリーターの社会人学生、就労経験がない若者、現役をリタイアして趣味で学ぶ高齢者が多く、カルチャースクールのような雰囲気でした。ところが最近は、大学や公的機関の就労支援者、企業の人事採用担当者等の現場で実践しているミドルクラスの方々が増えてきました。今年度は約40名の受講生のうち、キャリアコンサルタントの有資格者が10名以上おり驚きました。

私のシラバスで想定していた初学者の内容を越える具体的で実戦的な質問が飛び交い、キャリアコンサルタントやキャリア教育担当者の養成講座のようになってきました。これはこれで有意義な授業になっているのですが、こうなるとカリキュラムも基礎編・応用編・実践編等に構成しなおさなければ多様なニーズに十分にこたえられません。ちなみに放送大学ではキャリア科目が少なく、私の講義は抽選になっていると最近、知りました。

こうしたハイレベルの社会人学生の学習動機は、現状の仕事を向上させるため「越境学習」に来ている方が多かったので、転職や就職を考えているわけではありません(放送大学にはキャリアセンター等の機能もありません)。しかし、これだけ有能な社会人学生が増えてきたのなら、しかも在学生にキャリア系実践家が居るのなら、就職相談員は内部調達でピアサポートも可能でしょう。社会人の学び直し(リカレント教育)が単なるカルチャースクールではなく、真の社会人キャリア教育の基盤になれば、放送大学は質も量も一般大学を凌駕する大学になるかもしれません。

放送大学は元々、反転授業対応(通信教育)で、アクティブラーニングにも対応(面接授業)しており、かつ一般の大学にない敷居の低さで9万人の学生(学部+修士)を集めています。入試改革、授業改革、就労支援等、2018年問題の対策に、多くのヒントになるのではないでしょうか。

 

第366号:採用担当者の働き方改革

新年おめでとうございます。企業人事、大学教職員にとって「問題」となる2018年が始まりました。人口減少は、受け入れ難いことですが動かしがたい事実ですね。政府が「一億総活躍社会」を掲げて「働き方改革」を推し進めようとするわけです。今年はこの影響が日本社会の至る所で現れてくるのを目の当たりにすることでしょう。そして、それは労働集約的業務に従事する採用担当者も同じです。

私が思い出すのは、前職で人事部に異動になり、初めて採用活動部署に出社した日(1995年4月)のことです。当時の人事部は20人弱の部員がおりましたが、早朝からオフィスの電話が鳴りまくっており、部員総掛かりで電話応対しています。営業部から異動し来た私が、顧客に何かのトラブルが発生したのかと驚いて立ち尽くしていると、若い採用担当者が「鈴木さん、かかってきた電話を受け付けてこのリストに学生の名前と大学名と電話番号を記入して!」と早口で伝えてきました。IT全盛の今では見られなくなった光景ですが、企業説明会の電話受付だったのです。郵送で送ったDMを人事部で受け付けていたのですね。この騒動は業務時間中の朝から晩まで2~3日間続きました。

90年代後半から企業の採用広報はWebサイトによる告知やセミナー受付に移行して就職ナビサイトも増え、このような仕事はなくなりましたが当時は立派な正社員の仕事として存在していたのは今でも信じられません。そして、いまこれと同じような仕事の変化が起きようとしています。

実際に採用担当者自身が自分の働き方に疑問を持ち、新しい働き方(起業パラレルキャリア)に向かう動きが増えてきています。また、既に報道加熱とも言えるAIの衝撃もあります。こちらは採用担当者の環境を変えて仕事そのものを消滅させてゆくでしょう。

こうした働き改革のもっとも困難なことは、これまでの延長線上の経験で対応できるものではないことです。起業にしてもAI対応にしても、人事関係の知見(ちなみに採用活動しか経験のない採用担当者は意外と人事労務の仕事を知りません)だけでは無理で、経営学や統計学の知識、また実践知がないと実現できません。「改革」というものは、過去にない非線形の変化・変身をすることですから。

こうした経験をしてきた私見では、正直、一般企業の採用担当者がどの程度対応可能なのだろうと思います。政府が進める「働き改革」が困難な理由と同じです。しかし、このような挑戦をしていかなければ、2018年問題の津波にのみ込まれることになるでしょう。それは大学関係も同じです。

大変な時代の幕開けではありますが、ピンチはチャンスです。今の仕事が無くなる反対に、必ず新しい仕事も生まれてきます。そうした挑戦の年になれば良いと思います。

▼参考URL:

・株式会社HARES コラム「採用担当者にこそ、働き方改革を」2017/06/22

http://hares.jp/2017/06/22/parallel-preneur-ishikura/

・株式会社ディー・サイン 2017/7/25(DE-SIGN INC.)

https://www.workstyle-box.com/single-post/2017/07/25/AIによる新卒採用~働き方改革に向けて活用~