最近、授業を休む1年生が目立ちます。オープンゼミ(低学年向けゼミ体験参加)が授業時間内に行われるからです。これまでゼミは高学年が近づいてきてから考えるものという認識でしたが、今の1年生は意識高い系と言いますか、不安症候群といいますか、年々、早く動くようになってきました。企業と同じで、大学教員も早期に良い学生を囲い込みたいのでしょう。こうした動きを見ていると、背景にあるのはゼミ所属の高学年生の熱心な勧誘活動です。彼らは自分達が体験した企業の採用活動をそのまま後輩達に仕掛けているようですね。
いま、ゼミの勧誘・選考の主体になっている3~4年生の多くは、企業の短期インターンシップ(本来のインターンシップではない青田買い型)を体験した就職活動をしています。セミナーに始まり、エントリーシート(筆記試験)⇒グループ・ディスカッション、面接という選考の「三つの神器」を経て内定を勝ち取っており、その手法をゼミの後輩採用に活用しているわけです。
このように、ある特定の組織やコミュニティにおける知見や行動様式を、外部の人間がやってきて体験しながら学ぶことを経営学では「越境学習」と呼び、それを自分の所属する元の組織に伝搬する人のことを「ナレッジブローカー(knowledge broker:知識の仲介者)と呼びます。大学における留学と同じですね。この視点では、留学生は単に自分の学習のためだけに海外へ行くのではなく、現地で得た知見を自分の大学に還元することも期待されています。留学生選考面接でも、こうした視点を持った学生は好まれるのではないでしょうか。
また、学生がゼミの採用選考に関わるのはわるいことではありません。米国MBAでは、応募条件に複数の卒業生(OB/OG)から推薦書を貰うことを当たり前に求めます。卒業生は、大学から依頼されて応募者にインタビュー(面接選考)を行い、その心象を報告(推薦)書にまとめます。卒業生が第一関門なのです。
閑話休題、履修している学生をオープンゼミで奪われる教員、特に私のようにグループワークを行う授業では、欠席した本人だけの問題ではなくグループ全体にとって大変な迷惑です。1回位ならなんとか許せても、就活と同じで1年生は複数のオープンゼミを受けたり、これも企業の採用活動と同じで一度参加したオープンゼミで上級生から有望だと思われると、通常のゼミにも継続して参加を勧誘されたり、いわゆる「囲い込み」にあいます。
以前は、1年生からゼミに関心をもつとは偉いなと感心していましたが、これがどんどん増えてきて、経済学でいう「合成の誤謬」(一つの組織では有効でも皆が行うようになると破綻する現象)になってきました。就活のインターンシップと同じで、倍率の高い人気ゼミに入りたい1年生にとっては、つい履修授業を欠席してゼミに参加してしまうのでしょう。
いやはや、企業インターンシップで欠席する3年生だけではなく、学内から1年生まで奪われるとは。企業の採用活動の変化が、大学教育にこんな形で影響を及ぼしてくるとは思いもよりませんでした。