第358号:若者の東京一極集中と首都圏大学入学者抑制

周知の通り、東京23区の大学新増設抑制がニュースになっています。首都圏への若者の集中抑止のために、大学定員で対処しようという政策ですが、全国知事会でも賛否両論になりもめにもめています。奇遇にも、私が今春、修了した大学院の研究ではこのテーマを扱っていたのですが、今回の政策にはまったく教育的な視点が抜け落ちており、目が点になりました。

私の在籍していた法政大学院政策創造研究科は、地方再生を主な研究領域としており、指導教官だった小峰隆夫教授(現大正大学)は、元内閣府官僚で経済白書を書かれておりました。大学院では人口問題と地方再生を研究され、「人口オーナス」という就労人口構成比の変化(労働人口が減って社会負担が大きくなる)に警鐘を鳴らしておられました。
そのゼミに所属していた私は『人口オーナス下における大学教育の課題と産学間の人材ミスマッチの実証研究』という修論をまとめたのですが、以下のようなロジックです。

1.人口オーナスは大学生数にも影響を出し始めた

⇒郊外、小型、教養系が過疎化になり、大都市、大規模、実務系の大学に集中する。

2.過疎化になる大学が学生を惹きつける王道はカリキュラム改革である

⇒しかし大学教育と就業力とには認知差があるので摺り合わせが求められる。

3.大学と企業の連携には双方の意識改革&行動が必要である

⇒大学はアクティブラーニングを強化、企業(社会)はインターンシップを改善すべき。

この論文を書いている最中に、政府の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が改訂され、大都市圏への若者集中を是正する政策が打ち出されはじめました(昨年12月改訂)。その中には「地方創生インターンシップ」など、教育的な配慮が盛り込まれておりますが、今回の文科省の動きは、内閣から言われたので(不本意ながら無思慮に)動いたと感じさせ、これでは過去の事務次官と同じです。

この問題は簡単に結論を出せるものではありませんが、今週おめにかかった福岡県の優良中小企業の社長のコメントを紹介してヒントとしたいと思います。

旧帝大といっても地元しか知らない人はまったく使えません。学生のうちに一度、東京に行って戻ってきた学生の方が欲しいです。我々の市場はもはや国内だけではないのですから。」

このコメントは、世界中に大きな影響を与えた神話学者キャンベルの書いた『千の顔を持つ英雄』を思い出させます。英雄は地元を旅立ち、異国で何事かをなして地元に戻る。世界中の神話に登場する英雄に共通の行動パターンです。若者を地元の英雄にするために、単なる数あわせの人口調整ではなく、しっかりした教育方針を踏まえた政策を望みたいですね。

 

▼参考URL:千の顔を持つ英雄(ジョーゼフ・キャンベル)

https://www.amazon.co.jp/dp/4150504520

▼参考URL:大学をどう変える(下) 強みを伸ばし自ら将来像描こう(日本経済新聞)

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO20183070Q7A820C1PE8000/