映画やドラマで時折、就職活動が題材になります。昔のものはすぐに「こんなことありえないよな」と笑いながら楽しめましたが、最近のものは良くできていて「これはリアルだなあ」と思わされることが多くなりました。それでも、よくよく観ていると「やっぱりこれはありえない」と感じてしまうことがあります。おそらくそれは採用担当者の目線で観ているからなのでしょう。
就活映画では1991年に公開された『就職戦線異状なし』が有名です。織田裕二が大学生を演じていたのをご覧になった方もおられることでしょう。この映画はバブル期の売り手市場の時に制作されましたが、公開時にはバブル崩壊が顕著になったこともあり、ますます現実離れになってしまいました。
そして昨年公開されたのが直木賞受賞小説を映画化した『何者』です。これを観た学生が「先生、あの映画は本当にリアルです」と興奮していたので、私も映画館に足を運んでみました。確かに登場人物のそれぞれが、実際によくあるパターンの学生を個性的に演じており、ネットを活用した就活やトラブルもリアルに描写されていました。
しかし、こうした映画やドラマは、最大多数の想定視聴者である学生の目線で描かれているので、学生には共感できても、採用担当者側の目線ではありえないと感じてしまい、ストーリーに入り込めないのです。例えば現在放映中の『就活家族』というTVドラマがあります。このドラマの中で、主人公の人事部長が生意気な応募学生に対して面接中に「君のような人間はどんな会社も必要としない」と発言するシーンがありますが、これは大手の企業ではまずありえません。
面接選考のその場で良い評価を伝えるならともかく、採用担当者が学生に面と向かって否定的な評価を伝えれば学生本人がそのショックでどのような言動に出るかわかりません。その場で泣き出すかもしれませんし、面接後にネット上でとんでもない発言をするかもしれません。大企業になればなるほど企業のコンプライアンスやブランディングの重みがわかっているので、人事部長は軽率な動きはとれません。不合格結果は何故落ちたかわからない、となる方が良いのです。だから多くの学生が「面接では良い感じだったのに何故か不合格になったんですよ!」と口にします。
ちなみに、多くの企業が面接の最初で、「この企業を知ったキッカケは何ですか?」と問うのは志望動機を問うだけではなく、業界の関係者(縁故筋、ビジネス筋等)ではないかを確かめるためでもあります。これもリスク管理です。
ところで、昨年の映画『何者』は、関係者の中での評価は高かったようですが、映画興行としては不作だったようです。察するに、現在の採用活動は画一的なマス型採用から個別のダイレクトリクルーティングへ徐々に移行しており、大学生もまた年々多様化しています。同世代の大学生間でも就活経験が異なってきているので大ヒットになる共通共感を生みにくいのではないかと思います。もしかすると、これからの就活映画&ドラマでは荒唐無稽で馬鹿明るいものの方が受けるかもしれませんね。