第343号:米国大統領選から学ぶこと-2

世界を騒がせた米国大統領選もトランプ新大統領の就任式が終わり、世界は現実を直視し始めたようです。今後どうなるかは予断を許しませんが、米国民の対応を見ているとリーダーや組織のあり方の勉強になります。特に大学のガバナンスという意味では参考にして欲しいと思いました。

 

トランプ新大統領の就任式は、支持率や参加者数等、前代未聞の諸事が枚挙にいとまがありません。不支持派デモがあれだけ多く報道されたのは米国マスコミの逆襲とさえ感じられます。一方、ネット上の記事で、二つほど興味を引かれたものがありました。

 

一つは、支持派と不支持派が壮絶に議論で、全く折り合いませんがお互いの立場は認め合っている、今風に言えばリスペクトは忘れていないところです。日本人が見習うべきは、感情論と理性論を切り離すことで(メンバーシップ社会の我が国ではなかなかできませんが)、討議も相手の感情や人格に触れるような言い方は避けて論争することですね。これは国柄だけではなく初等教育からの訓練がなければ難しいと思います。

 

もう一つは、不支持派の意見が現実的な点で「当選してしまったからには、役割は果たして貰う」という考え方です。決まったからには仕方ないな、という割り切りが早いです。私が外資系で仕事をし始めた頃に交わされた職場の会話を思い出しました。とあるビジネス案件で戦略が二つに分かれ、どちらも選びがたい議論になりましたが僅差で一方が選ばれた時です。選ばれなかったリーダーが「決定前には徹底的に議論したけど、決定後には従うよ」と別の戦略通りに黙々と仕事をしていたことです。

 

政治でもビジネスでも正解はありませんから難しい案件ほど選択は悩ましいです。だから大切なのはどちらの意思決定をしたかより、早く決めてその方針で早く実行することです。(ちなみに就活生も、いつまでも迷ってないでどちらでも早く決めて早く動いた人の方が結果は出やすいですね。)

例え気に入らない上司だとしても、感情は置いておいて早く動くことが組織を成功させます。逆に卓越した優秀な上司が完璧な意思決定をしたとしても、賛成しない一部の部下や仲間が文句を言い続けて渋々やっている状態では成功できません。失敗したら部下は自分たちのことより上司の責任にしがちです。

 

さて、私が企業から大学で仕事をするようになって不思議に思ったのは、学長や学部長等の「長」の意見や方針に何で教員はこうも文句を言うのかな?ということです。確かに大学は自由の議論の場ですが、その言い方や場面は気をつけなければならないと思うのです。教員という職業である限り。

 

特に学生の前は慎重になるべきです。若者はすぐに目の前の意見をまともに受け止めますから。余程のことでなければ組織トップへのネガティブな言い方は避けるべきだと思います。例え学生が大学や学長の非難をしていて自分も共感できたとしても、口車にのるべきではありません。同じ船に乗っていることを忘れずに、ちゃんと礼儀をわきまえた大人の議論を教えるべきでしょう。若者は大人の鏡であることを、しっかり肝に銘じておきたいものです。

第342号:キュレーションサイト炎上から学ぶこと

昨年から世界中で激変の出来事続いておりますが、最近炎上したキュレーションサイトについて大学生の関わりが気になっています。

 

私は大学時代に法学部で無体財産法(今は知的財産法と呼ぶのが普通です)を学び、知的創造活動に価値を認めるのはとても人間らしい学問だと思いました。しかし、その権利をグローバルに認めすぎると発展途上国は勝てなくなる矛盾もあり、ビジネスとして無制限に認めるのも悩ましい世界です。

 

知的財産は元々自分の財産を他者に使わせない(自分で独占して使う)権利だったのですが、社会が発展するに従って、その権利を他者に使わせることで収入を得るという公法から私法的な性格に変わってきました。そして現在の爆発的なネット社会の拡大によって、この権利が軽視されてきています。

 

この権利の意義や重要性は学ばないと価値も課題も理解できません。素人の実践は危険です。特に三次産業比率が高くなった日本では、ソフトの世界で働く人間ほどソフトについて高い意識が必要です。一般常識である善管注意義務以上のプロ意識が求められ、自分と他者の権利をしっかり尊重しなければならないのです。ところが、ネット社会はあまりに他者の知的財産の流通が激しく簡易であるため、いつしか大事なプロ意識や経営責任や順法精神が忘れられ、今回の事件を招いたのでしょう。

 

無体財産がローカルの問題からグローバルに、そして急速にネットに展開されている今、改めてこの世界の経営者は学び直さないといけません。知らずに従業員や社会を誤った方向に導いてしまいます。

 

カタカナは便利です。怪しいものもカタカナにするとイメージが良くなります。キュレーションといえばカッコ良いですね。しかし本職のキュレーターは目利きのできるプロで、博物館の膨大なバックヤードの財産の中から厳選して展示し、引用元を示すし複製品・模造品とも明記する専門家の仕事です。そうした能力や意識を持たずに、世間の情報を組み合わせて捏造したまとめサイトに広告まで貼り付けるなら、秘宝館・珍品館です。

 

この問題の裾野は大きいです。大学生にとっての関係では、卒論やレポートの剽窃問題、そして以下のURLに示したような綺麗なオフィスでインターンと名付けられたブラックバイトがあります。知らない間に学生がこうした世界に鈍感にならないように、キラキラ見える仕事の本質を見極める智慧や仕事へのモラル感を授けたいです。それが大学で学ぶ意義だと思います。

 

研究や教育や立法や行政よりも遥に速くこの世界が広がっています。原子力や遺伝子工学などと同じく、人間は未知で魅力的で危険なものとの付き合い方を学ばなければなりません。進化を止めるのではなく制御する智慧を期待したいものですね。慌ただしい授業や就職指導の中で、今年もしっかり学生を指導しましょう。本年もどうぞ宜しくお願い致します。

 

▼「MERY」記事量産の現場 「90分に1本のノルマ」インターンが証言

http://withnews.jp/article/f0161209003qq000000000000000W00h10301qq000014399A