第338号:電通という企業の特異なところ

大変な事件が起きてしまいましたが、正直「またか」という印象でした。この事件は広告代理店の異常な体質のように思われますが、業界の問題というよりは、私は同社独特の体質から出た問題だと感じています。なかなか実態のわかりにくい世界ですが、私が採用担当者として見ていて不思議に思うことの多い企業でした。

 

電通は最近でこそ巷で知られていますが、かつては特定の上位大学や広告研究会の強い首都圏メガ大学等にしか知られていない企業でした。ロサンゼルス・オリンピックのプロモーションを請け負った1984年頃から段々と一般に知られるようになり、学生人気ランキングにも顔を出すようになりました。そんな電通で私が不思議に思ったのは以下の点です。

 

1.紹介採用が異様に多い

2.圧倒的業界シェアだが、学生人気は2番手。

3.女性転職希望者の多さ

 

紹介(コネ)採用自体は何処の企業でもあり、珍しいことではありません。中小企業となると紹介採用だけで行っているところも多いです。しかし同社のような大企業では一般公募が殆どで、例外的に少数の紹介採用を行うものです。ところが、同社は紹介採用が一般の企業より多いようです(通説で1~2割といわれていて定かではありませんが、内定者から「半分がコネ採用でビックリしました」と聞いたことがあります)。これは同社の事業形態が多くの企業との関係性の中で決まっていく特殊な事情によるものと思われます。官公庁と取引の多い企業が天下りを受け入れていたのと同じです。

 

広告・マスコミは人気業界なので私も多くの学生から相談を受けますが、殆ど学生が第一志望にあげるのは業界2位の博報堂です。売上も社員数も採用数も圧倒的に電通の方が多いので、どんな事情があるにせよ第一希望にならないのは不思議でした。その事情がわかったのは、私がコンサルティング業界に入ってからです。コンサルティング業界は広告代理店と業態が似ていて、個人の力を思い切り発揮したい人が志願することが多く採用選考も何度が高いです。そのため企業との関係性より個人の能力がより発揮しやすいと感じる博報堂の方に集中するのでしょう。

 

私が外資系でコンサルタントを採用する時に、広告代理店もターゲットにしてヘッドハンティングしていました。当然、人数も多く高学歴で優秀な人材がいそうな電通にアプローチしたのですが、不思議だったのは、男性社員がまず誘いにのらないのに女性社員は殆どの方が「話だけでも・・・」と関心を示してくれたことです。これは今回の事件のようなパワハラやセクハラということより、女性が将来のキャリアパスを描きづらい(出世できない)という点にあったようです。

 

つい先日、大学授業にお招きした広告代理店の方が「今回の件が業界全体の慣行と思われては困ります。」とおっしゃっていました。なかなか一般にはわかりづらい世界ですが、これを機会に少しは理解がすすむと良いと思います。それが事件の再発防止にもなるのではないでしょうか。

第337号:院落ちの就活学生の救命採用

急に秋の訪れを感じる気候になってきました。採用担当者も内定式が終わり、やっと一息ついたところですが、落ち穂拾いの仕事があるのもこの季節です。大学院の入試に失敗して急いで就職活動を始めなければならなくなった、いわゆる「院落ち」学生の追加採用です。今ではこうした採用活動に動く企業は減ってきましたが、先月、そうした相談に乗ったのでご紹介しましょう。

 

日本での大学院進学はまだまだ理工系が多数ですが、その中でも国公立や上位私立大学が中心です。学部卒で社会に出るのは、大学の研究に拘らない「文系就職」をしたり、生活環境の事情で大学院進学が困難な学生達です。

 

私が今回の相談を受けたのは、大学院進学が過半数を占める大学で、当然のように進学を予定していた学生さん10名程です。たまたま会議で伺った大学が大学院試験の発表日で、そこで不合格になって真っ青な顔をしておりました。

 

本来、こうした相談は個人の心情を配慮して個別に行うべきですが、今回は状況が切羽詰まっていたので駆け込んできた全員一緒に事情を聴きました。まるで企業の集団面接のようでしたが、それぞれの研究内容や志望先を整理しながら、その会話の中から個人の性格や指向性やコミュニケーションスタイルを読み取っていきました。

 

まったく就職活動をしていない学生達なので、業界研究も自己分析もやっておりません。なので、私の方でいくつかの選択肢(まだ採用可能性のある企業)を紹介し、後日、企業との面談機会を設定しました。大学側の方も、心ある教官の方々が企業に直接あたって紹介先の開拓に奔走してくれました。

 

結果、幸いにも過半数の学生が「院落ち」から1ヶ月以内で内定をとることができました。勿論、学生達の希望が完全に通ったわけではありませんが、社会に出るパスポートを手にすることができたなら、その後のチャンスはまた自分で切り開くこともできるでしょう。内定が取れた学生は、晴れやかな顔をしていました。

 

今回の件で私が改めて思ったのは以下のことです。

1.就活は長ければ良いものでもない。  ⇒メチャクチャ時間効率が良かった

2.選択肢は多ければ良いものでもない。 ⇒選択肢の少ないと覚悟を決めやすい

3.切羽詰まった状況ではカウンセリングより強い指導の方が良い ⇒救命救急隊員の気分

 

最後に今回ラッキーだったのは、なんとか採用窓口が開いていたことです。これ以上早期化すると、採用担当者も動けなかったことでしょう。いくつかの企業に打診した際に良くあったご返事は「担当者としては面談してあげたいのですが、既に選考日程が終わってしまったので・・・」というもの。比較的若くて大局的に判断する権限や意欲のない採用担当者の方々でした。良い人材だったら通年で採ってほしいものですが、新卒採用のあり方、採用活動の早期化について考えさせられた一幕でした。