江戸時代までは、話し言葉は口語体で書き言葉は文語体を用いていたが、明治時代になると夏目漱石や二葉亭四迷らによる言文一致運動が起きた・・・、というのを日本史で習いませんでしたか?元々、日本語は書き言葉と話し言葉は別々の発達をしてきたそうですが、ペンを取って手紙をしたためるよりメールやLINEで連絡を取るようになった現代では、若者の言葉はしっかり言文一致になってきたようです。そしてこの影響がエントリーシート(ES)の書き方に現れています。
ESの採点基準はいろいろありますが、例えば限られた文字数でできるだけ多くの情報を伝えるスキルを把握するには、数字、漢字、固有名詞を多用しているかを見れば良いです。また、無駄な描写をせず、できるだけ簡潔な表現をしていることが望ましいのですが、それには冒頭で述べた「話し言葉」と「書き言葉」の使い分けができているかで判断します。実際に私が見たESの例で見てみましょう。
▼学生の書いたES
「私の学生時代の1番エネルギーを注いだ経験はアルバイトです。私は、高校時代から苦手だった初対面の人とのコミュニケーションを少しでも克服しようと思い、あえてアルバイトは百貨店のテニスショップでの接客を選びました。最初はドキドキの連続でした。しかし、目標を持ってはじめた以上、逃げてはいけないと思い、誰よりもはやくお客さまに挨拶することを心がけ、取り組みました。 アルバイトを始めて2年以上になりますが、今ではコミュニケーションに対する苦手意識はなくなってきましたし、また、最近では店長から「2年前とは大きく変わったね。」と言われたことがとても嬉しく、自信にもなっています。」(283文字)
すらすらと読みやすいですが、それは文章が会話調の口語体だからです。確かに面白いのですが、無駄な表現が多く、文字数に比して読者が得られる有益な情報量(応募者の強み)は意外と少ないです。また、本人は頑張った経験なので是非書きたいのでしょうが「対人コミュニケーションが苦手」という表現を使うのもどうかと思います。読み方によってはやっと人並みになったのかな、とも捉えられかねません(どうせ書くなら「社会人にも通用するコミュニケーション力を身に付けたくて」とかすれば)。
これをシンプルに改訂してみたのが以下です。
▼改訂例
「大学入学後に百貨店のテニスショップでアルバイトを始め、2年以上頑張っています。接客業は初めてでしたが、誰よりも早くお客様に挨拶をすることを心がけ、店長から高く評価されるようになりました。」(93文字)
ちょっと無味乾燥ですね。でも、この学生の「能力」で採用担当者が得られる有益な情報はこれくらいです。文字数が半分以下になりましたので、更にまた別の能力について書けば当初のものより倍以上の情報を採用担当者に与えることができます。言い方を変えれば、当初の文章は面接の会話用にして、改訂例をESや履歴書の文書用に使い分ければ良いのです。
ところが、学生の中には履歴書やESや面接の文章・文体が、全部同じの「超言文一致」の人がいます。何が原因かはわかりませんが、ツイッターやLINEでどんなに長時間呟いても、書くための訓練をしなければ文章力は向上しません。是非、メディア特性を活かした表現をして欲しいものです。