第261号:エイベックスの新卒一括採用中止は仰天か?

少し前にエイベックス社が新卒一括採用を中止して、自社独自の採用方式を行うと報道されました。メディアの一部では「仰天」採用、新卒一括採用の崩壊等、注目していたようですが、私にはごく当たり前のことで、何が「仰天」なのかがわかりません。改めて思うのは「新卒一括採用」の理解とは凄く難しいことなんだなあ、ということです。

 

私がこの方式が「仰天」にはあたらないと申し上げるのは、以下の理由からです。

「新卒一括採用」は、

1.日本全体の雇用からみれば、大企業だけの特殊な方式である。

2.過去の流れからみれば、相当に変化が激しい。

3.特定の産業には不向きな方式である。

 

周知の通り、世の中の殆どの企業は中小企業であり、新卒一括採用を行っている大企業は全体の1%にも満たないです。その1%の大企業に大学生の過半数が応募しているというのは、この10年間の情報技術の発展が可能ならしめたことです。そして、その応募者の殆どが不採用になっていることに疑問を持たずに毎年継続されているということの方が仰天です。(結果、大学・学生・企業が疲弊する。)

 

新卒一括採用は、少し長い目で見れば、相当に変化をしています。例えば就職活動の解禁繰り下げについて3年生の3月1日以降にするという最近の決定も、1980年代の解禁日は4年生の10月1日でもっともっと遅かったですし、更に遡って1970年代となると、今と同じく3年生の秋から開始されていました。他にも「指定校制度」の廃止等、仰天する出来事は多かったです。

 

また、新卒一括採用など最初から気にしていない特定の産業があります。この代表がマスコミ業界、新興ベンチャー企業等で、エイベックス社もその範疇です。創業20年の同社は、新卒採用を16年前から行ってきたそうですが、それは新卒一括採用が現在のように相当に産業化されてからの参入で、採用規模も20名程度ですし中途採用の方が中心です。

 

こうした背景の中でエイベックス社が「今の」新卒一括採用に疑問をもつのは当然のことであり、私から見れば本来の姿に戻ったという印象です。年初に話題になった、岩波書店の縁故採用重視主義と同様のルネッサンスのようなものです。岩波書店が採用方式を変えたのは、ネット環境の進化による無理解な応募者の急増によるもので、エイベックス社の動きと同じです。その変更方式を、大々的にやるのか、内々でやるのかには、2社の業界・社風の違いはありますが。

 

実は私も音楽業界に関心があり、4年生の夏からは有名なレコード会社に入りこみ、モニター活動に精を出していました。給料は貰えませんが、新人アーティストの広報活動のお手伝いなどをさせて貰いました。今ならまさに「インターンシップ」ですね。それによって、殆どの若者(大学生とは限りませんでした)は、「この業界は仕事にしない方がいいや」と判断して趣味と割り切りましたが、ごく少数の者は、そのままその業界に就職しました。エイベックス社の創業者がまだ大学生になる前の時代ですが、やっと同社もそうした原点に辿り着いたようですね。

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