第258号:できない採用担当者とできない上司の共通点

採用担当者というのはとても危ない仕事だと思うことがあります。世間を良く知らない若者に対して、自分も一部の社会(会社)しか知らないのに、「最近の若者は・・・」「企業の求めるのは・・・」と偉そうに語ってしまったり、採用面接で大勢の若者を評価しているうちに自分は「人を見極められるプロ」と思ってしまったり。確かに採用のプロには違いありませんが、できるプロかできないプロかは、自分ではなかなか気付けません。

 

先日、馴染みの採用コンサルタントから、最近のお客さまから良く聞くという嘆きを伺いました。

「いまの学生は面接もグループ・ディスカッションもしっかり対策してくるから困る。就活テクニックを教えるようなキャリア教育なんかやらない方が良い。」

採用担当者から大学非常勤講師なった私に向けて言われているような気がしましたが、それはさておき、このセリフから私が感じたのは、多くの採用担当者は大学で学ぶアカデミック・スキルを学んでこなかったんだなあ、ということです。

 

私が大学で教えているのは、社会で通用する力は大学の勉強からも身につけられる、ということです。面接における論理的な構成の立て方、わかりやすいプレゼンテーション、討議の進め方、発想を引き出す手法、人を動かすためのコミュニケーションスキル、そして、未知の問題に向き合う根性。

いつも学生に伝えているのは、就職という未知の課題に対して迷ったり立ち往生するようでは、大学での学びは十分とはいえない、ということです。

 

一般に、採用担当者は面接で聞かれる質問や、グループ・ディスカッションのテーマを事前に知られることを嫌います。それは、応募者を公平に扱いたい(先に来ても後に来ても同じ条件にしたい)という気持ちと同時に、ネタがばれると選別できないという心理が隠れていることがあります。つまり、上述の採用担当者の嘆きは、アカデミックスキルの発揮による回答と、単なるネタバレの回答とを区別できていない、ということです。ちゃんと解決しようとする採用担当者はコンピテンシー面接等で、事実を中心に聴きだし、面接の順番や話し方だけでは左右されないような対策を考えます。

 

今春の麻布高校の入試問題で「ドラえもんが生物ではない理由を述べよ」という設問が話題になりました。一般の評価は分かれていますが、この設問の本来の狙いは、学んだことを総合・統合して回答に導く応用力だと思います。「どう答えれば良いのですか?」という生徒ではなく、「こう考えれば良いのではないですか?」という学生を求めているのでしょう。(採用面接でも試してみたいです。)

 

採用担当者がこうしたことを考えた上で選考をするのなら良いのですが、ネタバレを恐れる、つまり自分だけ正解・情報をもっていて優位に立とうとするなら、それはできる新人に対して情報の有無だけで偉そうにしている上司と同じことなのです。採用というのは大変苦労する因果な仕事ですが、無数の若者を選考しているうちに、「裸の王様」にならないよう、気をつけたいものです。

 

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